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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

本の紹介 第1回

本の紹介もしてゆくことになりました。 第1弾は、安易ですが、シネマジャーナル54号の 新刊紹介記事(by 石井香江)をそっくりそのまま掲載します。第2弾も準備中です。

「女性監督映画の全貌」 吉田真由美/林冬子/松本侑壬子/高野悦子/大竹洋子/小藤田千栄子、 パド・ウィメンズ・オフィス刊 2001年 定価3800円+税 (566頁)

 「日本を代表する女性映画人たちによる女性映画監督の集大成!」と銘打たれる本書は—電話帳を思わせるような—、566頁にわたる執念の一冊である。21世紀の最初の年に、この大著を世に送り出した映画を愛する6人の女性たちに、まずは心からの敬意を表したい。この記事を読む映画好きの皆さんに、是非一読することをお奨めすしたいのですが、ここでは参考までに本書の概要を紹介しておきます。

 第1章では、アメリカから、カナダ、ラテン・アメリカ諸国、フランス、フランス文化圏諸国、ドイツ、イギリス、ケルト系地域、ヨーロッパ諸国、北欧5カ国、オーストラリア、ロシアと旧ソ連邦諸国、旧東欧圏、そしてアジア諸国、日本にいたる、世界各地の女性監督とその映画作品が、それらを取り巻く時代背景とともに丁寧に紹介されている。日本でも初の女性監督坂根田鶴子をはじめ、女優出身の田中絹代、独立プロで叩き上げた浜野佐知、マイナーやドキュメンタリーの分野で活躍する女性たちの足跡がたどられている。近年喜ばしいことに目に触れる機会が増えた、お隣の韓国・中国、そして東南アジア、南アジア諸国、その他、筆者も個人的に関心があるドイツ映画の新しい動向に対する目配りも利いている。各国の事情(広義の政治状況・フェミニズム運動)と映画の関連を押さえた叙述は、女性監督の全貌を紹介する次元をはるかに超え、20世紀の映画史、そして女と男をめぐる両性関係史の集大成といっても過言ではない。続く第2章では高野悦子、大竹洋子、小藤田千栄子の3氏による、『国際女性映画週間』をめぐる座談会、そしてクレテーユ国際女性映画祭のディレクター、ジャッキー・レヴュのインタヴュー「クレテーユ国際女性映画祭」が収録されている。そして第3章では1951年〜2001年3月までに日本で公開された(あいち国際女性映画祭、東京国際映画祭、国際女性映画週間も含む)女性監督作品を完全収録し、各作品の概要も手際よくまとめられている。さらに女性監督のフィルモグラフィー、アニメ作品を含む作品リスト—邦題、原題、公開年度、そして作品がビデオで入手できるかといった情報つき—が満載されている。

 かつて男性の牙城だった映画界で、女性たちがこれほどまでに頑張っていたのかと、掲載された無数の作品を前にしばし呆然とするばかりであった。本書を読み終わって、20世紀とはそれまで表舞台にそう出てこなかった女性たち、そしてアジア・アフリカ諸国が声を上げ始めた時代であったということを、映画という切り口から非常に鮮明に見えてくることを痛感した。最後に無いモノねだりで、幾つかコメントすれば、本書を読んで関心を深めた読者が、さらに読み進めることができるような参考文献のリストがあれば良かったかもしれない。また技術的な面では、作品紹介の部分で、監督と主演の名前が一続きに記されていたのが、漢字に関しては少し読みにくかった。とはいえ、これだけ至れり尽くせりの内容で、定価3800円とはお得です!



「フィルムが紡ぐ女たち—ビデオに観るフェミニズム」 シネマとフェミニズム研究会編、創土社刊 2001年 頒価800円 (120頁)

 本書は90年代に上映された27作品を、シネマとフェミニズム研究会の会員7人が合評し、フェミニズムの視点から映画の中の女性像を析出した報告書である(東京女性財団の助成金により出版された)。「映画の中の女性像が男性のフィルターから解放されて、生身の人間として描かれる時代のさきがけとして、この本がいくばくかの参考になれば幸いです」というのが、研究の主旨である。他にも座談会「フェミニズムで観る映画とは」、資料としてお奨め映画と女性監督一覧、また「映画に期待する女性像」に関して、女性61人を対象に行ったアンケートの結果も収録され、とても興味深い。詳しい問合せ先は、
当研究会の事務局まで (〒156‐0055 東京都世田谷区船橋5‐32‐7 小野由理 Tel/Fax 03‐3306‐2762)



「私は銀幕のアリス—映画草創期の女性監督アリス・ギイの自伝」 ニコル=リーズ・ベルンハイム編/松岡葉子・訳/向後友恵・解説 パンドラ刊 2001年 定価3500円+税 (240頁)  

 アリス・ギイという名前を知っている人は、一体今の時代にどれほどいるのでしょうか?恥ずかしながらこの記事を書いている私自身も、本書を読んで初めて、その存在と足跡を知ったという次第です。 

 アリス・ギイは1873年7月2日にパリの郊外に生まれた、世界初の女性監督です。晩年になって、フランスの文化勲章レジョン・ドヌールも授与されています。しかしそこに至る道は、決して平坦なものではありませんでした。アリスは小さな出版社を経営する父が破産したのを機に、職業学校に通いタイプや速記の技術を身につけ、その後フランス映画界の草分け的存在だったレオン・ゴーモンの写真機会社に、秘書として就職することになりました。そこでアリスはレオンの仕事を手伝いつつ、1896年の『キャベツの妖精』という作品を皮切りに、「カメラの前でお芝居をする」ような新作を次々に発表し、ゴーモン社を世界一の映画会社にまで育て上げたというのです。単なる「見世物」の域を出なかった従来のシネマトグラフを、「スクリーンのドラマ」に変貌させたのが、実はこのアリスだったのです。ところが映画史の中においても、こうした目を見張る功績を残したはずのアリスの名前は、リュミエール兄弟やメリエスなど、映画の創生期を飾る幾人もの(男性たちの)名声の陰に隠されていたといえます。

 彼女が映画史の表舞台にようやく登場するのは、1968年に彼女が亡くなって数年たってからのことでした。それは彼女が晩年、自分自身の波乱の生涯を語り始めたこと、そして彼女が移り住み、晩年を過ごしたアメリカにおいて、この時期に黒人や女性などのマイノリティーを担い手に、歴史の再構築が進展したことも関わっています。自己実現を目指し、結婚よりも創作を選んだアリスの姿は、20世紀を生きた女性たちの姿とも重なり合うことでしょう。

 (石井 香江)

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