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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『聖者たちの食卓』
フィリップ・ウィチュス監督来日レポート

フィリップ・ウィチュス監督 撮影:宮崎

2012年の東京国際映画祭ナチュラルTIFF部門でグランプリを取った『聖者たちの食卓』が、いよいよ9月27日より一般公開されることになりました。シク教の総本山、インド北西部アムリトサルにある黄金寺院(ハリマンディル・サーヒブ)で毎日10万食の豆カレーが無料で提供される様子を描いたドキュメンタリー。


2012年 東京国際映画祭にて 撮影:宮崎

公開を前に、監督の一人、フィリップ・ウィチュス監督がプロモーションのために8月23日に来日。個別インタビューを申し入れしそこねたのですが、8月26日に開催された監督を囲む催しで、少しだけお話をお伺いすることができました。
8月27日にシネマート六本木での試写の後に行われたティーチインの模様と合わせてお届けします。


  『聖者たちの食卓』ウィチュス監督を囲む会  『聖者たちの食卓』ウィチュス監督、ティーチイン
撮影:宮崎

◆『聖者たちの食卓』ウィチュス監督を囲む会   8月26日(火)夜

催しが行われた場所は、新宿御苑の木々がすぐ隣にある「ラ・ケヤキ」というイベントスペース。お屋敷を改造した素敵なところでした。庭に大きなケヤキがありました。

取材: 宮崎暁美(写真)、景山咲子(写真と文)

― インドのパンジャーブ地方には一度行ったことがあるのですが、黄金寺院には行き損ねました。ほかのシク教寺院には行きましたが、食事はできませんでした。

監督:ほんとに面白いですから、機会があったら是非いってみるといいですよ。

― 監督はフリーの料理人で、料理評論家としてもご活躍されていると伺っています。撮影の合間に、監督も野菜の皮をむいたりしましたか?

監督:野菜の皮をむくのはレベルの高い仕事で人気もあって、上手な人たちが大勢いるから遠慮しました。でも、皿洗いは時々手伝いましたよ。

― 食事の提供は、朝昼晩行われているのですか?

監督: 一日20回提供されています。一回につき3000~5000食です。

― シク教の総本山ですから、毎日大勢の人が訪れるのですね。

監督: 巡礼の人だけでなく観光客など、ほんとに大勢来ます。

― お料理にお肉は使うのですが?

監督: 肉は使いません。肉が入らないので、豚肉がダメなイスラム教徒でも、牛肉がダメなヒンドゥー教徒でも大丈夫です。

― インドの内外、シク教徒以外の人も来るのですね。

監督: ボランティアで働く人の中にも、ヒンドゥー教徒やイスラム教徒の人たちもいます。自分たちの神様のほか、シク教の神様からも徳をいただいて、高いところに行けるという次第です。

― 毎食、一緒に食べていましたか?

監督: はい、よく食べていました。身体が硬いので座るのが結構つらかったのですが、だんだん身体も柔らかくなって、慣れてきました。

― メニューは少しずつ変わるのですか?

監督:新鮮な食材を使うので、今日はじゃがいもがたくさん入荷したとか、カリフラワーがたくさん入荷したといったことでメニューが変わってきます。

― 食材も寄進があるのですね?

監督:食材やお金の寄付があります。

― 撮影にあたって一番苦労されたことは?

監督:カメラの前に立とうとする人がいっぱいいたことですね。

― 出来た映画を観ると、とても自然な姿で撮れていましたが・・・

監督:アシスタントが「ここには入らないでください」と整理して撮影していました。あまり自分の都合でどいてくださいと言うのも悪いので、人があまりいなくなるのを待ったりもしました。

― 次の作品は?

監督: 教育についてのドキュメンタリーを、スペインのマヨルカ島とイギリスで撮っています。

― 地元のベルギーにいるよりも、外国にいる方が多いのではないですか? 何か国くらい行かれましたか?

監督:もう数えきれないくらい行きました。50以上の国に行っています。

― 今度は私の好きなイランにぜひいらしてください。

監督: 今は無理だけど、いつかぜひ行ってみたいですね。


立ち話で、ほんとに簡単な質問しかできませんでしたが、監督の温かいお人柄を感じたひと時でした。


フィリップ・ウィチュス監督と日本在住のシク教徒の方 撮影:景山

会場にはターバン姿のシク教徒の方もいらしていて、お話を伺いました。
お寺では、酒、煙草も禁止。
振る舞われる料理は、辛くないし、塩も控え目、ギー(バターオイル)もあまり使わない、そして、お肉も使わない。どんな宗教の人でも食べられるし、子どもにもOKという次第。辛くないと聞いて、私も安心して食べられそうです。
東京では、茗荷谷にシク教寺院があって、2週間おきの日曜日に集まりが開かれていて、食事の振舞い(チャイ ランガル)も行われているそうです。
http://sikhjapanese.blogspot.jp/


シク教徒は、インドの人口の2%なのに、軍隊の10%がシク教徒。精悍で頑強なのだそうです。
香港では、銀行やビルのガードマンとしてシク教徒の方をよく見かけます。
シク教徒の男性は必ずターバンを巻いているので、すぐにわかります。
ターバンは日替わりで服装にあわせて色を決めて巻くのだそうです。
以前に、インドを旅した時に、ガイドの方がシク教徒で、ターバンを巻くのを見せていただいたことがあるのですが、手際よく、あっという間に巻き上げました。
パンジャーブ地方で、カラフルなターバンの男の人たちが大勢で集まっていると、まるでチューリップ畑のよう!
髪の毛は一生切らないのが掟。この日お会いした方は、「自分は切らないけど、中には切る人もいる」とおっしゃっていました。
小さい男の子は、髪の毛を頭上で丸めて、それをドアノブカバーのような布で覆っています。これが、もう、可愛い!
以前、飛行機の中で、ターバンをとって寝ている男性を見かけたことがあるのですが、やはり頭上に髪の毛を団子に丸めていました。
シク教について、いろいろと調べてみたくなりました。(咲)



◆『聖者たちの食卓』ウィチュス監督、ティーチイン

8月27日(水)シネマート六本木にて
提供:アップリンク


ウィチュス監督、ティーチイン 撮影:宮崎

Q1:『聖者たちの食卓』を制作したきっかけはなんですか?

黄金寺院に訪れたのは全くの偶然でした。2010年に『Sarega』というインドの伝統的な音楽についてのドキュメンタリー映画の制作にあたり、インドとパキスタン国境の街、アムリトサルに滞在しました。そこで、国境の国旗降納式を待つ間、黄金寺院を訪れました。私はシェフなので、この大量の食事を作るキッチンが気になり、覗かせてもらいました。大人数の食事を作る姿に感動し、この素晴らしい場所を世界に見せなければいけない、と思い制作することにしました。


Q2:無料食堂のキッチンで働く人はどういう人たちですか?

この黄金寺院は、とてもオープンな場所で誰でも入れます。宗教や階級は関係ありません。巡礼者や心の平安を求めて訪れる人も大勢います、普段の生活に疲れた人が訪れた…。中には、訳アリでこの寺院にこなくてはならない人もいます。例えば、結婚で問題を抱え居場所を失った女性が駆け込み寺のように身を寄せたり、金銭的に非常に困っている家族たちが、一時的に食べるものと眠る場所を求めて黄金寺院を訪れたりもします。いろんな事情を抱えた人々のシェルター的な役割も持っています。逆に、犯罪者が身を隠すために利用したりする人もいるそうです。


Q3:黄金寺院の無料食堂(ランガル)は、現代社会の大量消費システムや、効率至上主義とまったく逆に位置するシステムですね。

そうですね。働いている人たちは、みなボランティアで、自分の意志で働いてます。彼らは仕事に対して、それぞれの役割、それぞれの能力、それぞれのペースで出来る範囲でやればいい、そして大いなる目標として10万食というたくさんの食事を用意する、という考えのもと取り組んでいます。中には一つのニンニクを20分もかけて皮を剥く人もいたり、生産性は重要視されていません。効率至上主義とは、まったく正反対のものです。しかし、それでもきちんとシステムは機能している。スローなペースでも成り立っています。


Q4:労働する人々の生き生きとして表情から、人間らしく温かい感情や助け合いの心も感じられて、全体的にスローな時間が流れています。

私は、観光ガイドをしていた時代がありますが、欧米でも日本でも、観光地に行くといろいろなものを見たいという気持ちで、極端なことを言うと数時間しかその場所にいない、分刻みのようなスケジュールで動く人もいます。しかし、そんなにあわてないで、もっとひとつの場所の魅力をじっくり味わうような、その場所の空気を楽しんだり、昼と夜で違う街の顔を発見したり、時間をかけて旅行を楽しんでもらえればと思ってました。だから、この作品でも、特別な寺院に流れている神聖な空気と、スローなペースを感じてもらえるように作りました。


Q5:説明やナレーションがない構成にした理由はなぜですか?

私自身がドキュメンタリーなどのナレーションは苦手というのもあります。それに、この黄金寺院はとても神聖な場所です。その場所に対して、自分がどんなことを言っても何か違うと思って、ナレーションは入れませんでした。




カレーを作る大鍋 ©Plymorfilms

●2012年の東京国際映画祭、ナチュラルTIFF部門でグランプリを受賞した時のフィリップ監督のびっくりしたような表情を覚えている。旅の途中で偶然この寺院に遭遇して、食事を振舞うランガルのことを知り、撮影することにしたと語っていたけど、そんな出会いから作られた作品だったので驚いたのだろう。
私は昔、信州のホテルの厨房で働いたことがあるが、その時の最大の料理数は400食。400食でさえすごい量だと思ったのだけど、10万食って、いったいどのくらいの量なのか想像もつかない。たくさんの人々が黙々と、いっせいに野菜の皮むきをしている姿が印象的だった。何百人もの人たちが作る料理がとても興味深かった。
この作品はフィリップ・ウィチュス&ヴァレリー・ベルト夫妻により作られた。(暁)



作品紹介ブログ『聖者たちの食卓』 
http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/405788309.html

スタッフ日記ブログ 
『聖者たちの食卓』フィリップ・ウィチュス監督を囲む会で、シク教徒の方にお会いする (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/404594606.html

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