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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『無音の叫び声』
原村政樹監督 記者会見

2016年4月9日 ポレポレ東中野にて公開


『海女のリャンさん』『いのち耕す人々』『天に栄える村』などの原村政樹監督が、戦後日本を代表する農民詩人・木村迪夫にスポットを当てたドキュメンタリー『無音の叫び声』が公開されています。


ポスター
(C)『無音の叫び声』製作委員会

*作品紹介

山形県上山市牧野で農業を営みながら反戦平和の詩を書き続ける、日本を代表する農民詩人・木村迪夫(みちお)、80歳。農民詩人とも反戦詩人とも呼ばれている。彼の魅力を綴る。
小作人の長男として生まれた木村迪夫は、戦争で父、叔父をなくし、戦後、自作農となったが、農業だけでは食べていけず、出稼ぎ、廃棄物収集業にも就くなど、日本の高度経済成長の中、厳しい生活の中で暮らしてきた。そんな中で社会の矛盾や戦争の非道さを、60年以上にわたって詩の中に綴り、16冊に及ぶ詩集を出してきた。
農作業に励む姿や、村での生活を描きながら、木村迪夫さんの人となりが紹介される。人間的な魅力だけでなく、農民詩人真壁仁との出会いや、友人の日本画家草苅一夫との交流など地方の豊かな芸術・社会文化も描かれる。




           木村迪夫さん           真壁仁(右下)・小川伸介(左下)・木村迪夫(上)
(C)『無音の叫び声』製作委員会

また、衰退する農村を憂い、三里塚闘争を記録していた小川プロダクションを自宅隣に呼び寄せたり、叔父の遺骨を探すために太平洋の激戦地・ウェーキ島での遺骨収集事業に参加するなど、農業や詩の創作だけでなく様々な活動も描かれる。


         蔵王山を描く草苅さん                   堰上げの迪夫         
(C)『無音の叫び声』製作委員会

戦後の日本社会と格闘した農民詩人・木村迪夫の思い“自分は虫けらのような生き方でなくて、 物を見、発言のできる百姓にならなければならないと思った。”という言葉が彼の生き様を象徴している。ナレーションに俳優の室井滋、詩の朗読には自らも農業に携わるダンサーの田中泯が務めている。

出演 木村迪夫(みちお)
語り 室井 滋  朗読 田中 泯  監督・構成・編集  原村政樹
撮影 佐藤広一、渡辺智史、原村政樹  音楽 佐々木良純
題字・絵画 草苅一夫
企画・製作・配給 映画「無音の叫び声」製作委員会
山形国際ドキュメンタリー映画祭2015公式上映作品
2015年/日本/日本語/122分
『無音の叫び声』HP http://www.eiga-muon.net/


        迪夫の詩集                  カメラを覗く迪夫      
(C)『無音の叫び声』製作委員会

『無音の叫び声』原村政樹監督 記者会見

3/30(水)18:45~ (公社)日本外国特派員協会
英語通訳 藤岡朝子


原村政樹監督 記者会見

Q:様々な過去の政治闘争について、映画が焦点をあてていることについてお聞きしたい。
現在、日本がかかえている大きな問題というのはTPP(環太平洋連携協定)ですね。そして、このTPP問題が今後の日本の農業に大きな影響を及ぼすのは間違いない。TPPが通過することによって、農業生産が落ちるだろうといわれています。その時に政府は補助金を出すだろうけど、農業をやっている人たちは労働することの意欲を失っていく。それは生産性が下がったり、人間の在り方に関係してくるのではないでしょうか。経済にも影響を与えているTPPですが、木村さんはどのように考えているのか映画では触れていなかったけど、TPPのことをなぜ入れなかったのか。

原村監督:TPPに関しては、30年以上農村で取材してきて私の考えもあります。ただ、ジャーナリストでもないし、学者ではないので、正確な数字とか予測というのは、申し上げる立場ではないということは断っておきます。
この映画で取り上げなかったというよりは、木村さんを描くにあたって、彼自身もTPPに対する考え方はありますが何かアクションを起こしているわけではありませんし、今回、それを主体には考えていませんでした。
ドキュメンタリー映画の作り方は人によって違う。取材対象になる人に寄り添いながら作るということで、今回、木村迪夫さんを通じてはTPPを描くということはしていません。TPPはこの映画のテーマではない。もしそれを強引に木村さんを通して描くことは、私の思いを木村さんに強いることになる。もちろん木村さん自身もTPPに反対です。多くの一次産業に従事している人は、おそらく9割以上の人々が否定的な感情を持っていると感じます。
もし、私の作品でTPPに関したものを観たいということであれば、2年ほど前に撮ったNHKの報道番組で“戦後史証言プロジェクト 日本人は何をめざしてきたのか”という1時間半の日本の農業の戦後史を米作りを通じて撮ったドキュメンタリー番組があります。それは自由に見られるそうなので、それを観ていただければと思います。
TPPというと、すぐに農業絡みで議論されることが多いですが、正確にはいえませんが日本の貿易収支の中で農業部分は誤差の範囲で少ないんですよね。農業の問題でもあるけど、農業以外の普通の人々の暮らしに直結する問題であるという認識があってもいいんじゃないかと思っています。私が懸念するのは、お金持ちが富を築いて、一般市民が苦しい状況に置かれるような、問題の多い動きではないかと思います。それよりは大切なのは、地域の中で地域の経済が自立して回っていけるような方向性を模索しないと、農業だけでなく未来は暗いんじゃないかというのが私の考えです。根拠を示せと言われると困るんですが、長年、農村を取材してきて、政府の政策に忠実にやってきて、規模拡大を続けてきたような農家の人たちこそ、非常に危惧を感じていると思います。


原村政樹監督

Q:私は山形で生まれて18歳まで暮らしていました。非常に見慣れた景色、見慣れた人々でしたが、この映画を観て驚いたのは、あの農村の人々の間に、あんなに豊な農村文化が脈々と生きていることでした。日本全国の農村にこれだけ豊かな文化があるわけではないと思います。
監督は、このドキュメンタリーを撮られて、なぜ、この地区にこれだけ豊かなものがあるのか、文化の伝統、感受性のするどい人々が住んでいるのか、またはなにがしかの農民運動の長い伝統があるのか、何を見つけたか教えてください。

監督:木村迪夫さんが住んでいる上山市の牧野(まぎの)という地区は、減反政策が1970年に始まってからは、農家は専業ではなく副になったことは確か。農家だけでは食べていけなくなったから農協や役場、会社勤めをしながら農業を続けるという方向を選択した村です。
小川伸介監督たちの映像集団も、木村さんとの出会いでここに18年住んで撮影していたし、山びこ学校の活動なども活発でした。

*牧野に移住した小川プロダクションが農業を営みながら作った作品としては、『牧野物語 養蚕篇 -映画のための映画-』『牧野物語・峠』『ニッポン国古屋敷村』『1000年刻みの日時計 牧野村物語』などがある。
「山びこ学校」は、山形県山元村(現在の上山市)の中学校教師 無着成恭(むちゃくせいきょう)氏が、教え子たちの生活記録をまとめた学級文集、1951年(昭和26年)に青銅社から刊行された。

上山市の農業評論家佐藤藤三郎さん(山びこ学校の卒業生)は「小川プロは、一番何もないところに入った」と言ったそうですが、「表面的に見たら文化とか何もないように思えても、豊かな文化が根ざしている」と言っています。マスメディアが注目する農村は他にもたくさんあるけど、そういうところは取材されているわけです。
木村迪夫さんというのは優れた詩を書いている人というは知っていましたが、牧野のほかの人たちはどうなのかというのは当初はわからなかったのですが、ここに住む30人くらいの人たちに、撮影ではなく話しをうかがううち、素晴らしい人や文化があるというのを発見していったわけです。何もないように思えたところに、素晴らしい宝物がいっぱいあるなということがわかってきて、それを紹介することができたなと思っています。
山形とか、この地域が特に優れているとかは私にはわからないのですが、他の地域も、丹念にいろいろな人たちに話を聞く中で、それぞれ違った形で地域社会に生きているというのを経験しています。
この山形だけが優れているとは私には言えませんが、ひとつ言えることは、真壁仁という優れた先輩詩人がいたし、戦後、昭和20年代後半から30年代にかけて「生活綴方運動」というのが花開いて、東北を始め、全国の村々で花開いて、若者たちが自分たちが文章を書いた時代というのがあったのですが、ある時すっと消えてしまった。ところが真壁さんを中心とした木村迪夫さんたちは、それからもずっと70代になるまでグループを作って創作活動を続けてきているんですよ。
農民作家や詩人は全国にいるんですが、若い時からずっと続けてきた山形の農民文学というのはかなり特異なレベルにあるのではないかという感想はあります。他にもそういう地域があるかもしれませんが、私が語れるのは、自分が関わってきた地域の魅力は語れるのですが、他と比べることはできないです。


原村政樹監督

司会者:田中泯さんの声と木村迪夫さんの素晴らしい詩のコンビネーションはどのように思いつかれたのですか?

監督:小川プロダクションの最後の作品に『1000年刻みの日時計 牧野村物語』(4時間近いドキュメンタリー)があり、再現ドラマの部分もあるのですが、その中で、江戸時代に放蕩息子で身上をつぶした与キという農民の役を演じたのが、田中泯さんの師匠である舞踏家の土方巽さんでした。
田中泯さんはいつも「俺は土方のところまでは行き着けない」と言っていて、「映画の中で土方が演じた踊りは、土方にとって最高の踊りだった」と言っています。師匠はその時癌で苦しかったにも関わらず、誰にも言わずに演じたそうです。師匠が人生の最後をかけて演じたところである牧野村は泯さんにとって思いいれのある所だったんです。
また、田中泯さん自身ダンサーですが、山梨県白州のほうで農業をしながら、ずっと長い間踊りをやっていて、演劇とか踊りの原点は農作業の動きだと言っています。身体芸術の原点は農業だという思いもあって、いつかは師匠が壮絶な最後を飾った山形・牧野に行きたい。それを呼んだ木村さんにも会いたいと思っていました。
私は2010年くらいから泯さんとコミュニケーションがあり、それを知っていたので、泯さんに詩の朗読を依頼しました。泯さんもぜひやらせてほしいといい、魂を込めて朗読してくれました。そういう意味で映画を作ったものとしてはありがたいと思います。
山形ドキュメンタリー映画祭で上映した時にも泯さんはゲストで来てくれました。その時に「木村迪夫さんの農業の弟子になりたい」とまで言っていました。今度、ポレポレ東中野で公開されるときにもトークに来てくれます。ナレーションは室井 滋さんにお願いしました。
自分の中の理屈として、木村迪夫さんは農業というベクトルから芸術に近づいた人、田中泯さんは芸術から農業に接近した人ということで、二つの要素が逆の方向から動いていた二人を出会わせたいという思いから出発しました。


●戦後日本の歩みを農村から見つめなおす

監督:最後に、木村迪夫さんの詩は何かということを付け加えたいと思います。
木村さんは「俺は体で詩を書いてきた。頭で書いてきたのではない」と、いつも言っています。私は多くの農業に携わる人に取材してきていますが、一人の農業人でこれほどいろいろな人生体験をしてきた人を他に知りません。彼の10代から80代まで書いてきた詩を時代順に読んでいくと、木村迪夫さんの体験ではあるけど、村から見た日本の戦後史が見えてくると思います。
この詩を通じて日本の戦後を村から伝えられるのではないかというのが大きなモチベーションでした。村の価値観から戦後70年を見つめなおして、これからの生き方をみなさん模索していただけたらと思います。



原村政樹監督



取材 記録 金原純恵  写真、まとめ 宮崎暁美

*司会者の方から、記者席に向かって「この映画を観る前に木村迪夫さんの名前を知っていた方は?」という質問があったが、大部分の人が知らなかった。かくいう私も、この映画を観るまで木村迪夫さんのことを知らなかった。
監督が言うように、木村さんはいろいろな経験をした人だなと思ったけど、叔父の遺骨を発掘するためにウェーキ島での遺骨収集に参加したシーンが印象的だった。狭い島で800体近い兵士の遺骨を掘り起こしている。ほとんどが餓死だったそうだ。並んだしゃれこうべの写真に圧倒された。遺骨収集から帰った自宅で、父の形見の勲章を10個くらい机に並べて「一生を棒にふってこんなものをもらってもつまらんなあ」と言うシーンが印象的だった。木村さんの詩の出発点は、そういう経験からあるのだなと思った。原村監督の作品は『海女のリャンさん』の時にインタビュー(シネマジャーナル62号掲載)させていただいて以来、新作が出るたびに観ているが、作品に出てくる人物の魅力を引き出すのがとてもうまいと思う。牧野から見える蔵王の山々の姿も印象的だった。(暁)


*『無音の叫び声』雑感
 ―ずっと映画が観たかった。しかし、そうは問屋が卸さない仕事に愛される日々…がエンドレスで続いている。最近観たのは一体いつだったのか思い出せもしない。そんな日々にポッと空いた夜に何もない一日。今日は不断の睡眠不足を埋める夜にしよう!と思っていたところに、スタッフの宮崎さんから誘いがあり、駆け付けた外国人記者クラブでの記者会見付き『無音の叫び声』の試写会。
 会場には外国人と日本人が半々くらい、そこに仕切りの方だろうか、外国の女性のアナウンス「Ladies and Gentlemen~さぁ、これから始まる映画は、私が山形で観て、めちゃめちゃ感動した映画よ。ホント素敵な映画なんだから。早く皆さんにも観てもらいたいわ。感動必至よ☆」と多分言っていたと思う(笑)で映画が始まった。しかし、あまりにもくたびれた体は全編観切れるか自信がなかったが、いやいや、睡魔も寄せ付けないインパクトの映画! 観終えて一番に思ったのは、「日本に木村迪夫さんがいてくれて良かった!」と。
 ―この映画は、山形県上山市牧野在住の、反戦平和の詩を中心に戦後の日本社会と格闘した農民詩人、木村迪夫さんの長編ドキュメンタリー。そして、木村さんの人生~農業、出稼ぎ、ゴミ収集、父の、叔父の戦死、ウェーキ島での遺骨収集…を織り込みながら、その人となりを無音の叫び声~彼の詩に、また数々の人との出会いを絡ませ描いているものだった。
 途中、山形の方言がわからなく、英語の字幕で内容を理解(苦笑)。
 ところで木村さんは、私の両親と同じ世代。娘さんもきっと私と同世代ではなかろうか。だけど、同じ時代を生きてきたと思えない、重なり合わない背景があり、それは劇場で再び観て、後日にまた記そうと思う。とにかく、木村さんという存在を山形の大自然とともに温かな眼差しと敬意を表し撮った原村監督の映像がすごく良く、観終えたあと前向きな自分になっていた。
 終わった後の記者会見では、外国のメディアの方が開口一番にTPPについて質問されたのが驚き! 同じ映画を観たとは思えず、その後の原村監督のコメントからしても視点はそこではないということが明らかだった。それだけに、彼が彼の自国メディアでどう発信するのか、その記事を読んでみたいと思った(笑)。 (純)



4/9(土)より ロードショー! 連日10:20/15:10 (4/30以降は劇場にお問合せ下さい)

公開記念トークイベント開催!

4月9日(土)10:20の回 原村政樹監督舞台挨拶
15:10の回 佐高 信さん(評論家)
4月10日(日)10:20の回 柴田昌平さん(映画監督)、原村政樹監督
15:10の回 中村敦夫さん(俳優)、原村政樹監督
4月13日(水)15:10の回 松元ヒロさん(コメディアン)、原村政樹監督
4月14日(木)15:10の回 飯塚俊男さん(映画監督)、原村政樹監督
4月16日(土)10:20の回 木村迪夫さん(本作出演)、原村政樹監督
4月17日(日)15:10の回 赤坂憲雄さん(民俗学者/学習院大学教授)
4月18日(月)15:10の回 渡辺えりさん(女優/劇作家)、原村政樹監督
4月19日(火)15:10の回 内山 節さん(哲学者)、原村政樹監督
4月23日(土)15:10の回 高橋悠治さん(作曲家・ピアニスト)、原村政樹監督
4月29日(金)10:20の回 木村迪夫さん(本作出演)、原村政樹監督
15:10の回 田中 泯さん(ダンサー/本作朗読)、木村迪夫さん


●いずれも上映後に予定。登壇者は予告なく変更になる場合があります

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