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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』
マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督インタビュー

フランス映画祭で公開に先駆けて上映されたのを機に来日した監督にお話を伺う機会をいただきました。


『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』

パリ郊外の貧困層が多い地区にあるレオン・ブルム高校。新学期を迎え、成績順で分けられた落ちこぼれクラスには、人種も宗教も様々な子どもたちがいる。
厳格な歴史教師アンヌ・ゲゲンが赴任してくる。 「教員歴20年。教えることが大好きで退屈な授業はしないつもり」
でも、生徒達は相変わらず問題ばかり起こしている。
ある日、アンヌ先生は、生徒たちに全国歴史コンクール出場を提案する。テーマは「アウシュヴィッツ強制絶滅収容所」。難しいテーマに反発する生徒たち。
アンヌ先生が教室に強制収容所の生存者レオン・ズィゲルを呼んで体験を語ってもらった日から、生徒たちの気持ちが変わっていく・・・


(C) 2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINEMA - ORANGE STUDIO

監督・脚本・プロデューサー: マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール
原案・脚本:アハメッド・ドゥラメ
出演:アリアンヌ・アスカリッド(アンヌ・ゲゲン)、アハメッド・ドゥラメ(マリック)

2014年/フランス/フランス語/105分/DCP/2.35/ドルビー
配給:シンカ

フランス映画祭 トークショー レポート
http://unifrance.jp/festival/2016/report/les-heritiers-2
公式サイト:http://kisekinokyoshitsu.jp/

★2016年8月6日(土) YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町、角川シネマ新宿ほか全国順次公開



マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督

マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督

*プロフィール*
コロンビア・ピクチャーズのDevelopment Excutive、ハリウッド・リポーターの国際版編集長を務めたあと、制作会社Trinacaでエクセキューティブプロデューサーを務める。1998年に制作会社LOMA NASHAを共同で立ち上げ、着想、脚本執筆、公開時のマーケティングなどの、プロジェクトを通した展開戦略に力を尽くしている。2001年、さらにVENDREDI FILMを共同で立ち上げ、この2つの制作会社で12本の長編を制作している。2012年に第一回監督作「MA PREMIERE FOIS」が公開され、同年に監督第二作「BOWLING」も公開された。『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』(14)は長編監督作品3作目となる。また、プロデューサー、配給、テレビの映画編成担当者、エージェント、ジャーナリストなど、映画業界の女性たちからなるCERCLE FEMININ DU CINEMA FRANÇAIS (フランス映画の女性サークル)の設立者でもある。(公式サイトより)

◎インタビュー

◆戦争の悲劇自体よりも、生徒たちが学んでいく姿を描きたかった

― テロや移民のことが大きな問題となっているフランスで、民族、宗教、さまざまな背景を持つ生徒たちが、一つのテーマのもとに一体となって、コンクールをめざすという実話に感銘を受けました。
「レジスタンスと強制収容についての全国コンクール」が、1961年以来続いているとのこと。戦争の記憶を若い人たちに語り継ぐことを、国家として後押ししていることをうらやましく思いました。


(C) 2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINEMA - ORANGE STUDIO

監督: 実は、この全国コンクールのことは、アハメッド・ドゥラメが自分の経験を映画にできないかと私宛に送ってきた脚本のあらすじのようなものに書かれていて、初めて知ったのです。「戦争の歴史を語り継ぐ」ことが、とても重要だと感じました。

― アウシュヴィッツの強制収容所のことを取り上げていますが、収容所自体は写真を見せる程度で、どちらかというと生徒たちが学ぶ姿を描いていました。アウシュヴィッツ自体の映像を直接あまり見せなかったのは、なぜですか?

監督:これまでにも出ているような写真をまた見せるということはやりたくありませんでした。生徒たちが発見していくプロセスや、調べていくうちに出会うことを語りたいと思いました。パソコンの画面にショックを受けるような写真が出てきますが、それは今や、いつでも見られる状況だということを表しています。写真の奥にあるものを生徒たちが見つけていくところを描きたいと思いました。そして、彼ら自身にとってコンクールがどんな意味を持つのかも。


◆キャスティングでは、歩んできた人生を重視した

― 生徒たちが等身大の演技をしていました。演技経験のない人もキャスティングしたとのことですが・・・

監督:キャスティングには長い時間をかけました。プロ、アマチュア関係なく、人格重視で決めました。オーディションやエージェントも使って探しました。録画したものを見て、気に入れば会う。会ってカメラの前に立たせてみたりもしました。どんな人生を歩んできたのかを聞いて、特にそれを重要視しました。6ヶ月かけてようやく決めました。

― 脚本に合う人を探したのでしょうか?


(C) 2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINEMA - ORANGE STUDIO

監督:アハメドくんや、モデルとなったアングレス先生に会って、その当時、クラスにどんな生徒がいたのかを聞きました。脚本よりも、実際に聞いたことに合わせて選んでいきました。


◆語る喜びを教えてくれた先生に感謝

― 私自身、ペルシア語を大学で学ぼうと思ったのは、先生の影響でした。この映画でも、高校生たちが先生から影響を受けて大きく成長しますが、監督ご自身、先生から大きく影響を受けたご経験は?

監督:あなたのようにペルシア語に興味を持たせてくれるような先生はいませんでしたが、フランス語の先生で物を書くことを薦めてくれた先生がいて、語る喜びを学びました。その先生の影響はとても受けていますし、その先生との出会いはとても貴重なものです。


◆学校は、自由・平等・博愛を学ぶ場

― 学校の入口で、登校してくる生徒たちに、「十字架はしまって。スカーフもね」と呼びかけていて、必ずしもスカーフだけが問題でないことをさりげなく示していました。フランス社会で、公の場所に宗教を持ち込んではいけないことはフランスに住む人はわかっていますが、外国人はあまり知らないと思います。
フランスで、民族や宗教、さまざまな背景を持つ人たちがいることによって起こっていることを、映画を描く上で配慮されたことは?

監督:個人的見地が映画のあちこちにちりばめられていると思います。冒頭の、学校の入口で卒業した女生徒がスカーフを被って卒業証書を取りにきて、学校の職員ともめる場面もそうです。在学中、被らなかったのだからいいだろうと。また、バスの中で、被っている帽子から明らかに自分と違う宗教の人から席を譲られたのに無視した場面とか、イスラーム教徒であるマリックがユダヤ人に興味を持っていることを父親が無視したりといった場面もそうです。今のフランスのシチュエーションは、非常に注意を要するものです。いろんなところで軽蔑しあっている危ない状況です。学校は、すべての子どもが平等の場。宗教や出自によって差別しない。学ぶのは、フランスの価値観、自由・平等・博愛です。それを体現する場なのです。



マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督

注)映画の冒頭場面について、公式サイトのインタビューを下記に抜粋します。

―この映画は、自分自身の理論を譲らない人々のシーンから始まります。卒業した少女がバカロレアの合格証書をもらいにやって来ますが、校長は彼女がイスラーム教徒のスカーフを頭に巻いていることを理由に学校敷地内に入れることを拒否します。

監督:このいざこざは実際にレオン・ブルム高校であったことです。このシーンは「表現の自由」と「政教分離の原則」という2つの強い基本原則が対立した時の対話の限界を描いています。この少女は、在校中、公立学校敷地内ではスカーフを着用しないという法律を守っていました。公立学校の非宗教性を守るのは法律とは限らず、他のしくみも検討しなければならないと思います。アリアンヌ・アスカリッドが演じるゲゲン先生も、地獄、天国、最後の審判、カルヴァンなど、いつも宗教的なテーマを取りあげて授業をしています。


◆次回作は、IS(イスラーム国)に走るフランス女性たちの背景

― 次回作で、IS(イスラーム国)の組織に入ってジハード(殉教)に走る人たちを取り上げたと伺いました。どんな思いで、そのテーマを選んだのでしょうか?

監督:ISに参加しようとする人の気持ちを理解したいと思いました。ISだけでなく、新興宗教も同じだと思います。観客に対して問いかけたいのは、フランス社会の、特に若い女の子が遠いシリアに拠点をおくISに興味を持ち、惹かれて、狂信的な行動に出る背景です。快適な社会を捨てて、ISの一員になる背景を、私自身が知りたいと思ったのです。解決方法を見つけるためにも、まず、行動の背景を理解することが必要だと思いました。

― その作品も日本で観られることを楽しみにしています。


**☆**☆**


マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督

★取材を終えて

私が最初に自己紹介したときに、シネマジャーナルの編集スタッフと別に、日本イラン文化交流協会の事務局を預っていることを話したところ、監督から逆に質問したいと言われてしまいました。2誌合同のインタビューを終えてから、監督と立ち話。
パリでイラン人の美術館の学芸員の人と知り合い、それがとても面白い人物だったので興味を持ち、この夏、テヘランに会いに行くことになっているのだそうです。
イランの人たちが外国人にとても親切なこと、それは実は好奇心が強いからとか、イラン料理も美味しいので、ぜひ家庭料理をとお伝えしました。もしかしたら、イランをテーマに映画を撮ってくださるかもと楽しみです。

ちょうどこの映画を試写で観る直前に、フランス人と結婚している従姉の息子(27歳)が、パリから彼女を連れてやってきて、会ったばかりでした。その彼女がアルジェリア出身だけど、イスラームじゃないというので、もしやユダヤ?と思ったら、イスラームともユダヤとも違う神様を信じているというのです。3月に上智大学の連続無料講座でベルベル語を学んだばかりで、ベルベルは外からの呼び名で、自称はアマジグだと覚えていたので、「アマジグ?」と聞いたら、「どうして知っているのですか?」と驚かれました。 アルジェリアからの移民といっても、様々な背景があることを実感したひと時でした。
従姉の息子も高校時代、この映画のクラスのように(もっとも落ちこぼれではないようですが)、様々な出自の生徒がいて、24人のうち、純粋なフランス人と思われるのは4人と言っていました。 この若いカップルが日本に来て驚いたのが、電車の中で皆がスマホを見ていること。パリでそんなことをしていたら、盗られてしまうそう。歩きスマホなんて、もってのほかだそうです。
この話を監督にしたら、「ほんとに、そう! 日本は平和ね」とおっしゃいました。

今や、日本にもいろんな人たちがいる時代。
お互いの民族や宗教を敬うことが何より大事だと感じます。

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取材:景山咲子
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