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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『大韓民国1%』
公開初日 舞台挨拶 & 主演俳優インタビュー

<2011年3月5日 公開初日 舞台挨拶>

3月5日(土曜日)に日本公開初日を迎え、出演俳優5人と製作会社スタッフも揃って来日し、<シネマート新宿>で舞台挨拶が行われた。冒頭の挨拶では全員が日本語で「お会いできて嬉しい」と盛り上げた。自分の兵役でも女性の上官がいた経験談や、この映画のために受けた訓練と過酷な撮影での苦労がひとりひとりから披露されたが、皆明るく楽しそうに語られた。作品からは、そのチームワークの良さと、作品への意欲がひしひしと感じられる。最後に主演のイ・アイによる軍隊式掛け声のもと、登壇者全員で 「必勝!」と敬礼し、ヒット祈願をすると、会場を埋めた観客から大きな拍手が巻き起こった。


左より、チェ・ウジュン、キム・ミンギ、ソン・ビョンホ、イ・アイ、キム・ソクウォン

舞台挨拶の質疑応答の詳細は公式HPでレポートされています。
公式HP >> http://yaplog.jp/rokmc/archive/6



舞台から降りてきても熱気が冷めやらないまま、キャスト全員で「ファイティン!」のポーズ。スタッフとキャストがとても和気藹々ト家族的な雰囲気で、仲が良く、強いチームワークで全力を出しきった撮影が想像できる。

ヒロインの上官役を演じたソン・ビョンホさんは、困難で過酷な撮影現場でも常にムードメーカーとしてキャストとスタッフを励まし、雰囲気を盛り上げていた、と誰の口からも語られた。(故)つかこうへい氏の芝居に衝撃を受けて演劇の世界に入り、その後もつか氏演出の舞台に参加するなど大きく影響され、励まされたからここまでやってこれた、と語る。

この作品が日本で公開されることに対して、「世界の各地でいろいろな政治的な事件が起こっているが、どれも究極的には一人一人の人間の欲望が引き起こしていること。この映画も仲間や家族を思う感情に注目してご覧になり、共感してくだされば嬉しい」また「こうして自分の作品が外国の観客に観てもらえることは、俳優としてひとりの人間として、誇らしく意味のあることだ」と語った。

(取材/文 :祥)


監督:チョ・ミョンナム『大胆な家族』 企画・製作:カン・ムンソク(姜 文錫)
プロデューサー:パク・ミジョン、キム・ソンフン
脚本:チョ・マンベ、ユン・ホンギ、ジョン・デソン
出演:イ・アイ、ソン・ビョンホ、イム・ウォンヒ、キム・ミンギ
2010年/韓国/103分/韓国語/35mm/カラー/シネマスコープ/SRD/原題:대한민국1%
製作:思い出の蝉 提供:ロッテシネマ 配給:アルシネテラン

4月から5月にかけて、名古屋、秋田、京都、九州と順次公開されます。
詳細は公式HPの劇場情報をご参照ください。

公式HP >> http://www.alcine-terran.com/rok/
作品紹介 >> http://www.cinemajournal.net/review/2011/index.html#daikanminkoku


<『大韓民国1%』 主演俳優インタビュー(1) イ・アイさん>


日本公開に先駆けて、東京在住の主演のイ・アイさんにお話を伺った。日本への留学が8年目というイ・アイさんはすべての質問に流暢な日本語で答えてくださった。

Q: 役作りのために、実際に厳しい軍隊の訓練に参加し女性軍人と生活を共にした経験はいかがでしたか?

A : 厳しい訓練で限界を感じないとリアルな演技ができないと考えました。女性の場合は徴兵でなく志願ですので、自ら軍人になって国を守りたいという気持ちが本当にすばらしいと思いました。

Q: 最近の北朝鮮との緊張状態についてどうお考えでしょうか?

A: 昨年の5月に潜水艦が沈没した事件のときは、ちょうど作品公開中の時期が重なっていたので本当に驚きました。私も海兵隊の訓練の厳しさを体験して理解していたので、国のためにがんばって尽くしていた若い軍人が亡くなったことはとてもかわいそうで残念だと思いました。北とは、いつか一つの国になれるといいと思っています。

Q: アメリカ海兵隊を追ったドキュメンタリー(注:藤本幸久監督『ONE SHOT ONE KILL』)で、人を殺すことを何とも思わない人格を作り出す訓練が描かれていたのを見たことがありますが、韓国でもそういった精神訓練をするのですか?

A: 1週間何も食べない寝ないトイレにも行けない、という訓練があると聞いています。追い詰められた厳しい状況を作らないと、国を守る精神が鍛えられないのかなと思いました。

Q: 映画の中でも特徴的だった軍隊独特の発声は何か特別な練習をなさいましたか?

A: 私は弱くやさしい声の持ち主なので、不安だったのですが、軍隊で訓練を受けるとすぐにできるようになりました。軍人の声を録音して繰り返し聞いて練習しました。

Q: 韓国で大勢の観客に愛されましたが、観客からの感想で嬉しかったことはどんなことでしたか?

A: 一緒に訓練に参加してくれた女性軍人に「ありがとう」と言われたことです。映画を観たお母様からその方に「今まで大変だったね」と泣きながら電話がかかってきて、とても嬉しかったそうです。その方は母親に軍人という職業につくことを反対されていたがこの映画のおかげで国のためにがんばっていることを理解され母娘の距離を縮めることができたそうです。この作品に出演できて良かったと思えた瞬間でした。(この答えには質問した自分も涙した。)

Q: 映画の中で男女の差別や男性からの女性の成功に対する嫉妬が描かれていましたが、同じような経験はありますか?

A: 私にはそういった経験が無かったので、演技するにあたって少し悩みました。映画を通して、男女の差別について真剣に考えるようになりました。


Q: 韓国ではさまざまな分野への女性の進出や活躍がめざましいですね。学歴社会で芸能人のプロフィールにも必ず出身大学が明記されているし、大学院卒も珍しくないです。イ・アイさんも女優として活躍している今も日本の大学院で学び続けていらっしゃいますね。

A: 学歴そのものは芸能界で大切だとは思いませんが、幅広く学ぶことがとても大事だと考えます。演技生活でいつどんな役が私に来るかわからないし、その役で満足できなかったら自分を発展させていかなくてはいけないことを監督から教えていただきました

Q: 韓国での女性監督の活躍や、女優中心に描かれた作品の増加についてはどうお考えですか?

A: 普通は男性の俳優が中心で女性は飾り物のことが多いのですが、女性を綺麗にみせるだけでなく、女性の感情を描く作品が増えてきました。本作もシナリオをみて女性中心で物語が展開していくのが新鮮だなと思いました。日本の『かもめ食堂』のような女性目線で感情を描く映画が韓国でも増えたら良いと思います。

Q: 映画やドラマの中で、よく「先輩」という言葉が出てきますが、韓国社会では、先輩後輩の関係はどういう意味がありますか? また、尊敬する先輩はいますか?

A: 映画界でも大事なことです。また年齢ではなく芸暦での先輩後輩関係が重視されます。目標にしたい先輩は、役になりきって演じ、画面で役そのものに見えてしまうチョン・ドヨンさんです。

Q: 共演者とのエピソードを教えてください。

A: ソン・ビョンホ先輩とはもともと知り合いで、前はいろいろ教えてくださったのに撮影に入ると何も話してくれなくなりました。それは私を信じてくださっているからだと思えて自信を持って演技できました。演技派のソン・ビョンホ先輩は目の演技がすごいんです。ある時、一生懸命真似をして目力だけで演技をしてみましたが、監督にはそうは見えなかったようで「演技をしなきゃだめじゃないか」と言われてがっかりしたこともあります(笑) イム・ウォン二先輩は本当にシャイな方で、親しくなるのに時間はかかりましたが、カメラワークの話など教えてもらって勉強になりました。厳しい撮影にも弱音を吐かずにいらして、すごいなと思いました。

Q: 日本の観客へのメッセージをお願いします。

A: この映画は軍隊を舞台にした映画で、感動やアクションなどが詰まっているので、気楽に観て欲しいです。厳しい状況にありながら、一つ一つ苦労を乗り越えていくイ・ユミを見て、勇気を持ってくれたらいいなと思います。また、国のために働き、国を守ってくれている人達を知り、あらためて国を守ることを考える機会となってほしいです。


<インタビューを終えて>

八頭身のスタイル、透き通るような肌、と姿が美しいのに加えて、隣国との緊張状態などの微妙な質問にも、ニュアンスを正しく感じ取って真摯に向き合う聡明さを兼ね備えた女性だ。実際に軍隊の過酷な訓練にも参加し、本格的に準備したすべてがリアリティ溢れる演技となって観客を感動させ、数多くの国内映画賞で新人賞にノミネートされた。これからも多くの幅広い作品での活躍を期待する。

取材:景山咲子・祥(まとめ・文)


<『大韓民国1%』 主演俳優インタビュー(2) ソン・ビョンホさん>


2010年8月、ソン・ビョンホさんを新作映画『私はパパだ』(2011年4月14日韓国公開)の撮影現場に訪ねた。『大韓民国1%』は、当時まだ日本公開が決定していなかったが、昨年の夏に韓国でヒット上映されていた。 素のご本人は、シリアスな上官役が想像できないくらい明るく愉快な方だ。


Q: ご自身の兵役体験ついて聞かせてください。

A: もちろん軍隊の経験があり、ありがたいことにその間にさまざまな出来事もありました。海兵隊と一般の歩兵とは全く違います。当時は俳優や歌手はムンソンデェ(文化宣伝隊)というところに所属され、僕が兵長の時に女軍隊創立30周年を記念する演劇の演出依頼が来ました。シナリオを書いて 練習させるため女性軍人と1ヶ月くらい生活しました。外見は強く見えますが、実際はそうではなく心弱い人もいましたし、厳しい生活が可哀そうでした。女性軍隊のおかげで特別な経験ができて幸運でした。

Q: 演技派の俳優として、悪役から優しくコミカルな役柄まで幅広く演じていらっしゃいますが、ご本人が選んでいるのですか?

A: 俳優は、誰かに選択される職業だと思っています。私のあるイメージを必要としてキャスティングされるわけですが、僕なりに分析して違う点を探します。それが面白かったり怖かったりと観客は言ってくれてありがたいですね。監督達には彼ならどんな役を任せても大丈夫だという信頼を与えたいです。(と毎回の作品で違うイメージ作りに意欲的だ。)

Q: 『大韓民国1%』での役どころは?

A: ご存知のとおり北朝鮮と対立している設定であり、訓練中にチームが北朝鮮の島に漂着してしまいます。過去の出来事を引きずりながら、一人が犠牲になれば部下を救い出すことができるという難しい状況下の上官を演じます。

Q: 大変残念なことに、チョ・ミョンナム監督は、公開を待たず編集作業中にご病気で故人となってしまわれましたが、どのようなメッセージを残されましたか?

A: 監督はとても静かなカリスマの持ち主でした。ある日監督がおっしゃいました。「私が大韓民国のために何ができるかを考えてこの作品を撮った。一国民として自分の国である韓国のために何ができるかを国民にもう一度考えてもらいたかった」 そして強調されたのは、「自分より韓国というチームの一員として他人を配慮し愛することが必要だ」というメッセージです。



<インタビューを終えて>

元々は舞台畑の人である。 今も演劇集団ZIZを主催し、演出家でもある。『正しく生きよう』や『美しき野獣』などの強烈なカリスマ溢れるやくざの親分のような悪役が印象的だが、最近日本の映画祭などで上映された『飛べ、ペンギン』の課長や『グッド・バッド・ウィアード』のアヘン商人などのコミカルで軽快な役柄がご本人の雰囲気に近い。『大韓民国1%』で演じたシリアスで厳しいが情にあふれる父親のような上官役は新鮮だ。 その他『光州5・18』『大統領の理髪師』『TUBE』『木浦は港だ』などの映画でも重要な役を演じ、最近のケーブルTVのアクション史劇「夜叉」では、極悪非道な役柄でありながら、21歳下の女優と夫婦役でメロドラマを演じるなど、幅広い演技をこなす目を離せない俳優だ。

いつも現場の緊張をほぐし良い演技のできる雰囲気を作ってくれるユーモア溢れるムードメーカーであるとの評判については、「人に会えば、一時間でも一日でも愉快で楽しい時間を過ごし、会った人々が幸せだったらよいと考えています。」といつも自然体で考えていらっしゃる。これからも多くの作品でお会いしたい。

(取材/文 :祥)

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