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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『婚前特急』
前田弘二監督インタビュー


3月11日夕方、インタビューの時間をいただいていたのですが、地震でお互いに会場に行き着くことができず、もうお話を伺うことはできないのではと残念に思っていました。 この度、4月1日の公開を前に再度時間を設定いただくことができました。 名古屋のシネマスコーレで行われた前田監督特集を観て、前田監督ファンとなった名古屋のシネジャスタッフ白井も、日程が変更になったお陰で同席してのインタビューとなりました。

3月25日(金)
取材:白井美紀子・景山咲子


*前田弘二監督プロフィール*

1978年鹿児島県種子島生まれ。三重県で美容師として2年半働いた後上京し、映画館でアルバイトするかたわら独学で自主映画制作を始める。05年、『女』『鵜野』がひろしま映像展2005においてグランプリと演技賞をダブル受賞。翌06年には『古奈子は男選びが悪い』が第10回水戸短編映像祭でグランプリを受賞する。08年に73分の中編となるオリジナルビデオ作品『くりいむレモン 旅のおわり』を発表。本作『婚前特急』は劇場公開作品デビュー作となる。


◆空回りするチエ役の吉高由里子さんには厳しく演出

K: 限られた人生、いろんな人と体験したほうが絶対得!という、チエの姿に若い頃の自分を見るようで楽しく拝見させていただきました。 私は結局一人を選べなくて、いまだに独身なのですが、今回の大災害で誰かに寄り添って暮らしたいとも思い始めました(笑)。 監督ご自身は、一人を絞られたのでしょうか?

監督:まだ独身です・・・

K:完成披露の舞台挨拶のときに、監督自身5人のうちの一人という経験はご自身ないけど、友達にはちょこちょこっという発言がありましたが・・・

監督:脚本家(高田亮さん)が彼氏の一人という状況を経験していたことを、後から知りました。

K: 最初は彼が7人だったのを事情あって5人にしたとのことですが、7人を5人に減らしたのは、ギャラの都合ですか?

監督:いえ、そうじゃなくて(笑)、1週間7日間日替わりで7人と考えたのですが、さすがに7人は多いかなと5人にしました。

K: それぞれがはまり役でしたが、キャスティングは、脚本段階で当て書きしながら決めたのですか?

監督:いえ、当て書きではないです。


『婚前特急』完成披露試写会 舞台挨拶
(左から)前田弘二監督、青木崇高さん、浜野謙太さん、吉高由里子さん、加瀬亮さん、榎木孝明さん、吉村卓也さん

K: 榎木孝明さんのファンで、舞台挨拶に榎木さんが出るというので取材に駆けつけたのですが、お父さん役かと思ったら、榎木さんも彼氏の一人でびっくりしました。 キャスティングの経緯を教えてください。

監督:小学生の頃観た『天と地と』など、榎木さんというと歴史物のイメージでした。ちょっとおちゃらけな榎木さんを見てみたいなぁと。榎木さん自身、ラブコメは初めてで楽しそうでした。

k:監督は種子島のご出身で、薩摩隼人という点でも、榎木さんとは相通じるものがあったでしょうか?

監督: そうですね・・・ 撮影の合間に鹿児島の話もしましたね。

K:吉高由里子さんがあるインタビューで監督が厳しかったとおっしゃっていましたが・・・。

監督:チエという役柄が、空回りしていって、すべてが上手くいかなくなる役どころ。そういう状況を作ろうと、ちょっと厳しくしたので、辛い思いをさせてしまいました。でも、彼女の持つ演技力でやり遂げてくれました。


◆チエは自分の居心地のいい場所で生きている女の子

S:地元名古屋のシネマスコーレで監督作品特集企画があり、『女』『くりぃむレモン 旅のおわり』を観てファンになりました。ファンになったのは、この『婚前特急』もそうですが、女の子を主役にしながら実は男性の心理を描いていると感じたからです。

監督:ありがとうございます。

S:一番、素晴らしいと思ったことは、最後に流れた音楽が作品にピッタリの曲で、それがまた絶妙なタイミングで入っていたので驚きました。

監督:音楽も主題歌も、いい曲を作ってくださり、ほんと助けてもらいました。そう言っていただけて嬉しいです。

S:私はもうすぐ65歳ですが、若い頃、お付き合いする男性は限られた範囲の方だけという世代だったので、頭では「今は違う」と思っていても、5人の男性と付き合っているチエってどんな女の子だろうとみる前から興味津々で、そうする彼女が特別な子のように思っていました。でも最初に、チエのアパート室内の様子を見て、普通の女の子ということがわかりました。彼女の部屋は整然とはしていませんが、使い勝手のよい部屋でした。チエらしい部屋と感じました。その一瞬でチエがわかり安心したのですが、監督はチエをどんな女の子として登場させたのでしょうか。

監督:チエは無理をしないで生きている子として考えました。勤めている会社も、大会社で下から這い上がらなくてはいけないというのではなく、クーポンマガジン誌の小さな会社という設定。小さめのところで、自分が上にいるので居心地がいい。自分の手の内に納まる場所です。 都合がいい男を選んで、都合のいい女の子。ライフスタイルとして“個”を大事にしています。

© 2011『婚前特急』フィルム・パートナーズ
© 2011『婚前特急』フィルム・パートナーズ

◆自分に関係のないところで世の中は動いていることも描きたかった

S:私としては5人の男、みんなダメ!『チエは男選びが悪い!』と言いたいです(一同笑)。でも唯一、これが本命じゃないかな?と思ったのが、チエの同じ会社の部下の男です。営業の基本もわからない部下が、チエの指導で成長しますね。 成長しつつある部下の言葉に、チエは「あら、意外な成長!」という表情が一瞬でました。そこが印象的で、本命は5人以外のこの部下!と思いつつ観ていました。5人プラス1とした理由をお聞かせください。

監督: 「この男は成長できない」と決め付けていた男が成長する姿を描いて、チエの心境に関係なく世の中は動いているということを見せられればと思いました。全く違う人生があることを見せたかったのです。彼女に都合のよいばかりの世の中ではない。チエの周りでも、知らないうちにどんどん事が進行し、変化しているということを言いたかったのです。映画の作りとしては、5人と付き合っているチエと、タナシの話の二つが同時進行しています。

K:タナシはチエと関係を持ちながら、別に好きな女性がいて追いかけていますが、今の若い人の風潮として、描いたのでしょうか?

監督:今の風潮がどういうものかはわからないのですが、多くを手に入れたいと思っているけれど、結局、一つも選べてなかったりするのは人によってはあるんじゃないかと思います。

S:主演級の加瀬亮さんの普通の男性役がとても新鮮にうつりましたが、人気の俳優さんをお使いになっても、監督さんの持ち味が変わらないので嬉しかったです。

監督:僕も加瀬亮さんと仕事ができて楽しかったです。西尾という役柄は、チエと同じく自由人。でも、距離を保っているずるさもある。ノリはいいけど、どこか冷めてる。チエとはどこか違うぞ、関係も長くは続かないのも内心感じてる、という関係です。加瀬さんは西尾の持つずるさをとてもよく演じてくださいました。

© 2011『婚前特急』フィルム・パートナーズ
© 2011『婚前特急』フィルム・パートナーズ

◆活弁映画で主演デビューし、映画って簡単に作れると勘違い

K:この映画を観て、映画の世界に興味を持ったとか、映画監督になろうと思った作品は?

監督: 小さい頃、ジャッキー・チェンの映画を観て夢中になってました。その後『霊幻道士』などのキョンシーやホラー物なども出てきて香港映画が大好きでした。ジャッキー・チェンやサモハン・キンポーなど出てくるだけでワクワクしました。

K:最初は美容師をされていましたが・・・。

監督:就活もせずに遊んでしまって、美容師になったらモテそうかなと思って(笑)、3年弱美容師として働いて、ふと、東京に行こうと美容師を辞めて東京に出てきました。映画は好きだったけど、映画監督になろうと思ったわけじゃなかったです。アルバイトしなくちゃと、新宿TSUTAYAでバイトしていたのですが、同僚に活弁映画を自主制作で撮っている山田広野さんがいて、「明日撮影するから出てくれないか」と言われて、こういう格好で来てと。翌日行ったら、僕を主役に撮ると。しかも出演者は僕一人。「いつ上映するのですか?」と聞いたら、「今日」と。リリー・フランキーさんのトークイベントで上映されました。こんなに映画って簡単にできるの?という勘違いをしてしまったんです。でも、監督には向かないと思ってました。仕切ったりすることはできないので、脚本を勉強しようと。その頃知り合ったのが『婚前特急』で出来の悪い後輩役で出ている宇野祥平さんで、僕と同じ年なのですが、彼に「俺主演で撮ったら?」と言われて映画を作り始めたのです。『鵜野』『女』『ラーメン』などの初期の作品や、『くりいむレモン 旅のおわり』など、よく僕の作品に出ています。

S:監督の才能があるなと感じた瞬間は?

監督:自分が面白い!と思うものを撮って、つまらなかったら諦めようとずっと思ってました。欲だけで撮ってます。ただ自分がやろうとすることに飽きてしまう。次は違うものをと思ったら、結局似てる。自分のスタイルを壊したいなと。その延長線上で作っています。


◆次回作は喜劇を。 『結婚特急途中下車』もあり?


K:次はどんな作品を?

監督:喜劇をやってみたいと思ってます。

S:私は『婚前特急』の続編『結婚特急途中下車』とか『乗り換え』など楽しいなと勝手に想像していますが、監督独自のエロスを大切になさり、映画を作り続けて下さい。

監督:ありがとうございます。あっ、4月には名古屋でまた僕の特集をシネマスコーレで上映いたしますから、是非来て下さい。




★★★☆☆☆★★★☆☆☆★★★

*取材を終えて*

 インタビューは短い時間でしたが、前田監督に私たち2人はたくさんおしゃべりさせていただきました。
メモが間に合わないくらいでした。後からネットで調べましたら、名古屋駅西シネマスコーレで4月16日(土曜)~22日(金)のレイトショーで、初期傑作9作品が日替わりで上映されます。16日には前田監督の舞台挨拶もあります。もう絶対行きます!そして前田ワールドに浸ります。(S)


 【ネタバレ注意】 チエがほんとの相手を探そうと5人のメリット・デメリットを書き出した時、デメリットだらけで、メリット「楽」なだけと書いたところで、私は浜野さん演じる不細工なタクミと結婚するのでは?と思いました。このことも監督に伺ってみたら、最初の方で少し種明かししておこうと思ったのだそうです。憧れの人と一緒にいれるのも嬉しいけれど、いつも気取っていなくちゃいけないのはしんどい。自分が素顔でいれる人と一緒にいるのが居心地がいいのだなぁ~と思うけれど、時すでに遅し!(K)



© 2011『婚前特急』フィルム・パートナーズ
© 2011『婚前特急』フィルム・パートナーズ

『婚前特急』 作品紹介 → http://www.cinemajournal.net/review/index.html#konzen_tokkyu

★4月1日(金)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国ロードショー
公式 HP >> http://konzentokkyu.com/

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