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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
アン・リー監督 記者会見

アン・リー監督 撮影:宮崎暁美

2013年1月17日



配給:20世紀フォックス映画
クレジット:(c)2012 Twentieth Century Fox

カナダ人作家ヤン・マーテルが2001年に発表し、イギリスの文学賞ブッカー賞を受賞したベストセラー小説「パイの物語」を、『ウェディング・バンケット』『グリーン・デスティニー』『ブロークバック・マウンテン』『ウッドストックがやってくる!』などのアン・リー監督が映画化。
どう猛なトラと一緒に救命ボートで大海原を漂流することになった16歳の少年のサバイバルを描いたこの作品は、インドや台湾で撮影されたそうです。
アン・リー監督が来日し、記者会見が行われました。

作品詳細 >> シネマジャーナルHP
http://www.cinemajournal.net/review/2013/index.html#lifeofpi



アン・リー監督 (撮影:宮崎)

司会:みんしるさん
ブッカー賞受賞のベストセラーの映画化がついに実現。果てしない大海原を漂流する16歳の少年が、いかにして想像を絶する227日を生き抜いたんでしょうか。あまりにも驚きに満ちた内容のため、映画化不可能と言われていた小説を、アカデミー賞に輝く名匠アン・リー監督が、究極の3Dによって、圧倒的映像美と深みのあるドラマを完璧に融合した奇跡の映像に仕立て上げました。
先週末に発表されました第85回アカデミー賞では11部門でノミネート。全世界が絶賛した奇跡の映像の幕開けです。 アン・リー監督、ようこそ日本におこしくださいました。さっそくですが日本の皆さまにご挨拶をお願いします。

監督挨拶:日本に来ることは、いつもとっても嬉しく思います。今回の作品は、私にとって一番難しい作品でした。4年間かかりまして、3000人のスタッフ・キャストと作り上げました。日本のマスコミの皆さんや観客の皆さんに楽しんでいただければと思います。


* 『シコふんじゃった』の時から本木雅弘さんのファンです

Q:素晴らしい映画をありがとうございます。また、アカデミー賞ノミネートおめでとうございます。すでにアカデミー受賞暦もありますが、アカデミー賞に対する監督の思いを聞かせていただけますか。

監督:アカデミー賞は世界でもっとも大きな賞と言えると思います。世界中が見ています。最も芸術的に優れたものが受賞しているかというと必ずしもそうでもないと思います。でも、同業者によってノミネートされるという満足感があります。世界中の前で発言できることができ、一緒に仕事をしてくれた人に感謝の言葉を述べることができることが嬉しい。
アカデミー賞をひとたび獲るとその肩書きが一生付きまといます。ほかにも賞はたくさん獲っていますが、必ずアカデミー賞を受賞した監督と紹介されます。1年半くらい前にニューヨーク・メッツの始球式に出た時、3万人の観衆の前で、「アカデミー賞受賞のアン・リー監督」と紹介されて、そのプレッシャーに負けて完璧なストライクを投げてしまいました。

Q:3Dの効果が素晴らしい作品でした。今までの3Dの中で一番すばらしいと思いました。3D映画ということで、日本では吹き替えで観る方も多いかと思います。
大人になったパイの吹き替えを担当した本木雅弘さんは『おくりびと』で主演しましたが、本木さんに会った印象、彼の吹き替えの印象をお聞かせください。

監督:本木さんは素晴らしい映画人で尊敬しています。実は『シコふんじゃった』の時代から彼の映画を観て、彼のファンです。子どもたちとも一緒に観ました。『おくりびと』に関しては、私は2回観ましたが、妻は8回も観たという大ファンです。彼が声優として関わってくださったことは名誉あることで、繊細な部分を表現できるアーティストだと思いますし、私は日本語はわからないのですが、深い表現力があると思います。
昨日お会いしたのですが、この映画のプロモーションのためにわざわざロンドンからお越しいただいたというのも嬉しいことです。また、彼はこの映画にとって深い意義のあるコメントをしていて、私よりはるかにいいコメントをされていました。
そして、とても繊細な部分がありますし、自分の人生をちゃんと生きている。ひとつひとつちゃんと選んで、自分の生活も持って、自分を表現されているというところが尊敬できますし、だからこそ、自分の仕事の中で芸術的な作品に出て自分を表現できる。そして人を感動をさせることができる。彼がこの映画に参加してくれて感謝しています。 機会があれば一緒に仕事をしたいと思います。友情を育んで行きたいと思います。

Q:これまで文化的ギャップや他人とどう生きるかを描いてきましたが、今回はたった一人の少年の物語。チャレンジだったのかなと思うのですが、この少年のキャラクターのどこをフィーチャーして物語にできると思ったんでしょう。

監督:答えにくい質問です…。視覚効果のある作品ですが、私はドラマを演出する監督。人間関係を描くドラマを作ってきました。人とどうかかわるか、何が正しいことなのか、自分にいかに忠実に生きるかを描いてきました。今回、この題材が気に入った理由は、内面的なものが描かれていること。映画監督としては、自分の内面をいかに外に出すか、みせるかということです。トラと出会うということで、これが非常にいい道具になったんですね。
漂流物語で、トム・ハンクスも出演していない映画で、いかにイベントを創り上げるか。見ごたえのあるものを作るか。トラがいたからできたというのがあります。
パイは割り切れない数字であり、パイは万人を表す人物です。海洋上にいるパイは人とのかかわりがなくなり、宗教心も持たない人物だけど、抽象的な意味で神と対面することになります。宗教、信仰を持たない者が神と対面する時、神という存在をどう捉えるか。すべてを管理する、仕切る存在なのか、自分の中に存在するものとして捉えるのか、そのどちらかです。
具体的にどういうキャラクターということではなく、海洋上の若いパイはすべての人間を象徴する存在です。成長し大人になったパイというのはインドを離れてしまって、哲学や宗教、スピリッチャルなものに興味のある、好奇心のある人物として描きました。
育った動物園は、ある意味楽園のようなところ。すべてをなくした若いパイは、試練を受けることになって、どうやってサバイバルしていくか。リチャード・パーカー(トラの名前)というのも試練ですね。彼がどのようにして大人になっていくかというパイの成長ストーリーでもあります。
そして、いかに感動させるか、感情移入できるものにするかというのが一番大変でした。これは、かなり俳優に頼る部分なので、若いパイ、大人のパイとも頑張ってくれたと思います。
お父さん、お母さんが象徴しているもの。それを説明してしまっては面白くないので、それは映画を観てみつけていただきたいと思います。


*スラージ・シャルマに会ったとき、彼こそ「パイ」だと思いました

Q:16歳のパイ役を演じたスラージ・シャルマさんがほんとに素晴らしくて、最初のあどけない感じから、旅を通して大人になっていくのがスクリーンを通じてもすごく伝わってきたのですが、演技初経験の彼をなぜ選んだのか。また、どのように演技指導したのかを教えてください。

監督:かなり彼をたたきましたね(笑)。16歳のインド人スターがいなかったので、パイ役を探すのにインドで16歳の高校生を3000人くらい見ました。3回以上行って、本読みをしてもらったり、テープを撮ったりして12人に絞り込みました。その時、初めてムンバイでスラージに会いました。初めて彼に会ったときに、「あっ、パイだ」と思いました。具体的にどういうイメージという考えはなかったのですが、彼に会った時に、彼こそ、私が探しているものを全部持った人だと思いました。魂に溢れた深い目をしていて、プロの監督としては絶対カメラに愛される人物だと思いました。 びっくりしたのはカメラテストをした時。彼にある状況を与えて演じさせると、その状況に完全に入り込んで、抜け出せなくなるくらい状況を信ずることができた。
身の上話をする5分くらいのモノローグ、独白の部分をやらせ、それを自分の家族に置き換えてやらせたら、入り込んでやりだして、最後の方は震えて泣き出したんですね。それを見て、まさに彼だと思いました。スタジオにそのテープを見せたら、すぐに予算がおりました。
ただ彼は泳げないということがわかりました。デリーで育って海を見たこともなかったんです。
彼と契約してから撮影まで3ヶ月あったので、とにかく泳げるようにレッスンを受けさせ、私も個人的にレッスンして演技指導したり、トレーニングしました。
でも彼はほんとに自然体で、撮影開始して1週間くらいで、私が教えるということではなくて、小さな仏陀のように悟りを開いたのか、前世で経験しているのか、自然にできるようになり、撮影をする中でどんどん上達していきました。
海の上での撮影はなるべく順撮りにしました。彼が海に不慣れであって、段々、揺れや波に慣れてゆく、海の上で鍛えられていくというようにしました。3ヶ月かけてかなり体重がおちていき、最後の1ヶ月は正気を保つことに専念してもらいました。誰とも話しをさせずわざと孤立させました。皆が彼に教えたがったけれど、逆に彼がスピリチュアルなリーダーになっていきました。
彼のお母さんから私は先生と呼ばれていたのですが、逆に彼からいろいろ学ばせてもらいました。


*インド人俳優二人が素晴らしかったのでアカデミー賞主演男優賞にノミネートされなくて残念

Q:アカデミー賞での一番のライバルは『リンカーン/秘密の書』ですが、どう思われますか? また、将来的に台湾に関する映画を計画をしていますか? もしあるとしたらいつ頃ですか?
(中国語での質問でした)

監督:『リンカーン』など恐れていません(笑)。まったくプレッシャーを感じていません。
オスカーはほんとに名誉あるものです。世界最大のショーでもあるという認識はあります。世界中が見守る中、そこで私が御礼を言いたい人にお礼が言えるということ。それはほんとに嬉しいことですが、今回は非常に変わったプロジェクトで、この映画が完成できた、作れたというだけで満足しています。この作品にかかわったスタッフ、台湾のスタッフも大勢いましたが、皆にとって特別なプロジェクトでした。私たちは幸福感を感じながら作り上げたという満足感に浸って充足感を感じています。賞をいただけたらボーナスのようなものです。
アメリカ以外では、世界中で成績がよく、各地で違う受け止め方だけどヒットしています。漂流したパイのような孤独感は感じていません。多くの友だちを作りましたし、いろいろな人と繋がりを持つことができました。非常にラッキーだと思います。アカデミー賞を受賞する、しないというのはまったく関係ない。映画を20年間作り続けてきて満足のいく作品ができました。
もし受賞したら心配なのはスピーチです(笑)。『リンカーン』にもグッドラックと言いたいですし、11部門もノミネートされて名誉あることだと思います。ただしインド人の俳優達二人が素晴らしかったのに、ノミネートされなかったのが残念です。本来13部門でノミネートされるべきだったと私は思っています。
本作は英語で話していますが、私はアジアの映画だと思っています。それが証明しているように、アジアで成功しています。今、アジアにとっていい時期だと思います。私たちはアジアの表現を使って、世界中に影響を与えられるそういう時代に入っていると思います。特にアメリカに影響を与えられる時期を迎えているので、もっともっといろいろなプロジェクトをやりたいと思いますし、これだというものがあれば、台湾を舞台にした作品も作りたいと思っています。 ありがとうございました。



1月25日(金) TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
公式 HP >> http://www.foxmovies.jp/lifeofpi/

記者会見を終えて

★アン・リー監督の活躍

アン・リー(李安)監督の初期作品を観て、すっかりアン・リーワールドが大好きになった私としては、「一番好きな監督は?」と聞かれると、アン・リーと答えていました。なので、監督のハリウッドでの活躍は嬉しいと思う反面、ハリウッドナイズされた作品もあって、嬉しいような寂しいような気持を持っていました。
でも、この記者会見で「この作品は英語で話していますがアジアの作品です。アジアの表現を使って、アメリカに影響を与える時期を迎えている」と答えていて心強く思いました。
これからも活躍を期待しています。(暁)


★『毎日がアルツハイマー』関口祐加監督、アン・リー監督と大きくハグ

暁さんより、記者会見があると案内をいただいて、映画は未見だけど、アン・リー監督のお話はぜひ聴きたいと参加してきました。監督登壇前に、暁さんが記者席に『毎日がアルツハイマー』の関口祐加監督の姿を見つけたので、御挨拶。「その節は取材いただいてありがとうございました」と丁寧に言われ、恐縮します。(関口祐加監督インタビュー特別記事:http://www.cinemajournal.net/special/2012/maiaru/index.html

関口監督、こういう記者会見の取材もするんだ~と、思ったところで、思えば、関口監督は2作目の『WHEN MRS. HEGARTY COMES TO JAPAN』(1992年日本未公開)で、アン・リー監督にコメディのセンスを絶賛され、コメディを意識した作品を目指すようになったと伺ったのを思い出しました。
さて、記者会見。アン・リー監督が記者席から次々に寄せられる質問にユーモアを交えながら英語で答える監督の発言を、関口監督、高らかに笑いながら聴いておられました。ほんとにおおらか!
もっとも、リアルタイムで笑うほどの英語力のない私・・・ うらやましくもありました。
記者会見が終わって、会場出口付近で暁さんと打合せしていたら、関口監督がアン・リー監督を待つ姿が。しばらくして出てきたアン・リー監督、関口監督としばし談笑後、大きなハグ!
アン・リー監督との感動の対面を果たした関口監督にお声をかけたら、しっかり自作の映画の内容を覚えてくださっていて、「映画に登場したご家族に怒られませんでしたか?」と聞かれましたと、とても嬉しそうでした。そばで見ていた私たちも、ほのぼの。取材に行って一番の名場面でした。お二人の対面姿をカメラにおさめることができず残念!(咲)

関口祐加監督、この日の感動を『毎日がアルツハイマー』のサイトにエッセイ「アン・リー監督との再会」を書かれています。 → http://maiaru.com/news/archives/756

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(取材 記録:景山 まとめ:宮崎  撮影:景山・宮崎)
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