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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
『ザ・ミッション/非情の掟』特集

『ザ・ミッション/非情の掟』を観に行こう!

Aug 13, 2001

 実はわたしはこれまで、ジョニー・トー作品、例えば『ヒーロー・ネバー・ダイ(真心英雄)』、『デッド・エンド(暗戦)』など、あまり好きではありませんでした。『ロンゲスト・ナイト(暗花)』のトニー&チンワンの演技合戦とガラスが降り散る中の銃撃戦には「いいもの見せてもらったなあ」と感心したけれど、これはジョニーの監督作品ではないし、『ヒーロー〜』『デッド〜』については、話の展開といい、見せ方といい、『ロンゲスト〜』の焼き直しという感が否めないでおりました。ところが『鎗火』はそんなわたしのジョニー観をちゃぶ台返しするほど、シビレまくった映画だったのです!!

 何がいいって、とにかく役者がいい。ボスを守る5人のボディーガードに、アンソニー・ウォン(役名:鬼)、ン・ジャンユー(役名:來)、ロイ・チョン(役名:Mic)とそれから若手(でもないか)のジャッキー・ロイ(役名:信)&ラム・シュッ(役名:肥)と、派手さはなくても演技のできる俳優をキャスティング。また、ボス(エディ・コー。渋い! それと、子分思いなんだよねえ)の弟役にはサイモン・ヤムが扮している。このサイモンがいいのだ。脂のぬけきったボス+ボディガードたちに対して、華やかに男の色気を漂わせている。一見無表情で無口な男だらけの、この映画におけるサイモンの役割には、名前の並び順以上に大きいものを感じる。これまで器用さが災いして、出演本数に対して正当な評価がされてなかった気がするが、この作品で彼の存在感が改めて見直されてほしい。ジョニー・トーも「主役の5人のキャスティングは?」と聞かれて、「5人ではなく6人だ」と言っていたし。その理由が見返すほどに理解できます。

アンソニー・ウォン ン・ジャンユー(フランシス・ン) ジャッキー・ロイ ラム・シュッ ロイ・チョン

 おおっと、サイモンばかりの話になってしまった。アンソニーも、個人的には『千言萬語』の神父よりいいんでないの? と思うくらい、冷酷で情の深い〈義〉の世界に生きる男を演じきっていたし(「多謝」のセリフのタイミングが絶妙!)、ジャンユーもいつものごとく達者な演技。特に、オフィスでボスを待つ間、他の4人が丸めた紙を蹴飛ばして暇つぶしをしているときのあの目。押さえ付けられたネコが動くボールを目で追うよう。よく考えるとオーバーアクションなんだけど、映画を観ている間は気にならない。それと坊主頭が似合うこと。それからこれまた金髪がよく似合うのがロイ。アンソニーとジャンユーが衝突するのをはらはらしながら、何とかうまく調整しようと試みる静かな男。最近、いい人の役も演じる彼ですが、中でもこのMic役は出色の出来では?(実際、金紫荊獎の最優秀助演男優賞を受賞) アンソニーがくわえた仕掛け煙草の様子をじっとうかがうところなど、細かい演技を見せてくれます。

 「この人、新人かしら」なんて思わせたジャッキーは、実は35歳。この映画を見ていたときは、役柄もあってか、金子賢に似ている気がしたのですが、冷静になってよく見ると岩本恭生似でした(笑)。スクリーンデビューは1991年。『拳王』というボクシングもので第11回金像獎新人賞にノミネートされています。テレビドラマで活躍していたようだけど、これがステップになって、また映画の仕事も増えるかも。そう思うほど、軽率だけどかわい気のあるジャンユーの子分役がうまかった。実際、この後マイケル・ウォン主演の『行規』、イーキン・チェン主演の『九龍冰室』に出演しています。そして、こっちが本作品で新人賞ノミネートのラム・シュッ(林雪)。最初は挨拶も返さずむしゃむしゃ豆を食べて不愛想なヤツという印象だったけど、争いを回避しようとちょこまか走り回る姿はなんとも可愛らしかった。その後の仕事も順調なようで、『行規』、ロイ・チョン主演の『鬼同[イ尓]玩』にも出演してます。余談ですが、チャウ・シンチー主演の『行運一條龍』にもチョイ役出演していたり、ジョニー・トゥ作品『再見阿郎』など、顔を覚えると結構いろんな映画で見かけます。全然気付かなかったけど、苦労してたのね……。また今年4月に公開された『大混乱 ホンコンの夜』 にも印象的な役で出ている。

 壮絶なガンファイトが売りのこの映画。あまりに画的美しさを求めるため、普通で考えればちょっとおかしいポジションをとったりしても(ショッピングモールのエスカレーターを降りるとき、ボスの脇にボディーガードが立たないとか)、それを犠牲にしてもほしいものは何かがきちんと画面に表れているから許せてしまう。男の対立そして協調と、ストーリーの骨子は『ヒーロー・ネバー・ダイ』『デッドエンド』と同じ。なのにこれだけ観た後の印象が違うのは、対立する2人(アンソニーとジャンユー)だけでなく、2人を見つめる周囲の人間も描写している点にあるのでは。話の運び方も緊張と弛緩をうまくおりまぜ、1秒たりとも観客の興味をそらすことがない。ユーモアといえば、どうしても触れたいのが、ひとり乗り遅れたジャンユーが、タクシーで帰るところ。きちんとお金を払うところまで押さえているのがおかしいし、にくいところ。このワンカットがあるなしでは、えらい違いです。こういった細かいところで、遊び心を忘れてないところが粋に感じるんだな、きっと。音楽も1度聴けば忘れがたい、テーマ曲をひとり頭の中で反芻すればいつでもどこでも『ザ・ミッション』の世界に浸れるという素晴らしさ。

 予告編だけを見ると、全編これ銃撃戦みたいな印象を受けるけれど、そればかりの映画ではありません。女性誌では全く取りあげられていませんが、この映画に惚れた女性は、実際わたしの周りにたくさんいます。男だろうと女だろうと、とにもかくにも観てほしい。8月29日には、新宿武蔵野館でン・ジャンユーの舞台挨拶つきプレミア上映もやるので、ひと足先に熱狂したい方はこちらへどうぞ。9月1日よりキネカ大森、新宿シネマカリテ(レイトショーのみ)で公開予定。


註:本稿では、名前だけ呼んだときに語感がしっくりこないので英語名ではなく広東語読みの表記にしましたが、ン・ジャンユー=フランシス・ンです。ご存知でない方には混乱を招いてすみませんが、よろしくご了承ください。

(0) 『ザ・ミッション/非情の掟』を観に行こう!
(1) フランシス・ンを囲む晩餐会レポート
(2) フランシス・ン舞台挨拶
(3) 『ザ・ミッション/非情の掟』初日レポート
(4) 『ザ・ミッション』はジャンユーで見ろ!

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(文:まつした)
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