女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
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『旅の贈りもの −0:00発』
原田昌樹監督インタビュー

2006年9月14日(木)
原田昌樹
原田昌樹 監督
「僕は撮るほうだから」とカメラを構えて。(ひょえ〜)

Q ずいぶん広いジャンルの映画を撮られていらっしゃいますね。

監督 そうですね。自称「日本一幅の広い監督」と言っています(笑)。いちおう教育映画からやくざ映画まで。バイオレンスもの系、TVの『裏刑事(デカ)』で監督デビューして、それ以後はしばらくアクションものの監督をしておりました。

Q どういうふうに頭を切り替えられるんですか?また、お好きなのはどういったものですか?

監督 それぞれ作品ごとに考え方変えてやっています。楽しいとか、好きっていう意味ではこの映画はすごく好きですね。自分の好きな世界に非常に近いです。教育映画は、僕は文部省直結の仕事をやっていたんです。“ゆとり教育”のころ教育映画を何本か撮りました。寺脇研さんが担当で教育映画を変えようと言っていたころです。

Q この映画の立ち上がりと、監督が関わられた経緯は?

監督 具体的な話になったのは去年の3月です。原案・企画・プロデューサーの竹山さんから「旅をテーマの映画を作りたい」という話をいただきました。で、話せば長いんで短くします(笑)。
僕が東映の東京撮影所でフリーの助監督のころ、竹山さんが映画の製作部にいて何本かの映画を一緒にやっていたという関係です。その後僕は円谷プロの方に行ったりして連絡はとれていなかったんですが、東映を離れた彼が、旅の映画を作りたいけれどどうだろうか、というのが始まりです。竹山さんがずっと映画のロケハンで日本中を回っていて、いい場所をたくさん見つけているんです。でも当時撮っていたやくざ映画ではそういうロケーションは使えない。いつかそういうところを舞台にしたいという思いがあったんですね。そしてシナリオライターの篠原くんが、元日本旅行に勤めて旅の企画をしていた旅のエキスパートでした。で、僕が個人的に単純な旅好きでして、旅好きな3人が集まって旅の映画を作ったということです(笑)。

Q ロケハンにずいぶん回られたんですね。

監督 最初竹山さんと僕が観て回って、次に篠原くんも連れて3人で回っています。まず「大阪を0:00に発つ列車に乗る人たちの話」というコンセプトを決めた後、東京の会議室で話していてもしょうがないので、とにかく見て回ろうと。そして見て回った自分たちが実際に体験したことを盛り込んでいきました。架空の設定になっている「風町」にしても、実際にそういう場所を見つけてきたんです。それからそこで出会った人々のエピソードを入れています。

回ってみてわかったのは、過疎化が進んでいることでした。子供がいなくて老人と猫ばかりですよ。なぜか猫が多くて真鍋島には人口が300人、猫が400匹。そして5日間回ってる間に3回お葬式に会いました。お葬式で聞いてみると、そこの人たちは悲しむというより「順番だからね」っていうんです。死ぬことを自然なことと受け止めていました。その真鍋島には80歳の郵便局長さんがいらっしゃるんです。ほんとに人間味あふれる方で、僕たちが何月頃行くよ、と言ったのを覚えていてちゃんと粽を作って待っていてくれました。「今日来るとは言ってなかったのに」、「そろそろ来る頃だろうと思っとった。はよ食え」って(笑)。だから、僕たちにはこの映画は「作り物」ではなく、本当のありのままの姿なんです。

旅の贈りもの 場面写真
(c)「大阪発0:00」製作委員会
華子

Q 出会った方々に合わせてのキャスティングなんですか?

監督 町の人々はそれに近いですね。旅に出る人たちのほうは、女性がよく旅しているかなぁと、10代、20代、30代の女性を設定しました。各世代の悩みもあるだろうし、行き先不明の列車に一人で乗るからには、何らかの心の問題があるだろうと。キャスティングは映画的にフレッシュな人に出て欲しいので、30代には櫻井淳子さん(由香役)を、この映画でデビューの多岐川華子さん(華子役)に10代の役をお願いしました。

Q いろんな年代の方がいらっしゃるので、観客のほうも誰かに気持が重ねられますね。

監督 それは考えました。映画の中に出てくる学生のように、男の旅はなんか目的になってしまうんですよ。あとの二人はそういうのでなく、困ってふらっと乗ってしまう大平シローさん(若林役)、やっと時間ができたときには一緒に過ごす相手がいないという細川俊之さん(網干役)。実際そういう方をよくお見受けするんです。僕も一人で旅していると若干大平シローさん(の役)的なところがあるんで、ちょっと思い入れあります(笑)。シローさん、こんなにシリアスな役は初めてだとおっしゃっていました(笑)。

Q 新人の俳優さんベテランの俳優さんといらっしゃいますね。撮影の上でご苦労などなかったですか?

監督 今回は演技をつけるというより、いいロケーションの中でのみなさんの自然なリアクションを撮っていこうと思いました。わざとらしいものを作りたくなかったし、カメラもできるだけ素直に撮ろうと。ありのまま、ありのまま・・・。みなさんすぐに地元の人みたいになってしまいましたね。
櫻井さんは圧倒的にTVが多い方でしたが、とってもクレバーな女優さんで「風景の中でのリアクションを」というのをすぐ理解してもらえました。華子ちゃんはグラビアとバラエティだけ、全くお芝居の経験がなかったので事前にリハーサルをやりました。本人は不安だったようですが、ロケ中ずっと一緒に回っていた間にどんどん役の華子になっていきました。「この1ヶ月の間友達に会わないで良かった。私この華子みたいになっていたから、友達に会ったらきっと嫌われていた」と言っていました。もう演技力とか、そういう問題じゃない、そこまでできていたんだから。彼女で苦労したことはなかったですね。

Q 黒坂真美(ミチル役)さんも良かったですね。大滝秀治(郵便局長役)さんがまた良い味でした。

監督 実はミチルっていうのがけっこう重要な役なんです。旅人と地元の人を結びつけていくのが彼女ですから。本来は挫折感を持っているのですが、それを明るくからっと出せるキャラクターを探していました。ミチル役はネイティブに関西弁を喋れる子にこだわりました。黒坂さんは神戸出身ということで起用しました。大阪出身の役は大阪の人なんです。シローさんも。
大滝秀治さん、最初に衣装合わせでお会いしたとき「僕はねえ、アルツハイマーですから、長いセリフは覚えられませんよ」とおっしゃるんです。ワンカットで実は2p分くらいの長いセリフがあったんですが、本番になったら1テイクでOKだったんですよ!ほんとにプロだなぁと思いました。それを聞いた正司歌江さんたちが「監督〜、みんなワンカットなんですか。私できませんよ〜」っておっしゃって(笑)。大滝さんにはおつきの方がいつもそばにいて足元に気をつけておられるんですが、驚いたことに撮影になると、とっとと走られるんです。それがもうトトロみたいでしたね。

旅の贈りもの 場面写真
(c)「大阪発0:00」製作委員会
由香とチョンチョ先生

Q 徳永英明さんのキャスティングがちょっと意外でした。

監督 これも話せば長いんで短くして(笑)。風町の30代のお医者さん役には、俳優さんよりもアーチスト系、ミュージシャン系からと考えていたんです。音楽プロデューサーをソニー・ミュージックの内藤さんにお願いしましたら、徳永英明さんのアルバム「VOCALIST」を紹介されたんです。聴いてみると先に僕たちがイメージソングとしてピックアップしていた「いい日旅立ち」、「時代」、「駅」などが入っていたんです。内藤さんから、「今作ろうとしているものと、徳永さんの楽曲や世界観がとても近いんじゃないか」と言われました。僕は徳永さんというと、前の高音で線の細い人というイメージでいたんですが、それがぐっと肩の力が抜けていた。実際お目にかかってみたら、とてもいい年のとり方をしていたというか、いい感じでした。
「映画に興味はあるけれど、お芝居したことがないんです。それでもいいですか」と言われましたが、「徳永さんが持っている世界観のままでいいんです」と言って出ていただけることになりました。ツアー中でしたが、そのスケジュールをぬって撮影に駆けつけてくれました。僕はアルバムの中から「時代」が気に入って使わせていただきました。そして徳永さんは撮影をやってみて「happiness」という曲を作り、それを提供したいと言ってくださったんです。あの映画の中の町の雰囲気がそのまま音になっています。淡々としていて、さりげない幸せがあるというか。

Q 撮影はどのくらいかかったのでしょう?オールロケですよね。

監督 撮影自体は、ちょうど1年前の9月に1ヶ月間やっていました。オールロケです。さっきも言いましたが、セットとか作り物で撮りたくなかったんです。観光保存されているのではない「生きている」場所にこの「キャラクター」を連れて行って、そのまま撮るということを狙いにしました。先に登場人物のバックボーンのところ、悩みのところを先に撮って、それから大阪駅からの出発シーン、列車の中、そして風町のロケに入ったので、時系列としては同じような流れでした。最後の場面もやっぱり最後に撮ったので気持が自然に流れていきましたね。この1ヶ月僕らも旅行しているような感じでしたよ。点々と移動して、最後は大崎下島というところに1週間くらいいて、ようやく落ち着いていろいろ撮りました。

旅の贈りもの 場面写真
(c)「大阪発0:00」製作委員会
EF58(ゴハチ)

Q この電車(特別編成列車・EF58-150+スハフ12-702+マイテ49-2)が実際に走るっていうのがすごいですね。

監督 「深夜0:00に大阪を出る行き先不明の列車」というコンセプトがありましたから、それはどんな列車なんだろう?と考えました。僕たちは普通程度の電車の知識しかなかったので、専門家の方にいろいろ相談しました。ミステリアスな雰囲気を醸し出すような列車ということで、先に一等展望車の「マイテ」が決まり、これを引っぱるのにふさわしいのは?と「EF58」に。これは今日本で動くのは2両しかないというマニア的には大変な列車だと後で知ったのですが。間に入っているのはSL山口の客車です。撮影のために集めていただいて実際に1度だけ走るんですが、ほかの電車も走っているわけですから、そのためのダイヤを組むのに1ヶ月かかったんです。
撮影はものすごく大変だったんですよ。夜中の1時すぎに大阪駅を出発して、山口まで走っている中で夜の車内のシーンを撮影するんですが、夜明けが5時なので正味4時間くらいしかない。何度も撮りなおしはできませんから、事前にスタッフとキャストを集めてリハーサルをしました。大阪の鉄道博物館にあるこれに似た列車の中で、走っているシーン全部のリハーサルです。おかげで夜が明ける前に列車の中のシーンを撮りきりました。走る列車を外から撮るために、他の撮影隊は車に乗って追いかけたり、新幹線で先回りしたり、ヘリコプターで空撮したり、と6キャメ(カメラ6台)使いました。僕はずっと走っている列車の中で撮っていて、外から撮影する時間になると映らないようにわーっと一斉に隠れる、過ぎたらまたわーっと出てきて撮影を続ける(笑)。

Q 電車少年たちもいましたか?

監督 すごくいました。全部撮影は秘密で、大阪駅でも終電が出てからの撮影を3日間。でも駅を出て、岡山に着いた4時ころだったかな、もう4,5人がカメラ構えていました。それから駅に着くたびに増えて、最後は100人くらいになりました。海辺に一番いい撮影ポイントがあるんですが、そこにずらーっと並んでいましたよ。聞いてみたら鉄道マニアの方で、インターネットで「EF58が動いた」と情報が流れたそうです。それで追っかけられたらしいです。撮影の翌月、鉄道雑誌に「謎の列車走る」と載っていました(笑)。

Q お天気にも恵まれましたか。風景が綺麗で私も行ってみたくなりました。

監督 大阪には台風が直撃コースで来ていて、撮影のときはどきどきしたんですけど。幸いぎりぎりで通過してくれて、一発勝負の駅のシーンは台風一過で晴れたというツキがありました。映画では尾道、このごろ山口も出ていますが、瀬戸内ってあんまり出てこない。観光でも見過ごされているんですよ。山陰もちょっと遠いから行かれてる方が少ない。でもほんっとにいい場所残っているんですよ。ただ、みんな交通の便が悪いんです。あの島もしまなみ海道から外れているので、車では行けなくて船だけ。だから変わらずいいところが残るのかもしれないんですが。

Q 旅人が泊まる家や映画館の建物も良かったですね。郵便局長さんの家はほんとの自宅ですか?

監督 いや、あれは別の家です。局長さんの家もロケしていいってお話だったんですが、あんまりりっぱなおうちだったんで・・・。映画館はもう使われていませんが、中は見せてくれるんですよ。残念なことに今の消防法をクリアせず、人を集めることができない。畳敷きで2階の桟敷にも洒落た手すりがあったりするんですが、低いので人を入れられない。ほんとはここで上映会をやりたかったんです。島には映画館がないのでプロデューサーがDVDを持ってお礼に行きました。地元の方にはほんとによく協力していただきました。

Q 映画に出てきたお料理も監督さんたちが食べたものなんですね。私も島で生まれたので、こういう人情が残っているというのはとてもよくわかります。けっしてファンタジーでなくって。

監督 真鍋島には一軒だけ料理やさんがあるんですが、そこに頼むと生簀からすくってきて、ぼーんっと出してくれる。そのまんま刺身にしているだけでなんにも手を加えていない。で、美味しいんです。
港町っていうのは外から来る人たちに対してやわらかいんですよ、やっぱり。瀬戸内は特に全体にやわらかいです。山も険しくなくて全体に丸くて、静かな海で・・・。プライベートで瀬戸内に行ったときも暖かくていいなぁ、こういう場所でロケしたいなぁと思いました。 何の事件もおきない映画です。テレビの特撮ドラマでは「地球を守れ!」とかさんざんやってきましたし(笑)、今回はいい素材が揃ったので、ただ煮るだけの“ポトフ”みたいな作品にしようと思ったんです。へんにこねくり回さず、塩と胡椒くらいのシンプルな味付けのように作りました。物足りないと言う方もいらっしゃるかもしれないけど、こういうじんわりくるのを喜んでくださる方もいらっしゃるだろうと。そういう方にこの映画を観ていただけるんじゃないかなと期待しています。

原田昌樹
原田昌樹 監督
「撮られるのは苦手なんだよね」

追記:試写を観た後、原田監督作品を検索しましたら、「ウルトラ」シリーズ、「魔弾戦記リュウケンドー」などのヒーローもの、アクション、ヤクザものと本当に広いジャンルの作品がヒットしました。教育映画では連続受賞もなさっています。どんな方かしら、と楽しみに伺いました。「こんな人間なんですけど」と楽しい方で、すぐにこちらの緊張が解けてたくさんお話が伺えました。この作品以外のお話についてはまた別の機会にご紹介いたします。

公開:10月7日(土)より 銀座テアトルシネマ他にて全国ロードショー
配給:パンドラ

作品紹介>>こちら

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(取材・写真:白石)
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