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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』
姜秀瓊(チアン・ショウチョン)監督インタビュー

姜秀瓊(チアン・ショウチョン)監督

2月28日(土)全国公開


作品紹介


(c)2015「さいはてにて」製作委員会
故郷奥能登のさいはての海辺に戻り、焙煎珈琲店を開いた吉田岬(永作博美)。朽ちかけた舟小屋を改装し、焙煎珈琲店「ヨダカ珈琲」の営業を始める。「ヨダカ珈琲」の向かいの、今は営業していない民宿に住むシングルマザーの山崎絵里子(佐々木希)と二人の子供たち。絵里子は生活費を稼ぐため家を空けることが多く、幼い姉弟は肩を寄せ合って母のいない日を過ごしている。 絵里子は岬を毛嫌いしていたが、舟小屋で事件が起き、絵里子が岬の危機を救った。深く傷ついた岬の為に珈琲を淹れる絵里子。二人の間のわだかまりが解け、いつしか4人は家族のように支え合って暮らすようになった。
東京で焙煎店をしていた岬が、この地にやってきたのは、幼い頃に別れたまま行方不明になっている漁師の父親のことを知るためだった。そして、ついに父について衝撃の事実がもたらされる。

監督は台湾で活躍する姜秀瓊(チアン・ショウチョン)、撮影はロンドンを拠点に活躍する真間段九朗。石川県珠洲市で撮影された美しい映像。国籍を超え、暖かい気持ちにさせてくれる物語を作り上げた。

出演者:永作博美 佐々木希 桜田ひより 保田盛凱清 臼田あさ美 イッセー尾形 村上淳 永瀬正敏(友情出演) 浅田美代子
脚本:柿木奈子 音楽:かみむら周平
配給:東映
公式サイト:http://saihatenite.com/


(c)2015「さいはてにて」製作委員会

作品紹介ブログ >> http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/414464791.html



姜秀瓊(チアン・ショウチョン)監督プロフィール HPより

1969年5月4日台北生まれ。楊徳昌(エドワード・ヤン)監督『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(91)で女優デビュー。その後、同監督の作品に脚本や助監督として参加し映画作りを学ぶ。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の助監督を経て、08年短篇作『跳格子』にて監督デビュー。同作は台北金馬奨最優秀短篇賞、アジア太平洋映画祭最優秀短篇賞他台湾の主要映画賞を受賞。続いてテレビ長編『蓬の花』(2008)を監督。2010年、ドキュメンタリー映画『風に吹かれて―キャメラマン李屏賓(リー・ピンビン)の肖像』を共同監督。同作は台北映画祭にてグランプリ、最優秀編集賞、最優秀ドキュメンタリー賞を獲得。「台湾で最も期待される監督」の一人に選出される。2010年東京国際映画祭「アジアの風」部門に出品。2012年短編作「迷路」を監督。ドイツ・マンハイム&ハイデルベルク国際映画祭にてスペシャルメンションを受賞するなど、世界の映画祭で注目される台湾映画監督のひとり。



姜秀瓊(チアン・ショウチョン)監督インタビュー

2015年1月29日

― この作品は、切なくも心温まる物語でした。大久保忠幸プロデューサーからオファーがあったそうですが、どんないきさつですか? プロデューサーが『風に吹かれて―キャメラマン李屏賓(リー・ピンビン)の肖像』を観てとのことですが、私もその作品を観て感銘を受けました。李屏賓さんが撮った作品のこと、撮影に向かう心構え、生き方などが伝わってきました。

姜監督:大久保忠幸プロデューサーから正式にオファーをいただいて、それまでにも考えたりしていたのですが、受け入れようと決めた大きなきっかけは、東日本大震災でした。自分に何が出来るか問いかけて、人々にとって癒しになるような作品ができるのであればと思いました。


姜秀瓊(チアン・ショウチョン)監督

― 癒しになるような作品になっていました。

監督:ありがとうございます。

― 『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』は、母親とは疎遠となりひとりぼっちになってしまった岬(永作博美)と、二人の子供を育てるシングルマザーの絵里子(佐々木希)、二人の孤軍奮闘する女性の物語ですが、演出するのに心がけたことはありますか?

監督:まさに孤軍奮闘する女性、一人で待っている女性をドラマチックな表現ではなく、心から染み出るようなわざとらしくない演出を心がけました。

― 微妙な表現など通訳を通しての演出でしたが、スムーズにいきましたか?

監督:最初、打ち合わせのときは通訳を頼りにすることが多かったのですが、言葉では完全に通じないこともあります。繰り返すうちに、相手が何を言いたいのか、相手が何を伝えたいのかわかるようになり、撮影の終盤にはあまり言葉に頼らないで、ジェスチャーやボディランゲージなどで指示しましたが、皆、すぐに悟ってくれました。役者さんは、1を言えば、10をわかってくれるようなところがあります。言葉じゃなくて、何かコミュニケーションできることはないかと、センスというか五感に敏感になりました。感じ取る力が…。

― 微妙な心の移り変わりが出ていたと思います。
日本の作品で、プロデューサーから監督を依頼されたわけですが、脚本、音楽、撮影監督をはじめスタッフがすべて決まっていてオファーを受けたのか、それとも、オファーを受けてからスタッフを決めたのでしょうか?

監督:オファーを受け入れてから、プロデューサーと相談して決めました。リストをあげてもらって、順番をつけて交渉してもらいました。オファーを受ける前からストーリーの骨格はわかっていました。

― 日本人スタッフを頼むのにあたって、彼らの前の作品は観たのでしょうか?

監督:もちろんもちろん。見せていただきました。

― 撮影した場所の風景や建物など、さいはての二人の心情にぴったりでした。荒れ果てた状況や古さを感じる舟小屋を新しく建てたとは思えなかったので、跡でもあったのかと思ったのですが、一から建てたとのこと。美術の人凄いと思いました。

監督:民宿は10年位誰も使ってなかったのを美術チームが上手く手直ししてくれました。舟小屋に関しては、そこになかったものを作ってもらいました。
本作企画の発端となった二三味葉子さんの焙煎珈琲店がすぐそばにあって、焙煎のことについてわからないことがあれば、すぐに聞けましたし、いつも教えていただくことができました。

監督:舟小屋も時間の移り変わりで変化しないといけませんでした。出来上がったものから古いものにはできないので、順撮りしました。順撮りのお陰で役者さんたちも気持ちが入りやすかったと思います。

― お父さんが乗った船のエピソードや、相撲部が合宿に来るなどのエピソードは最初からあったのですか? 特に相撲部が合宿に来たのは面白かったです。

監督:実は、当初、少林寺拳法の設定でした。日本ならではのものはないかとリクエストしたら、ディスカッションしてくれて、応援団はどうかという話もありました。金沢の大学に相撲部があるのがわかってオファーしたら、心よく受けてくれました。
海外の映画祭に参加したときに、相撲部の場面ではものすごく観客の反応が良く、皆笑ってくれて、そこが人気の場面で評判がよかったです。

― 私たち日本人でさえ、相撲部の合宿シーンなんて、なかなか見る機会はないですからね。他に面白かったエピソードや、失敗エピソードなどは?


姜秀瓊(チアン・ショウチョン)監督

監督:翔太が怒って石ころを投げるシーンで、練習していた時にスリッパが波に流されそうになって、追いかけていった翔太が波に飲まれそうになって、皆であわてたことがありました。 永瀬正敏さんが、別の撮影で怪我して眼帯でいらして、そのまま出てもらったら、かえって良くてまさに怪我の功名でした。
ヒロイン岬の小さい時を演じた大津苺花ちゃんのシーンを撮るのに苦労しました。制御できない子どもで、うまく泣いてくれなくて、電気を消して真っ暗にして、お父さん役の村上淳さんも締め出して一人ぼっちにしたら泣いてくれました。でも、私が近づくとお化けを見るかのように怖がるようになりました。村上さんが監督って呼んでと言い聞かせて、最後には監督と呼んでくれました。
脚本にはなかったこととして、スーパーの万引きのシーンで、人が後ろに来たと気付いて有沙が缶詰を棚に戻そうとした時に、缶詰が永作さんの足元にころがっていきました。それを永作さんが即座に拾ったシーン、これは偶然のことでした。アドリブで拾ってカートに戻してくれたので、そのまま使いました。

― 言葉の違いを乗り越えた現場だったことが伝わってきましたが、それでも、日本と台湾の撮影現場で違いを感じたことはありますか?

監督:今回、限られた製作費と限られた時間の中での撮影でしたので、無駄は許されない。事前の準備ができていて、効率よく撮影できました。プロデューサーと助監督がよくやってくれました。日本の現場では段取りがよく組まれていました。それに対して台湾は、フレキシブルに自由に動く印象があります。もちろん台湾でも段取りのいい人もいますし、日本にもフレキシブルな監督もいますが、今回は効率よく動くということが、いい勉強になりました。

― キャスティングにはどのように参加しましたか?

監督:まず、主演の女優二人から決まっていきました。プロデューサーがリストアップしていた中から、過去の出演作や外観なども含めて順番をつけてゆき、その順番であたっていただいて、ぴったりのキャスティングが出来ました。

取材 記録 景山咲子 まとめ 宮崎暁美


取材を終えて

 シネマジャーナル93号を編集をしているまっただなかに、チアン監督のインタビューをしませんかという話があり、とてもそんな時間はないので断ろうと思ったのですが、『風に吹かれて―キャメラマン李屏賓(リー・ピンビン)の肖像』を撮った監督と聞き、これはぜひお会いしたいと思い参加させてもらいました。2010年の東京国際映画祭で上映されたこの作品は、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督とのコンビで知られる李屏賓カメラマンを追ったドキュメンタリーで、この年の東京国際映画祭で観た作品の中で一番印象に残った作品だったのです。彼が撮影を担当した作品が紹介され、『アンディ・ラウ/天與地』『女人、四十。』『春の雪』『言えない秘密』『空気人形』『ノルウェイの森』なども、彼が撮ったものだったのだと改めて知りました。映画はどうしても監督の名前で語られることが多いけど、監督以外のスタッフの仕事を追う事で、映画の違う面が見えてきました。鮮やかな色も、単純な色も、明るい場面も、暗い場面も、李屏賓にかかれば魔法の映像になる。そんな感じの映画でした。
 そんな作品を撮った監督ということで、ハートフルな作品だろうなと思ったのですが、孤軍奮闘する二人の女性のシスターフッドを描く作品になっていました。監督はバリバリのやり手という雰囲気ではなく、ほんわかした感じの方で、優しい感じのこの作品ができたのも納得でした。  コーヒーの焙煎を仕事とする女性というのも、珍しいキャラクターだなと思いました。この仕事をする人の姿を映画で今まで見たことがなかったので新鮮でした。でももっと驚いたのは、この撮影現場のすぐそばにモデルになった、実際に焙煎の仕事をしている女性がいるとのことでした。通信販売しているそうですが、そういう形ならこういう場所でも商売ができるんだなあと感心しました。(暁)


私も、感銘を受けた『風に吹かれて―キャメラマン李屏賓(リー・ピンビン)の肖像』の監督さんに是非お会いしてみたいと、インタビューに同席しました。また、この映画の舞台である能登半島には、大学2年生を迎える春に初めて訪れ、いかにもさいはての地という風情に心を惹かれて、1年後にまた訪れてしまったという懐かしい地。それもこの作品が気になった理由でした。
そんなさいはての地で、焙煎珈琲のお店?とびっくりしたのですが、実際に能登でお店を開いている二三味葉子さんという存在が、この映画製作の発端と伺いました。でも、二三味葉子さんご自身の人生には別の物語があって、この映画の物語は、「さいはての能登でお店を開く女性の人生」を、想像を膨らませて作り上げたのだそうです。 (咲)


『風に吹かれて―キャメラマン李屏賓(リー・ピンビン)の肖像』の
クワン・プンリョン監督とチアン・ショウチョン監督
(2010年の東京国際映画祭にて)

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