女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『4人の食卓』 イ・スヨン監督記者会見

3月3日(司会 伊藤さとりさん ゲスト 大石圭氏)

イ・スヨン監督はこの作品が長篇デビュー作。 梨花女子大学卒業後にチャンアン大学大学院と映画アカデミー、 2つの研究機関で映画を学ぶ。在学中に作った短篇映画で高い評価を受け、 期待されている新進気鋭の女性監督です。

イ・スヨン イ・スヨン
イ・スヨン監督

「デビュー作というだけでなく、日本という近い国で公開されることになり、 興奮しています。 この映画が外国でどのように受け取られるか気になっています」とご挨拶。

 タイトルの意味は

 食卓は核家族の中で、居間よりも家族が集まり、団欒の中心になるところです。父 母に子供2人の4人が典型的家族なので、家族を象徴し連想させるモチーフとしてこ の題名にしました。

 以前の短篇『ゴーグル』でも墜落する場面がありますが

 私の身近でそういうことがあったわけではありません。高度成長で高層マンションが 増えるにつれ、投身自殺が増えています。自殺の方法のうち首を吊ったり、薬を飲ん だりというのは生き残る可能性もあります。自分が辛いのを誰かにわかってほしいと いう気持ちが働くのでしょう。酷い状態になろうとも失敗のない投身自殺を選ぶのは ほんとうに死を望んでいるという、その人の心理状態が強く出ていると思います。

 監督のオリジナル脚本だそうですが、この構想を思いついたきっかけは

 人間についてこれまでいろいろ考えてきたことが凝縮された作品です。韓国ではIMF 以後、人間の弱い面がさらけだされてきた感があり、それを映画の中に取り込みたい と思いました。ある日、地下鉄の中で死んだように眠っている子供たちを見てぞっと したことがありました。この子たちが食卓にいたらどうだろう、とそのイメージを映 画で使いました。

 人間の心理を映像化する上でこだわった点

 もともと絵が好きで、画家になりたかったのです。イメージを創り出すことに楽しみ を感じます。映画は編集ができるというところがほかの芸術と違うところです。この 映画は記憶、夢、現実がひんぱんに交錯します。観る人に効果的で、印象に残るよう にと意識しました。

 今まで観てきた映画の影響を受けていますか。また印象に残っている映画は?

 若い映画人の中には監督の影響を受けている人が多いようですが、私は特にマニアで もなく、むしろ絵、エッセイや小説などから影響を受けたといえます。最近の映画で 好きな監督は、台湾のアン・リー、エドワード・ヤン、それにトーマス・アンダーソ ンです。 子供のころはテレビでハリウッドのスタジオものをよく見ていました。後からは ニューヨークで作られたインディーズものも観ました。

 主演のチョン・ジヒョンについて、もともとの印象と実際はどうでしたか

 個人的に彼女を知っていたわけではなく、新時代の溌剌とした人という印象でした。 若いけれどとてもプロ意識が高い人です。今回は『猟奇的な彼女』とは全く違うイ メージの役です。実際は若くて独身で子供もいませんが、資料を元に役作りをしまし た。彼女は綺麗な白紙の顔を持っています。どんな役にもなれる可能性が高く、これ からも活躍されるでしょう。


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作家の大石圭氏が花束を持って登場。ちょうどお雛祭りなので、ひなあられもプレゼントされ監督が笑顔を見せました。 大石氏はこのたび『4人の食卓』のノベライズを執筆。 2003年には『呪怨』小説版もノベライズの傑作としてベストセラーになっています。

大石圭、イ・スヨン
大石圭氏、イ・スヨン監督

大石  まもなく最終場面に入るところです。主人公たちが勝手に動いていくので、ま だどんな結末になるかわかりません。映画は10回くらい観ました。初めて観たとき は、まるで僕の小説を映画化したようだと思いました。露骨なシーンがいくつかあり ますが、小説ではさらに心にひびくようリアルに書いています。『呪怨』はダイレク トな怖さだといえますが、この映画は真綿で首を締めるというか、じわじわと来る怖 さがあります。見ている人に考えさせ、追い詰めていく怖さです。

イ監督  まず小説と小説を映画化したものとは全く別物と思います。その逆の映画を 小説化することも別な創作活動です。私が残したい、伝えたいと思うものをよく理解して下さっています。きっと良いものになると思います。

大石氏から監督へQ  ヨンとジョンウォンの目が合わなかったのは?

監督  猫の女性とヨンの目が合った、というのはヨンの言葉を信じるかどうかのバロメータとして使っています。ヨンとジョンウォンの場合は、目が合うことが重要ではなく、ヨンの行動そのものに意味があったのでああいう撮り方にしました。


あまりネタバレしないよう、少々編集しました。

作品紹介

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(まとめ・写真:白石)
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