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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『祝宴!シェフ』 チェン・ユーシュン監督インタビュー

昨年の東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門 「台湾電影ルネッサンス2013」特集で、『総舗師 ― メインシェフへの道』のタイトルで上映され、満員の客席を沸かせた作品。この11月1日から、『祝宴!シェフ』のタイトルで一般公開が始まりました。
公開を前に来日されたチェン・ユーシュン監督に、作品に込めた思いや、心に残る料理のことなどをお伺いしました。
公式サイト:http://shukuen-chef.com
★2014年11月1日 シネマート新宿、ヒューマントラスト有楽町ほか全国ロードショー


*ストーリー*
かつて台湾では、祝いごとがあると屋外で宴が開かれ、総舗師(ツォンポーサイ)と呼ばれる宴席料理人が腕を振るったものだった。20年前、台湾には北部の「人」、中部の「鬼」、南部の「神」と呼ばれた3人の伝説の料理人がいた。
神と称された蝿師を父に持つシャオワン(キミ・シア)は、モデルを夢見て台北に行ったが、恋人の借金を抱えて追い出されるように帰郷。父亡き後、継母の経営する食堂は閑古鳥が鳴いていた。旅する料理ドクター、ルーハイ(トニー・ヤン)の手助けで持ち直す。
ある日、50年越しの初恋を実らせた老カップルが訪ねてくる。出会った時の宴会料理で結婚披露宴を開きたいというのだ。なんとか彼らの願いを叶えたいと思うシャオワンだが、料理は初心者。亡父のレシピを頼りに全国宴席料理大会に挑む決意をする・・・

シネジャ作品紹介 >> http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/408132317.html


陳玉勳(チェン・ユーシュン)監督

陳玉勳(チェン・ユーシュン)
1962年台北生まれ。TVドラマシリーズを長年手がけたのち、95年の『熱帯魚』で長編監督デビュー。続く『ラブゴーゴー』(97)でも世を沸かせたが、その後CM業界に活躍の場を移して、数々の賞を受賞。本作は16年ぶりの長編映画。









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◎インタビュー

◆忘れられない母の手料理は、穴のあいた茶碗蒸し

― とても面白い映画で、その中に人生に役立つ言葉がいくつも散りばめられていて、暖かい気持ちになりました。映画を観終わって感じたのが、どんなに豪華な料理よりも、愛情のこもった料理が一番ということでした。監督にとって、忘れられないお母様の手料理は?

監督: 思い出に残るのは、お弁当です。白菜のあんかけで、その中に肉団子が入っていました。あと、少しの油で焼いたトンカツ。そして、茶碗蒸しです。日本では茶碗蒸しというと、きれいな穴のあいていないものだと思いますが、母のは穴のいっぱいあいた茶碗蒸しです。

― お母様は今もお元気ですか?

監督:はい、元気です。

― 監督が小さい頃には、「総舗師」が料理を作る宴会がよく開かれていたとのことですが、その中で、忘れられないお料理や思い出をお聞かせください。

監督:小さい頃、お祖母さんによく連れられて祝いの席に行きました。最初に5種類くらいの前菜が出てくるのですが、その中で一番好きなのがピータンとソーセージ。出てくるなりテーブルに這い上がるようにして掴み取って、お祖母さんにたしなめられました。家に帰ると、お祖母さんが、両親に「この子はねぇ・・・」と、よく話していました。


◆台湾の伝統文化を映像に残したかった

― 今は、そういう宴会も減って、「総舗師」という職業も成り立たなくなっているのでしょうか?

監督:都市化して祝宴を外で行う機会がなくなってきました。昔は空き地があったけど、今はない。ホテルやレストランでやるようになってきました。台南ではまだ結構あるけれど、雰囲気は違ってきています。独特の台湾文化を観てもらいたいという思いもあって、文化を映像に残しておきたいと思いました。そういったところにも注目してほしいと思います。

― 冒頭と最後に出てくる、総舗師(ツォンポーサイ)と弟子の少年が山を歩いていく姿が、今のようにインターネットであらゆる情報がたちまち伝わる時代と対極にあって、懐かしい思いがしました。インターネットなどなくても、どこで宴会や何かがあるという情報がちゃんと入った時代があったことを私も思い出しました。

監督:そうですね。昔は足で歩いて移動する。一日中歩いていくこともありました。不便だったけど、人と人との心の通い合いを重視していたと思います。呼ばれた先で仕事をするのに長く歩いていって宿泊することもありました。そして、次の日、また歩いて次のところに行くという次第でした。


◆浮浪者になった料理の達人をウー・ニエンチェン監督に演じてもらった!

― ウー・ニエンチェン監督が演じた道化師は、ホームレスになっても、ありあわせのもので美味しい料理を作って皆に振る舞うという素敵な役どころでした。ウー・ニエンチェン監督ご自身はちょっとご不満だったようですが・・・  あの道化師の住んでいた線路は、実際にホームレスの人たちが居着いているところなのでしょうか?


陳玉勳(チェン・ユーシュン)監督

監督:設定として、道化師は北(台北)の料理人です。廟に住んでいたりすれば、それはそれでいいけれど、どこか神秘的なところにいる設定にしたかったのです。台北で場所を探したけど、なかなか見つかりませんでした。ある時、MRTでドアを開けると線路があるという場所を見つけました。映画の中でもシャオワンが開けてみたところです。道化師がいつも住んでいる場所としていいなと。でも、トンネルになっていて、野犬やホームレスがいて危ないと言われました。20人くらいのスタッフで、携帯の灯りを頼りに20分位歩いたところで、地下鉄が通るのが見える引込み線のような場所を見つけて、ここでロケをしたいと思いました。鉄道局に交渉して許可を取るのが手ごわくて大変でした。(注:映画の中でも、シャオワンが携帯の灯りを頼りに歩いています。)

― 地下鉄のトンネルの壁に道化師が画いた宴会料理の絵が素晴らしかったです。この映画のために画いて貰った絵なのでしょうか?

監督: 洪通(ホントン)さんという民画を描く素人の方の絵が素朴で好きでした。その方は亡くなられていたので、真似て画いて貰おうと思いました。彩紅(さいこう)村というところに、洪通さんの絵に似た壁画があると聞き、行ってみました。美術の人に見せ、その画風に真似て、1ヵ月位かけて画いて貰いました。


◆宴席料理大会の優勝チームは最初から決めていた  (ネタバレ注意!)

― シャオワンたちのチームが優勝するのかと思ったら、どんでん返しになります。私は彼女たちの優勝はないと思っていたのですが、友人は、きっと優勝すると思っていたそうです。
監督ご自身も脚本段階で迷われましたか? それとも、最初からラストは決めていましたか?

監督: シャオワン自体は凄腕ではありません。いろんな人の助けを借りて、勝ち進んでいきます。お父さんのノートが残っていたとしても、鬼導師の凄腕に勝てるわけはないと、最初から2位と決めていました。鬼導師は、ずっとシャオワンのお父さんに勝てなかった人。最後にお父さんに勝つという設定にしました。


**☆☆***☆☆**

*取材を終えて

映画を観ていない段階で、監督インタビューのお話をいただきました。でも、台南が舞台と知って、これは是非監督にお会いしてお話を伺いたいと思いました。実は、私の父方の祖父母が90年以上前に台南に住んでいたことがあって、東京に帰って父が生まれたので、父は台南で出来たという縁があります。私も20年程前に台南を訪れたことがあります。映画に台南の駅が出てきて、変わらない雰囲気で嬉しく思いました。監督にまずそのことを申し上げたら、「台湾人もあの台南駅は好きですよ」とにっこり。
監督の前作『熱帯魚』や『ラブゴーゴー』もコメディー風の作りで楽しかったのですが、いわゆる美男美女が出てきませんでした。今回、トニー・ヤンとキミ・シアさんという美男美女を起用されましたが、二人共、2枚目半のキャラクターにされたところに、監督らしさを感じました。
若い2人と対照的に、継母役のリン・メイシウさんは、太目で、楽しくて、いかにも監督らしいキャスティング。「一緒に仕事をされていて、やはり落ち着きますか?」と伺ってみたかったのですが、時間切れ。
最後に、「たくさん作ったお料理はスタッフの口に入ったのでしょうか?」とお伺いしたら、「私も5キロ太りました」との答えがかえってきました。皆で宴会料理をたっぷり食べながらの和気藹々の撮影現場だったのが目に浮かびます。
さて、見終わって思ったのは、美味しいものを食べたいという思いより、50年超しの初恋を実らせた老カップルにあやかりたいということでした。初恋の人は無理だけど、誰かいい人いないかな・・・

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(取材:景山咲子)
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