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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『最終目的地』 真田広之さんインタビュー

2012年6月28日  ホテル西洋銀座にて


『眺めのいい部屋』『モーリス』などで知られるジェイムス・アイヴォリー監督が、アメリカの現代作家ピーター・キャメロンの小説を元に描いた『最終目的地』(2008年)。この10月6日(土)よりシネマート新宿他にて、ようやく日本で公開されることになり、『上海の伯爵夫人』に次いでアイヴォリー監督作品に出演した真田広之さんに3誌合同でお話を伺う機会をいただきました。


『最終目的地』 http://www.u-picc.com/saishu/

*ストーリー*
コロラド大学文学科の教員オマー・ラザギは、1冊の著作を残し自ら命を絶った作家ユルス・グントの伝記を執筆しようと遺族に許可を求める手紙を出す。遺言で伝記は許可できないとの返事に、オマーの恋人ディアドラは、ウルグアイにいる遺族に会いに行って直接許可を貰うしかないとオマーの肩を押す。ウルグアイの人里離れた屋敷を訪れると、そこには、ユルスの兄アダムとそのパートナーである年下の男性ピート、ユルスの妻、ユルスの愛人と娘の5人がひっそりと暮らしていた。アダムとユルスの両親は、ドイツからナチスの迫害を逃れて、ファーストクラスでウルグアイにやってきたユダヤ人だった。アダムは母親が残した宝飾品をアメリカに持ち帰って金にすることを条件に伝記執筆を認めるという。パートナーのピートを独立させる為の資金にするという目論見だ。一方、ユルスの妻は、夫は伝記を望んでいなかったと頑なに拒否する。そのうち、実はユルスが2冊目を執筆していたことが判明する・・・


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真田広之さんの役どころは、アンソニー・ホプキンスさん演じるアダムの年下の恋人ピート。原作ではタイ人ですが、アンソニー・ホプキンスさんの相手役として真田さんの起用を決めたアイヴォリー監督は、脚本家に依頼して日本人に設定を変更。「台本をみたら、徳之島出身となっていて、なぜ徳之島?と思わずくすっと笑いました」と語る真田さん。若きゲイのパートナーだというので、知り合いの人たちに取材したりして臨んだら、監督から「余計なことはしなくて自然体でいいから」と、いきなりカウンターパンチを食らったそうです。「映画では描かれていないアダムとの25年を空気感で表さないといけない。ホットな時も倦怠期も過ぎ、ピートの将来のために、アダムがピートを突き放そうという緊張感もある時期を、ゲイのパートナーというより、人間どうしというところで描くしかないなと思いました」と語ります。25年に等しいくらいアンソニー・ホプキンスさんの出演する映画を観てきたので、その思いをそのまま投影して、自然に彼を観て、共感や愛情、リスペクトの気持ちを表したそうです。まさに、しっくりと落ち着いた二人の関係が体現されていました。

さて、実物の真田広之さんにお会いするのは初めて・・・と思ったら、2006年1月25日(水)に行われたチェン・カイコー監督作品『PROMISE』の来日記者会見で生の姿を拝見していました。質問の順番が回ってきて、Web版シネマジャーナルに掲載した特別記事「チェン・カイコーが描いたファンタジー『PROMISE』来日記者会見 〜真田広之&チャン・ドンゴンの中国語が楽しみだ!〜」をまずお渡ししたら、見るなり、「わ~ぉ!」と、古い記事に驚きの声をあげる真田さんでした。

それでは、私との質疑応答の模様をどうぞ!


◆故郷から離れて暮らす人々をリアルかつ切なく描いた作品

―シネマジャーナルは、映画好きの女性たちが別の仕事を持ちながら作っている映画の同人誌です。私は日本イラン文化交流協会の事務局を預かっています。 真田さんにインタビューの機会をいただけるとのことで、いそいそと試写に行きまして、プレス資料を開いて、まず、オマー(オマル)・ラザギという役名に釘付けになりました。親しいイラン人にもラザギという名前の人がいるものですから、物語の鍵となるオマー・ラザギがイラン生まれのコロラド大学文学科の教員という背景にまず興味を持ちました。真田さんが今住んでいらっしゃるロサンゼルスには、ご存じのようにイスラーム革命後に多くのイラン人が移り住んでいます。イランジェルスといわれるほどです。世界には、真田さんのように積極的な理由で自分の居場所を変える方もいれば、政治的、社会的理由で故郷をあとにせざるを得ない人たちもいます。『最終目的地』では、ホロコーストから逃れてドイツから移住してきたユダヤ人と、イスラーム革命でアメリカに逃れたイラン人が登場します。本作は各地で上映されていますが、ユダヤ人やイラン人、その他、やむを得ず故郷をあとにした方の感想やリアクションで印象に残るものがありましたらお聞かせいただけますか。

真田:ユダヤ人やイラン人の方のリアクションは特に記憶にないのですが、映画祭で上映された折などに、いろいろな思いの方から声をかけられましたね。故郷から離れて生活している人たちの集合体を、リアルかつ切なく描いていただいて・・・といった感想をよく聞きました。記者会見でも、そういった質問をよくいただきました。


◆撮影合宿ではマッサージを担当

―『最終目的地』には、美しいインドのミニアチュール(細密画)やペルシアの詩人ハーフェズの詩を語る場面が出てきたり、アレキサンドリアの図書館が焼かれた話が出てきたりと、アイヴォリー監督のオリエントへの造詣の深さも感じさせてくれました。オマーがアメリカに帰って4か月後に、また戻ってきてアダムの家を訪ねてきた時に、アダムとピートが見ていたテレビの画面にはターバンを巻いたアフガニスタンか中央アジアあたりの人々の戦闘シーンが映っていたのですが、これもアイヴォリー監督がこだわって流していた映画か何かだったのでしょうか? それともアンソニーさんか真田さんの好みのものを見ていたのでしょうか?

真田:あれはやはり監督のこだわりですね。あの場面は、どういう風に過ごしていようかと考えて、マッサージをしていようかというアイデアもありました。実はロケ中、皆で合宿生活を送っていたのですが、撮影後にくつろいでいる時に僕が皆によくマッサージしてあげましてね(と、マッサージする姿をジェスチャーで見せてくださる)、いや~担当していましたね(笑)。 で、最終的に、テレビを観てくつろいでいることにしようと。でも、実際の撮影の時に、テレビの画面には何も映っていなかったんです。監督が後からあの画像を入れたので、僕も完成作品を観て、なるほどこれを入れたかと思いました。脚本を書いたルース・プラワー・ジャブヴァーラさんのアイデアもずいぶん入っていると思います。


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思いもかけず、リアルなマッサージ実演光景を見せていただき、ぐっと場が和みました。そのほかにも、真田さんの特技が映画の中でずいぶん生かされたようです。1作目の『上海の伯爵夫人』では、アクション経験やミュージシャン経験を生かした場面はなかったけれど、『上海の伯爵夫人』の撮影中、そういった経験について雑談として話していたそうです。冒頭の馬に乗るシーンは、アルゼンチンのロケ地に馬が豊富にいたので、「あいつ(真田さん)に乗せよう」という話になったのだとか。「小さな女の子と二人乗りで安全に走れる馬をオーディションで選びました。怪我があってはいけませんから。プロの乗り手を前に乗せて走ってもらいました。ライトもあるし、物音もする。蜂もいるし・・・そういう危険な状況の中で子供を乗せるシーンなので、結構ナーバスになりました。でも優秀な馬がいましたので、うまくいきました」と、当時を振り返る真田さん。

また、予定より撮影が長引いて、途中で『ラッシュアワー』の撮影のために、ロスへ。「身体は一つなので、スケジュールを調整してもらって、飛行機に乗ってパキンと気持ちを切り替えて、ロスでジャッキーと闘って、そのギャップを楽しんでました」と、180度違う作品に参加することになったこともプラス思考で乗り切ったご様子。

現在、ロサンゼルスを拠点に、ドラマや映画に出演して活躍する真田さん。「エンタメで開拓したお客様が、芸術的な作品も観に来てくれて、相互作用が働いてくれれば嬉しい」と語ります。


最後に、アイヴォリー監督について尋ねられ、「世界一有名なインディペンデント作家と言われ、世界各地で映画を撮ってこられた方。人種や宗教を超えた理解や協調性を大事にされている方ですね。ますます世界が多様化するなか、人とどう協調していくかを大事にしながら、自分の人生の落としどころを見つけられればいいといったことを監督から教えられたように思います。どこに住むというより、誰といたいのか、何をしたいのかが大事。そのための最終的な場所がたまたまここだったということだと思います。今はロスにいますが、外にいると郷愁の念も高まるものですね」としみじみと語られました。

私たちの質問に、一つ一つ丁寧に答えてくださった真田広之さん。私自身の居場所はここでいいのかを考えさせられるひと時となりました。これからも真田広之さんの幅広い活躍を見守りたいと思います。(咲)

ウルグアイを舞台にした作品というのは多くはない。ロケ地はアルゼンチンだそうだが、私は南米に興味を持っているので、それだけで俄然観てみたいと思った。
ナチスの戦犯が南米に潜んでいるという話は知っていたけど、ユダヤ系の人が、ナチスの迫害を逃れて南米に移住したことがあったということは知らなかった。映画を観ると、今まで知らなかったこと、思いもよらなかったことを教えてくれる。そういう意味で、映画は学校だと思う。

そして、真田広之さんのこと。なんだかんだ言って、結構、真田さんが出演しているドラマや映画を観ている。真田さんが出ているから観てみようと思った作品も多い。
この作品では、今まで演じたことのない(私が観たことがないだけかもしれないが)ゲイの役。25年一緒のゲイカップルの役を渋く演じていた。アンソニー・ホプキンス演じるアダムが、彼の将来のために突き放そうとするが、真田さん演じるピートは「僕はここにいる」と表明する。このシーンは圧巻で、ゲイカップルの絆を感じさせてくれた。(暁)

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(取材:宮崎暁美(撮影)、景山咲子(文))
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