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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『花様~たゆたう想い~』(原題 花漾)
周美玲(ゼロ・チョウ)監督インタビュー

周美玲(ゼロ・チョウ)監督(撮影:宮崎暁美)

*ストーリー*
『Tatoo 刺青(原題:刺青)』『彷徨う花たち (原題:漂浪青春)』などで知られる台湾の女性監督周美玲(ゼロ・チョウ)が、300年前の中国の孤島で繰り広げられる男女4人の切ない恋を描いたラブストーリー。
流刑の地として知られる中国外洋の小さな島、流嶼島に漂着した幼い双子の姉妹、小雪(シャオシュエ)と小霜(シャオシュアン)は、「花漾楼(かようろう)」という妓楼の女主人・月娘(ユエニャン)に拾われ、ある秘密を胸の奥にしまいこみ、芸妓として成長する。
看板芸妓に育った二人に、海賊の青年刀疤(タオパー)や管弦楽器の若き師匠・文秀(ウェンシウ)たちは惹かれる。小雪と小霜の運命は、水面に浮かぶ花の様にたゆたい始める…。

公式HP http://kayou-movie.com/


           刀疤と小霜                         文秀と小雪        


小霜:陳意涵(チェン・イーハン)       小雪:陳妍希(ミシェル・チェン)


刀疤:言承旭(ジェリー・イエン)       文秀:鄭元暢(ジョセフ・チェン)

(c)2012 South Island Film Inc. All Rights Reserved
出演
小霜:陳意涵(チェン・イーハン)
小雪:陳妍希(ミシェル・チェン)
刀疤:言承旭(ジェリー・イエン)
文秀:鄭元暢(ジョセフ・チェン)
海爺:任達華(サイモン・ヤム)
月娘:呉君如(サンドラ・ン)
甄芙蓉:李小冉(リー・シャオラン)
李二少:茅子俊(マオ・ズーシン)

周美玲(ゼロ・チョウ)監督インタビュー

☆この作品を製作したいきさつ


ゼロ・チョウ監督

編集部 この映画を作るに至ったいきさつを教えてください。東京国際映画祭の中のTIFFCOM2008〜アジア・パシフィック・エンタテインメント・マーケットで、スポンサーに出会ったのでしょうか?

ゼロ・チョウ監督 初校(準備稿)の脚本が仕上がったのが2008年だったのですが、その時は単純な現代の姉妹の話でした。あまりにも単純すぎて、チャレンジ性がなかったので映画にする気はなかったのですが、2010年頃、時代劇にするということを考えました。それでスケールを大きくできると考えました。時代設定を300年前にした方が、映画にできるんじゃないか、チャレンジ性が高いと思いました。

編集部 それで、妓楼を舞台に芸妓の話にしたのですね。

監督 そうです。

編集部 馬祖島でロケしていますが、ロケハンはかなりして決めたのですか?

監督 馬祖島に決めたのは、島の感じを出したかったから。それと、地形もすごく険しくて、厳しい感じを出せると思いました。台湾本島で撮ると平原が続いているので、島の感じを出せないと思ったからです。

編集部 海岸からすぐ切り立った崖があるような島を選んだということですね。外の世界と隔絶された空間ということで、妓楼に閉じ込められた感じと、ある種のパラダイス、桃源郷のような感じを出せると思われたのでしょうか?

監督 はいそうです。


☆キャスティングと役柄

編集部 キャスティングのことについて聞きたいのですが、台湾映画界を支える若手俳優、陳意涵(チェン・イーハン)、陳妍希(ミシェル・チェン)、言承旭(ジェリー・イエン)、鄭元暢(ジョセフ・チェン)、それに香港からは任達華(サイモン・ヤム)、呉君如(サンドラ・ン)、大陸からは李小冉(リー・シャオラン)、茅子俊(マオ・ズーシン)と、キャストが豪華ですが、これだけの俳優さんの出演はスムーズに決まったのですか?

監督 けっこうスムーズに行きましたね。今回のようにキャスティングがスムーズにいった作品は今までになかったくらい。でも最初はうまくいくか心配していたんです。
どの役も、出番が分散してしまうからです。たとえばジェリーにとっても、自分が主人公という感じでもないし、サイモン・ヤムにしてもサンドラ・ンにしても主演男優賞や女優賞を獲ったような人なのに出番が少なかったので大丈夫かなと心配していました。
でも、シーンは少なかったのですが、それぞれ個性的なキャラクターで際立たせていました。この8人の中で一緒に仕事をしたことがあるのは、チェン・イーハンだけだったのですが、皆さんが引き受けてくれたのは脚本を気に入ってくれたからだと思うんです。オファーして会ってみて、それぞれ気があったから引き受けてくれたのではないかと思います。
たとえば、サンドラ・ンさんにオファーした時の反応ですが、彼女はコメディタッチの役をやることが多いので、「ほんとに私で良かったんですか。この脚本にはコメディ的なところはないですが」というように不思議がられました。妓楼のおかみさんの役って、普通色っぽい人が多いじゃないですか。なので、自分はセクシーでもないし、ほんとに私でいいんですか?と聞かれました。

編集部 監督は、なぜこの役をサンドラ・ンにやってもらおうと思ったのですか?


ゼロ・チョウ監督

監督 サンドラも同じような質問をしました。彼女はとても個性があるし、自分が期待しているのはキャリアウーマン。だって妓楼を経営しているのですよ。やり手でないとできないじゃないですか。それをあなたに望んでいますと言いました。
なので、シーンの中でチェン・イーハンに対して、「一生芸妓でいいのか。私を越える存在になってほしい。いつか自分の妓楼を持てるようになりなさい」というシーンを作りました。まさに、私がサンドラを通して、伝えたいメッセージでもあります。
リー・シャオラン演じるフーロンという役は、サンドラ演じる月娘(ユエ・ニャン)とは正反対の役でした。アジアの女性に共通して言えることですが、小さい頃から家庭のために自己犠牲をしなさい、夫を立てなさいと教育されてきたんです。彼女もそのために自己犠牲をかなりしました。でも、全然報われなかったんです。ほんとの愛情は、むしろ、自分を拉致した人から得られるんですね。愛情を信じるか、信じないかは置いといて、愛情は女にとって大きな賭けだと思うんです。

編集部 彼女(フーロン)はその男(海爺)を見捨てますよね。

監督 なので、この作品を観た日本の観客の反応も見たいし、問いかけたいんですね。自分がどのキャラクターに似ているのか。自分だったらどういう選択をするか。問いかけてみたいです。これはほんとに女性の映画だと思います。なので、男性陣の俳優、こんなに豪華なキャストが出演してくれるとは思いませんでした。

編集部 男優陣が完全に脇に回っているというか、脇で支えているという作品でしたね。さっき、8人の主要人物がいて、みんな役が大きくないとおっしゃっていましたが、観た印象では、それほど小さい役の人がいるとは思えないですね。8人もいて際立っているという印象でした。

監督 ちゃんと観て評価していただいてありがとうございます。

編集部 台湾では2012年12月に公開されたそうですが、台湾での観客の反応とか、印象に残っていることはありますか?

監督 それぞれ、たくさんのファンを持っている人が出演していますが、応援しているファンにとっては、その人が主演でなくちゃと思っているのに、主演でありながら主演じゃない(思ったより出番が少ない)ことが不満だったようです。それについては、それぞれサポートしているアイドルを応援してあげてくださいとしかいえませんが…。アイドルを起用すると、ファンからのこういう反応がありますね。


☆撮影とパートナーについて

編集部 灯篭などの赤を基調とした映像が印象的で、張芸謀(チャン・イーモウ)監督を彷彿とさせる映像美だと思ったんですが、撮影はパートナーの劉芸后(ホホ・リュウ)さんなのでしょうか?

監督 そうです。

(脇で記録をしていたホホ・リュウさんがインタビューの席に加わる。監督とホホ・リュウさんは私生活でもパートナーである。)


撮影担当劉芸后(ホホ・リュウ)さん

編集部 今回こちらに来ていらっしゃるから、きっとそうだろうとは思ったのですが(笑)、ホホ・リュウさんは元々映画撮影を目指していたのでしょうか。あるいはゼロ・チョウ監督との出会いがきっかけですか?

劉芸后 元々、映像の仕事をしていたのですが、スチールをメインにやっていました。なので、監督は私の運命を変えてくれた人です。最初は二人三脚でドキュメンタリー作品を作っていって、だんだんと商業映画もやるようになりました。

編集部 お二人の馴れ初めを教えてください。

劉芸后 (笑)ドキュメンタリー映画の現場で知り合いました。その時はスチールだけでしたが、その後、映画用のカメラにも携わるようになりました。

編集部 いいコンビが結成できたわけですね。

劉芸后 だといいですね。なっているかな(笑)。

編集部 レズビアンであることをカミングアウトして映像作家としてやっていくことの苦労、希望などをお聞かせください。

監督 さっきも言いましたように、愛情は賭け事です。お互い出会って賭け事をしてしまったのですが、今のところ負けていないようですね(笑)。後でツーショットもOKです。

*あとで、台湾ではこのような場で二人一緒の写真を撮られることはないとおっしゃっていました。

編集部 他のインタビューの中で、映画でいかに自分を表現していくかが最大のテーマであるとおっしゃっているのを読んだことがあるのですが、今回の映画で最も表現したかったご自分とは、「愛情という人生最大の賭けに挑んでいて、今のところ勝っている」ということですか。

監督 もちろん、この作品の中の主人公に較べたら、私の人生での賭け事は大きくないですが、この作品ではそれぞれ命を賭けていますよね。また、愛情を信じなかった人が愛情を信じるようになったりとか。まあ、愛情とか恋愛には勝ち負けはないと思いますが。

編集部 深いですね。

監督 深いですか(笑)。愛情とは、何がいいか悪いかわからないですね。最後の最後まで。

編集部 それを追い求めて行くということですね。

監督 そうですね。どうせ賭け事ですから、息を振り絞ってそれを求めて行くということですね。

編集部 ありがとうございました。頑張ってください。


ホホ・リュウ撮影監督とゼロ・チョウ監督

取材 城田美砂緒 記録・写真 宮崎暁美



取材を終えて

女性監督が、ドキュメンタリー映画から始めて、商業映画を撮れるようになることができるという台湾映画界。商業映画の分野でも、何人かの女性監督がいる。ゼロ・チョウ監督もその一人。日本では、まだなかなかそういう女性監督が出現していない。
台湾の女性監督の層の厚さを思った。
ゼロ・チョウ監督は、レズビアンであることをカミングアウトして、堂々と商業映画を撮っているということで、どんなにガードが固い人かと思ったら、とても柔らかな感じの爽やかな人だった。パートナーのカメラパーソン、ホホ・リュウさんも構えたところがなくソフトな感じで、こんな二人だからコンビを組んでやっていけるのだなと思った。自然体という言葉が、よく似合いそうな二人の今後の作品も期待している。(宮崎)


これまで自らのアイデンティティに関した映画を撮って来たゼロ・チョウ監督が、初めて"普通の"恋愛をテーマにし、しかもスター満載の商業映画ということで、どのようになっているのだろうかと興味を持っていました。しかし作品を見てお話を伺い、同性であるか異性かなどに関係なく、愛という勝ち負けのない勝負に真剣に挑んでいる潔さを感じました。スターが多いことでは、また別の苦労をされたようでしたが(笑)。 (城田)


公開情報
(東京) 10月26日よりシネマート六本木
(大阪) 11月16日よりシネマート心斎橋
(名古屋)11月23日より伏見ミリオン座

提供: クロックワークス/アジア・リパブリック6周年
配給: クロックワークス
(c)2012 South Island Film Inc. All Rights Reserved

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