女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『Touch the Sound』 エヴリン・グレニー記者会見

〜日枝神社でエヴリンの音の世界をおごそかに体感!〜

2006年1月27日(金)13:30〜

エヴリン・グレニー

スコットランド出身のパーカッショニスト、エヴリン・グレニーの音の世界を描いた 『Touch the Sound』が、3月11日から渋谷ユーロスペースなどで公開されるのに先立ち、1月末、エヴリン・グレニーが来日し、小学校でのワ−クショップなど数々の催しが開かれた。私たちは、1月27日(金)日枝神社での記者会見に参加させていただいた。

◆エヴリン・グレニー パーカッション演奏x熊谷和徳 タップダンス

会見に先立ち日枝神社の本殿という神聖な場所で、エヴリンさんの音の世界を味う幸せなときを過ごさせていただいた。

エヴリン・グレニー

まずは映画の日本公開の成功を願ってのご祈祷。神職の方の打ち鳴らす太鼓の音が、 ど〜ん、ど〜んと響く中、エヴリンさんが黄金色の裃をはおって入場。下神殿でお祓いを受けたあと、上神殿へ。宮司のあげる祝詞を静々と聴く。太鼓の音など、伝統的な雅楽の楽器の音が時折鳴らされる。玉串を捧げたあと、巫女さんの舞。鈴の音が軽やかに響く。エヴリンさんにふさわしいご祈祷が終わり、いよいよエヴリンさんの演奏。最初は、小さなスティールドラム。ときに力強く、ときになでるように柔らかく、素晴らしい音がこぼれる。次にマリンバ。ダイナミックな演奏が魂に響く。そして3曲目は、エヴリンさんが心を込めて振るマラカスと、熊谷和徳さんのタップダンスとのコラボレーション。タップもまた音楽を奏でることを認識させてくれる。二人の楽しげな雰囲気が心を和ませてくれる。最後に、小さな二連のスティールドラム。 もう、溜息しか出ない。どこからこんな音が出るのだろうと圧倒されっぱなしの演奏 が終わって、フォトセッション。熊谷和徳さんとのツーショットのあと、エヴリンさんお一人での撮影。チャーミングな笑顔の中に秘めた力を感じさせてくれる方だ。

◆記者会見

末広の間に移動して記者会見。まさに結婚式の披露宴の行われるお部屋。丸テーブルで、プロの日本人パーカッショニストの方と同席する。彼もエヴリンさんの演奏に圧倒され、「今日は早く帰って練習しよう」とおっしゃっていた。

*監督メッセージ*

エヴリン・グレニー

エヴリンさん登場の前に、4分間の映像。映画の予告編のあと、監督のメッセージが流れる。
「エヴリンの演奏を初めて英国に聴きに行った時、印象に残ったのは演奏よりも彼女の人柄。演奏する姿はエネルギーに溢れ、音楽に生きていることを感じました。最初は音楽の映画を作るつもりでしたが、彼女を見ていて、音のあり方を撮ろうと思うようになりました。彼女の演奏は、音の波が体を突き抜けてくる感じで、力そのものを感じました。すべてが振動し共鳴している! この映画で、まずは音を感じてもらえればと思います。音楽と映像だけでなく、人間と音がいかに反応しあっているか、感覚で感じとってほしいと思います。」

*質疑応答*

エヴリンさん入場。ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社 関谷氏同席。

Q 神社での演奏という体験はいかがでしたか?

エヴリン:ワンダフル! いつもと違う演奏スペースで素晴らしかったです。もう少 し暖かければ、皆さんにもっと楽しんでいただけたかと思います。お祓いを受けた時 の太鼓の音で、皆さんもまさに音を感じたのではないかと思います。

エヴリン・グレニー

Q タップダンスとのコラボレーションはいかがでしたか?

エヴリン:ファンタスティック! 初めてあの場で合わせたのですが、時に言葉の壁 があったりするものですが、それもまったく感じませんでした。熊谷さんは、とても 才能のある方だと思いました。

Q 映画撮影時のエピソードや、音楽活動についてお聞かせください。

エヴリン:音というのは、私たちが毎日感じているもの。言葉になおすのは難しい。 一言二言で音を表現できるものではありません。Webサイトにエッセイを二つ掲載 しているのですが、自分の気持ちを読んでいただければという思いで掲載しているも のです。音は毎日感じています。監督が見えない音をどう表現するか苦労していまし た。音というものを私たちは生まれてから死ぬまで感じています。感じなくなるのは 心臓が止まった時です。
音楽(music)セラピーはどこの国でも行われていますが、音(sound)セラピーというべきだと思います。音楽というと、ポップス、クラシック、ラテン等々、カテゴリーに分けて、好き嫌いで区分してしまいます。Music Life Organization(人生の音楽の組織) という、ロシアとイギリスの障害を持った子供たちの組織があります。なぜ“障害”といわれるのでしょう。障害のないと言われている人も、人として完璧でしょうか? 誰しも何か障害があるのではないでしょうか? だからこそ人間は面白い。15歳のロシアの素晴らしいピアニストの男の子がいるのですが、彼はたまたま目が見えなかったのです。監督は、すべてのものに好奇心を持つ人でした。私も“音”について敏感だったわけではありません。音を感じる映画を作ろうといわれたとたん、世界が変わってきました。プロのミュージッシャンとして音に接してきましたが、監督の言われるように、まわりの音にどれほど意識を向けられるか…。感じ方は、皆さまざまです。皆さんは今こうしている間にも、いろいろ考え事をしていると思います。音楽を聴きながら、音を感じながらも考え事をします。また、同じ環境で、違うことをしていると、いつもと違う音の感じ方があると思います。たとえば、床を歩いていても、靴下を履いているときと履いていないときでは、音の感じ方が違います。音は体の一部分で感じるものではなく、五感を通して、体に感じるもの。耳からだけではないのです。音は震動でもあります。

エヴリン・グレニー

Q 子供の頃に触発されたことはなんですか?

エヴリン:子供の頃は農村にいて、裕福な暮らしではありませんでした。ですから、 耐えること、我慢することが身についています。音楽も一日にして成らずなので、練習が必要です。でも練習だけのものではないのです。心と体で聴くのです。子供のころ耳が悪くなり、音が聴けなくなってからは、心で感じるようになりました。人は、何ができないかではなく、何ができるかという発想、姿勢が大切です。

エヴリンさんの立ち居振る舞いからは、耳が聴こえないということはまったく感じられない。障害を障害と思わない、まさに「何ができない」ではなく、「何ができる」を実感させられた。私たちも、プラス思考で「可能性」に挑戦したいものだと肝に銘 じたひとときだった。

作品紹介はこちら

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(取材・文: 景山咲子・宮崎暁美  写真:宮崎暁美)
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