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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『アクト・オブ・キリング』
ジョシュア・オッペンハイマー監督来日記者会見

3月20日(木)有楽町の外国人記者クラブにてプレス試写上映後の ジョシュア・オッペンハイマー監督来日記者会見へ行ってきました。

★ジョシュア・オッペンハイマー監督 プロフィール

1974年、アメリカ・テキサス生まれ。ハーバード大学、ロンドン芸術大学で学ぶ。 政治的な暴力や想像力との関係を研究するため、その犠牲者達を取材してきた。 これまでの作品には『THE GLOBALIZATION TAPES』(2003年)、 『THE ENTIRE HISTORY OF THE LOUISIANA PURCHASE』(1998年)などの 映画賞受賞歴を持つ作品のほか短編映画も多数あり。 またイギリス芸術・人権研究評議会のジェノサイド・アンド・ジャンル・プロジェクトの 上級研究員で、これらのテーマに関する書籍を出版している。

◆あらすじ

1965年9月30日深夜、インドネシア・スカルノ大統領(当時)の親衛隊の一部が陸軍トップの6人将軍を誘拐・殺害し、革命評議会を設立したが直ちに粉砕される。「9・30事件」と呼ばれ、国際関係にも大きな変化をもたらしたクーデター未遂事件である。その真相は明らかになっておらず、陸軍内部の権力争いという説も強い。当時クーデター部隊を粉砕し事態の収拾にあたり、後に第2代大統領となったスハルト少将らは、背後で事件を操っていたのは共産党だとして非難。その後の1~2年間にインドネシア各地で、100万とも200万ともいわれる人たちを“共産党関係者”だとして虐殺した。それに対して、日本や西側諸国は何ら批判の声を上げることはなかった。

オッペンハイマー監督は、当初、虐殺被害者を取材したが、妨害にあって断念。逆に加害者に目を向ける。北スマトラの州都メダンで、虐殺を実行した者たちを紹介してもらい取材。誇らしげに当時のことを笑顔で自慢する加害者たちに驚き、その深層心理を探るべく、監督は彼らに殺人をどのように行ったか、自由な形で再現してもらう。さらに、撮った映像を本人たちに見せ、そのリアクションも映し出している。


2014年4月12日より渋谷イメージフォーラムほか全国順次公開

『アクト・オブ・キリング』 公式 web サイト: http://aok-movie.com/

シネマジャーナル89号に山形国際ドキュメンタリー映画祭時の記事あり http://www.cinemajournal.net/bn/89/contents.html
作品紹介 >> http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/393841128.html

    ポスター            記者会見風景   

海外の映画祭で数々の賞を受賞しているこの作品、去年の山形国際ドキュメンタリー映画祭でも、『殺人という行為』という題名で上映され、最優秀賞を受賞しました。 今回『アクト・オブ・キリング』として劇場公開されるのは オリジナル159分を121分に再編集したものです。 劇場版は未見なのですが、劇場公開版のほうが面白いという意見もありました。あまりにも重いテーマですので、2時間半を越える長尺は精神的にきついかもしれません…。集客の点でも2時間が適当だということでしょうか。1960年代半ば、インドネシアで実際にあった大虐殺を加害者側(アンワル氏ほかパンチャシラ青年団)から描いた作品です。

カンボジアの虐殺についてはメディアでも度々取り上げられ、日本でも話題になりましたが 、10万人から100万人ともいわれる規模の大虐殺がインドネシアであったなんて、 まったく知りませんでした。 共産主義のポル・ポトによる虐殺なら大騒ぎしても、インドネシアのスハルト政権を 支援していたアメリカや日本において、インドネシアの虐殺は、隠匿するべき「不都合な真実」だったんでしょうか…。 もともと監督は、インドネシアのパーム油プランテーションで働く人たちの ドキュメンタリーを撮るつもりだったそうですが、虐殺を実行したパンチャシラ青年団のことを 映画にして、すべての人に向けて「恐怖を感じずに過去と向き合う場をつくる」 という強いモチベーションで この映画の制作に取り組んだということです。 虐殺の当事者たちに取材を申し込み、41人目にしてOKをもらったのが、主たる登場人物のアンワル氏。撮影した映像は、1200時間もあったそうです。
世界中の映画祭で50以上の賞を獲り、アカデミー賞にもノミネートされたこの映画の影響で、ついにインドネシア政府のスポークスマンが、「65年の虐殺は間違いだった」と正式発表したということです。 アンワル氏は、場合によっては「極悪人」と呼ばれるような「唾棄すべき」人でしょう。 しかし、インドネシアではずっと「悪の共産主義を倒したヒーロー」として 要職にありました。
映画の中で虐殺を再現するアンワル氏は、この映画の内容をほとんど忘れていました。自分が苦悩し、嘔吐する場面も覚えていなかったそうです。
本国インドネシアで上映できないこの映画を、 アンワルさんにもう一度体験させる機会を監督はもうけました。 アンワルさんは上映後、「自分であるという事がどういうことかわかる」と言ったそうです。 殺人という行為は、被害者のいのちだけでなく、加害者の心をも破壊し、「自分が自分であること」をわからなくさせてしまうんですね。 オッペンハイマー監督は、この映画がアンワルさんの「癒し」になったと 理解しているようです。 殺人が心を破壊し、映画が心を癒す…。たいへん深いテーマをはらんだ問題で、 いろいろとご意見はわかれると思いますが、この春、 必見の映画であります。


~孫に囲まれ笑顔のアンワル氏~
(C)Final Cut for Real Aps, Piraya Film AS and Novaya Zemlya LTD, 2012

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(取材:山村千絵)
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