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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『サニー 永遠の仲間たち』カン・ヒョンチョル監督インタビュー
~自分の名前を取り戻していく過程を描いてみた~


*ストーリー*
完璧な夫と高校生の娘に恵まれ、不自由のない生活を送っていた主婦のナミ。
ある日、母の入院先で、高校時代の友人チュナと再会する。
25年前、ソウルの女子高へ転校したてのナミを、姉御肌のチュナが仲間に入れてくれたのだった。
個性豊かな7人のメンバーは、友情の証としてグループを"サニー"と名付け、ずっと一緒にいようと誓うが、ある事件がきっかけで離ればなれになってしまう──。
あれから25年。病に冒され、また仲間に会いたいというチュナのため、ナミは残りのメンバーを捜し始める。それはナミにとって、夢を抱き、輝いていた日々を取り戻していく旅でもあった。


大人になって再会した サニーのメンバー
(© 2011 CJ E&M Corporation. All Rights Reserved )

 メディア向けの試写で感動したので、公開されてからまた一人で劇場へ観に行きました。毎回新しい発見があります。私にも小学6年生の時いつも一緒だった仲良し7人組がいました(なぜ数は7人なのでしょうね?)。中学校の親友とは昨日もランチをしたところです。今度は女友達をみんな誘って一緒に観たい映画です。
 ボニーMの「Sunny」、シンディー・ローパーの「Time After Time」など胸がキュンとするような音楽がラジオから流れ、それに載せて女子校の毎日、学生運動のシーンなどが展開され、それと交互にさまざまな大人の事情に縛られた現在の生活が描かれていきます。


子供時代の思い出
(© 2011 CJ E&M Corporation. All Rights Reserved )

◆カン・ヒョンチョル監督インタビュー

 これほどまでに、アラフォー&アラフィフの女性の琴線に触れる映画を作ったのはいったいどんな方なのか、とても気になったので、監督に会いに行ってきました。

(写真:筆者撮影)

カン・ヒョンチョル監督プロフィール:公式HPより

『過速スキャンダル』で830万人を動員し、韓国映画界に彗星のごとく登場したカン・ヒョンチョル監督。 しっかりしたストーリーと繊細な演出力、そして興行性を兼ね備えてデビューと同時に各種映画賞を総なめした。オーディションで発掘した新人俳優パク・ボヨンとワン・ソッキョンは一躍スターダムにのし上がり、サントラはアルバム販売サイト1位を記録し、映画に劣らない人気を呼んだ。本作では、80年代のきらきら輝いて美しくまぶしい学生時代を過ごした仲良しグループの少女たちが25年後、大切な友情をたずねる過程を愉快に描いた。この作品も、韓国でクチコミが広がり740万人動員した2011年の大ヒット作となった。


Q(記者): すばらしい女優さんばかりですが、キャスティングで考慮されたことは何ですか?

A(監督) : 自分で書いたシナリオですので、自分が作り出したキャラクターをうまく表現してくれる俳優を選ぶことを最優先にしましたが、子役とのセットなので雰囲気があうようなキャスティングも心がけました。

Q: 韓国はまだまだ男性優位の社会である印象が強いですが個人的に多くの女性と交流してみて、自分の主義主張がはっきりしていて、それをきちんと言葉で表現できる人が、日本人に比べて多いような気がします。80年代と比べて現代の女性像をどうご覧になりますか?

A : 日本と比べることは容易ではないです。ただ韓国では、映画の設定での80年代と今の時代を比べるともちろん女性の地位は向上していますが、他の先進国に比べると一般的な女性の社会参加の比率はまだ少ない方ではないかと思っています。そういう状況の中でなぜ私が40代の女性を主人公にして映画を撮ったのかというと、その年代の女性達はとりまく環境によって、自分は誰かの妻だったり子供の母だったりと、自分自身のアイデンティティについてものすごく悩んでいるような、第二の思春期を迎えている人たちが多いのではないか?と考えました。 そういう中で昔の友達と再会して、それだけではなくて自分自身を取り戻していく、女性として自分の名前を取り戻していく過程を映画で描いてみたいと思いました。

Q: 女性の深層心理をリアルに描いていらっしゃるので驚きますが、監督はいったいどういうことを参考にされたのでしょうか?ご家族であったり、女友達であったりするのでしょうか?

A : まあ普通に生活していくと、女性と接する場面はたくさんあります。この映画のアイディアはかなり前から暖めていましたので、女性と会話するたびに観察したり質問したりしたかもしれません。 姉と一緒に成長したので、彼女の生活からたくさんのヒントをもらったと思います。あと同じ質問を観客からよくされるのですが、女性の皆さんが思っているより、男性は女性の日常生活をよく気にかけています(笑)。

Q: サニーのメンバーの中でずばりどのキャラクターが好みですか?

A : どなたか一人を選んでしまうと女優さんたちの間で揉め事になりそうなので内緒にしてほしいのですが(笑)、サニーのリーダーだったチュナ(病気で余命わずかとなってしまった独身の事業家)が個人的にかっこいいと思います。男性のキャラクターにしたとしてもかっこよかったと思います。

Q: 韓国の友人関係は、男同士の場合先輩後輩の関係が強く影響し、女同士ではそれが横にフラットであるような印象がありますが、いかが思われますか?

A :私個人としては、縦と横の違いについてはあまり感じませんが、男性の場合は積極的に友情を表現していると思います。それに対して女性は物理的にも時間的にも制約があるので、付き合いがどうしても受身になりがちだと思います。この映画の中では、主人公の主婦であるナミが25年間疎遠になっていたメンバーを探していくうちにどんどん積極的になっていくことも可能であるということを描きました。そういう意味で男女の友情というものは変わらないと思います。この映画は女性の視点ではありますが、女性映画というわけではなく、人生をテーマとした映画だと思っています。もし全部のキャラクターをそっくり男性に置き換えでも同じ映画が撮れると信じています。

Q: 続編『サニー2』?で、男性の視点から観てみたいですね。期待できますか?

A :いや、もう撮りませんけど。(笑)

Q: 主人公の娘がいじめにあったとき、母親のナミは制服を着て相手に回し蹴りをしてやっつけにいきます。韓国や日本では、なかなかありえないシチュエーションなのですが、どういう意図があったのでしょうか?

A :もし友人たちと再会する前だったら、もっと合理的な方法で解決しようとしたかもしれませんが、彼女はもう見も心も女子学生のナミに戻ってしまっていて、その感覚を楽しんだところがあると思います。


(写真:筆者撮影)

Q: 監督さんはご自分の昔のご友人達と連絡を取ったり会ったりしていますか?

A :この映画が公開されてから、たくさんの友人と交流がありました。観客の皆さんもそうおっしゃってくださいます。でもヒットしたあとは、いつも飲み代を僕が払うことになってしまいました。

Q: 映画監督という仕事について。

A :朝早く出勤してなくてよくて、休みのときには本を読んだり音楽を聴いたりと、ゆっくり充電できるのが魅力です。あと、撮影の準備をしているときは、とても張り切っているのですが、いつも撮影が始まってしまうととても大変で、現場に行くのが嫌になってしまいます(笑)。

Q: 日本の映画もご覧になりますか?

A:日本の監督では北野武さんが大好きです。最近は『アウトレイジ』を見ましたが、やはり『菊次郎の夏』が一番好きです。韓国では、キム・ジウン監督が好きで個人的にも親しくしてもらっています。 (ああ、キム・ジウン監督、私も大ファンです!)

Q:次の作品あるノアールジャンルの『タチャ(いかさま師)2』も期待しています。 『サニー』も、韓国での大成功と同じように日本でもロングラン上映されるように、たくさん応援しますね!ありがとうございました。


インタビュー後記

 監督は38歳ですが、目の前のご本人はもっと若く見えます。主人公達の世代がお母さんであっても無理がないと言うと「女優さん達に言いつけますよ~。」と。80年代に学生だった女性の物語は、お母様やお姉様の昔の写真などからインスパイアされて脚本を書いたそうです。家庭でとてもかわいがられて育ったことが感じられ、ほんわかした口調で語る好青年でした。

 それぞれの主人公が、目の前の人生を生きることに精一杯の中、偶然のきっかけから、昔の仲間に再会することになる。輝いていたころの日々に感じていた気持ちが蘇っていく過程に観客も気持ちをあわせて共に熱くなることができる作品です。

 筆者自身もずいぶん長い間、仕事と家庭で綱渡りのような生活をしながらも、ボランティアでの会議参加のため国内外各地を訪ねたり、好きな映画を追いかけることも諦めきれず、寝る時間を削って分刻みの予定を慌ただしくこなすだけの毎日を受け入れて暮らしてきましたが、この映画に出会って心の奥底に封印していた10代20代の時の柔らかい感情が呼び戻されたような気がします。監督さんありがとう。これからもたくさんの心に染み入る作品を期待しています。

(滝沢祥)


公式HP http://sunny-movie.com/
監督・脚本: カン・ヒョンチョル 『過速スキャンダル』
出演:シム・ウンギョン、カン・ソラ、ミン・ヒョリン、ユ・ホジョン、ジン・ヒギョン、
 コ・ソヒ、ホン・ジニ
2011年/韓国/124分/カラー/シネマスコープ/ドルビーSRD/原題:SUNNY/PG-12
© 2011 CJ E&M Corporation. All Rights Reserved 

Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて絶賛公開中

>> 作品紹介 http://www.cinemajournal.net/review/index.html#sunny

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