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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『校庭に東風(こち)吹いて』
沢口靖子さんインタビュー

◇ストーリー
小学校教諭の三木知世は新しい小学校に転任した。担任となったクラスには初めて出会う「場面緘黙(かんもく)症」のミチルがいた。家庭では話せるが学校では言葉が出ず、うつむいたまま。何をするにも友達の助けがいる。
順平は母子家庭で、母親が昼夜働いても生活は苦しい。教室に迷い込んできた小鳥を通じてミチルと純平は心を近づける。厳格な校長や父母たちと話し合いながら、知世は子どもたちに一番良い方法を模索し、無理強いすることなく愛情を持って接していく。

監督:金田敬
原作:柴垣文子「校庭に東風吹いて」(新日本出版社・刊)
脚本:長津晴子
企画・製作:桂壮三郎
プロデューサー:酒井氏識人、三谷一夫(映画24区)
出演:沢口靖子、岩崎未来、向鈴鳥、村田雄浩、星由里子
(C)2016映画「校庭に東風吹いて」製作委員会
公式サイト:http://www.ggvp.net/kochi/
★9月17日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開


(C)2016映画「校庭に東風吹いて」製作委員会


◎沢口靖子さんインタビュー


=小学校のころの思い出

三つ違いの兄がいたせいか活発な少女でした。クラスをまとめたりするのが好きな方でした。思い出に残る担任の先生は、5、6年のときの御年輩の教育熱心な女性の先生です。生徒にはちょっと厳しい存在でしたが、父兄の評判の良い方でした。保健の先生はお姉さんのような優しい先生で、一度友達と3人でプールに連れていってもらったことがあります。子どもが好きなので、教師に憧れていた時期がありました。


=理想の先生像


沢口靖子さん

「場面緘黙症」のことを今回初めて知りました。話したくても声に出せない少女や貧困に苦しむ少年がいて、知世が向き合い、情熱をもって教育に取り組む姿にとても共感を覚えました。私にとって理想像のような先生と感じました。演じるにあたって、「教師の心得」や「場面緘黙症」の関連書などを参考に読みました。

脚本を読んで心に響いたのは、子どもたちとの接し方です。具体的にいうと…純平くんが、クラスの子にいつも同じ汚れた服を着ているのをからかわれて、暴力を振るってしまいますが、知世が純平に「手を出す前にことばで伝えよう」と諭す場面。

ミチルちゃんが喋れない理由を生徒に聞かれて「人は誰でもできることとできないことがあって、それぞれ違うの。だからこそみんなかけがえがないの」と、お互いを認めて思いやる心が大切だと答える場面などです。これは、子どもだけではなく、大人にも届けたいことばだと思いました。


=共演した方々

ミチル役の岩崎未来(みく)ちゃんは、役と違って普段はおしゃべり大好きなんです。「お休みの日にお母さんと映画に行ったの」などと、よく話してくれました。決まり事をきちんと覚えて、監督さんのいうことをよく聞いて演技してくれました。


(C)2016映画「校庭に東風吹いて」製作委員会

映画の中で、知世がミチルちゃんにいくら話しかけても反応が返ってこないのですが、「ミチルちゃんの味方よ」「大好きよ」と、いつも心の中で声をかけながら演じました。

純平くん役の向鈴鳥(むかいすずと)くんはしっかりしたお子さんで、とても素直な演技をしていました。クラスの仲間からからかわれた時、無言で飛びかかった純平くんが最後にみんなの前で作文を読んでお別れを告げた姿、またそれまで一人では学校まで歩いてくることができなかったミチルちゃんが、しっかりと大地を踏みしめて登校してくる姿には、こみあげてくるものがありました。

撮影前は、30人の子どもたちを前に、先生として教壇に立てるのかドキドキしました。朝早い撮影だったのに、子どもたちは個性豊かで、元気でパワフルで、不安は吹き飛びました。私も子どもたちと一緒に自由でのびのびした雰囲気の中で演じることができました。


(C)2016映画「校庭に東風吹いて」製作委員会

星由里子さんとは、私のデビュー作『刑事物語 潮騒の詩』(1984年)で、娘役をやらせていただきました。今回はなんと私も娘のいる役で母と娘になり、ご縁と月日を感じて感慨深いものがありました。星さんが「靖子ちゃん、これはあなたの代表作になるような役ね」と言って下さってとても嬉しかったです。壁にぶつかり、母親の前で弱音を吐露する場面では、教育者である立場の知世も、一人の弱い人間であり家族の支えがあってこそ生きていることを表現したかったところです。私の好きなシーンです。

村田雄浩(たけひろ)さんは「澪つくし」(1985年/NHK連続テレビ小説)以来でしたが、年月を感じさせない親しみを感じました。村田さんが演じられるお芝居から、妻の弱さや短所も全て受け入れ、いつも見守って下さっている温かさを感じました。廃校では、これまでの二人の空気が出せるといいねと言って撮ったシーンです。

娘とのシーンは自転車と、食事くらいで短かったです。祖母や父に助けられながら働くお母さんを見て育ったはずですので、その娘との関係をちゃんと出したいと思いました。後片付けを頼むシーンは脚本にありませんでしたが、加えてもらいました。

ロケ地(原作の舞台:京都の相楽郡南山城村)はのどかな良いところで、知世はこういう穏やかでのびのびした村で育ったんだと役作りの助けになりました。まだ暗いうちに乗る自転車はとても大変でしたが(笑)。撮影中も終了してからも、地元の方々がシシ汁やカレーなど手作りのおいしいお料理をふるまって下さってとてもありがたかったです。


=リアルで普遍的なストーリー

以前「シングルマザー」というドラマに出たときに、厳しい現状をいろいろ知りました。正規に雇ってもらえない、なかなか収入が増えないので無理をして身体を壊してしまう、子どもとコミュニケーションをとる時間もなく子どもが寂しい思いをしている、といったこの映画のお母さんのような状態です。場面緘黙症の少女や子どもの貧困などがリアリティをもって描かれていますので、俳優としてこのような作品に取り組むことは意義のあることだと思いました。

普遍的なテーマの作品ですので、時間をかけてたくさんの人に観ていただけたら嬉しいと思います。(取材席に向かって)どうぞみなさん宣伝のほうをお願いいたします。


沢口靖子さん



*取材を終えて*

他の女性誌の方たちとの合同取材でした。主演ドラマ「科捜研の女」でのきりりとした姿が印象深いですが、こちらの作品では笑顔全開で子どもたちへ愛情をそそぐ先生がよくお似合いでした。「かつて子どもが不登校でしたので、過去のこともあわせて希望をもらいました」、「東風が吹く場面がさわやかで、それが映画の底にずっと流れているように感じました」など賛辞が飛び交いました。NHKの大ヒットした朝ドラ「澪つくし」を欠かさず見ていた私は、沢口さんが目の前にいるのが信じられない気分でした。清楚な美しさは今も変わりません。
原作は教師経験のある柴垣文子さんの同名小説(新日本出版社刊)。教師夫妻を主に、同僚のエピソードも多く盛り込まれていました。映画版は知世先生と生徒たちの交流にフォーカスしています。働く女性であり、妻、母そして娘でもある知世の物語は多くの女性の共感を呼び、「場面緘黙症」、「シングルマザーと子どもの貧困」への理解も深まるのではないでしょうか。 (取材:白石映子)


沢口靖子さん演じる三木知世は、子どもたちの気持ちをなにより大事にして接する素敵な先生で、こんな先生がいたらいいなと思わせてくれました。今回、直接お話を伺って、役作りのために、いろいろと勉強されたり、工夫されたりしたことに、女優としての真摯な姿に感銘を受けました。 本作の舞台は、京都の山あいの日本の伝統的な風情が残る村。沢口さんのやわらかい関西弁が心地よく響きます。大阪で生まれ育った彼女だからこその自然な話し方。
映画の中の三木先生も素敵でしたが、目の当たりにした沢口さんは、「澪つくし」の時の可憐で清楚な姿そのもの。“はんなり”という言葉がぴったりの、沢口さんの語り口と物腰にときめいた取材でした。(写真:景山咲子)

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