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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

祝10周年! SKIPシティ国際Dシネマ映画祭

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013 オープニング作品『燦燦-さんさん-』。
前列左から外山文治監督、吉行和子さん、宝田明さん、後列に「さいたまゴールド・シアター」のメンバー

2004年、世界に先駆けてデジタルシネマに特化してスタートしたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭も、今年で10回目を迎えました。
この10年の間に、映画もデジタルでの製作が急速に進みました。フィルムを懐かしく思う反面、デジタルでもここまで出来る!という世界の映像作家たちのチャレンジ精神をずっしり感じることのできる映画祭。今年は長編、短編合わせ、80の国と地域から応募のあった661作品の中から長編12作品、短編12作品が選ばれコンペティション部門で競いました。その他、若手クリエイターの登竜門ともいわれるロッテルダム国際映画祭と連携した「ロッテルダムDAY」が開催されるなど、10周年を祝う企画も盛りだくさん。充実の映画祭でした。
会場のSKIPシティへは、映画祭会期中、川口駅から無料シャトルバスが出るとはいえ、所要12分。行くのにちょっと根性のいる映画祭なのですが、気がつけば、2004年の初回から毎年通っています。今年も、オープニングセレモニーを皮切りに、4日間訪れて、長編コンペティションの海外作品を中心に9本拝見。どれもが心に残る素敵な作品でした。
私が参加した4日間の模様をお届けします。(咲)
写真は宮崎さんからも提供いただきました。


会場のSKIPシティ

上映作品のポスター

【7月12日(金)】

◆オープニングセレモニー

午後2時より、映像ホールに映画祭関係者や長編・短編コンペティション部門の監督が一堂に会して、10周年を記念するオープニングセレモニーが開催されました。会場は満席。
(オープニング上映の『燦燦-さんさん-』は、この日の夕方、追加上映されました。)

映画祭実行員会会長・上田清司埼玉県知事、副会長・岡村幸四郎川口市長、総合プロデューサー八木信忠氏、ディレクター瀧沢裕二氏の4名が次々に挨拶に立ち、それぞれに、10周年を迎えた思いと、関係者への謝辞を述べられました。
開催市の市長として挨拶された岡村幸四郎氏は、市長となる前の初回から映画祭に関わってきた方。「デジタルシネマの新興と若手クリエイター発掘の2つを目的に続けてきた映画祭。始めた以上、10回は続けてくださいといい続けてきましたが、10回やったら、もうやめるわけにいかないでしょう」と、今後の飛躍を祈願されました。


映画祭実行員会会長・上田清司埼玉県知事        副会長・岡村幸四郎川口市長   

この後、長編・短編コンペティション部門の監督が壇上に勢ぞろい。関係者も交えて記念写真。私の席からは残念ながら全体がおさまりませんでした。


(左)長編コンペティション作品の監督たち                 
(右)SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013 オープニングセレモニー。   
   長編・短編コンペティション部門の参加監督が勢ぞろい。私の位置からは、
   全員を撮れませんでした。                      

◆オープニング上映 『燦燦-さんさん-』

10周年のオープニングを飾った『燦燦-さんさん-』は、最愛の夫を亡くした77歳の女性が、人生をもう一度輝かせようと婚活する姿を描いた作品。外山文治監督は、『星屑夜曲』で2007年の本映画祭短編部門奨励賞と川口市民賞を受賞。2011年に短編部門に出品された『此の岸のこと』は、後にモナコ国際映画祭で最優秀作品賞以下5冠に輝きました。まさに、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭が世界に送り出した監督。
舞台挨拶には外山監督をはじめ、出演した吉行和子さん、宝田明さん、蜷川幸雄氏率いる平均年齢74歳の演劇集団「さいたまゴールド・シアター」のメンバーが登壇。年齢と共に自己紹介。外山監督は、「現在32歳。公開の時には、33(さんさん)になっています」と挨拶。吉行和子さんは、「32歳のくせに、高齢者のことがよくおわかり。いくつになっても、ちゃんと心が動いていることを描いていて素晴らしい。この映画を観れば、高齢者の婚活もありと納得していただけると思います」と若い監督を絶賛しました。
宝田明さんは、「59年に東宝に入社以来、すべてフィルム撮影でしたが、今回はデジタル。海外にDVDを持っていって、はい、これで上映してと、自分の出演作を見せることができる」と、Dシネマの利点をアピール。
フォトセッションでは、主演の二人が仲睦まじい姿で婚活の行方をほのめかしてくれました。


オープニング作品は、77歳の女性の婚活を描いた『燦燦-さんさん-』。
前列左から外山文治監督、吉行和子さん、宝田明さん、後列に    
「さいたまゴールド・シアター」のメンバー            

◆オープニングパーティ

5時より、多目的ホールで10周年を祝うオープニングパーティが開かれました。

ゲストの宝田明さんや映画祭関係者の方たちが揃いのはっぴ姿で、鏡開き。


オープニングパーティで鏡開き

『チチを撮りに』(2012年 監督賞・SKIPシティアワードのダブル受賞)の中野量太監督。「今日、エルサレムで上映されています。世界に通用するのを教えてくれたのも、この映画祭。一生、SKIPの皆さんと歩んでいくと思います」と映画祭に感謝されました。
出演した松原菜野花さんも「去年SKIPに出て以来、ベルリンにも行かせていただきました。1045席満席の状態での上映。1045人の反応に感激しました」と語りました。


『チチを撮りに』中野量太監督と松原菜野花さん

感謝の花束贈呈
「10年間、多くのクリエイターがここで出会い、世界に巣立っていきました」と、上田清司埼玉県知事と岡村幸四郎川口市長に、女優の松原菜野花さんと杉野希妃野さん(2012年短編部門審査員)の二人から感謝の花束が贈呈されました。


左から上田清司埼玉県知事、杉野希妃野さん、松原菜野花さん、岡村幸四郎川口市長

【7月14日(日)】

◆『チャイカ』(スペイン・グルジア・ロシア・フランス) ★最優秀作品賞受賞

ミゲル・アンヘル・ヒメネス監督
貨物船内で船員相手に娼婦をしていて妊娠し男児を出産したアイシャ。行くあてのない彼女は船員のアジルベックに連れられて彼の故郷に向かうが、そこは荒野の貧しい一軒家だった・・・
スペイン人の監督が、カザフスタンを舞台に居場所を求めて彷徨う男女の運命を描いた物語。アイシャを演じたのはグルジアの女優サロム・デムリアさん。
「ほんとはカザフスタンの実在の娼婦をキャスティングしたかったけれど無理でした。2008年に長編デビュー作“Ori”をグルジアで撮影した縁で、グルジアでオーディション。おそらくグルジア中の女優志望者が集まってくれました。保守的なグルジアでは、ヌードやセックスシーンに抵抗があって断る人が多かったのですが、彼女は家族を説得して出演してくれました」とヒメネス監督。
チャイカとは、ロシア語でカモメのこと。冒頭に1963年、初めて宇宙に飛び立ったソ連の女性宇宙飛行士テレシコワさんのエピソードが出てきました。その彼女が「私はカモメ」という有名な言葉を残しているのを思い出しました。過酷な中で自由に羽ばたく女性を描きたかったのかなと思い当たりました。(「私はカモメ」発言について調べてみたら、コードネームがカモメだったそう。それが詩的なイメージで伝わってしまったようです。)


『チャイカ』ミゲル・アンヘル・ヒメネス監督

◆『フロントライン・ミッション』(イスラエル・フランス) ★監督賞受賞


『フロントライン・ミッション』ヤリブ・ホロヴィッツ監督Q&A

ヤリブ・ホロヴィッツ監督
1989年、18歳で兵役についたばかりのトメルは、同年代の兵士たちと共にガザ地区に送り込まれる。戦闘ではなく紛争沈静化が目的だったが、ある日、民家の屋上から落とされた洗濯機で一人の兵士が亡くなり状況は一転する。犯人捜しのため、民家の屋上でパレスチナ人の監視を命じられたトメルたち。階下ではパレスチナの人たちの日常生活が繰り広げられているが・・・ 監督自身が1989年の兵役で感じた何のために何を守っているのだろうという疑問をいつか映画にしたいと実現させた作品。イスラエル国防軍を退役した人は左派に走ることが多く、政府と違って反戦の思いが強いと監督は強調されていました。イスラエル、パレスチナ双方の人たちから映画が相手側に偏っていると批判されたそうで、それだけ真実を語っているといえるのではないでしょうか。日本でのDVD発売が決まっているとのこと。ぜひ観ていただきたい一作。


『フロントライン・ミッション』ヤリブ・ホロヴィッツ監督

◆『狼が羊に恋をするとき』 (台湾)


『狼が羊に恋をするとき』 (台湾) ホウ・チーラン監督Q&A

ホウ・チーラン監督
永遠の愛を誓った彼女が、「予備校に行くね」のメモを残していなくなってしまった! 彼女を追って予備校が集まる南陽街に辿り着いたタンは、コピー屋で働き始める。毎日、試験用紙を印刷するうちに、ある塾の試験用紙に必ず羊のイラストが描かれていることに気がつく。イラストレーターを目指して予備校で働く女の子、小羊(シャオヤン)の描いたものだったのだが、ある日、タンが羊の隣に狼の絵を描いたことから、事は思わぬ方向に・・・

『あの頃、君を追いかけた』(10月、日本公開)でブレークしたコー・チェントンが、本作でもなんとも捉えどころのないほんわかした男の子を演じています。ヒロイン小羊を演じたジエン・マンシューもとってもキュート。現代の御伽噺のようなラブコメ。
監督は、Q&Aで、「予備校生にとって通過点である南陽街で、逆に町に根付いて仕事をしている若い人を主人公に描きたかった」と語りました。実家が鞄屋で、10代の頃から店番をしていた経験も盛り込まれているとのこと。


『狼が羊に恋をするとき』ホウ・チーラン監督

【7月17日(水)】


『アメリカから来た孫』(中国)
チュー・ジャンタオ監督

◆『アメリカから来た孫』(中国)

チュー・ジャンタオ監督
中国の田舎で暮らす元影絵師のヤン。夜遅く、アメリカにいる息子が青い目の婚約者とその息子を連れてやってくる。翌朝起きると、息子と婚約者はNGOの仕事で奥地に行くと書置きを残していなくなっていた。言葉の通じない連れ子の男の子を押し付けられ途方に暮れるヤン。やがて、ある事がきっかけで二人の間に本当の祖父と孫のような絆が生まれる・・・


中国でも一人暮らしの老人が増え、特に農村に残されている老人のために何か描けないかと思ったのが本作のきっかけだと監督は語りました。影絵の盛んな西安近くの華県で撮影。影絵と風景が実に美しい。言葉が通じなくても、心で語り合える!




『アメリカから来た孫』チュー・ジャンタオ監督

◆『オールディーズ・バット・ゴールディーズ―いま、輝いて―』(チェコ)

イジー・ストラフ監督
元高校教師のオタは、妻を亡くし15年独り暮らしをしていたが、目も悪くなり息子夫婦の世話になることに。目の手術を控え、若い頃からの憧れの女優ヤナに一目会いたいとオタのいる老人ホームを探しあてて会いに行く。老人ホームでは、ヤナの突拍子もない行動に皆が辟易していた。久々にオーディションを受けにプラハに行くと騒ぐヤナに、オタは同行することにする・・・

少し認知症の始まった二人の、なんとも可笑しい逃避行。年を取ってもいつまでも輝いていたいという気持ちを描いた点で、オープニング上映された『燦燦-さんさん-』に通じるものがありました。
主演の2人はチェコでは誰もが知っている名優で、元夫婦。30年振りに共演したそうです。



『フロントライン・ミッション』ヤリブ・ホロヴィッツ監督

◎『フロントライン・ミッション』ヤリブ・ホロヴィッツ監督インタビュー

5時半からの上映中に個別取材の時間をいただきました。
私が日本イラン文化交流協会の事務局を預っていると自己紹介すると、「ベルリン映画祭に行った時に、イランの方から是非買いたいと申し出を貰って大喜びしていたら、2日後に上からの許可が下りなかったと言われました。イランに行って平和キャンペーンが出来るとエキサイトしていたのに、ほんとに残念!」と興奮して語る監督。「人生は一度きり。意味のある仕事をしたい」とイケメン監督、実に真面目。
インタビューの模様は後日、本誌で報告します。




【7月20日(土)】


『隠されていた写真』(ポーランド、ドイツ、ハンガリー)
マチェイ・アダメク監督

◆『隠されていた写真』(ポーランド・ドイツ・ハンガリー)

マチェイ・アダメク監督
17歳のアダム。母が療養のため家を留守にしている時に、思わぬ場所で臨月の母が見知らぬ男に抱きかかえられている写真を見つける。自分の父親はもしかしたら、この写真に写っている男なのかもしれない・・・と、アダムは母の実家を訪ねる。

果たして、写真の男性が父親だったのかどうか謎のまま終わりました。上映後のQ&Aで、監督は、「私自身、映画館を出た後、考え続けるような映画が好き」と、観客に解釈の余地を残したと語りました。う~真実が気になる!





◆『セブン・ボックス』(パラグアイ)  ★脚本賞受賞


『セブン・ボックス』(パラグアイ)
フアン・カルロス・マネグリア監督

フアン・カルロス・マネグリア監督(&脚本)
市場で手押し車を使って運び屋をしている17歳のビクトル。携帯電話が欲しくてしょうがない彼は、7つの箱を運べば100ドル貰えると言われ、中身のわからないまま引き受ける。だが、彼が箱を運び始めたとたん何者かが襲ってくる・・・

パラグアイの首都アスンシオンのメルカード・クアトロで撮影したスリルあふれる物語。いろいろな民族の人たちが交錯して興味深かったのですが、アラブ人まで出てきて、パラグアイにもいるのか・・・とびっくり。
パラグアイでは映画産業が発達してなくて、これまでに20本位しか製作されていないのですが、その中で『セブン・ボックス』は大ヒット。
監督さんが、とてもハンサムでした! お母様がパラグアイから一緒にいらしていたのですが、50歳前後に見えたら、監督自身が48歳! って、お母様はおいくつ?
アスンシオンに住む元会社の同僚の方に「パラグアイの人って、年をとってもスマートで若く見える人が多いのでしょうか?」と尋ねたら、「それは、少数派ですな」との返事。でも、10代で出産する女性は多いそうです。
さらに、「パラグアイも人種は多種多様、スペイン出身が多いのは当然として、イタリア、ドイツ、フランス、英国、北欧、東欧、旧ソ連、アラブ諸国、ユダヤ、アジア(日本、韓国、台湾、中国)とまことに様々。映画は大ヒット。観るのに行列でしたね。それも半端な行列ではなかったからこれが驚き。パラグアイでも高いレベルの映画が作れる様になったかと感慨に浸りました」とメールをいただきました。
これは、ほんとに面白い映画でした。是非日本で公開を!


『セブン・ボックス』フアン・カルロス・マネグリア監督

◆『ロシアンディスコ』(ドイツ)


『ロシアンディスコ』(ドイツ)
オリヴァー・ツィーゲンバルグ監督

オリヴァー・ツィーゲンバルグ監督
ベルリンの壁崩壊直後の1990年春、東ドイツがソ連内のユダヤ人を受け入れるという噂に、このチャンスを生かせと父親にも背中を押され、ウラジーミルは親友のアンドレイとミーシャを誘ってモスクワから東ベルリンへ。路上でビールを売ったりしてなんとか暮らしていく。やがてウラジーミルは、同じロシア移民のダンサーのオルガに恋をする・・・

原作はウラジーミル・カミーナーのベストセラー小説。ウラジーミル本人に、音楽をはじめ色々とアイディアを貰って、ユーモアをたっぷり交えて移民してきた頃の悲喜こもごもを描いています。オルガも映画を観て、自分のサハリン時代をコミックで描いた場面に感激してくれたとか。「ラジオのロシアドクター」というロシアらしい冗談まじりの番組も当時実際にあったもの。監督はとても陽気な方で、ドイツ人のイメージが崩れました。
次回作は3つアイディアがあるそうで、その中の一つが、イラン人の3人目の妻になる女性の話と聞いて、終わってから思わず監督に声をかけました。ベルリンのイラン人コミュニティを舞台にしたものとのことで、完成した映画を是非観たいものです。


『ロシアン・ディスコ』オリヴァー・ツィーゲンバルグ監督


●長編コンペティション 受賞結果

最優秀作品賞『チャイカ』 ミゲル・アンヘル・ヒメネス監督
監督賞『フロントライン・ミッション』 ヤリブ・ホロヴィッツ監督
脚本賞 『セブン・ボックス』 フアン・カルロス・マネグリア監督(&脚本)
審査員特別賞『神奈川芸術大学映像学科研究室』 坂下雄一郎監督
SKIPシティアワード『ロマンス・ロード』 まつむらしんご監督

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(取材:宮崎暁美、景山咲子)
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