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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
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『ホンコン旅日記』その4

May 26, 2001

4月29日〈前半〉

 どうしたことか、起きられない。私が泊まったホテルは壁が薄く、7時過ぎれば隣の部屋からシャワーの音が、9時を過ぎれば外から工事の音が聞こえ、いやでも起こされるのだが、ひどく眠い。一度目が覚めたものの起きられず、2度寝して、何とか外に出る気力を取り戻す。今日こそ金像獎の授賞式なので、体力を温存せねば……

 12:20より『九龍冰室』を見るため、旺角百老匯(映画館の名)へ。今度は気合いを入れて見たが、あまり印象が変わらなかったのが残念。ただ、後ろに座っていたおじさんの独り言が面白かった。「またお前か!」「あ〜、子供が可哀想だ〜」とか。

 その後漫画喫茶へ。342HKドルを惜しんだ私は、そこへ行けば格安で「中華英雄」が楽しめると思いあたったのだ。イーキンも「漫画王」なる漫画喫茶に出資してるし……どうせならそこへ行こうと思ったが、電話帳を見ても載っていなかったので、拾ったチラシを頼りに、開店したばかりらしい漫画喫茶「漫遊村」に行く。

 中へ入ると、お姉さんがまずテーブルに案内し、システムを説明してくれた。会員になると料金が安くなると勧められる。「実は旅行者なんです」と言うと、「オー」と納得してくれた。「どこから来たのか」と聞かれ「日本です」と答えると、「広東語が話せるなんてすごいね」と親指をたてて誉めてくれた。そんなことを言ってくれるのはマーガレット、アンタだけだよ……と、お世辞と知りつつ心がなごんだ。「私は映画ファンで、日本で『中華英雄』を見て、漫画を読みたいと思ってここに来た」と告げると、「中華英雄」のある場所を教えてくれた。日本で漫画喫茶に入ったことがないので比較できないが、ここでは鞄を預けなければならない。するとマーガレットは、入店時間と鞄につけた番号札のナンバーを書いた紙を渡した。客は、私のほか、熱心に日本の漫画を読みふける子供や青年が5人ほど。

 うっかりメモ帳を鞄に入れたまま預けてしまったので、以下、あやふやな記憶を辿って、「中華英雄」の映画と原作の相違点をあげたいと思う。まず、最初からして違う。潔瑜がならず者にからまれているところを英雄が救うのだ。6月の雪は降ってなかったし、両親が殺されたのは映画と一緒だが、犯人は洋務公司の人間でなかったと思う。両親の仇を討った英雄が船で逃げた先は、亀島というところ。ここで過酷な労働の日々を送る。鉱山を脱走した英雄は、師匠の金傲や鬼僕、生奴と出会う。生奴は、ジェリー・ラムとは似ても似つかぬおじいさんであった。もちろん、幼馴染みなどではない。英雄に「友達」と呼ばれて感激したりしている。鬼僕は、登場したときは面をつけていなかった。醜い顔(拷問でやられたらしい)を長い髪で隠していたが、英雄が面をつけてやる。この面が鬼僕に神秘性をもたらしたとナレーションは語る。

 そして映画の中ではスー・チーが演じた女忍者・木修羅。木修羅は敵に捕われ、拷問を受けているところを英雄に助けられ、ほのかな恋心を抱くようになった。そんな彼女を心よく思っていないのは、マーク・チェンが演じた金太保ではなく、映画ではほとんどカゲが薄かった水賀である。ただ、映画の金太保のヘアスタイルは、漫画の水賀を真似たようだ。思いあまった水賀は、英雄に化けて木修羅の部屋を訪ねる。映画ではすんでのところで「あなたは英雄じゃない」と木修羅が勘づくのだが、原作では木修羅は英雄と信じ、一夜をともにしてしまう。「裏切ったら殺す」と言うほど、本気の木修羅。その後、木修羅と顔を合わせた英雄。愛されていると信じる木修羅は、嬉しさのあまり駆け寄るが、英雄は素知らぬ顔。でも、木修羅は何の疑問も抱かない。それは……「日本は大男人主義だから」(オイオイ)。

 水賀の行動に不審を抱いた火四郎が、木修羅にチクッたことから悲劇となる。こっそり水賀の部屋に忍び込み、英雄の衣装を発見した木修羅。再び、英雄に化けて木修羅の部屋を訪れる水賀。翌日、木修羅の部屋から2人の遺体が発見された。言葉通り、木修羅は水賀を死にいたらしめたが、水賀も絶命するまで木修羅を離さなかったのだ。

 映画では、英雄が姿を消してから16年の間に、ある女性との間に子をなしていた鬼僕。原作ではきちんとその女性が紹介されている。敵にやられ、アメリカ(多分シカゴだったと思うが)の街角に投げ捨てられる鬼僕。虫の息だった彼を介抱したのが姫絲(アメリカ人)。彼女はロクでもない男と一緒に暮らしており、暴力をふるわれていたところを鬼僕が救ったことから、彼女は鬼僕を慕うようになる。顔のことを気にする鬼僕を、姫絲は叱り飛ばしさえするのだった。傷が癒えた鬼僕は、姫絲にカンフーの奥義を託し(いつのまにか姫絲は漢字を書けるようになっている!)、去っていく。姫絲は一生懸命カンフーを練習し、鬼僕の後を追う。……「中華英雄」の女性たちは、みな一途なのかもしれない。

 この漫画はやたら文字が多く、また、登場人物も多い。ハイスピードで読み飛ばしたため、英雄が何故戦っていて、敵が誰であるのか、きちんと整理することができなかった。銭無義も映画とは別の役割をふられていたようだが、よくわからなかった。せめて、英雄が自分が天涯孤独の星のもとに生まれたことを告げられるシーンまで読みたかったが、あえなく時間切れ。劍雄がどこかの集落に拾われて、跡継ぎとなり、映画でも使われていた傘を授けられるところまでしか読めなかった(10冊分)。続きはまた香港に行ったときに読むとしよう。料金は1時間半いて、24HKドルだった。

 慌てて店を出ると16時。待ち合わせの時間まであと1時間。ホテルにカメラを取りに戻らなくてはならないし、ご飯も食べなければならない。適当な餐廳を探そうと思ったが、はたと思い当たった。そうだ、いつも気になっていた持ち帰り専門の焼臘飯店でテイクアウトしよう。メニューらしきものに2つしか品名が書いてなかったので、それが何だかわからないまま「焼味飯」と告げる。スープ付きで15HKドルは安い。と、できたものは、私の前に並んでいたおじさんのローストチキン弁当とは違って、腸づめのスライスと、どこの部位だかわからないけど、見た目は豚の耳みたいなもののスライス弁当が出てきた。見た目はあまりよろしくない。自分で注文した以上仕方がないので、それをもらって大急ぎでホテルに帰る。そして例のグロテスク弁当を恐る恐る口にすると……お、おいしい! スープもだしがきいていて美味。これで15HKドルだったら毎日これでもいいやと思うほど、満足満足。感激しながらかき込むが、時間がないので半分ほど残し、金像獎の取材から帰って食べることにする。

その5へつづく〜

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(文:まつした)
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