女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
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プロジェクト作品が一挙公開されます!!

アンディ・ラウ
アンディ・ラウ

2005年、2006年の東京国際映画祭で上映された後、いつ公開されるのだろうと、ずっと気になっていた≪FFC:アジア新星流≫の作品たち。この度シネマート六本木で3月1日から14日まで、プロジェクト第一回目として制作された6作品が一挙公開されることになりました。
 アンディ・ラウ(劉徳華)率いる映画会社Focus Films Limited(映藝娯樂有限公司)が、ダニエル・ユー(余偉國『愛と死の間で』監督)らと新人発掘プロジェクトとして始めたFFC(フォーカス・ファーストカット)は、新人監督を支援するプロジェクトとして2005年に発足。

第1回目の≪FFC:アジア新星流≫は、香港、台湾、中国、マレーシア、シンガポールの5地域から6人の映画監督による6作品が制作された。斬新な新感覚の作品、新しいビジョン、独自のストーリーを求めつつ、アート思考や、難解な映画ではなく、一般観客が受け入れられる映画を目指し、新進監督たちの作品を後押ししている。

アンディは名前だけのかかわりではなく、カメオ出演したり、ナレーターを務めたり、自身の曲も提供していたりして、実質的に力を貸している。1998年『上海グランド』のプロモーションで来日した時の記者会見で、香港での映画不況打破に対する質問に対し「良質な作品を作り続けること。若手の映画人に対するチャンスが必要」とアンディは語っていた。その思いが結実したのが、このプロジェクトともいえる。すでに2回目の構想も始まっているらしい。日本で開催されたアンディのファンクラブイベントで「FFC第2弾の構想は?」という質問に、「日本からの応募も大歓迎」と答えていた。

ダニエル・ユー
ダニエル・ユー

思えばシネマジャーナルでは≪FFC:アジア新星流≫の作品を何号かに渡って紹介している。
66号(2005年 冬号)では、東京国際映画祭で上映されたロビン・リー監督の『靴に恋する人魚』を紹介。このときはロビン・リー監督も来日し、ティーチインもあった。
その後、この作品は公開され、主演のビビアン・スーがプロモーションで来日した。その記者会見のレポートや映画紹介を68号(2006年夏号)に掲載。また68号では、このプロジェクトを実質的に動かしているダニエル・ユーさんにインタビューしている。アンディ主演作品の『愛と死の間で』の監督として来日した時に話を伺った。FFC製作中の作品のこと、海外の映画祭に出品する作品のことなどを語ってくれた。

2006年の東京国際映画祭では『靴に恋する人魚』以外の5作品が上映され、69号(2006年冬号)ではそれらの作品を紹介。また、アンディはこのプロジェクトの実績を評価され、2006年の釜山国際映画祭で「アジア映画人賞」を受賞したが、その釜山国際映画祭レポートも69号に掲載されている。

66号、68号、69号のシネマジャーナル本誌もぜひごらんください。

*上映作品*

『クレイジー・ストーン〜翡翠狂騒曲〜』〔原題:瘋狂的石頭〕 (中国)
 監督・脚本:ニン・ハオ(寧浩)
 出演:グォ・タオ(郭涛)、ファン・ボー(黄渤)

偶然発見された翡翠をめぐる泥棒3組による争奪戦と、警備員の戦いをコミカルに描いたハイスピード・コメディ。お間抜けな泥棒たちの立ち回りや、翡翠を守ろうとする警備員たちとの空回りする展開は抱腹絶倒。果たして翡翠は守れるのか…。意外な結末にホロリ。

プロデューサ、グォ・タオ、ファンキー末吉
プロデューサ、グォ・タオ、ファンキー末吉

ファンキー・末吉さんが担当した音楽はハイテンション。アンディの大ヒット曲「忘情水」がなにげにカラオケ屋やカーラジオから流れる(笑)。 

警備員役のグオ・タオさんは『スパイシー・ラブ・スープ』『鳳凰わが愛』『帰郷』にも出演している。名脇役。この作品を演じるために10kgも太ったそうだ。

監督は、東京フィルメックスで上映された『香火』、日本でも公開された『モンゴリアン・ピンポン』のニン・ハオ(寧浩)。中国で大ヒットした作品。

『靴に恋する人魚』〔原題:人魚朶朶〕 (台湾)
 監督・脚本:ロビン・リー(李芸嬋)
 出演:ビビアン・スー(徐若[王宣])、ダンカン・チョウ(周群達)

ロビン・リー
ロビン・リー

車いすの少女ドドは「人魚姫」が大好き。王子様との出会いを夢見ている。手術をして歩けるようになり、歩けなかった反動から靴を買い集める女性に成長。素敵な王子様と出会い「めでたく結婚して幸せになりました」で終わると思いきや、波乱万丈な展開に。そのエピソードが、おかしく

も可愛い。ドドを演じるのはとてもキュートなビビアン・スー。王子様役のダンカン・チョウは『僕の恋、彼の秘密』(シネマジャーナル66号でダンカンの来日記者会見掲載)『セブンソード』にも出演している笑顔の素敵な俳優さん。

ダンカン・チョウ
ダンカン・チョウ

2005年東京国際映画祭のティーチインで、ロビン・リー監督は「台湾の映画は暗いと思われているので、明るい映画を作りたいね」と、スタッフで話し合って作ったと語っていた。色彩感覚溢れる作品で様々な可愛い靴が登場する。低予算の作品にも関わらず、台湾の金馬奨最優秀美術賞を受賞した。この作品ではアンディがナレーションを担当。

ビビアン・スー
ビビアン・スー

『I’LL CALL YOU』〔原題:得閑飲茶〕(香港)
 監督・脚本:ラム・ジーチョン(林子聡:『少林サッカー』出演)
 出演:アレックス・フォン(方力申)、ビアン・リアン(梁慧嘉)

ラム・ジーチョン
ラム・ジーチョン

『少林サッカー』でお馴染みのおデブさん、ラム・ジーチョンの初監督作品。主役のアレックス・フォンは、『ダブルタップ』の方中信ではなく、元オリンピック水泳選手の方。
ごくごく平凡な男の子がカレンという社交的な女性に恋をする。傲慢な彼女の電話一本でアッシーもいとわない。女に縁のない友人二人に馬鹿にされながらも本人は必死。カレンは強気だけど、実は彼が好き。恋の駆け引きが楽しい。アンディ・ラウが刑務所の看守役と、教えを諭す僧(もちろんマッスルモンク!)の二役で出演。東京国際映画祭で上映された折に来日した監督は、フォトセッションのとき、ポスターの陰から顔を覗かせたりして、とってもお茶目。体型のごとくビッグな監督になってくれそう!

『MY MOTHER IS A BELLY DANCER』〔原題:師[女乃]唔易做〕 (香港)
 監督・脚本:リー・コンロッ(李公樂)
 出演:エイミー・チョム(覃恩美)、シドニー(雪梨)、クリスタル・ティン(田蕊[女尼])

団地の集会室を使ってのベリーダンス教室。参加しているのは、この団地に住む女性たち。
肌を露出するダンスなんて言語道断と言い切る夫を持つ女性。不況でミシン仕事が来なくなった夫の代わりにごみ収集の仕事をしていたのに、それすらリストラされてしまった女性。夫が浮気している女性。未婚の母。いろいろな事情を抱える女性たちは、決して豊かではない。でもダンスをすることで、希望と元気を取り戻してゆく。

リー・コンロッ
リー・コンロッ

ボケていると思ったお姑さんが息子にうそをつき、お嫁さんに練習をさせに行くシーンはホロリとさせてくれて結構感動的。それに自分までベリーダンスを始めちゃうシーンは微笑ましい。アンディがらみで笑わせるシーンもある。DVDでも観ようと出てきたのはリー・コンロッ監督の作品でもあるアンディ主演作『愛と死の間で』。「死んだ妻を想い続ける男の話よ」「そんな男いるはずないじゃない」という会話に香港映画ファンは大爆笑必至。香港映画ファンの笑いのツボをくすぐる。それに、アンディがダンスショップのオーナーとしてカメオ出演。
香港映画というと、どうしても男優さん主体の作品が多い中、女性たちがメインの作品である。
ごみ収集の女性を演じたクリスタル・ティンは、『インファナル・アフェア』などでも活躍するチャップマン・トウ(杜[シ文]澤)の妻。その夫役はラム・カートン(林家棟)。厳しい夫を演じたのはケン・トン(湯鎮業)。それに『I’LL CALL YOU』の監督でもあるラム・ジーチョンも出演している!

『RAIN DOGS』〔原題:太陽雨〕 (マレーシア)
 監督.脚本:ホー・ユーハン(何宇恆)
 出演:クァン・チュンワイ(關進偉)、リュウ・ワイホン(廖偉雄)、ピート・テオ、ヤスミン・アハマド


ヤスミン・アハマド、ホー・ユーハン、ピート・テオ

街で暮らす兄を訪ねた少年は「母さんも呼んで、3人で一緒に暮らそう」という言葉がとてもうれしかった。父が亡くなってから、兄が父代わりで、最近母は他の男に貢いでいて、家に居づらくなっていたからだ。ところが、賭けビリヤードのトラブルが元で、兄は殺されてしまった。居場所を失った彼は、叔父夫婦の家に身を寄せる。そこで様々な人と関わり、守りたい女性と出会い、少しずつ大人への階段を上っていく。

マレーシア新潮流の旗手、ホー・ユーハン監督は明朗快活で冗談好きな人柄でしたが、作品はとても静謐で、詩情豊かな映像とセンスのいい音楽が印象的でした。監督にタイトルの付け方について聞いたところ「ウォン・カーワイ(王家衛)みたいに、英語と中国語の題名は全然違うものにしたかった」と言っていたので、王家衛が好きなのかしらと思ったのですが、ピート・テオによると「ユーハンが好きな監督はホウ・シャオシェン(侯孝賢)」だそうです。この作品で、ピート・テオは賭けビリヤード仲間の元締めを、ヤスミン・アハマドは主人公が世話になる叔母を演じています。
なおシネマジャーナル71号(2007年夏・秋号)ではライブで来日したピート・テオにインタビューした記事が掲載され、その中でこの作品のことや、マレーシアの芸術全般に広がっているニューウェーブについて語っています。

『LOVE STORY』〔原題:愛情故事〕 (シンガポール)
 監督.脚本:ケルヴィン・トン(唐永健)
 出演:アレン・リン(林依輪)、エベリン・タン、エリシア・リー

このFFC作品の中では一番前衛的で難解な、虚構とも現実ともつかないミステリアスな作品。
図書館で借りた本の中に真実の愛を見出すストーカーな劇場案内係、殺人犯を追っているのに銃を無くした婦人警官、小説の中のことと現実の境目がわからなくなった小説家が出てきて、それぞれが交錯してゆく。

FFCの「誰にでもわかるストーリー」という精神とはちょっとかけ離れている気はする。こういう作品も含めて若手監督の作品をバックアップしてゆくということなのでしょう。監督はシンガポールのインディペンデント映画界で活躍している人とのことだけど、シンガポールの興行記録を破ったというホラー映画『メイド 冥途』(2007年日本公開)も撮っています。


釜山国際映画祭 撮影:高野敬子

上映スケジュール等詳細は、HPでご確認ください。

公式HP>> http://www.ffcjp.com

作品紹介はこちら

(文・写真:宮崎、景山、梅木)
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