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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『アンダー・ハー・マウス』
エイプリル・マレン監督 インタビュー 

エイプリル・マレン監督 (撮影:白石映子)

年々賑やかになるレインボーリール東京映画祭(LGBTを含むセクシュアル・マイノリティをテーマとしている映画祭)でいち早く上映されて3ヶ月、 ようやく紹介の時期が来ました。女性スタッフばかりで制作した“女性の視点で描いた”ラブストーリーを携えて来日した、エイプリル・マレン監督をご紹介します。


(2017年7月9日 レインボーリール映画祭 舞台挨拶)

■エイプリル・マレン(April Mullen)監督プロフィール

カナダ オンタリオ州出身。子どものころから映画制作に憧れ、女優をしながら監督にも進出。2007年に発表した監督第1作『ROCK, PAPER, SCISSORS:THE WAY OF TOSSER』はカルト的人気を誇る。2012年には若手女性監督では初めての3Dアクション映画『Dead Before Down3D』を手がけた。最新作はラテンアメリカ系ギャングのラブストーリー『BADSVILLE』。






『アンダー・ハー・マウス』(原題:Below Her Mouth)

ダラス(エリカ・リンダ―)は大工として男性に混じって働き、仕事を終えると毎晩好みに合う相手を探して一夜を共に過ごしている。同じ相手と長く続かないのだ。ジャスミンはファッション誌の編集者として成功し、婚約者のカイルと結婚を間近に控えて幸せに暮らしていた。カイルが出張で不在のある晩、ダラスとバーで出会い、女性に惹かれる自分に戸惑う。ダラスもこれまでの相手と違ってジャスミンへの気持ちが急速に高まっていく。


エリカ・リンダ―はスウェーデン出身のユニセックスのモデル。ダラス役を探していたマレン監督は、レズビアンで演技のできる女性を探し続け、Googleで検索してエリカの画像に釘付けになる。スウェーデン人の彼女が「英語ができますように」と祈るような気持ちだったとか。セクシーで自信家のエリカはダラスにぴったり。婚約者がいながらダラスに心惹かれていくジャスミンを演じるのはカナダの女優ナタリー・クリル。揺れる気持ちを繊細に表現した。
マレン監督をはじめ、この作品のスタッフは全て女性。「女性の視点から語る」ことを重視して、これまでにないリアルなラブストーリーになった。愛は自由でどんな形でも愛は愛、自分の心に正直に生きる彼女たちの姿は心にひびくはず。


公式HP:http://www.underhermouth.jp/
2016年/カナダ/英語/92分/R18+/配給:シンカ
© 2016, Serendipity Point Films Inc.
★2017年10月7日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他、全国順次ロードショー



© 2016, Serendipity Point Films Inc.



◆ インタビュー ◆

Q マレン監督はいつどのようなきっかけで、女優や監督になりたいと思われたのでしょう?

どっちかというと監督業・女優業が私を選んだんじゃないかと思います。もう生まれた瞬間から「映画が作りたぁい!」と言って出てきたような感覚です(笑)。家族に映画業界の人はいなかったので、私が「女優になりたい」といったときとても驚かれました。いざ女優業を始めたら、休憩時間にもトレーラーに戻りたいとは思わず、いつもいつも監督の仕事やモニターを見続けていました。人の心を揺さぶるものを作るということに憧れていたんです。女優から監督に転向したのも、自然のなりゆきでした。

Q それぞれいつごろのことですか?

女優業はお遊びを含めるなら5,6才のころからやっていました。近所の子ども達に「あなたはこれ」「あなたはこのセリフ」と振ってお芝居をしてました。チケットを作って親たちを集めて見せるような子どもでした(それはもう監督じゃない?と通訳さん)そういえばそうね。そのころから監督もやっていたのかもしれない(笑)。 ちゃんと仕事として女優業を始めたのは、トロントで15歳からです。大学を卒業してすぐ制作会社をおこしてからは、監督としていろいろ作っているわけですが、かれこれ11年になります。

Q 最初の監督作品はきっとそれまでの思いがぎゅっと込められていると思うのですが、どんな作品ですか?

じゃんけんの世界大会を目指すコメディ映画です。このエンターテイメント業界がどれだけ厳しいか、わからないまま飛び込んだものですから、無知ゆえの愛と希望と喜びにあふれているんです(笑)。人がどう思うかとか、何が正しいか間違っているなど全く考えず、とにかくエネルギーがつぎ込まれているんです。初監督作品ってそういうものですよね。

Q youtubeで他の作品もちょっとずつ観られたのですが、今回のラブストーリーと全く違うので「えっ」と思いました。

ジャンルには全然こだわりはありません。コメディでもホラーでもラブストーリーでも、その世界に惹かれたら150%、猪突猛進でつっ走ってしまうんです。自分の全細胞に作品がしみ込んでその勢いで、どの作品にも全身全霊で打ち込んでしまいます。家族に「映画を作るってどういう感じなの?」と言われたことがありますが、一つ一つが小宇宙のようで、それに没頭してしまってコントロールできなくなります。それも私の一部なのでどうしようもありません。情熱をつぎ込むような仕事は犠牲を伴うものですが、情熱はみんな映画に向けたので、パーティに行ったり、踊りに行ったりという普通の20代を送ってきませんでした。集中して取り組まないといけないので恋愛が犠牲になったこともあります。でもまあ映画監督をするっていうのはこういうことなんだと思います。

Q 制作会社を持っていらっしゃるので、自分で作りたいものを作れたり、できなかったことを映画で実現したりできませんか?ただ、制作側になると自分の好みの映画を作るだけでなく、資金の調達やそれを回収していくこと、とか心配が増えますよね。

思うように作れないからプロデューサーになりました。そういう企業家マインドは、幸いにも父から受け継いだと思います。楽しいかというと、プロデューサーは決して楽しくないです。大学のときに芝居でなく、会計の勉強をしておけば良かったと思うくらい(笑)、ほんとに大変なことです。
利点を一つ言うなら…他からの依頼で監督することも多々あるわけですが、そのとき予算に意識がいくことです。ここはセーブしようとか、ここは変えてみようとか、投じたお金を“スクリーンに生かす”ことを考えるようになりました。これはやはり10年プロデューサーをやったおかげですね。

Q その点で今回の映画の資金集めのご苦労や、制作費を回収する見込みは?

このプロジェクトには、資金が完全に集まらないうちから参加しています。助成金を申請して国と州からの公費が得られました。ファウンダー(出資者)にも説明しましたが、「女性の視点で赤裸々に女性の恋愛を描く」という、これまでになかった挑戦が評価されたのかと思います。劇場公開は宣伝の意味合いが濃く、DVD、ブルーレイ化、配信へと展開します。日本はどうかわかりませんが、北米は違法ダウンロードがとても多く、本来入るべきお金が入りません。日本の皆様には、ぜひ劇場で観ていただきますようお願いいたします。

女性スタッフで作りましたが、女性観客限定の映画ではありません。美術的にも音楽的にも工夫をしてエンタメ性もあることを目指しました。男女関わらずエンジョイできる普遍的なラブストーリーです。




===ここから映画の内容にふれています====

Q R18+ということでどんなにハードな場面が出るのかと思いましたが、エリカ・リンダー、ナタリー・クリルが綺麗で清潔感がありました。写真集があるといいですねぇ。気になるセリフがひとつありました。
二人の情事に出くわした婚約者のライルが出て行ったのを、ジャスミンが追いかけていって「相手は女性よ」と言うところです。

あのセリフは初めから脚本に書かれてあったもので、私も面白いなと思いました。まだステレオタイプの感覚のジャスミンが、ダラスへ惹かれている自分をどう表現していいかわからない、でもライルに許してほしいという状態です。

Q ライルと元にはもう戻れない、ダラスが好きなんだと気づいていくところが切なかったですね。

頭より身体が先に知ってしまったんですね、身体はウソがつけない。ライルとジャスミンのバスルームの場面は引きで撮っていますが、ジャスミンの手のしぐさがとっても繊細なんです。

Q 監督の演出ですか?

いいえ!指示していません。ナタリー・クリルのすばらしい演技です。あまりにも完璧だったので、ワンテイクで、撮り直しせずそのまま使いました。少し遠いのでわかりにくいですが、よく見ていてくださいね。最初に目にすることができる監督の醍醐味だと思ったシーンです。






◆取材を終えて

小さなころから映画界を目指し、大学卒業後すぐに自分で制作会社をたちあげたエイプリル・マレン監督。表情豊かでよく笑い、可愛くてスタイルが良くて、いかにも女優さんという感じなのですが、中身は熱く、決断と行動力の人でした。意外にもホラーやアクション映画も作られるんです。前夜の舞台挨拶のときのシルバーのドレスもお似合いでしたが、ジーンズに合わせた背中の空いたトップスも素敵。どちらもお気に入りのカナダのデザイナーさん作だそうです。
若き日のディカプリオに似ていると評判のエリカ・リンダ―、眉と目が似ているかな。中性的でクールな美貌は急逝したリヴァー・フェニックス(1970-1993)に近い気がします。宝塚ファンの皆様のハートに届くのでは? マレン監督の期待にこたえ、「劇場」へぜひお出かけくださいますように。(取材・写真:白石映子)

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