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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。


『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』
ファラー・カーン監督インタビュー

ファラー・カーン監督 (撮影:宮崎)

2007年にインドで興業成績トップとなった大ヒット作『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』。6年の時を経て、ようやく日本で一般公開されることになり、3月16日の公開にあわせてファラー・カーン監督が来日しました。インド大使館での試写会の舞台挨拶と、5社合同のインタビューで精力的な監督にお会いすることができました。

ファラー・カーン監督


ファラー・カーン監督

1965年1月9日生まれ。父はアクション映画監督。母の姉妹は脚本家ハニー・イーラーニーと子役で有名だったデイジー・イーラーニーという映画に囲まれた環境に生まれる。両親の離婚後、聖ザビエル大学に通うかたわら、マイケル・ジャクソンの「スリラー」に影響されてダンスを始める。『勝者アレキサンダー』(1992年)の振り付けを当時のトップ女性舞踊監督サロージ・カーンの代役として担当。斬新な振り付けが評判を呼び、以後人気舞踊監督となる。『ディル・セ 心から』(1998年)や香港映画『ウィンター・ソング』(2005年)など、これまでに担当した作品は約90本。2004年、『僕がいるから』で監督としてもデビュー。その後、『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』(2007年)、『30人殺しのカーン』(2011年)、『Happy New Year』(2013年)と、いずれもボリウッドの大スター、シャー・ルク・カーンを主演に迎え、4本の映画を作っている。
また、『シーリーンとファルハードの成功物語』(2012年)で女優としても本格的にデビュー。
私生活では、2004年12月に映画の編集や監督として活躍するシリーシュ・クンダル(1973年生まれ)と結婚。『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』撮影中に身籠り、公開直後に男の子一人と女の子二人の三つ子を出産。


『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』 ストーリー


© Eros International Ltd

1970年代、しがない脇役俳優のオームは人気女優シャンティに恋をする。シャンティの後をそっと追っていたオームは、シャンティが実は人気プロデューサーのムケーシュと結婚していることを知ってしまう。ムケーシュに身籠ったことを伝え、妻であることを公にしてほしいと涙ながらに訴えるシャンティ。だが、ムケーシュは撮影セットの屋敷にシャンティを閉じ込め火を放つ。炎に包まれたシャンティを救おうと飛び込んだオームも爆風に吹き飛ばされ、ちょうど通りかかった映画スターのカブール夫妻の車にはねられてしまう。妻の出産で急いでいたカブールの車でオームは病院に運び込まれるが息を引き取る。
30年後、オームと名付けられたカブール夫妻の息子はスター俳優となっている。事件後ハリウッドへわたっていたムケーシュが帰国し、彼に出会ったとたんオームの前世の記憶が蘇る・・・


© Eros International Ltd

★3月16日(土)より渋谷シネマライズ、シネ・リーブル梅田他、全国順次公開
公式サイト http://www.uplink.co.jp/oso/
シネジャ作品紹介 http://www.cinemajournal.net/review/2013/index.html#oso


◎インド大使館での試写会 舞台挨拶
~『恋する輪廻』は、撮影中に三つ子を身籠った思い出深い映画~

日本に到着された3月13日には、インド大使館で試写会が行われました。



ディーパ・ゴパラン・ワドワ駐日インド大使

ファラー・カーン監督は、ボリウッドで数少ない女性監督ですが、監督に先立ち挨拶されたディーパ・ゴパラン・ワドワ駐日インド大使も女性。「ファラー・カーンさんは、監督、振付、女優、プロデューサーなど多彩な顔を持つ方」と紹介。また、「インドは映画の製作本数世界一。映画は大きな産業であると共に、インドの魅力を余すとこなく伝える大切な存在。言語、宗教、文化など多様なインド世界を一つにまとめあげているのが映画です。映画はお互いを理解する最高の手段。ボリウッドの映画は、マサラムービーと言われるごとく、ロマンスや、人生の苦しみ、楽しみなどをごった煮にした究極の楽しさを味わえるもの。映画を通じて日本の皆様にもっとインドを知っていただきたいと思います。また、ファラー・カーンのような監督に日本でも是非映画を撮っていただければ嬉しい」と監督にエールをおくりました。



ファラー・カーン監督

続いて舞台挨拶に立ったファラー・カーン監督は、「6年前に製作した映画を日本で観ていただけることをとても嬉しく思います。実は、この映画の撮影の途中で妊娠して三つ子の赤ちゃんがお腹にいることがわかりましので、この映画には特別な思いがあります」と語りました。また、主演を務めたシャー・ルク・カーンからのメッセージとして、「皆さんをとても愛しています。大きなハグを贈ります」と伝えてくれました。
最後に、花束贈呈。監督の足元にひざまずいてインド式に敬意を示した挨拶をして花束を渡した女性が、インド舞踊家の野火杏子さんであると紹介され、今度は監督が野火杏子さんの足元にひざまずき、野火杏子さんが恐縮するという微笑ましい場面で舞台挨拶は終わりました。


◎振り付け指導も飛び出した5社合同インタビュー

3月15日、昼食時間も入れずにぶっ通しで取材を受けた監督。ハンバーガーを食べながらの5社合同インタビューとなりました。

☆まずは私たちシネマジャーナルの質問から!

◆さまざまな宗教に囲まれた家庭環境

―2008年のアジアフォーカス福岡国際映画祭で拝見して、一番印象に残っているのが、エンディングロールの後の最後のカーテンコールの場面で監督が最後に登場した時に、もう誰もいなくて、「まぁいいわ」という顔をしたシーンです。

監督:あのシーンは皆さん好きね。

― あのカーテンコールでは、製作にかかわった人たちが皆登場して、ボリウッドの映画にはいろんな人種の人々がかかわっていることも感じて、とても楽しい最後でした。監督が主演女優を務めた『シーリーンとファルハードの成功物語』は、ムンバイのパーシー(ゾロアスター教徒)社会を背景にしたコメディーと聞いていますが、監督ご自身、母方のファミリーネームがイーラーニということからも、母方はパーシー(ゾロアスター教徒)なのでしょうか? ご自身の宗教や民族など文化的背景を教えていただけますか?

監督: 父はイスラーム教徒、母はパーシー(ゾロアスター教徒)、夫はヒンドゥー教徒、三つ子の子どもたちは一応ヒンドゥーだけど、キリスト教のことも学んでいます。家族全員、それほど宗教に熱心じゃなくて、どこの宗教にも属してないといえます。私自身にとっても子どもたちにとっても、こういう家庭環境なので色々な宗教のことを知ることができてラッキーな状態だと思います。

(ちなみに、シャー・ルク・カーンはイスラーム教徒ですが、奥様のガウリー・チッバーはヒンドゥー教徒。宗教の違う二人の結婚、今や日本同様、インドでも宗教への意識が薄くなっているのでしょうか・・・)

― 輪廻転生という概念は、ヒンドゥーや仏教ではごく普通に受け入れられますが、イスラームやキリスト教、ゾロアスター教では生まれ変わるという輪廻の考え方はありません。『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』は、物語として、輪廻の概念のない宗教の人たちにもすんなり受け入れられたのでしょうか?


ファラー・カーン監督

監督:もともとインド映画の中に「輪廻もの」のジャンルがあって、10年に1作品くらい製作されていて、ある形ができています。インドの観客は輪廻ものについて慣れているといえますね。でも、前世で愛し合っていたのに別れなくてはならなかった男女が、次の世界で一緒になるというラブストーリーのパターンが多かったです。『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』は、少し形が違います。ラブストーリーの要素もありながら、前世で満たされなかったことを次の人生で満たすということ、さらに復讐を果たすというストーリーが観客に受けたのではないかと思います。



◆大阪のおばちゃんをテーマに映画を撮ってください!

― 『スラムドッグ$ミリオネア』の原作者であり、現在、大阪・神戸インド総領事のヴィカス・スワループさんが大阪に関するエッセイをアメリカの雑誌に書いたそうですが、その中で「大阪のおばちゃん」について、愛すべき存在と書いているそうです(大阪のアジアン映画祭で上映されたインド映画『わが人生3つの失敗(KaiPo Che!)』上映時の舞台挨拶で言っていました)。その時、それを元にぜひインドの監督で大阪を舞台にした映画を撮ってほしいと、司会の方が言っていたのですがぜひ、ファラー・カーン監督にその原作で、大阪のおばちゃんを題材にした作品を撮っていただけると嬉しいのですが…

監督:ヴィカス・スワループさんの「ぼくと1ルピーの神様」(『スラムドッグ$ミリオネア』の原作)を読み、自分で撮りたいと思って、シャー・ルク・カーンにも出てもらいたいと思ったのですが、版権が高く、話が進みませんでした。『スラムドッグ$ミリオネア』はイギリス映画だけど、出来上がったものを観てみたらボリウッドの映画。歌も踊りもあるし感情移入もできるし大好きな映画です。ヴィカスさんが次に書くときには、まず私に言ってとお願いしているのですよ。


☆他社との質疑応答から、印象深かったものを抜粋してお届けします。

◆シャー・ルク・カーンと仕事をすると楽しい!

― 「シャー・ルク・カーンの代わりになる俳優はいない」とおっしゃっています。信頼関係が厚いのだと思いますが、彼が安心できるというエピソードは?


ファラー・カーン監督

監督:シャー・ルク・カーンと相性がいいのだと思っています。なによりシャー・ルク・カーンと仕事をすると楽しい。ほかの人と仕事をしてがっかりするようなこともあるけど、シャー・ルク・カーンとだとしっくりきます。彼ほど情熱を注いで仕事をする人を見たことがありません。まさに全身全霊をかけて仕事をします。顔に色を塗れと言えば、塗ってくれる。いやがる人もいるけど、彼はやってくれる。身体を鍛えて~といえば、ちゃんと鍛えてくれる。仕事してギャラを貰ったら終わりという人もいるけど、彼はプロモーションも一緒にやってくれる。撮影には私もシャー・ルク・カーンも全力を注ぎます。ジョークも分かり合えるので、言い合えるし、同じ頃に業界に入ったので、昔話もできるし。


◆スターが一堂に会したシーンは二度と撮れない

― 『恋する輪廻』にはボリウッド映画の素晴らしい要素がたくさん入っています。いかに映画産業界の人たちが映画を愛しているかも描かれています。映画界の人たちが幼馴染でまるで家族のようです。

監督:31名ものスターが一堂に会するシーンがありますが、彼らはシャー・ルク・カーンに敬意を払って出てくれたということもあります。ギャラを要求されることもありませんでした。6日間の撮影だったのですが、まるでパーティーのようでした。普段忙しくて会えない俳優たちが楽しく一緒に過ごしてくれました。あのようなシーンは二度と撮れないと思います。その後、あの俳優とあの俳優が喧嘩したりしたということなどがありましたから。(笑) 役者だけでなく、監督やスタッフも出てくれました。 父が監督だったので、自分にとって映画業界の暗い部分も多く見てきました。 でも、あのシーンはとてもいいものが撮れたと思っています。


◆デジタルは時代の趨勢

― フィルムだけでなくデジタルシアターでも公開されたと聞いています。今後、デジタルの普及でインドの映画界はどう変わっていくと考えていますか?

監督:シネコンの75%はDCP(デジタルシネマパッケージ)になっていると思います。撮影する時も、50~60%はデジタルです。私の最新作『Happy New Year』もデジタルで撮っています。フィルムの方が好きですが、DCPについていかないとなりません。経済的な問題もあります。ラボにもフィルムのストックがあまりありませんし。


◆女性監督がエンタメ要素の強い映画を作ったことに評価

― 今回の映画ではロマンス、コメディーなどの要素が入っています。ハリウッド映画で好きなジャンルは?

監督:私はコメディーが大好きです。『恋する輪廻』にはラブストーリーの要素もありますが、生れ変わって復讐するという別の要素も入っています。

― 女性監督が女性の復讐劇を撮ったところが面白いと思います。

監督:これまで女性監督はいないこともないのですが、子どもが出来ないとか、夫に逃げられたといった内容でした。私が『ぼくがいるから』を作ったときに、エンタメ要素の強い映画で、女性監督がこんな映画も撮るのかといわれました。



ファラー・カーン監督

◆マサラ上映では、こんな風に踊って!

― インドの人は映画を観る時、踊ったり食べたりしながら楽しむというので、日本でもマサラ上映をする予定です。日本人向けの振りをちょっとやってみていただけませんか?

監督:あなたも立って!  とってもシンプルなのよ。 (と、腰を前後にゆすってみせてくださる。う~ん、微妙な動き。真似できるか?)

― 振り付け監督は、ダンスシーンだけでなく音楽シーンも監督されると聞きました。ダンスシーンのないソングシーンにどれくらい関わるのでしょうか?

監督:『ディル・セ 心から』では、関わっていませんが、ほかの作品で口パクの場面で数限りなく関わっています。


◆インドではCGより人を使ったほうが安上がり

― 今週ムンバイをスピルバーグ監督が訪れたと聞きました。今後ボリウッドとハリウッドの関係は? 監督ご自身ハリウッドとどう関わっていくおつもりですか?

監督:私たちインド人にとって歌と踊りの映画が必要です。仕事としてハリウッドの一部を担当することはあっても、それがボリウッドでの仕事に差し支えるようならやりません。

― ロスを中心にボリウッド映画上映館が増えていますが、海外に向けてダンスシーンの新しいアイディアはありますか?

監督:ロスだけでなく英国でもボリウッド映画だけ上映する映画館が増えています。ダンスシーンの特徴として、インドのダンスシーンでは何でもあり。バレエもヒップホップも皆融合させて成り立つ世界です。100人のダンサーが踊るシーンも、CGよりもインドでは人を雇ったほうが安上がりです。


ファラー・カーン監督

☆取材を終えて


スーニー・ターラープルワーラー監督

自己紹介の折に、アジアフォーカス福岡国際映画祭で、『僕はジダン』スーニー・ターラープルワーラー監督にインタビューした記事を掲載したシネマジャーナル83号をお見せしたら、写真を見てすぐに、「あ~スーニーね」と反応された監督。スーニー・ターラープルワーラー監督の『僕はジダン』はパーシー(ゾロアスター)の文化を強く意識した作品。同じパーシーの血を引くファラー・カーン監督が女優デビューした『シーリーンとファルハードの成功物語』のBela Bhansali Sehgal監督もパーシーの女性。ボリウッドにおけるパーシーの人たちの活躍ぶりや、女性監督ならではの良さ、年下の素敵なご主人や三つ子のお子様たちが仕事をする上でどんな存在なのかなど、もっとお聞きしたいことがあったのですが、合同取材ではそこまで突っ込んでお伺いすることができず残念でした。お目にかかって感じたのは、自分自身に対する自信。5社からのまさにマサラな質問に的確に答える姿に圧倒された1時間でした。(咲)



2009年、国際交流基金が開催した「アジア映画ベストセレクション」で、『オーム・シャンティ・オーム』が上映された時に観て、恋あり、復讐あり、歌と踊りありの、まさにインドらしいマサラムービーで、とても印象に残っていましたが、まさか、女性監督が作った作品とは思っていませんでした。去年、あいち国際女性映画祭で上映されるということを知り、女性監督が作った作品だったとと知りましたが、その作品がインド公開から6年の月日を経て、日本公開されることになり驚きました。
しかも、今回監督インタビューに参加でき、とても嬉しかったです。ファラー・カーン監督は、この映画と同じようにスケールの大きな、そして細かいことにはこだわらないおおらかな女性のように感じました。
それで、このインタビューの数日まえに行った大阪アジアン映画祭の舞台挨拶で、ヴィカス・スワループさんが言っていた大阪のおばちゃんに関する話を思い出し、思わずファラー・カーン監督に「大阪のおばちゃん」を題材に撮ってほしいとリクエストしてしまったしだいでした。ヴィカス・スワループさんは「日本の女性は控えめであると言われているけど、大阪のおばちゃんは違う。押しが強い。でも肝っ玉母さんのような包容力があって、とても愛すべき存在です」とおっしゃっていました。なんかとても、監督にも通じるところがあるような気がします。
そして、ダンスの振り付けを即興でやってくれたときにはびっくりしました。(暁)

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(取材: 宮崎暁美(写真) 景山咲子(文))
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