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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『かぞくへ』春本雄二郎監督 インタビュー

<プロフィール>

1978年生まれ。兵庫県神戸市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。
卒業後、松竹京都撮影所の演出部となり、井上昭、石原興らに師事。『鬼平犯科帳』『必殺仕事人2009』など時代劇を多数経験。
2010年からはフリーの演出部として、様々な映画やドラマに携わる。
初監督・長編映画『かぞくへ』は、東京国際映画祭をはじめ国内外多数の映画祭でノミネートされている。
最も影響を受けた映画監督は、クシシュトフ・キェシロフスキ、ダルデンヌ兄弟、増村保造。(公式HPより)


かぞくへ

監督・脚本:春本雄二郎
松浦慎一郎(旭)、梅田誠弘(洋人)、遠藤祐美(佳織)、森本のぶ(喜多)

長崎五島出身の旭(あさひ)は、東京に出てきてボクシングジムのトレーナーで生計を立て、つましく暮らしている。同棲している恋人の佳織との結婚も具体的になってきた。佳織は可愛がってくれた祖母の認知症が進まないうちにと準備を進めている。
子どものころから兄弟のように育ち、五島で漁師をしている親友の洋人(ひろと)に、ジムの顧客・喜多の仕事を紹介する。洋人は喜んで契約に応じ、順調に行くはずだった。数ヶ月後、洋人は卸した鮮魚の代金を踏み倒され、詐欺被害に遭っていた。喜多は雲隠れし、洋人には多額の借金が残ってしまった。責任を感じた旭は結婚を急ぐ佳織に相談するが、取り合ってもらえない。




©『かぞくへ』製作委員会

http://kazokue-movie.com/
2016/日本/カラー/117分
★2018年2月24日(土)ユーロスペースほか全国ロードショー




―卒業制作以来10年目、初の長編監督作品ですね。

卒業した後すぐ自主制作にとりかかりたかったのですが、バイトしながらでは相当体力が必要なうえ、お金も貯まりませんでした。シナリオは書いていてシナリオ大賞に応募しても落ちまして、これは一度現場に入って映画作りの中を見てみたいと思いました。
たまたま京都の撮影所が助監督を募集していました。そのときは、東京ではとても倍率が高かったんです。それで大学の教授の紹介で京都の撮影所に入れていただきました。

―大学での勉強と現場では大きく違ったでしょうね。

大学では理論が多いです。映画の歴史やフィルム時代の技術の勉強を紙面上でしてきました。実際に現場に入ってみると、大分ビデオに移行してきた時代だったもので、それまで学んだことが殆ど生かせなくなってきていました。やはり現場の動きというのは、入ってみないとわからないんです。実際たくさんの人がいて、仕事は細分化されていて役割がしっかりとある。それぞれが自分の責任を全うしているというのがすごく勉強になりました。助監督は京都、東京と合わせて12年やりました。

―社員として入られたんですか?

京都では契約社員で、食べていくのはたいへんでしたが、勉強代がその中に含まれていると思っていました。役に立たないのにお金をいただくので(笑)。

―最初は何が何やらわかりませんよね。指示待ちしていると叱られるし。

そうなんです。やっぱりわからないんですよ。それで手当たり次第にやってみると「それはお前の仕事じゃない」と言われたりして「俺は何をやればいいんだ~」と悩んだ時期がありましたね。

―それはもうすごくよくわかります。同期の人はいなかったんですか?

いませんでした。数ヶ月早くても先輩ですし、上下関係は厳しかったですが、それはある意味よかったです。後から入ったほうは教えてもらうわけですから、ちゃんと先輩を敬うことが身につきました。ただ、僕はどっちかというと反骨精神が強くて先輩よりも先に行こうという意識が強かったもので、「あいつは生意気だ」と結構疎まれましたね(笑)。

―そのころお髭は?

はい? あ、髭はつい最近です(笑)。堤幸彦監督の『真田十勇士』(2016)のときに「春本、髭(撮影が)終わるまで伸ばし続けて」と言われて。
クランクアップのときに理由を聞いたんですが「俺そんなこと言ったっけ?」と言われて「な、何ですか、それ!」みたいな(笑)。

―まあ!他人(ひと)の顔なのに(笑)。ゲン担ぎでしょうかね? 武正晴監督も撮影が終わるまで剃らないとおっしゃっていました(※1)。

結果的に髭がないときよりも好評で良かったです。覚えてもらいやすいですよね。堤監督に感謝しています。

―お似合いです。お髭がないとすごく若く見えるんじゃないですか? 監督さんになるといろいろやってもらう立場ですから、少し偉そうに見えるほうがいいかも(笑)。

もうすぐ40なんですけど、髭がないとだいたい若く見られていましたね。大学生と言われたこともあります。あんまり若く見られるのも、ちょっとある意味損だなと思いました。手入れは3,4日に一度なので剃るより楽ですよ。

―急に髭がなくなったりしたら、何かあったのかと心配になりそうですね(笑)。すみません、映画に戻ります。
軸になっているのは松浦慎一郎さんの実体験ですよね。旭(あさひ)と洋人(ひろと)のコンビがとても自然でした。洋人役の梅田さんも本人なのかと思ってしまいました。

みなさんにそう言っていただけるんです。洋人役は書類選考で5人残してオーディションしました。梅田さんは、書類選考ではイメージではなかったんですが、芝居をしてもらったら一番ぴたっとはまりました。お互い芝居している感じにならずに、こんな空気感が出るのはすごい。松浦さんも「とてもやりやすい」ということで決まりました。相性だと思います。女性を主役に書くことが多くて、今回のように男同士のドラマは初めてです。

―2016年の映画となっていますが、いつごろどれくらいの期間で撮ったのでしょう?

2014年の12月28日に撮り始めました。みんなプロの人たちなので、年末休みに入って仕事してない時期に撮るしかなかったんです。休み中にひどいですよね。ぽつぽつ撮って・・・のべ7日間です。

―速い!

自分が長いこと助監督やっていてよかったと思いました。“段取り命”でした。一日に脚本20p撮りました。2時間ものだと120p。10pずつ2週間で撮るというのが普通です。助監督やったおかげで、何にどれだけ時間がかかるかとか、これでは撮りきれないとか計算できます。ここまで、と切るのに妥協しちゃうところも出てくるので、善し悪しあるんですけどね。

―最初の監督作ですから、キャストもですけど特にスタッフの応援が重要じゃないかと思います。さきほどの、休みにも関わらず出てくれたプロのスタッフはどうやって集められたのですか?

撮影の野口、録音の小黒は日芸の同期です。照明の中西くんは京都撮影所時代、僕が松竹で彼は東映なんですが一度出会ったことがあって、2人ともボロクソに言われている時期に苦労を分かち合った仲です。小黒一家の録音部さんは現場でご一緒したり、その先輩だったり、紹介して下さったりとかです。

―人脈って大事ですね。現場での人間関係を大事にするってことですね。

自主映画ってそこが一番大事だと思うんです。ただでやっていただく方々に、こちらは何ができるかっていうと、楽しく撮影できること。でないと意味がない。現場の空気だけは一番気を使いました。それは助監督やっていたときに培ったものが役に立ったんだと思います。どれだけ大変なことが起こっても、内心はドキドキしていても、笑顔で「大丈夫ですよ!」と言う。作り笑いが上手くなりました(笑)。

―俳優もできそうですね。

うわー、それはダメです! 全然無理です!!(監督と俳優ができる)北野武さんとかすごいと思います。

―こうしてほしいというのをやってみせたりは?

自分で体現するのは無理です。言ってどうしても伝わらないときはやりますけど、ほぼやらないです。だいたい違ってしまってへんなイメージつけちゃうんで(笑)。芝居をイメージしながら脚本を書きますが、読んだ人が同じイメージを共有できるくらい丁寧に書きます。それが7、8割かた演出になっています。動きも「ここでこういう風に、この場所に座って、こなして」とか書いておきます。

―ということは俳優さんも楽で、だから時間短縮もできるんですね。

リハーサルのときに僕のイメージと同じ動きをしてくれます。現場に入ってからリハーサルしていると撮りきれなくなるので、別の日に。それはもうねばってしっかり作りこみます。テイクもほぼ一発のパターンが多かったです。セリフや動きを大きくとちらない限り。

―普段の会話ってよく噛むし、無駄なこともいっぱい言うものですよね。

そうです。だから旭が喜多さんを追い詰めたときに、めっちゃ噛んでるんですけど(と、口真似)、そのまま使っています。あんなときにスルッと言うのはおかしいですよね。間があったり、考えて言葉出したりという。

―松浦さんは自分の体験を再現しているようなものですが、セリフは相談されたのですか?

基本、松浦さんの“事実に関して喋ったこと”はそのまま脚本に生かしています。ここはこういう風に言ったほうが盛り上がるな、と思うところは脚色させてもらっています。それ以外の佳織の部分、2人の背景の施設出身というのはフィクションです。2人の結びつきを作るために親がいないという設定にしました。この物語は「元からの家族」と「新しい家族」というつもりで書いています。

―今は昔に比べ、親に育ててもらえない子どもが多くなっているような気がします。2人が施設で育ったというのは背景としてストンと納得できます。詳細は語られていませんね。

赤ちゃんポストが物議をかもしていた時期でもあります(※2)。詳細は入れずに、観客に想像してもらうというのでいいんじゃないかなと、2人の関係がなんとなく想像できる芝居をさせました。包括すべきところが描けてなくて、その前の説明に時間かけてしまって、バランスを間違える映画というのはよくないと思うんです。隠すところは隠して、と五島のシーンは描きませんでした。五島での2人の回想シーンを入れるというのがありがちですが、それは必要ないと。

―佳織と旭の本音を言えないところ、はがゆいですね。佳織は衣装だけ着ておばあちゃんに見せてあげたらいいのに、と思ってしまいましたが、女の子としてはそうはいかないんでしょうね。

僕は男でよくわからないんですが、女性って儀式を大事にするところがありますね。佳織と旭がお互いに肝心なところで言えないというのは、相手を傷つけたくないところからなんですよね。自分を守るつもりもあるでしょうけど。佳織と母親にしてもお互いを大事に思っています。佳織も母親と旭の間で悩んでいます。佳織と旭の2人がこの先どうなるかは、はっきり描いていません。

―旭と洋人が離れそうになるところも感情移入しちゃいました。「あ、そのまま行かせないで!」(笑)。春本監督、盛り上げ方上手いですね!ラストも「ああ良かった」と泣き泣き、気持ちよく出てこられました。

ありがとうございます。映画の三幕構成(設定、対立、解決)から、なんとか抜けられないのかと常々思っているんですけど・・・いい映画観れば観るほど、三幕構成が顕著なんです。
ラストカットは“この映画の世界から抜け出るのが名残惜しい”と思うようなカットを作りたいんです。今回は人間の感情を丁寧に描くことに腐心しようと考えたので、社会的なメッセージが少し弱くなったなというのが反省点です。以後は“なぜその映画を今の時代に作るのか”というのをさらに追求していけたらと思っています。

―子どものときはどんな映画を観ていましたか?

小学生のときは『ドン松五郎の大冒険』(1987/井上ひさし原作)です。ドン松五郎は犬で人間の言葉がわかるんです。時代を考えるとあんな大変な作品をよくやっていたなとあと思います。ドン松五郎のジュニアが出てくるのが特に好きで録画したビデオがすりきれるほど観ていました。ほかにジブリ作品、『天空の城ラピュタ』(1986)が一番好きです。映画の大学に行きたいと思ったのは、高3のときにテレビで『耳をすませば』(1995)を観たのもあるんです。キュンキュンして「何だこの映画~!」(笑)。夢に向かって自分のアイデンティティーを見つけるために苦悩する、という若者たちにまさに嵌りました。ちょうど受験戦争のときで好きでもないのに勉強していたので、それが「何のために勉強しているのか」考えるきっかけになりました。

―監督になりたいとはまだ思わずに? 親からの希望はなかったですか?

まだですね。とにかく大学に入ろうと。強制されることはなかったですが、親戚がいい大学に入ったりしたので、なんとなく行かないとマズイような雰囲気でした。自分は何がしたいんだろう、と考えたときに昔観た映画のように人に感動を与えるのってすごいな、そういう作り手になりたいと思ったんです。初めはアニメをやりたかったんですが、大学に入ったら面白い映画をいっぱい紹介されて。

―プロフィールにあった影響を受けた監督たちですね。世界が拡がったでしょう?

そうです。1年のときにば~~っと観ました。こんなに面白い映画が世界にあるのか! 日本の昔の人たちはこんなに面白い映画を作っていたんだ! と世界が拡がりました。増村保造監督は今観ても新しいんです。

―苦手なことがありますか? することでも、ものでも。

えっ、ちょっと待ってください(としばし黙考)。あ、僕は「人に指図される」のがすごく苦手なんです。自分の中でいろいろと組んでいて、やろうと思っていたことを先に言われると、なんだかもやっとしますね(笑)。でも大事なのはみんなとの“調和”ですね。調和の苦手な人間なのに、矛盾をかかえながら生きています(笑)。 この映画はほんとにみんなのおかげで良くなりました。大筋はイメージ通りなんですけど、要所要所でみんなが提案してくれたものが光っています。セリフもそうですし、カット割も、照明もそうです。観た方がやっぱりそこを「いい」と言ってくださるんです。

―16年のTIFFの舞台挨拶で次の作品の準備中とおっしゃっていましたが、どういう作品になりますか?

それはまだはっきり言えないんです。脚本は改稿する必要はあるんですが、できています。スタッフ(技術部)は同じメンバーでやります。

―楽しみにしています。ありがとうございました。




作品紹介:http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/456800418.html

◆ インタビューを終えて

まだまだ雪の残っていた寒い日、春本雄二郎監督にお話を伺いました。試写の際に春本監督と主演の松浦さん、梅田さんをちょっとお見かけしたのですが、一度会ったきりの監督を忘れなかったのはやはり特徴のあるお髭です。南極探検隊みたいに立派なので、つい質問してしまいました。ちょっと面白いエピソードです。
『かぞくへ』は初監督作とは思えない、とてもよくできた作品だと思いました。キャストが生きていて、いつまでも心に残ります。思わず彼らがその後どうしているだろうと想像してしまう作品です。「水戸黄門」のようにシンプルでハッピーエンドの話が好きな私は、みんなが幸せになってほしいのですが、「佳織と旭が別れたとしても、自分に足りないのは何だったのか、と考えられる人はその後成長できる」という春本監督のお話に深く納得。映画の未来についてもあれこれ話しましたが、それはまた別のときに。
大好きな映画でしっかり食べていけますように、おばちゃんライターは応援しています。


※1 武正晴監督インタビュー http://www.cinemajournal.net/special/2007/boymeetspusan/
※2 連続ドラマ「明日ママがいない」は2014年1~3月放映。話題になって赤ちゃんポストが再び注目された。

(取材・写真 白石映子)

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