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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『ウイスキーと2人の花嫁』
ギリーズ・マッキノン(Gillies MacKinnon)監督 インタビュー

<プロフィール>

1948年スコットランド グラスゴー生まれ。監督、脚本家。マンガ家、画家でもある。『グッバイ・モロッコ』(1998)、『ピュア』(2002/未)、『レジェンド・オブ・サンダー』(2004)『Castles in the Sky』(2014/未)など映画のほか、テレビドラマを多数手がけている。弟は脚本家のビリー・マッキノン。

ウイスキーと2人の花嫁(原題:Whisky Galore)

監督:ギリーズ・マッキノン
原作:コンプトン・マッケンジー
脚本:ピーター・マクドゥガル
撮影:ナイジェル・ウィロウビー
音楽:パトリック・ドイル
出演:グレゴール・フィッシャー(ジョセフ・マクルーン)、ナオミ・バトリック(ペギー)、エリー・ケンドリック(カトリーナ)、ショーン・ビガースタッフ(オッド軍曹)、ケヴィン・ガスリー(ジョージ・キャンベル)、エディ・イザード(ワゲット大尉)、ジェームズ・コスモ(マカリスター牧師)

第2次大戦中のスコットランドの小さな島。ウイスキーの配給がストップして、島民たちの何よりの楽しみがなくなってしまった。郵便局長ジョセフの2人の娘ペギーとカトリーナには愛する人との結婚が控えている。しかしそのときになくてはならないのがウイスキー。このままでは結婚が遠くなってしまう。ある晩、濃霧のため島の沖で貨物船が座礁し、脱出した乗組員たちから積荷はアメリカ輸出用のウイスキーと聞いた。それもなんと5万ケース!大喜びの島民たちは、船が沈む前にウイスキーを“救出”しようとする。


(C)WhiskyGaloreMovieLimited2016

2016年/イギリス/カラー/ビスタ/98分
配給:シンカ
(C)WhiskyGaloreMovieLimited2016
http://www.synca.jp/whisky/
★2018年2月17日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー



マッキノン監督 インタビュー

―たいへん面白く観ました。ウイスキーのエピソードが本当にあったことと知って驚きました。映画の中での事実の割合はどのくらいでしょうか?

島の沖合いで貨物船が岩にぶつかって座礁したこと、アメリカへ輸出する積荷のウイスキーを島民が盗んで隠したこと、係官が捜索に来たことは事実です。父と2人の娘たち、家族の話はフィクションです。

―赤いケースとその中味については?

赤いケースは確かにありました。中味は調べていくうちにあいまいになってしまいました。断言してしまうと危険なんです(笑)。映画のとおりかどうかはグレーゾーンです。ただし積荷のウイスキーは一流品ばかりだったそうです。映画の中に「ウイスキーのないスコットランドはダメになる」というジョークがあります(笑)。そのぐらい大事なものなんです。

―ジョークでなく、本音みたいですね(笑)。私は全然飲めないので、お酒がないと困る人たちの気持ちが実感できませんが。検索してみましたら、この地方の主な島には必ずウイスキーの蒸留所があるんですね。

まさにそのとおりです。元々はフランスから輸入した赤ワインを飲んでいました。ところが16世紀に政府に禁止されるのです。すると住民たちはこっそり自分たちの家の裏でお酒を作るようになりました。もちろん違法ですが。

―どこの国も一緒です。禁止されるとますます飲みたくなって工夫するわけですね。

ははは。だからといって島民が全員アルコール中毒なわけではないですよ。お酒はその国の文化でアイデンティティーとなるものです。ドイツはシュナップス(無色透明の蒸留酒。40度くらい)、日本なら酒で、スコットランドではウイスキーです。病気になったらウイスキーを飲み、治ったらまたウイスキーを飲むんですよ。

―何にしても飲むんですね(笑)。監督もウイスキーを飲まれますか?

僕は、ふだんは赤ワインなんです。ウイスキーはお付き合いのときまで取っておきます。
お酒にはそれぞれ違う役割があると思います。ウイスキーは非常にエモーショナル、感情的になる作用があるので、社交の場にいいと思います。だから古い友人と会ったときはウイスキーなんです。心を開いて饒舌になり、感情を解放してもっといろいろなことを感じるようになるからです。

―「安息日」の決まりがこんなに厳しいと知りませんでした。現在はいかがですか?

聖書の中に神が6日間で天地を作り、7日目は休んだとあります。なので、人間も日曜日は神のことを考える以外何もしないことになりました。私が20歳ごろ、ハイランドに行ったときは神父さんが「It's Sabbath(安息日)!」と叫んだ後、ほんとに全部がストップしてしまいました。今は映画ほど厳しくはないと思います。


右:通訳の今井美穂子さん

―ワゲット大尉は“民兵”ということですが、正式な軍隊とは違いますよね。軍隊の補佐が仕事ですか?

彼は政府と軍隊を代表して島にいるのですが、軍人としてちゃんとした訓練を受けたわけではありません。でも彼自身はすごく真剣なのです。

―大尉という役職は?重用されていないのは観ていてわかりました(笑)。

彼は軍隊の人ではないので地位は高くありません。本当は島に左遷して「そこにいとけ」って感じですね。軍隊にいたとしても使えない人です(笑)。彼は「決まりに違反することはできない」と言っていますね。自分はとても重要な仕事をしていると考えているんです。

―島民に煙たがれているようですが、憎まれている悪人というわけではないですね。

彼が憎まれないのはあまりにも無能だからです(笑)。バーテンダーからの告げ口で、ワゲット大尉はウイスキーのことを知りますが、彼が“役立たず”なので、そこが島民にとって役に立っているわけなんです(笑)。

―それでも夫婦仲は良くて彼の奥さんも上手にあしらっているのが良いです。

ははは。あの奥さんもちょっと狂っていますから。

―え~!(笑)
郵便局長のマクルーンさんと娘2人の関係がやさしくてほっこりしました。最近は争ったり殺したり殺伐とした映画が多いので、この映画には悪人がいない、誰も殺されない・・・本当にほっとします。

この映画を作るときにとにかく大事にしたのは“暗さがない”ということです。それはメモにして役者さんにもスタッフにも伝えました。特に作曲家(パトリック・ドイル)に「いろんなことを深刻にとらえすぎないで」と言ったんです。

―それにはワゲット大尉がおおいに役立っていますね。(そうですね、と頷く監督)
音楽についてですが、最後に流れる歌が素敵でした。ハイランド地方の伝統的な音楽を使われたのですか?

もともとはハイランドに伝わる伝統音楽をと考えていたのですが、編集しているときにパトリックが「オリジナルを作りたい」と言ったんです。どうかなと思いましたが、パトリックが作ったものを聞いたら「とてもいい」と思いました。聞いた後、何度も何度も耳の中に残るような音楽がほしかったのですが、まさにそうでした。

―バグパイプがとても印象的に使われていました。

今も結婚式やお葬式など儀式のときに演奏されます。
私の叔父が亡くなったときも、それまで静かに冥福を祈っていたところにバグパイプのスローな哀歌が流れました。するとみんなわっと泣き出しました!バグパイプはスコットランド人の魂をゆさぶるパワフルな音なんです。軍隊が行進するときドラムと一緒に演奏する(と口と動作で演奏を真似る監督)ものとは違いますよ。あれはビクトリア朝で起こったものです。古代から伝わるスローなバグパイプの音楽は人の心をうつのです。日本にもとても似たような気持ちにさせられる笛の音楽があるでしょう?(とメロディーを真似る)

―『山椒大夫』にもそんな場面があったような(これは古かったのか通じませんでした)。時代劇に出てくる横笛でしょうか?誰かを思い出すような、懐かしむような場面のときによく使われます。バグパイプは村の方が演奏されるのですか?

フォークミュージックなので、たとえば昔は炭焼きの人などがパグパイプをやっていました。伝統的に地元の人が、結婚式やお葬式などのときに演奏してくれます。

―では最後に、監督が映画の道に入られるきっかけになった作品を教えていただけますか?

サプラーイズ!クロサワです!!『羅生門』(1950)『生きる』(1952)『七人の侍』 (1954)などたくさん観ました。

―学生時代にご覧になったんですか?

グラスゴーの美術学校にいるときに、映画監督になりたいと思っていました。クロサワのほかにパゾリーニ、フェリーニ・・・たくさんの監督の作品を観ましたが、クロサワに一番影響されました。いろんな理由がありますが、一つに彼の語り口が好きです。特に『羅生門』『生きる』にそれが顕著です。人間の利己的なところ、ネガティブなところを描いています。例えば『羅生門』に出てくる人は全員が嘘つきです。でも最後にただ一人が赤ちゃんを救います。『生きる』でも一人が立ち上がります。これは同じ構図ですよね。
ストーリーの中にある種の倫理があると思います。『七人の侍』では村人のために戦ったのに、最後には出て行ってくれと言われます。奇妙な奉仕の感じがします。たしか最後のセリフが「また生き残ってしまった」だったと思います。とにかく私はどれも大好きで、三船敏郎さんは私の一番好きな男優なんですよ。

―長いお時間ありがとうございました。とても楽しかったです。



「ポスターに合わせてしゃがむ?」 とお茶目な監督                                  


作品紹介:http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/456781468.html


◆ インタビューを終えて

何年ぶりかで自分より年上の監督さんインタビューとなりました。1941年、大量のウイスキーを積んだSSポリティシャン号が座礁した事件は、1947年「Whisky Galore」(意味:たっぷりのウイスキー)という小説に。さらに1949年アレクサンダー・マッケンドリック監督により映画化されました。マッキノン監督は、1986年にエディンバラ映画祭で受賞していますが、その際のプレゼンターがマッケンドリック監督だったそうです。30年後にリメイクを手がけることになるとは不思議なご縁ですね。もう少し時間があればその辺の詳細も伺いたかったです。 マッキノン監督はベテランなのにたいへん気さくでよく笑う方で、ほんとうは(笑)がもっと多いのです。楽器の音やセリフの口真似もお上手、つい注目してしまいその瞬間の写真がないのが残念です。

最後の質問のお答えが“黒澤明監督”でしたが、このときは通訳さんを忘れたかのように、言葉が次々とほとばしり出てくるようでした。本当に大ファンで、何度も繰り返し観られたのでしょう。ランチの時間なのに熱く語ってくださったマッキノン監督でした。


(取材・写真:白石映子)

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