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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『盜命師』
李啟源リー・チーユエン監督& 簡麗芬ジエン・リーフェンプロデューサー
インタビュー

トップ写真 李啟源監督と簡麗芬プロデューサー

2018年台湾映画上映&トークイベント〜台湾映画の"いま
第一回は『盜命師』李啟源(リー・チーユエン)監督
2018.03.24 台北駐日経済文化代表処台湾文化センターにて

「台湾映画の新しい潮流を感じよう」というタイトルで2000年以降の台湾映画の新しい流れをテーマごとに作品と共にお伝えしてきましたが、今年はこの流れがどのように台湾映画の"いま"に繋がってきたのか、そして"いま"何が起きているのかをお届けします。(HPより)

2018年、第一回は昨年秋に台湾で公開された『盜命師』、李啟源(リー・チーユエン)監督とプロデューサーの簡麗芬(ジエン・リーフェン)さんをお招きして、映画上映&トークイベントが行われました。この作品は臓器売買と鳩レースをめぐる人間模様が描かれたサスペンスタッチのドラマ。主役はアイドルドラマから映画へと活躍の場を広げた陳庭妮(アニー・チェン)と王陽明(サニー・ワン)。李啓源監督の6年ぶりの新作で、奇想天外な人物設定、ストーリーも奇抜で思いもよらない展開の物語です。監督とプロデューサーにインタビューすることができました。


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『盜命師』

監督・脚本:李啟源(リー・チーユエン)
プロデュース:簡麗芬(ジエン・リーフェン)
出演
王陽明(サニー・ワン) 謎の外科医 麻六甲(マー・リウジャ=マラッカ)役
陳庭妮(アニー・チェン) ポールダンサー金芭比(ジン・バービー)役
喜翔(シ・ーシャン) 個人教会のリーダーで鳩レースの元締め 肉仁(ローレン)役
廖峻(リャオ・ジュン) 楊(ヤン)刑事役
蔡思韵(セシリア・チョイ) 教会の信者猫仔(ミウ)役
陸弈靜(ルー・イーチン) 芭比の友人三鳳(サンフォン)役
音楽:半野喜弘
製作:李啓源電影公司


ストーリー

ポールダンサーの金芭比(ジン・バービー)は恋人が鳩レース賭博で借金を作ったまま交通事故死してしまった。その借金を返済する為に恋人の臓器を売ることを承諾したバービーは、謎の外科医麻六甲(マラッカ)に手術を託し、その手術に立ち会う。その後、バービーはマラッカと同居するようになった。
バービーの恋人が生前夢中になっていた鳩レース賭博だが、彼が育てていて、飛び立ったまま帰ってこなかったエース鳩タンゴが怪我をして戻ってきた。マラッカが手当てをして回復したので、バービーは借金返済のため鳩レースに参加しようと元締めのローレンを訪ねたが、ローレンはなかなか承認してくれない。それでも紆余曲折あってレース参加が認められレースのための訓練を始めた。
ローレンには腎臓移植を待っている妹がいた。彼は個人教会の牧師のようなこともしていて、身寄りのない発達障害の少女ミウの面倒を見ていた。ローレンはマラッカのことを知り彼にコンタクトを取り、妹の腎臓移植を取り付けたのだが、長年マラッカを追っていたヤン刑事が表れる。果たして、妹の腎臓移植はうまくいくのか…。



◆ 李啟源監督プロフィール

台湾の政治大學を卒業後カリフォルニア大学で心理学を学び、詩人として活躍。1991年に映画製作を開始。2004年から國立台北藝術大學電影創作大学院教師に。
初監督作は『颱風紀念日』(1997年)。『巧克力重擊(チョコレート・ラップ)』(2005年)、『亂青春(ビューティフル・クレイジー)』(2009年)は東京国際映画祭で上映された。





◆ 簡麗芬プロデューサープロフィール

UCLAで舞蹈人類學を学び、在学中に李啟源の映画製作をサポート。アメリカでプロデューサーの経験を積み、『藍色夏恋』(2002年)の宣伝プロデューサー&海外セールスを担当。台湾に帰国し、2004年に李啟源監督とふたりで「李啟源電影」を設立。『巧克力重擊(チョコレート・ラップ)』『亂青春(ビューティフル・クレイジー)』『河豚』『盜命師』など李啟源監督監督作品の全てをプロデュース。ほかにもドイツ人監督Monika Treutの『曖昧』、賴孟傑(ライ・モンジエ)監督の『恐懼屋』など短編映画の製作も手がける。




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李啟源監督&簡麗芬プロデューサーインタビュー


編集部 『盗命師』というタイトルですが、どういう意味と考えればいいですか? 「盗命師」とは誰のことになるのでしょう。

李啟源監督 『盗命師』、命を盗むということですが、この登場人物の中で誰を意味しているのか、誰を指すのかということですね。いろいろなことが考えられますが、ひとつは「鳩」という意味にも取れます。というのは、鳩にからめていろいろな人の物語が起きてくる。その中で命に関わることが起きてくるので、「盗命師」というのは鳩であるとも取れる。あるいはヤン刑事とも考えられる。闇の臓器売買を追っていたわけですが、結局は自分の命を犠牲にして命を助けるわけなので、そういうヤン刑事であるともいえるし、あるいはまたアンダーグランドの医師であるマラッカでもあるとも言える。お互いに「命」にからめて、様々な人間関係が成立しているということですね。
たとえばミウという女の子ですが、彼女はすなわち鳩であるとも言える。誰かを救おうとするのだけど、そうすると誰かを救うためには誰かを犠牲にしなければいけないシンボルでもある。

編集部 このタイトルにこめられたものというのは、「命」を差し出したりもらったりの話の中にある人間の関係を表したかったということですか。

監督「死」と「命」の再生を意味しています。「死」と甦る命をめぐって、いろいろな人間関係が繰り広げられるという意味を(盗命師)に込めている。


編集部 なんか複雑な繋がりや、一見関係なさそうな人間関係を描きながら、最後に繋がってきて命の大事さについて考えさせられる作りになっていて、うまいなと思いました。最後の刑事の話はどんでん返しのような意外性、巧妙な作りと思わせてくれました。

監督 そうですね。まずヤン刑事は、本当はマラッカを捕まえるために誰かを犠牲にしようと思ったわけですね。でも結局、最後は自分の命を差し出したわけです。だからこの誰かの命を奪うのと、命を捧げるというは逆のように見えて、実はひとつのことであると、私は考えています。この人間関係の中で、奪うのか差し出すのかというのは、しょっちゅう逆転していくというのが人間関係の本質なのではないかと思っています。
それは鳩レースの主催者ローレンとミウとの人間関係にも現れています。身寄りのないミウにあんなにもよくしていたのに、自分の妹の命を救うために裏切ろうとするわけです。この裏切りもそうですよね。そして、そういう計画をしていたんだけど、結局ヤン刑事が自分が命を差し出すことによって、あのような結末になっているわけです。
だから日常でも命の不確定性というものが見られると思っています。

編集部 複雑ですよね。ローレンがマラッカに移植を頼んだ時に、マラッカは「生きている人の手術はやらない」と言って、ローレンが「謝々」というじゃないですか。これは、ローレンはミウに対して犠牲になってもらおうと思ったことが間違いであると気がついたから発した言葉だったんですかね? ローレンはキリスト教の牧師のようなことをしているわけですから、そういうのも関係あるのかなと思いました。

監督 そうですね。自分が持っていた罪悪感をマラッカが救ってくれたと思って「謝々」って言ったわけです。初めてそういってくれたメディアの方です(笑)。

編集部 あの「謝々」はなんだろうなと思いながら、その時点ではわからなくて、後で、そういうことだったんじゃないかなと思いました。

サニー・ワンさん演じるマラッカのキャラクターなんですが、名外科医と言いながら、刺青が上半身全体にあるというのが違和感だったのですが、刺青がある医者という発想が日本人には考えられないことなのでびっくりしました。刺青がある外科医というキャラクターはなぜだったのかなと思いました。私はサニー・ワンさんのことを知らなかったのですが、本物の刺青なんですね。

監督 外科医と言っても正式の外科医ではないんです。医学生の時に退学になっている。なので医者の免許がないんです。それでアンダーグランドの臓器売買の世界で、臓器を取り出すという仕事をしているわけです。だから一般的に我々が思い描く医者というイメージとは違うわけです。白黒はっきりさせないグレーゾーンのあたりの人物として彼を描いているので、元々刺青のあるサニー・ワンを起用したんです。
実はですね。こういう実際の事件があったんです。死体解剖をする必要があり、医学生が墓荒らしをして、死体を取り出して解剖の練習をしたという実際の事件があったのですが、そういうのを元にしてアンダーグランドの医師というイメージを作ったわけです。もちろん彼らは退学になりました。


編集部 医師になれなかった人で、その知識を商売に利用している人物という設定なんですね。刺青があるというのは黒社会との関わりがあるというイメージなのですか?

監督 台湾では黒社会に関係なくても刺青を彫るんですよ、普通の人が。日本のようにやくざ系の人が刺青があるというのとは違うんですよ。サニー・ワンは日本の有名な彫り師に彫ってもらったそうです。何回も日本に来て部分的に彫っているようですよ。

編集部 ほんとですか。彼の刺青が映画のためでなく本物の刺青だということにびっくりしました。

監督 なので、せっかく刺青のある身体なので、そこをこの物語に生かそうと思って裸のシーンが多かったんです。ちゃんと衣装合わせをしたんですが、でもやっぱり刺青を見せたほうがいいということで、そういうシーンを撮りました。

編集部 日本で公開されたとしたら、観客が観て「どういうことなんだ」と、きっとびっくりすると思います。
それとバービーの恋人の臓器を取り出したすぐ後に、彼らが住んでいる鳩小屋に行って、一緒に暮らし始めていたけど、これはどういうことなのだろうと思いました。

監督 そうですね。普通の人の恋愛というのは、ゆっくりとしたプロセスがあるけど、でもこれは不可思議な事件で、極端な男女の結びつきというのを描きたかったんです。バービーは交通事故で死んだ恋人の臓器が取り出されるのを目の前で見ているわけですよね。彼は死んでしまった。でも借金はものすごくあるという状態で、頼れる人がすぐに必要だった。それが、マラッカだったということですね。恋愛の原始的な側面、すぐに別の人を愛して頼ってしまうというようなところを描きたかったのです。

編集部 畑の中の一軒屋に鳩小屋があるように思ったのですが、そういう設定にしたのはなぜでしょう。私の中には周りに家があるようなところに鳩小屋があるというイメージなんですが。

監督 あれはバスなのです。上が鳩小屋で、下が人の住むところで移動式なんです。

編集部 鳩を飼っていたバービーの恋人が、鳩を全部放ってしまってタンゴという鳩だけが戻ってきましたよね。彼が死ぬ直前に鳩を放ったという意味がよくわからなかったです。ほかの鳩は戻ってこなかったのでしょうか。

監督 ヒーローである鳩のタンゴが重要なわけです。亡くなった彼は鳩レースに賭けることによって金儲けをしていた。タンゴが戻ってこないと賭けた大金をすってしまい大失敗なわけですが、鳩を放ったときにタンゴが戻ってこなかったんです。ほかの鳩は全然だめなのです。タンゴが戻ってこなかったので、今後、自分は鳩レースをやらないということで、あとはいらないやということで鳩を放ったわけです。

編集部 その時点でタンゴはいなかったのですね。

監督 そうです。それでお酒を飲んで、バイクに乗り事故を起こしてしまったわけです。選手は1羽だけなんです。タンゴ以外の鳩は子分のようなもので、あまり役にたたない。練習用に一緒に飛ぶだけの役目しかできないわけです。

編集部 そういうことだったんですね。それで、この映画の話が繋がりました。これはもう一回観ないといけませんね(笑)。ぜひ、日本公開されるといいのですが。
どうもありがとうございました。




取材を終えて

闇の臓器売買と鳩レースの話が絡み合ってくる、今までに観たことがないようなストーリー展開の話だった。それにしても上半身全体に刺青があるような人が医者というキャラクターは、やはり日本人には考えにくい。なんで??だった。それに、小さいながらも街の教会の牧師的なことをしている人が鳩レース賭博の元締めというのも考えられないことなので、途中、人物像とかがどうなっているの、同一人物?と思ってしまい理解しにくかった。そういう複雑な作りのいろいろな関係が最後でまとまっていくのを観て、監督はストーリーテラーだなと思った。

(取材・写真 宮崎 暁美)

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