女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

11月20日(土)より恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー → 作品紹介

(1)『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』に、中東和平を思う

 「笑顔を知らないユダヤ人少年に人生の素晴らしさを教えたのは、年老いたトルコ移民の商人だった・・・」というキャッチコピーに、早く観たい!と待ち望んでいた『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』。2004年夏に公開が予定されていたのに、『華氏911』の上映が優先されて、ようやく東京国際映画祭の特別招待作品として上映され、観ることができた。

 人種や宗教を越えて、人と人とが心を通い合わせることが、こんなにも簡単だということを、この映画は教えてくれるのに、パレスチナもイラクもアフガニスタンも、混迷を極めている。アラファト議長がご逝去され、今後の中東和平の行方がますます気になる。
 パレスチナ問題を語るとき、時にユダヤとアラブの何世紀にもわたる確執のように指摘されることがあるが、多少のいさかいはともかく、はっきりとした対立の構造が出来たのは、定住していたパレスチナ人を追い出す形でイスラエル国家が成立してからのことではないか。

 イスラーム社会の中でユダヤ人は伝統的に金融業者としての役割を担ってきた。イスラーム教徒はイスラーム法により利子をとってはいけないので、ユダヤ人を介在させたのだ。また、7世紀から15世紀にかけてスペインを支配していたイスラーム政権下ではユダヤ人は重用され、政治・経済・文化に亘って貢献し、宰相となったユダヤ人もいる。しかし、キリスト教徒によるレコンキスタ(国土回復運動)で、イスラームがスペインから追い出されたとき、ユダヤ人も同時に追い出され、それを受け入れたのは北アフリカや中東のイスラーム社会だ。
 「右手にコーラン左手に剣」という、キリスト教徒がイスラームを比喩した言葉があるが、イスラーム勢はキリスト教徒に改宗しなければ殺すと迫ったわけではない。イスラームでは、ユダヤ教もキリスト教も同じ唯一神を信じる啓典の民として認めており、スペインやシチリアをイスラーム政権が治めていたときにも、改宗を希望しないキリスト教徒たちは税金を多く納めることによりイスラーム社会の中で共存していたのだ。

 ちなみに、Allah とはアラビア語で神のこと。キリスト教徒のアラブ人にとっても、神はAllahだ。イスラームの経典コーランは、神(Allah)の言葉そのもの。イブラヒムおじさんの口から時折りさりげなく語られるコーランの言葉は、誰でもが「うんうん」とうなずかされる人間にとって普遍的なものだ。イスラームというと、お酒を飲んではいけない、豚を食べてはいけない、4人まで妻を持てる・・・など、特異なことだけが取り沙汰されがちだが、コーランに書かれているのは、人として生きる術や守らなければならない社会規範だ。
 「アッサラーム・アレイコム」というイスラームの挨拶は、“あなたの上に平和あれ”という意味だ。イスラームというと、過激なテロリストのイメージがつきまとうが、今や世界の人口の5分の1、約13億人といわれるイスラームの民のほとんどは平穏な暮らしを望む人たちだ。
 残念ながら、今のパレスチナでは、修復不可能ではないかと思われるほど、憎悪が憎悪を生んでいる。お互いの違いを認め、相手を敬い共存できる日の来ることを願うばかりである。

 『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』を観て、この思いを強く感じたが、この作品はそれを表面に出したものではない。モモの思春期を爽やかに描きながら、さらっと語っているだけだ。

★ちょっとお堅いことを書いてしまいました。モモ役 ピエール・ブーランジェ君が、立派な美青年となって来日し、東京国際映画祭で舞台挨拶した様子をお届けします。

(2)モモ役 ピエール・ブーランジェ舞台挨拶

第17回東京国際映画祭 特別招待作品
10/25 (月) 16:05〜 VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズScreen7にて

ピエール:(日本語で) ヨロシク トウキョウニ クルコトガデキテ ウレシイデス

司会:この映画でデビューした時の気持ちを聴かせてください。

ピエール:初めてでドキドキしました。新しい世界の発見でした。夢のようで、迷子のようで、何をしていいかわかりませんでした。この役を演じることで、私自身戦って、その結果素晴らしいプレゼントをいただいたように思います。非常に面白くて、楽しいなと思ったのは、スタジオに入ると何もかも偽物で、壊れそうな中で演じるのが面白かったです。今日は僕だけしか来られなくて、オマー・シャリフが一緒でなくて、すみません。

司会:いえいえ、あなたが来てくれて、とても嬉しいです。

ピエール:(日本語で) アリガトウ

司会:プレゼントを貰ったような気持ちとのことですが、どんなことを学びましたか?

ピエール:モモが色々体験し、学んで成長しますが、僕も一緒に成長したと思います。フランスでは子役が少ないのですが、いい役を見つけるのも難しいことです。素晴らしい方たちに囲まれて、成長できたと思います。イブラヒムおじさんのもとでの成長をみていただければと思います。

司会:イブラヒムおじさんを演じたオマー・シャリフさんとの共演はいかがでしたか?

ピエール:オマー・シャリフ氏は寛大で素晴らしく、優しさもある人格者です。一緒に仕事ができて、ほんとに幸せでした。映画からも彼がいかに寛大で素晴らしいかが伝わってくると思います。また、とても面白い人でした。

司会:初めての体験で色々あったと思いますが、心に残る出来事は?

ピエール:オマー・シャリフさんが車を運転するシーンがあるのですが、20年間彼は運転していなかったそうで、古い車を使ったし、とても大変だったのです。私に話しかけようとして、振り返る度に、車が右に左に蛇行して危なかったです。特に、トルコでのシーンが大変でした。
私個人の思い出ですが、売春婦と寝なければいけないシーンがあって、台本を貰って、父と一緒にびっくりしました。大人の女の人と寝なければいけなかったのですが、ソフトな雰囲気で、隠すべきところは隠して撮影しましたので、落ち着いてできました。

司会:最後にひと言、メッセージを!

ピエール:こんなにたくさんお集まりいただき、ヨーロッパ文化に興味を持っていただいていることと思い嬉しいです。僕は、黒澤明監督の『乱』や、『どですかでん』、宮崎駿監督のアニメなど日本の映画も観ていて、日本に興味を持っています。この映画を通じて、フランスを知っていただければと思います。



 オーディションで、250人以上の候補者の中から選ばれた彼、撮影当時15歳、160cmだったのが、現在17歳 180cmに。2年の間に可愛い少年から美青年に成長して、今後の活躍が楽しみです。 残念ながら写真を撮り損ねました。素敵な美青年ぶりをお見せできなくてすみません!

return to top

(文:景山咲子)
本誌「シネマジャーナル」及びバックナンバーの問い合わせ:
order@cinemajournal.net
このHPに関するご意見など: info@cinemajournal.net
このサイトの画像・記事等の無断転載・無断使用はご遠慮下さい。
掲載画像・元写真の使用を希望される場合はご連絡下さい。