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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『再生の朝に -ある裁判官の選択-』
撮影監督 大塚竜治さんインタビュー


 昨夏SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で『透析』のタイトルで上映され、観客賞を受賞。シネジャスタッフ三人も映画祭で観て絶賛し、公開を待ち望んでいました。監督が『北京の自転車』の撮影監督だったリウ・ジエ氏で、撮影監督が日本人ということでも注目していた作品です。中国から一時帰国されていた撮影監督の大塚竜治さんにお話を伺いました。


*大塚竜治さん プロフィール*
1972年生まれ、東京都出身。映画作家、撮影監督。日本大学理工学部卒業後、テレビ番組ディレクターをしていたが、2005年中国北京に渡る。現在、中国のインディペンデント映画やドキュメンタリー番組の撮影及び監督を手掛ける。撮影監督として関わった、第60回ベルリン国際映画祭に出品された『蜜柑皮の温度』(2010年)などがある。2009年に『リンリンの花園』で監督デビュー。第3回ドイツ・ケルン中国映画祭で観客賞を受賞し、監督としても評価を得た。現在は監督第2作目となる『馬大山』の準備中。


『再生の朝に -ある裁判官の選択-』
公式 HP >> http://www.alcine-terran.com/asa/
配給:アルシネテラン

★シアター・イメージフォーラム、銀座シネパトスで公開中 その後、全国順次ロードショー

作品紹介 → http://www.cinemajournal.net/review/2011/index.html#saiseino_asa


(c) 2009 3C FILMS CO., LTD All Rights Reserved

◎大塚竜治さんインタビュー

◆自作『リンリンの花園』が結んだ縁


撮影監督 大塚竜治さん

― そもそも中国に行かれたのは?

大塚:もともとテレビマンで、日本でテレビ番組のディレクターをしていました。映画を作りたくて2005年に北京に渡りました。合作ではなく、自分の目でみた中国を題材にしたものを作りたいと思って行きました。2006年、自主映画『リンリンの花園』(詳細:末尾)を作ったのですが、コネもなくて・・・ せっかく作ったので中国で自主上映会を開きました。同時に、中国の映画関係者の方に作品を配りました。

― もともとリウ・ジエ監督とはお知り合いだったのですか? 撮影を引き受けるに至った経緯を教えていただけますか?

大塚:リウ・ジエ監督とは全く知り合いではありませんでした。『北京の自転車』や監督の前作のプロデューサーであるシュウ・シャオミン(徐小明)さんが『リンリンの花園』を気に入ってくださって、ちょうど監督がカメラマンを探しているらしいと推薦してくださって、初めてお会いしました。一緒に僕の作品を観てもらいました。中国に行って2年目のことで、話を貰ったのが3年目です。中国語もあまりできなくて、映画の撮影現場にも入ったことがなかったのですが、デジタルで撮りたいと依頼されました。


◆自然光にこだわるリウ・ジエ監督

― リウ・ジエ監督も撮影監督を経て監督となられた方。撮影に関してこだわりが強いと同時に、自分が撮影監督だった立場から、指示の出し方も心得ていらっしゃったのではないかと思います。

大塚:僕は正直に映画の現場で撮ったことはありませんと言ったのですが、「自分も撮影監督の経験がありますから、気にしなくていい」と言われました。『リンリンの花園』も同じメーカーのカメラで作っていたので問題ないだろうと。私自身、もともとライトをあまり使ったことがなくて、自然光を生かした撮り方をしていました。予算的なこともあってライトをあまり用意しなかったのですが、監督がOKしてくれました。でも、プロデューサーがもっと持っていけと言ってくださいました。室内でライティングしたら、「絵が綺麗すぎる、ノーライト、自然光でいこう」と言われました。ライトは太陽からの方向に補足的に使うだけでした。デジタルは綺麗に写るけれど、監督もデジタルは初めてなので暗いのも心配なわけです。大役者を使っていますし。編集でも暗くできるけれど、私は現場で調整するタイプ。結局、ちょっと明るめに撮って編集で大分調整したようです。

― デジタルというと画面がくっきりというイメージがあったのですが、あのようにざらざら感のあるものに仕上げるのには企業秘密があるのですか?

大塚:秘密的なことは全くありません。普通に自然光で撮っただけです。レフ版も使わない。光が逆だと暗くなって反射するので、監督はダメだと。暗いのは気にしていましたが、不自然なことは避けたい。『北京の自転車』のファーストカットの顔のアップも暗い。監督のこだわりですね。照明の人は心配でライトをあてた方がいいと気にしてくれましたが、結果的に落ち着いたトーンに仕上がりました。

― 刑務所も暗いのですよね?

大塚:暗いですね。古くてもう使われてない廃墟のように残っている刑務所でした。

― エキストラで出て下さった囚人の方は現役の囚人?

大塚:囚人役は元囚人の方とか、地元の町のチンピラや悪といった方たちでした。

― 顔を出してOKという方が出て下さったのですよね。逆に出演してくださった方たちから、教えられたこともあったとプレス資料にありましたが・・・

大塚:経験者だけにリアル感がありましたね。監督は素人の人にはほんとに指示を出さなかったです。主人公とは空いた時間に話していたらしくて、現場では指示しませんでしたね。


◆情緒的になるのを避けた処刑場面


撮影監督 大塚竜治さん

― 料理の場面が多かったですが、まとめて撮ったりしたのでしょうか? それとも順撮り?

大塚:場所ごとにまとめて撮りました。裁判官の家と裁判所は河北省の琢州市。刑務所はもっと遠い地方。
金持ちの家は北京市内です。裁判所から撮り始めて、一番最後が金持ちの家。処刑の場面は裁判所のある町で撮影しました。

― 処刑の場面は荒涼とした感じでしたね。監督の記憶にあのような公開処刑の場面があったのでしょうか?

大塚:それは聞いてないですが、ロケハンは監督と一緒に行きました。川があって橋の横に広い原っぱがあって、ここにしようと。川を背景にして撮るか、河原をメインにするか、どちらがいいか聞かれました。僕は水を背景にして撮れば情緒があっていいのではと答えたのですが、監督が選んだのは原っぱの方。選んだ理由は、一切、情緒的なものを省きたいということだと思います。脚本を読んだときにはドラマチックな内容でしたが・・・。 実は監督には最初、手持ちでドキュメンタリーっぽく撮ろうと言われました。手持ちで呼吸感のあるものを目指したのですが、裁判官の方の演技が物静かで気持ちを抑えているので、カメラが揺れているのが気になりました。監督も僕に言われなくても固定の方がいいとわかったようです。固定に変えたら、絵が落ち着いてきたので、その後はずっと固定で撮りました。
地方裁判所はもっとこじんまりしているのですが、黒バックの地味なところを監督は選びました。部屋も使われていない部屋の壁をグレーに塗り替えて使いました。色を塗らなくても自然でよかったのですが。監督のいうリアル感は現物をそのまま写すのではなくて、本人の中にイメージがあって、無駄なものを排除してリアルに見えるもの。川が流れていて情緒があるのは監督としては避けたかったようです。ドラマチックな話なので、盛り上がりを入れてハリウッド的になるのは嫌だったのです。撮影を始めて20日位経った時に処刑場面を撮ったので、本人の頭の中でイメージが固まっていたようです。この作品はほんとに地味で、演技も単調で、スタッフも盛り上がりのない中できついわけです。一ヶ月以上にわたる撮影中、コンスタントに気持ちを保つのが大変でした。

―リウ・ジエ監督とは、お互い力量を充分認め合いながらも、カメラマンの個性やスタンスが違うと感じましたが、いかがでしょうか。

大塚:それは当然違います。僕の個性をすべて出してくれというわけじゃないです。監督は完全にインディペンデントではなくて商業映画界と付き合いのある方。僕はジャ・ジャンクーなど第6世代の次の世代のインディペンデント映画の人たちとの付き合いが多いです。
(持参したシネマジャーナル78号に中国インディペンデント映画祭の報告記事があり、すべての監督をご存知でした。)


★大塚竜治さんご自身の作品について

― ご自身の観た中国を映画にしたい思いで北京に渡られたとのことですが、中国行きを決めた大きなきっかけはどんなことだったのでしょうか?

大塚:僕は常に、空想でなく、生活の中から生まれて来る「想像」で映像や映画をつくりたいと考えています。そのためには、時代の変化を「肌で感じる」、「体験」することがすべてだと思っています。中国は、まさに今の時代の中心であるので、自然と中国を舞台にしたものをつくりたいと思いました。

― 現在、日本のテレビ局や中国のプロダクションと契約して、どんな映像を撮っていらっしゃるのでしょうか?

大塚:現在、日本のBS12チャンネル「TwellV」の「グローバル・ビジョン」シリーズの番組を制作中です。
ウェブで映像をご覧いただくことができます。 http://www.globalvision-tv.com/

― ご自身の次の作品『馬大山』(詳細:末尾)が完成しましたら、また是非お話をお聞かせください。本日はどうもありがとうございました。


取材:景山咲子



★大塚竜治さんご自身の監督作品★

◎『リンリンの花園』

北京オリンピックの前年(2007年)、北京の郊外で撮影しました。
物語の内容とトレーラーは、www.ygpi.org に載っています。(英語と中国語のみ)

◆物語

主人公は、一人っ子の5年生の女の子・リンリン。
ある日、クラス全員で修学旅行に行くことが決まるが、リンリンは毎日朝寝坊して遅刻するので、 担任の先生が、修学旅行には連れて行かないと言い出す。
そしてリンリンは、寝坊を克服するために、一人で色々と考える・・・
テレビコマーシャルで「魔法の枕」(安眠枕のこと)を目にするが、高すぎて買ってもらえない。
さてどうする・・・ 
リンリンは、自分でつくり魔法をかける。
果たして、その結果は・・・


◆この映画をつくろうと思ったきっかけ:

2005年に北京に来た当時、北京はオリンピックに向けて新しいものがどんどんつくられ、古いものが壊されていました。市民の生活もどんどん新しくなっていきました。良き古いものを無視して・・・ どこもそうですが、発展している間は、みんな先のことしか考えません。振り返る事がない。 立ち止まって振り返ったときは、もう手遅れ。すでに無くなっている、失っている場合が多い。 子供が大人に成長したときに、過去を振り返る感覚に近いと僕は感じました。 そして思いついたのが、この話でした。

話の中で主人公が、自分の目的のために始めは新しいもの(魔法の枕)をほしがりますが、結局手に入らず、古いもの(ボロ布)で枕をつくり、自分なりの魔法をかけます。

オリンピックを迎える中国の若者達に、観てもらいたいという思いでつくりました。


◎現在準備中の映画『馬大山』について

◆物語

舞台は、東北地方の長白山の麓にある小さな村です。
すごく静かで、都会の変化とは無縁の村です。でも、今年から高速道路が建設されます。
主人公はその村で暮らす男の子です。
リンリンの話と同じように、彼(子供)の生活は、時代の変化とは無縁です。
彼はまだ時代の変化を感じていません。
自分が一番気になるのは、自分の身に起こる「ある事件」です。
彼は、その事件を直面した時に、彼は初めて「成長」ということを肌で感じます。

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