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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

2009年12月24日
『誘拐ラプソディ』榊英雄監督インタビュー

編:前回の『ぼくのおばあちゃん』は、原作を大きくふくらませた感じですよね。今回は荻原浩さんの原作にかなり忠実だなあと思いました。

監督:今回はできるだけ原作に沿って忠実にやろうとしながらも、ページ数が大きいので、そこから映画の尺に合わせてオミットしていく作業をしました。

編:それは脚本の方と監督とで・・・皆さんで削って、造っていったと。お話の始まりはいつごろどこからきたんですか?

監督:2008年の10月位に、まあ、僕が元々荻原さんのファンで、色々読んでいる中でこれは面白いなあと。同時に『ぼくのおばあちゃん』の方もひと段落した事もあって、次回作を含め何か動きたいなあというところで、ある人の紹介で「角川映画さんに持っていったらどうですか?」って話をいただいて、今回プロデューサーの杉崎さんとお会いして、この企画でやりたいんですけどっていうところからです。それで興味を持っていただいて、では、すぐやりましょうというところがあって・・・。脚本作りは同時に動いてましたね。それから12月1月位から脚本の直しが入りながら、クランクイン直前の3月中旬までかかってました。

編:で、3月には撮影開始ですか?

監督:4月7日インでした。案外、企画してインするまでが、予想以上にスピーディで早くいきましたね。

編:冒頭に桜が出てきますよね? その桜のある季節に合わせたんですよね?

監督:あれ、買って植えるだけで大変なんです。何百万もかかるんですよ(笑)

編:やっぱり桜が出る映画は大変ですね。時期短いですし。

監督:大変です。なおかつ、そこに咲くとは限らないし、風が吹いたら終わり、特に満開なんて続かないですが、僕らの時は奇跡的に3日満開が続いたんですよ。映画のスタッフ、カメラマン全員が「今までこんなに桜が持ったのがなかったから、良かったね」って。秩父の丘の上の公園で幸先よく撮影がスタートできました。

編:大事なシーンですものね。原作もあそこから始まっていましたよね。

監督:あれは大事です。映画のオープニングもあそこだと思っていて。ただ、桜と丘があるという公園がなかなか埼玉に無かったんですよ。それで、荻原先生に聞いたら「ごめん、あれは無いんだ。いいよ~、無理にしなくて」って。でもそこは我々映画人なんで、先生に「ちょっと後ろに山が見えてもいいですか」、先生は「全然気にしないからいいよ」と。 "大宮に捧げる"っていう文が原作にあるくらいだから、当然ロケーションも大宮を中心にしながら、だいたい埼玉で。あとは、千葉、都内が2割。それは、原作が好きな以上、できる限りそこに肉薄するっていう事が僕らの役目だと思っていたので。だから、オープニングは絶対桜があるところって思っていました。

編:なるほど~。原作に惹かれたところは?

監督:僕は単純に、ドタバタがあって、笑えて、泣けて、全て喜怒哀楽が入ってる中に、最後に親子っていう、また『ぼくのおばあちゃん』に戻りますけど、また家族の付き合いに戻るっていうところが大好きだったんですね。特に今回は、父と子なので。そこらへんが、アメリカ映画的でいいなあと。日本ってどうしても親子の話っていうと母と子が多くて、父と子はあんまり無いような気がするので。今年(2009年)の1月に僕の父が死んだんです。それが企画の途中だったので、余計にそこから火がつきましたね。確実にこの映画を成立させたいなと思って。(父の死が)映画の推進力になったのは事実ですね。父と子の話だから。僕はこれ是非撮りたいなと思っていましたし、周りのスタッフにも伝えてました。
企画もなかなか予算や時間も無い中、どうする?どうする?っていう駆け引きがあり、一年後の桜を見上げましょうっていうのが映画のスパンだったんですけど、僕は2009年の4月に撮らなければ意味がないっていうところでやったんですよね。で、結果的に良かったですよ。父と子が描けたし。僕にとってもひとつのきっかけとして、一段落できましたし。ちょうど父の一周忌も終わったばかりです。
原作に全くないところで、ラストの台詞付け加えてるんです。なおかつ撮影の日の朝に、追加の台詞を出したんです。秀吉が伝助に向かって別れる時に、「伝助、目の前にいる人といっぱい話せ。いっぱい反抗しろ。いっぱい抱きしめてもらえ」「おじさんと?」「ううん、パパだよ。男だろ、しっかりしろ」って。朝、風呂入りながら、何か足りない、何かやりたいと思ったんですよね。僕の当時の気持ちとして。で、プロデューサーに了承を得た上で、脚本の方と協議をして、現場で手書きしたのをコピーして配って、これをどうしても撮りたいからって。
目の前にいるのに、親子の会話って少なくなってるじゃないですか。家族も。そういうところ秀吉のバックグラウンドとして合ってるんですね。お父さんが暴れん坊で、弟が死んでいたりとか。原作的には、家庭のバックグラウンドが良くない時期に育った秀吉が成長して、あえて言うなら、父に対するメッセージとして、あれを付け加えたんですよね。僕の切なる思いですね。
初め、克典さんも、「説明、台詞的に多いんじゃない?」って言ったんですね。でも、僕はあそこで言うのが大事だと思って、「もうこれは申し訳ないけど、言って下さい」と言って、撮ってもらいました。 言わないとわからない時と、言わなくてもわかる時ってあるじゃないですか。僕は、そこの判断が難しいのが映画だと思うんですけど。他で秀吉はなんとなく立ってるんですけど、あそこだけは子供に向かって目線を合わせて言っているんです。
本当は、河川敷の近くにも桜があれば良かったんですけど、4月末でもうなかったし、桜を植えることも出来ないし、まあする必要もなかったんで、桜の花びらはどこからか飛んでくるでしょうと。最後は原作に近いものにしましたけど・・・

編:あのお話は、2泊3日位の子供の小旅行ですよね。

監督:そうですね、2泊3日。小さな冒険旅行なんですよね。あと、あれはロードムービーでもあるじゃないですか。かと言って、実景は撮ってないんだよね。実景とか俯瞰の車が走るシーンとかないんですよ。カーチェイスのシーン位で逃げて走るところ以外は。あの、いっぱい撮ったんですけど・・・。

編:入れなかった?

監督:入らなかったんです(笑)。そんなところで入れる必要ないって。どんどんストーリーを展開させていった。娯楽作品だからっていうのもあったし。
何かねえ、僕は心配性なので限りある時間の中で色々撮ったんですけど、編集してみるとそこは杞憂に終わったんですよね。単純にあの二人がいるだけで成立することが多かったし。二人を撮る時にたまたま風景が入っていればそれが見えるだけであって、作家が意図して見せたいというところでは使わなかったです。だから小さなロードムービー、半径10キロ以内の小旅行で面白かったです。

編:乗り物がいっぱい出てきますね。これは子供とお父さんが観ても面白いだろうなと思って観てたんです。ちょうどあの主人公位の子が観たらいいなぁ。お父さんは尊敬する対象であり、好きだけどなんだか恐いっていうのと、あれすごく気持ちがわかるだろうなって。

監督:そう思ってもらえると嬉しいですね。観てもらう方に。
やっぱり、娯楽ですから、家族が観てくれることは一番嬉しいじゃないですか。その中でわかる情報を、お父さんだったらお父さん、子供だったら子供がわかるものを選び取ってもらった上で、最終的にゴールまで行ければ、僕はいい映画だったなって思うんですけど。そういう意味では、子供があれを観て、何を楽しめるのか、逆に聞いてみたいですね。

編:お父さんが言いたいだろう言葉がいっぱい出てきてました。言ってもらえて嬉しいんじゃないかなって思ったんですけど。父親は息子になかなか口に出して言いませんよね。

監督:僕も、経験ありますよ、誰しも。話すことがないまま、別れていくことが多いと思うので。結構そういう会話的なものは無いですよね。
だから、最後に秀吉が代役として、親父がここにいるのに伝助にちゃんとメッセージを伝えますよね。その上で、最後はキャッチしたボールを"本当はあなたがやるんですよ"って、父親にパス。それが最後のメッセージだったから。

編:試写を観てから原作を探して読んだんですけど、そうしたらキャストがあまりにもピッタリで。

監督:本当ですか? 嬉しいなあ。

編:どうやって決めていったんだろうと思ったんです。まず誰から決まっていったんですか?


『誘拐ラプソディ』榊英雄監督

監督:企画的には主役です、もちろん。高橋克典さん。同時に、桜田の役は、菅田さんに絶対やらせたい、どういう事があっても菅田さんをと。だから、克典さんと菅田さんのスケジュールを考えました。そこに哀川さんの篠宮。ああいう風格がある人誰かなって時に、哀川さんの名前が挙がって引き受けていただき、他の木下ほうかさんとか、寺島進さんとか、元々やっていただきたい役の中で、日数が合うとかというところで上手く先輩方に選んでいただいたんです。
その中で、どうしてもキャラクターが多すぎるとなって、岸田という役は、二人分の役を足して割ったんです。役がひとつ減って予算的にもいい。それが押尾学のやった役です。結果的には僕がやったんですけど。それは原作から切っていったところです。克典さんを主役に決めて、翔さん決まった。同時になかなか見つからなかった子役を決めた。YOUさんは初めから決め打ちです。ああいうのをYOUさんにやって欲しいと。だいたい前回と同じように、プロデューサーにキャスティングをこういう風にしたいと自分の意思を伝えて頑張っていただきました。

編:やっぱり最後は子役でしたか?

監督:もう確実にギリギリですよ。ほぼリハーサルも出来ない状況で、凄く頑張ってくれたと思いますよ。

編:どこから見つけられたんですか?

監督:オーディションです。

編:オーディションですか。あの子は何かに出てましたでしょうか?

監督:いや、無名で、ずっと落ち続けて悔しい思いをしてたんですって。
何度も何度もやると、どんどん子供って精度が下がってくるんです。だけど、彼だけどんどん伸びてくるんです。ああ、こうやってやってくれる子がいいなあと思って、どんどん愛情が湧いてくるんです。他に候補がいたんですけど、何かこの子を撮りたいって思って、最終的には林遼威(はやし ろい)くんに決めたんです。

編:ロイって読むんですか。芸名ですか?

監督:いや本名です。『ぼくのおばあちゃん』の伊澤柾樹くんと同じテアトルアカデミーです。同じ担当マネージャーで。伊澤くんは『JIN』で頑張ってますね。あの子天才だなーって思いました。

編:ろいくんは段々良くなるっていうか・・・二人の関係がどんどん近くなっていくごとに、凄くいい顔になっていって、やあ良いなあ、この子って思って観ていたんです。だから最後のほうホロホロしちゃいました。

監督:あっ、嬉しいです。

編:今まで見たことない子だったのでどこから見つけてきたんだろうって。

監督:ほぼ出てないですね。辞めようかなあっていう時のオーディションだったので、もっともっと伸びて欲しいですよね。

編:笑い声がいいですよね。可愛くて。全然不自然じゃなく笑うんですよね。

監督:そうなんです。あれはなかなか出来ないと思うんです。

編:だから克典さんとの関係も、きっと凄く上手くいったんだろうなって思ったんですけど。
実際にお父さんですよね、克典さん。どんな風にしてああいう関係を創っていったんですか。

監督:どうでしょうね。カメラの前の役者さんの問題なので、ある程度できる限り順撮りにスケジュールを組んでもらって、当然、ファーストシーンは初日ですね。で、理解がある子だったので、初めはそういう感じでやろうぜって。僕は、子供も大人も関係ないんで、いち俳優として指導してやっていただく。結局ずっと克典さんの傍に居ることが多いので、自然に現場の待ちの間に慣れてくるので、それがラストに向かって、スーっといけたんじゃないですか?

編:やはり順撮りだったんですね。

監督:だいたい順撮りですね。その中で「ここはこういうところ」って説明する事は、当然僕の役目としながらも、林くんもきちんと考えてきたし、ああいう笑いとかも、本当に彼の天衣無縫さがあるし、演出らしい演出はそうないですよ。あの声も。最後の泣くのも。
「ろい、ごめん。監督はおまえの涙が欲しいと思うんだけど。そこは精一杯やってみて。でも泣けないからダメなことはない。ただ俺はこういう時はなんか寂しいんだよね。なんかもうおじさんと会えないと思うと、俺泣くと思うんだけど」って言ったら、「わかりました」って。2テイクやりました。

編:わかりましたって、やるんですか。凄いですね。いくつですか、彼。

監督:当時6歳かな。最後の泣くところで、鼻がキュッて鳴るんですよ。よく見るとわかるんですけど。あそこの音は、絶対消したくなかったんですよね。どうしても。それが、僕が一番グッとくるところだったんですけど。そこは音楽を無くしてもらって、尚且つ音も少なくして、目立つようにしたんですけど。本当に単純に鼻をすいすぎて、鼻がくっついて、それがキュッて鳴るんですけど、あれが僕のお薦めなんです(笑)。僕にしかわからなくてもいいんです(笑)。「何故そんなに監督熱弁してるの?」って言われましたけど。皆、「あっ、この音ですか」っていう位、微妙な音なんですけど。そこなんですよね~

編:これって最後の最後だから、書かないほうがいいんですか?

監督:どうでしょう(笑)。でも、ろいの奇跡的な芝居観てもらえば。
そういう意味では、彼は台詞をしっかり覚えてきた。僕も付け加える事が多いのに、そこにしっかりついてくるし、そこに解釈も持ってくるし。だから途中から面白かったですよ。「監督、僕、こうやって考えてるんですけど」てね。何度も泣かせましたしね。

編:そうですか。根性あるんですね。

監督:ええありますよ。ずっとオーディション落ち続けてたんでね。その初の大役というか。

編:そうですよね。あの子がいないとまわらないですよね。

監督:まわらない。本当の主役は彼ですからね。そこに克典さんが扮する秀吉がどういるかってことなので。子供に嫌悪感持たれたり、興味が持たれなくなったら、この映画終わりですから。それは大変だったと思いますよ、オーディションで。

編:原作には、もっとたくさんエピソードがありますよね。香港マフィアみたいのが出てきたり。

監督:途中まで思ってたんですけど、あまりにも漫画チックになってしまうので、切っちゃいました。その代わりに、岸田チームがああいう風に裏切りを考えてやるっていう事に切り替えて、デッドヒートをやりました。

編:克典さんの秀吉が最初のうち金づるが出来て、金儲けが出来そうだと喜んでいたところに、ひょっとしたら、これはヤバイんじゃないかって気がついた時に態度が変わってきますよね。それがとっても面白くてですね。

監督:ああ、嬉しいですね。

編:子供は最初から全然スタンスが変わらないのに、大人のほうがどんどん変わっていって、ビビッたり付いたり離れたり。それがとっても面白くって。いいなと思いましたね。

監督:ああ、嬉しい。

編:今回、120分ちゃんと切ってましたね(笑)。

監督:やっと切りました、3作目で(笑)。これでもちょっと延ばした方なんですけどね。でも良かったです。111分。いや、角川の方には、110分切りますからって言ってたんですけど、1分伸びました(笑)。

編:でも過不足ないっていうか。原作読んだせいもあるかもしれないけど、ああこれで充分なんじゃないかなって思いましたね。

監督:すっごい嬉しいですね、そう言ってもらえるのは。『ぼくのおばあちゃん』と同じ編集の清野英樹なんですよ。清野と話して、今回は切ろうと。愛情あっても、切るって事覚えないと、僕ら成長しないって。
あとわがままな監督であるかもしれないけど、3本目までは彼とやりたいと絶対決めていたので。プロダクションにもプロデューサーにも角川、製作側にも伝えて。それは、4本目、5本目と続けてもいいんですけど、今回は我々切りますからっ絶対って、そこはちゃんと聞く耳もあるし、ちゃんとやりますから、彼にさせてくださいってお願いしてやったんです。でも清野が切ったら98分なんです。「短すぎないか、逆に」って(笑)。ここ欲しい、ここもってやっていくとやはり、100分110分位になってくるんですよ。だから98分ていうと、ストーリーを追ってるだけ。「でも監督切るって言ったじゃないですか」「そこに、お前愛情はないのか」って大ゲンカして(笑)。

編:その愛情あって戻したシーンはどこですか?

監督:えーと、シゲさん(笹野高史)のシーンをバッサリ切ってたんです。それと、お金のくだりもアクションもだいぶ短くなってたりとか。あとラストに至るまでの、船越さん演じる刑事とかバンバン切ってました。船越さんいなくなっちゃうんですよ。

編:あっ、そうですか。あれは面白かったですよ。刑事の息子っていうのは出来すぎかなって思いましたけど。

監督:あれは原作ですからね。だからこれはもうしょうがないんです。あっ、これ言いましたっけ。双子だったんです、あの子。

編:あっ、同じ苗字の名前がエンドロールにありました。

監督:これスーパーエピソードですよ。あの子撮影中じゃなく学校でけがしたんです。で、「どうしよう~。ちょっとでしょ?」って思ったらすごく腫れていて、カメラマンも無理だって。そうしたら、ラインプロデューサーがニヤって笑って「監督、悪運がいいですよね」「何言ってるんですか、こんな時に」「彼、双子ですよ」って。

一同:爆笑

監督:「うわ~!」って。

編:スタントマン付みたいなものですね。

監督:「もちろん待機させてますから」って。そういえばオーディションの時に、「監督、何かあっても双子ですから大丈夫です」「またそんな事言って、そんな事あったら困るじゃないですか」って言ってたんですよ。3、4日目のけがだったんですが、双子の彼がいて。奇跡的!
天然ボケのクボタ兄弟、最高でしたよ。あの下手な感じがいいんです。

編:踊ってましたね~

監督:美保純さん(黒崎刑事夫人)も楽しくやってましたし。

編:美保さんちょっとしか出ないのにいいですよね。笑いながら怒っているという。船越さんは愛妻家だけど恐妻家の黒崎刑事という設定でなかなか面白かったですね。

監督:ダーンと冷蔵庫叩いてね。あのシーン、3人がいるところを撮りたかったんですけど、スケジュールがどうしても合わなかったんですよ。合わないっていうのは最初からわかってるから、そこでシーンを創れなくて切っちゃったんです。警察庁で男2人がトイレにいるじゃないですか。あれの代わりに、家で待機している黒崎にして、そこに電話があって「出なきゃいけない仕事だから」「え~~」とかいう設定だったんですけど、どうしても美保さんと船越さんの日程が合わなくて。じゃあ切り替えて、最初に戻して原作通り、あのシーンでいきましょうと。

編:そして出世欲の塊の刑事、山本浩司さん。

監督:んー、面白かったですねえ。

編:面白かったですね。いつもクセのある役で。

監督:もうちょっと、撮ってあげたかったですね。さすがにもう時間的に難しかったですね。これ以上撮ると。

編:皆さん、売れっ子の俳優さんで、お忙しい人ばっかりだなあ、よく揃ったなあと思って。

監督:素晴しい人たちです、皆。ベンガルさん、角替さんの東京乾電池コンビ、最高でしたよね。

一同:(笑)

監督:もう僕緊張してたんですよ。あれ前半長まわしだったんで。あの船越さんと終わるまでは。あの狭い中であれこれあれこれやってもらって。でも演劇人なんで、そういうのが好きだって言って。楽しかったみたいで、嬉しかったですよ。角替さんなんて、徐々に話しながらどんどん近づいてくる設定にしたいって言うと、あまりにも近すぎると、感覚がおかしいので、そこのバランスが、角替さん、動いている感じにしてくださいって言って、だいたいあれ同じ位置なんですね。ようは船越さんが寄ってくる、だからさあ、だからさあって、後半は動いてないんですよ。でも、そう見えるっていうのは流石だなって思うし。そういうところで角替さんのキャラクターもちょっとしかない分、立てたいなあと思ったし、そこらへんはやっぱ、プロですよね、即興でずっと舞台作ってきたチームだから。花粉症の設定にしましょうとか、そういうのも面白かったですね。

編:原作は7~8年前の設定なので、携帯やパソコンが今と全く違いますね。あれを今の設定にするのが大変だろうなと思いました。

監督:その通りです!本当大変でした。それが最大の難点だったんですけど、結果的にリカバーできましたね。原作者の荻原先生が観て、よくぞあの携帯のあそこをやってくれましたって。それはやっぱり演出の力でもあり、脚本家の力でもあり、皆で会議をして、リサーチをして、過不足ない設定が出来たのが大きかったですね。

編:やっぱりそうなんですね。ものすごい進歩ですもんね。

監督:圧倒的に違いますね、昔と。わずか3年前でも携帯違いますもんね。GPS機能が付いてるとか。

編:そうですよね、半径100メートルしか把握できなかったのが、もうここって。

監督:ピンホイントです。だから、電源を切る切らないというシンプルなのに戻した方がいいって、腹くくったんですよね。子供用の携帯じゃなく、親の携帯だからこそ余計にいいんです。設定としては。

編:子役は2人ですよね。

監督:まあ、3人ですけど(笑)、登場人物は2人です。

編:その根性のある男の子ろい君ですが、監督が指示したより良くなったとか、指示しないのに良かったとかそういうシーンってありますか。

監督:あの~、ろいに関しては、笑い、あのオープニングで「いい子にしないとただじゃおかないぞ」「だっておじさん、そんな風に見えないんだけど。ククク・・・」って笑う時が、あれはカメラマンが絶句するくらい、いいねってところなんですね。彼で良かったなって瞬間です。それと、夜に車で飯食ってやるあの長まわし、あそこはよくぞやってくれましたね。なんかねえ、大変なシーンだったと思うんですね、子供ながら。でも、ちゃんと正座をしたり、段取りもしてくれて。あと、あくびと寝のタイミングもちょっとダブル時にやってくれって。

編:さっき二人で、どこが良かった?って話になって、彼女はその夜の星見ながら寝るシーンって言って、私は、最後のキャッチボールをしながらやり取りをするシーンって。ちょうど監督が狙ったところですね。

監督:うーん、良かったです。嬉しいですね。なんかね、前半は早すぎるくらい結構二人のすっとしたシーンになってるんで、あんまり長くしちゃいけないと思いながらも、そこは堂々と撮りたかったんですよ。やっぱりしっとり流れていって、寝かせるところまで切りたくないって言って。で、最初はあそこ切ってたんですよ、後半を。寝た瞬間、カットで。

編:あの、寝た子供の頭を、直してあげるじゃないですか。あれがまた愛を感じて良かったんです。

監督:やっぱそうですよね。良かったです。

編:あと、自然に手を繋ぐじゃないですか、あれも。

監督:あれもねえ、いらないって言う人多かったんです。

編:えー!!

監督:決然と清野と話してるんです。「あそこが無いとダメなんだ!」って。何故かと言うと、本を見て下さいって。原作のイラストが手を繋いでるんですよ。それをどこかに入れたいって思いがあって作ったんです。寿司屋の駐車場しか使えなかったんですが、後半だから絶対って。お客さんはわからなくてもいいから、俺は手を繋ぐ瞬間って大事だと思うんだって。

編:わかるー。 あれは、だって凄く自然で、やっぱり心が近づいたから自然に手を繋ぐっていう・・・

監督:嬉しいなあー! 回転寿司も結局、あそこだけ僕が書いた追加のシーンです。何個か提案があって、寿司屋のシーンの台詞とやり取り、ご飯がついてるって設定を一回脚本家に投げて、戻ってきて、尚且つ僕が短くして、ああなりました。

編:お父さんと間違えられて良く似た親子だねって言われる。原作はコンビニ弁当だけでしたけど、もっと近づいてるんですね。

監督:その後手を繋ぐところもワンカット。AV的には音をスッと無くしたり、ちょっと立てようとはしてたんですけど。他はだいだい車の音を大きくして、最後フッとシンクロすると余計目立つかなと。

編:ベタベタはしてないんだけど、ふって寄っていくところがいいんです。

監督:あそこはうまいですよね、伝助。

編:あと、絵なんですけど。子供の絵、あれは誰が描いたんですか?

監督:美術の女の子がいるんですよ、若い子が。

編:美術の子が描いたんですか。大人が描いた絵ですか!

監督:19か20歳の女の子が描いたんです。
その女の子、『ぼくのおばあちゃん』のロケ現場の大津の出身なんです。当時高校生で、映画のボランティアスタッフとして手伝ってくれた子なんです。美容師の学校に進学が決まっていたのに、その『ぼくのおばあちゃん』の映画を手伝ったばっかりに、映画の仕事をしたいと美容師になるのをやめて東京来て、美術の装飾やってたんです。

編:たまたま、この映画のスタッフに?

監督:そう。美術は井上心平君で『ぼくのおばあちゃん』と一緒だったので、心平君が彼女を連れて来て「監督、覚えてますか?」「うわー!」って。で、担当で彼女が右手で描いたり、左手で描いたりしたんです。全部、絵は彼女です。

編:わざとらしくなくて、子供が描いた絵に見えたので、あのろい君が描いたのかなあと思ったんですよね。
子供が描いた上手な絵に見えます。

監督:あと、エンドロールも彼女ですよ。

編:ああ、そうなんですか。そういう風に見せるのが上手い。子供の絵に見せかけるのって難しいと思うんですよ。大人が描くと。

監督:しっかり狙いをわかってやってくれてるし、似てるじゃないですか。例えば、秀吉のタバコとか。鼻とか目とか、パパの絵も。最後のエンドロールに出てくるのも、ちゃんとテーマを作ってくれてるんです。コンビニでお金を落としてるところだとか、電車の踏み切りだとか。シーンをフラッシュバックできるような感じに作ってくれたんですよ。『ぼくのおばあちゃん』の現場を手伝ってくれた女子高校生だったスタッフが描いてくれました。

編:そういうのって嬉しいですよね。

監督:嬉しいですね。その絵が女の子に救われました。不思議ですね、映画って。

編:人生変わっちゃったんですね。向こうでロケしたばっかりに。

監督:そうですね~。だから、ちょっと大丈夫かな~って言いながらも、まあしょうがないなって。この映画に関わったならやろうぜって。今もがんばってると思います。

編:では、細かいところをたくさん伺いましたので、ちょっと戻っていいですか?

監督:どうぞ、どうぞ。

編:監督が考える「映画に必須の要素」ってなんですか。創る時に。


『誘拐ラプソディ』榊英雄監督

監督:喜怒哀楽ですね。できるだけいっぱい入って欲しいです。その中から自然とあぶり出てくるものが、今回は親子、または恋愛だったり、生だったり死だったりする方が嬉しいですね。
初めから喜怒哀楽のこういう部分だけ使って、最終的にこういうところだっていうのにはしたくないほうです。ある意味娯楽作品が僕のベースで、その中で、徐々に目的とテーマが見えてくる感じの方が、僕は好きな映画ですよね。わかっちゃいるんだけど、その通りかもしれないけど、そこに辿り着いて欲しいっていう映画いっぱいあるじゃないですか。届きそうで届かないってことって都合上いっぱいあると思うんですけど、僕は結構そういきたいですね。喜怒哀楽があって欲しい。当然笑うところも欲しいし、真面目に語ってもいいじゃないかと。まあ泣いてもいいし、そういう事があって、最終的に映画として笑って終わるのか、泣いて終わるのかは、題材によって変わるとは思うんですけど。
あとは俳優ですよね。人が好きな人を撮りたいですよね。今回僕は企画中に父を亡くしたので、父と子をどうしても撮りたいって思いもあったし、届かない台詞を追加して言ってもらったこともあったし。『ぼくのおばあちゃん』の時は、ばあちゃん子だったという実話もあって。何か自分の今まで生きてきた中で、なんとなくこう澱のように溜まったものがひとつづつ昇華できてるんですよね。不思議に僕の場合、映画人生としては。だからそれはもう3作目で終わっていいのかなとも思いながら、やっぱりそういう動力がないと、映画って撮れないと思うんですよね。それが原作とか役者さんとかとリンクして、作品ができるっていう事でもいいって、最近僕は肯定できるようになってきました。自己満足のようなものだけど、一般のお客さんにもひっかかりのあるようなところまでひろげていく。荻原先生の、「なくなってしまった我が故郷大宮に捧ぐ」っていうのも、個人的なことですけど、極端に言えば、誰でも考えられるし誰でもあるんですよね。故郷に対する憧れっていうことも、切り替えれば、そういうこだわりが作品を作るんだなっていうこと。単純なことなんですけど、この半年に気づいたっていうか。
僕自身がしっかり自分の中で決然と思う思想がないと映画は撮れないかなって、徐々にわかってきたというか。それをどう娯楽作品に織り込んで、観客の方が気づいて笑ったり、泣いたりしてくれて、ちょっとでも、僕の決意を、思いを、激情を、観終わった時に帰りながら思い出してくれれば、こんなに最高なことないです。たくさんの人に観て欲しいという事はありますよね。
「知る人ぞ知る作品」も憧れがあり撮りたいですけど、それこそ、批判OKでベタベタでいいので、たくさんの人が観て、「お父さんはいいなと思いました」とか、「キャッチボールしたいなと思いました」とか、シンプルな言葉になるほうが映画らしいと思うんですよね。複雑にテーマがある中に、どうですか?感想はって言っても、コーヒーが美味しそうだったとか、それこそ、チョコレートだったら、チョコレート食べたいと思いましたとか。これこそが映画だと思うんです。僕なんか『ビーバップはいすくーる』観て、学ランを買いたくなりました。つまり映画が成立してるってことなんですよ。あと、『Wの悲劇』を観て、やはり舞台をやりたいなと思いましたしね。成立してると思いましたよ。そういう事に陥る、商品化できるとか、そういうテーマさえも、ひとつの塊になれるということが映画かなあって気がするんですけどね。

編:お父さんは息子とキャッチボールしようと思うでしょうね。

監督:「キャッチボールしてる?お父さん」みたいな。「あっ、俺してないな」と思って、「今日はやるか」って言ったら、もうこの映画は完成ですよね。もし父と子が観てくれれば。もしくは、観た家族連れが「パパ、今日映画観てきたんだけど、たまにはキャッチボールしてあげて」「なんで?」「映画観てきて良かったのよ」「わかったよ、やるよ」っていうのがあれば、まあOKですよね。そのバトンタッチを、克典さんと翔さんが劇中でやってますけど、映画の外に出るとこまでいけば勝ちですよね。
あの赤いボール、胸に投げようとしたんですけど、克典さん、下手くそだったんですよ(笑)。サマになってない、本当。ちょっと練習させてって。

編:じゃあ、きっとお父さんとキャッチボールしなかったんですね。

監督:そうですね。野球に興味なかったかもしれないですね。でもね、キャッチボールはわかるんですよ。親とやったかどうか。おっしゃった通り、やったことないって言ってましたね。

編:キャッチボールって、声かけたり、相手をよく見てないとできないじゃないですか。

監督:良かったです。赤いボール大事です。白とか黄色があったんですけど、赤って。赤のビニールボールがいいって。人間の心臓とか血の意味もあるんですよ。

編:小物ですね、こだわった。こだわった小物、他に何かありませんか? 赤いボールの他に。

監督:車ですね。

編:バンですか?あれは古いんですか?

監督:古いバンです。斉藤工務店の。あれは製作の方が探し求めて、美術がああいうイメージにしてくれて。あの車、中身もちゃんとつくってあるんですよ。

編:当然工事の道具が入っている。

監督:シーンも全部汚して。いつものメンバーなんですけど、素晴しく、手を抜かずにやってくれて。 最後「36万位で買えますよ」って言われて、ちょっとあれ欲しかったですね。今は千葉あたりに戻ってるみたいです。

編:中古っていうか誰かの持ち物だったんですか?


『誘拐ラプソディ』榊英雄監督

監督:元々中古販売業者の方が持ってた売り物なんですけど、お借りしました。あの車には思い入れがありますね。さっきのボール、後は篠宮邸の壁にかかっている翔さんの肖像画。あれシーン的には見えるのかな。こう自分自身が見えるように撮ってもらったんです。子供が誘拐されてる最中に、自信持った顔の肖像画と自信持ってない生身の顔の2ショット撮ったりとか。
あとはロケに使う広い家がなかなか無くて。あの篠宮邸なんて、外の門は、一般の方のお宅を訪問してお借りした。尚且つ、あの丘の上から撮ったのをCGで上手く合成してもらって。で、内部は新宿の2丁目か3丁目のマンションの9階ですよ。篠宮邸って。

編:広いですよね、組員があれだけ集まって。

監督:後日談なんですけど、元々市川昆監督が住んでいて、その後石坂浩二さん、それが今売り出されて、ロケセットになってるんです。

編:へー、新宿ですか。

監督:新宿のシアターサンモールの近くのマンションです。巨匠が住んでいた家で撮れると思ったら嬉しかったですし、その市川さんに可愛がられていた石坂浩二さんが、自分で事務所用に借りて住んでいたらしいです。で、菅田俊さんが石坂さんから「僕の前に市川さんが住んでいたんだよ」って聞いたのを、僕は聞いたんですよ。

編:どこかに映画の神様の痕跡があるかもしれないですね。

監督:もうね~、2作目もそうですけど、3作目は特に大爆発でしたね。天気から、スケジュールから、それこそキャスティングから、本当にもう素晴しかったですね。確かにそうですね。奇跡が多かったですね。子供と出会ったのも、ろいも奇跡でしたし。

編:もう1人が双子だったのも(笑)。

監督:そう。あと、撮り終わった後も凄い奇跡あったし・・・(笑)

編:えっ、撮り終わってからも?!

監督:そう。僕が演じるっていう奇跡。

一同:(笑)

編:完全に終わってからのことでしたか。

監督:終わってからです。ねえ。やあ12月に向けて頑張ろうぜっていうころ。ところが結果的に、それは大きいことですけど、乗り越えることで奇跡が起こりましたよね。結局、スタッフ、キャスト、ほぼ同じメンバーですよ。それを、たまたま一日だけ集まってくれたのも嬉しいことですし。

編:1日で撮ったんですか?! あの榊さんが出る場面、撮り直し1日だけで?

監督:1日です。そう16シーン、58カット。

編:1日で!それもまた俳優を調達するんじゃなくて、自分が出来るっていうのも凄い!

監督:結果的によかったですね。不思議ですよね。何か意味があるんだなーと思って。これ、頑張ろうって今思ってますね。そういう悪運と奇跡とついてるんです。

編:ちょっと想像しながら観てました。彼だったら、どうだったんだろうって。

監督:彼は彼で良かった。本当に良かった。芝居として、間違いなく良かったんだけど。それは結局自分自身で潰してしまったのでしょうがない。正直、ワンカットも、1秒も、0.1コマも彼の残像は何も残ってないですよ。切り替えしも全部変えましたし。映ってるところは一切残ってないんで。ただ、まあ我々は一回完成を観て、存在を知っている分、ほぼ知られないまま終わっていくんですよね、映画としては。でも良いパフォーマンスをしたのは事実で、プロデューサーも次回も彼を使いたいなあって言ってたくらい。つまり、色んな意味で当時は誤解していたんで。こんないい芝居出来るなら、僕撮りたいねっていうところ言った時もあれだったんで、それはプロデューサーも落ち込みましたよ。でも、まあしょうがないですけどね。その中でこうやって映画が完成して、奇跡的に出来て、僕の芝居で作品が1分、伸びましたけど(笑)。でも、まあ、愛おしいですね。でまた、前回と前々回と同じ風船繋がりで。白の風船、黄色の風船。

編:赤い風船。

監督:あの風船も結局原作とはちょっと違う感じに使ってますしね。

編:髪に結ぶんでしたよね。

監督:遮断機に引っかかって落ちるんですけど、今回は持たせて、コケてあがるところで、あれがモチーフになって。

編:ああそうか。赤い風船に、赤いボールですね。

監督:そうです。今回は赤です。『ぼくのおばあちゃん』は黄色だったんですけどね。ちょっと、ジョン・ウーに負けないように。ジョン・ウーはハトだけど、榊は風船だ(笑)っていうのを、映画を大好きな皆さんがどこかに書いてくれると・・・(笑)。

編:今度どこに風船が出てくるだろうって、皆気をつけて観るって(笑)。

監督:そうそう。ちょっとした憧れがあるんですよ。あのヒッチコックみたいなスタイルっていうかね、自分が常にどこかにいるとかっていうことに近いことがあって。ジョン・ウーはハトだよねって。そういうのハイスピードでバババって。真似しちゃいけないから、自分は新しいものを作ろうと思ったら、たまたま『愚郎』で三つの魂を風船にしたので、『ぼくのおばあちゃん』で、過去と昔をリンクする黄色い風船。幸せの黄色いハンカチだから黄色にしようって。で、今回は赤です。

編:榊監督もいつもヒッチコックのようにどこかに出られたらいいじゃないですか。

監督:うーん。でもねえ、なんかそこがねえ、自分の中でどこか律しておかないとねえ。結構調子に乗るんでダメなんですよ。今回は特別非常事態でやったんですけど、できれば、それ以外は。4作目はしないと思いますし。そこはちゃんとやっぱり自分が仕事したい、撮りたい。企画された役者さんが出るべきだと思うんで。それが本当にもうこれが僕がやりたい役です、どうしてもこれやりたいってなったら、逆に僕は出て、監督は誰かにやってもらうっていう。

編:自分が主演で、自分が監督というのは?

監督:一生無いです。絶対やらないです。そんなんでいいものは撮れない、撮れるとは思ってない方ですね。それはどなたもやってるし、他の方はいいと思いますけど、僕はどうしてもそういうところは嫌ですね。誰かの目とか、誰かのフレームの中で生きるのが俳優だと、僕は思ってるんで。僕は役者だったら、監督に依存したい、逆に監督だったら、自分に依存して欲しいし。その方がいい仕事が出来るような気がするんですよね。自分の人生、監督と俳優をやるっていうのは、前回のインタビューで言ってますけど、それはもう変わらないです。その中にどこかプロデュースというか、そういう企画を考えてやるっていうこともありますけど、一本一本に分ければ、監督と役者は別ですね。

編:次は、"父と娘"が見たいですね。

監督:あ~、父と娘ねえ。今は難しいですね。

編:気持ちが入り過ぎちゃいますか?

監督:父と娘はまだ当分先にしたいですね。

一同:(笑)

編:嫁いでいく娘っていうのとか?

監督:ああ。『秋刀魚の味』みたいのやりたいですよね。

編:もっと枯れてからですね、じゃあ。

監督:枯れてからです。まだ先にしたいです。

編:まだこのへん(足元)にまとわりついているうちはダメですね。じゃあ父と娘の話が出来るまで、気長に待ちます。

監督:それまでは、今度は主演を女優にして、女性を撮ってみたい。いろいろこう、僕も放浪の旅に出て、最終的には、娘が嫁ぐ映画を撮りたいですね、いい時に。『秋刀魚の味』僕大好きなんですよ。

編:次は女優さん主演の映画ですか?

監督:3月か4月にやる予定ですね。あと、来年5月6月別の企画で・・・。おかげさまで順調にやってますね。近々撮るやつは共同脚本でオリジナルですけど、6月位から撮る予定のは、角田光代さんのをやるかもしれないですね。

編:あの『空中庭園』の。

監督:そうです。でも、近々撮るやつは、男と女のいよいよまぐわいの話を撮ります。黄金町で。

編:あっ、黄金町で撮るんですか? シネマジャック&ベティの辺り?

監督:そうです。あの橋、川の間のストーリーです。あの『泥の川』じゃないですけど。あそこ桜がまた綺麗じゃないですか。花びらが真っピンクに育つんですよ。ラストシーンはその真っピンクの川を泳いで渡ろうって話なんですよ。

編:それで、3月4月なんですか。

監督:そうです。また桜です。単純に対岸からこっちに来るのに、橋を歩けばいいのに、それさえももどかしくて、会いたかった女を見た瞬間に飛び込むんですよ。"イメージは大森南朋"なんですけど。

編:大森南朋さんですか~。いいですねぇ、色っぽくて。


ここで録音終了。

《インタビューを終えて》

榊英雄監督には前作の『ぼくのおばあちゃん』インタビュー(本誌75号)で初めてお目にかかりました。完成披露試写が行われるホールの控え室で、たくさんのスタッフの方もいらしたうえ、俳優さんとして観ていた方が目の前なのでなんだかあがってしまいましたっけ。

今回再会しましたら開口一番「お久しぶりです。前はホールの地下でしたよね?」とおっしゃって、たくさんの取材があったでしょうに、よく覚えてくださっているのに驚きました。今回も前にもましてたくさんお話を伺えましたので、本誌だけでなく字数制限なしのweb特別記事でもご紹介いたします。榊監督の映画への情熱と愛をお届けできればと、ほとんどそのままの形にいたしました。

桜の季節になりましたので新作に取り掛かっておられるでしょうか。撮影が順調に進みますように(白)。


(C)2010「誘拐ラプソディー」製作委員会

『誘拐ラプソディー』は4月3日より公開中。映画紹介はこちら

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(取材:白石映子、大澤ゆみ 写真:白石映子)
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