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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『隠された日記~母たち、娘たち~』
ジュリー・ロペス=クルヴァル監督インタビュー

~ジュリー・ロペス=クルヴァル監督プロフィール~

1972年9月24日生まれ。造形美術を学んだ後、フランスの名門演劇学校Cours Florentに入学。その後、複数の舞台演劇作品の脚本、演出を務める。アルテ(仏独語のヨーロッパ文化テレビ放送局)で放映されたヴァレリー・ミネット監督の中編『Adolescents』の脚本を担当。01年、初監督短編作品『Mademoiselle Butterfly』がカンヌ国際映画祭にノミネートされる。同年、エリック・ヴァニアール監督の中編『Une affaire quiroule/仮題:快調なビジネス』の脚本を担当。02年、初めて長編監督作品『海のほとり/原題:Bord de mer』(フランス映画祭横浜2002上映)で、カンヌ国際映画祭のカメラドールを受賞。03年、共同脚本をしたフランソワ・ファヴラ監督の『彼女の人生の役割/原題:Le r?le de sa vie』(フランス映画祭横浜2004上映)で、第28回モントリオール世界映画祭最優秀脚本賞を受賞。監督・脚本を務めた2本目の長編作品、マリオン・コティヤール主演の『正しい恋愛小説の作り方/原題:Toi et moi』(06/V)は、数々の映画祭に出品され、第14回フランス映画祭でも上映され注目を集めた。

*ストーリー*
2週間の休暇を取ってカナダから帰省してきたオドレイ。父は優しく迎えるが、開業医の母マルティーヌは忙しさもあいまって、ちょっとよそよそしい。仕事を抱えて帰ってきていたオドレイは、祖父亡き後、空き家になっていた海辺の白い家で過ごすことにする。オドレイは恋人ではないボーイフレンドの子を宿してしまった悩みも抱えていた。ある日、台所の引き出しの奥に古いノートを見つける。50年前に家出したと聞かされている祖母ルイーズのものだった。料理のレシピの傍らには、自分も社会に出て働きたいのに、夫が自由を与えてくれないことへの不満が時々綴られていた。一方で、娘や息子に対する深い愛情を示す言葉も記されていて、オドレイは祖母が何故愛する子供たちを捨てて家出したのかと疑問に思い始める。母マルティーヌは、祖母が娘には自由に羽ばたいてほしいと願った通り、医者として成功しているが、10代のはじめに母親に捨てられた思いを語ることは決してなかった。やがてオドレイが身篭っていることに気づいたマルティーヌ。母と娘の距離が少し近づく。そして明らかにされる祖母の秘密・・・

◎インタビュー

記録的な猛暑だった8月初めに来日された監督に、本作に込めた思いをお伺いしました。
監督にお会いするのは、2006年フランス映画祭で『トワ・エ・モア』の題で『正しい恋愛小説の作り方(原題:Toi et moi)』が上映された折にインタビューして以来のことでした。

◆料理レシピのノートに書き留められた祖母の思い

― 4年前のフランス映画祭の折りに、次の作品で1950年代と現代の女性の両方を描こうと考えていらっしゃるとお伺いしました。それがこの作品ですね。女性に自由がまだあまりなかった時代に生きた祖母の日記を通じて、母や娘の時代を描くという面白い手法でした。 日記は、そもそも人に言えないような自分の思いを日記帳に綴るという非常に個人的なものだったと思います。今、ネット上で日記を公開する人が多いですが、かつてのノートに書いた日記とは性格が違ってきていると思います。世界中に有名になったアンネ・フランクの日記も、人に読んでもらうために書かれたものではなかったと思います。ルイーズの日記も、そういう意味で本音を綴ったもの。押しつぶされそうな気持ちがふつふつと書かれていました。脚本を書く上で、どんな風に日記を描こうと注意されましたか?


監督: ルイーズは1950年代に生きた女性。それを具体的に現代に生き返させるのは難しいので、古典的な手法なのですが、「ノート」を使って現代に繋ぎました。そのノートに写真がはさまれていることも重要な要素です。日本での公開タイトルに「日記」とありますが、日記というよりも、料理のレシピを書きとめているノートの中に、時々自分の気持ちを書いているというものです。この料理にも大事な意味があります。料理は祖母から母、そして母から娘に受け継がれていくものです。私自身、脚本を書きながら感動したのは、オドレイが祖母のレシピでお料理を作って皆にご馳走する場面です。美味しく出来上がって「おばあちゃん、ありがとう!」と言っているところなど、自分でとっても気に入っています。私自身、祖母に電話でレシピを教えてもらって作ったりしています。専業主婦と冒険家の二人の祖母がいるのですが、お料理が上手なのは、冒険家の祖母の方なんです。

― ご自身の肉親の日記を読まれたことはありますか?

監督: ノー! もちろん近しい人の心情を吐露したものを読むのは興味深いことですが、オドレイは違います。そういう趣味はないのです。謎めいた言葉を書いていますが、どうぞ日記として捉えないでくださいね。

◆残されたノートが明かす祖母失踪の真実

― 祖母の辿った運命が最後に明かされますが、あっと驚く真相でした。祖母ルイーズは自由にはばたこうとしたのに、それを封印されます。祖母の失踪の秘密が明かされなかったために、母マルティーヌは、母親に捨てられたという思いをバネに、母の言い残した「自立した女になって」という言葉通りに成長していますね。


監督: 祖母がいなくなった真相が明らかにされていないからこそ、オドレイも何故だろうと疑問に思うわけです。マルティーヌについては、自分の母親がいなくなったことについて、ほんとに記憶がないのか、知っていて隠しているのかはわからないというシチュエーションです。忘れたいことを封印しているのかもしれないわけです。ノートが見つかって、お金が見つかって、閉じられていた扉が開いて事情がわかってくるのです。
(注: この事情は、映画をご覧になって確認ください。)

― 祖父は、自立したマルティーヌをどんな風に見ていたのでしょうか? 孫であるオドレイもまた、自由にはばたいています。孫を可愛がっていたとしか祖父の思いは語られていませんが、心中、どんな思いだったかと思います。

監督: 祖父は娘であるマルティーヌを励ましたと思います。人類の歴史の中で、妻を早く亡くした子持ちの男性は、おそらく妻がいなくなったことにより、子に近くなって、妻には許さなかったことを、子には許すようなことがあると思います。

◆エッフェル塔のドレスは田舎から出なかった母を象徴

― 母マルティーヌと娘オドレイは自立した女どうし、反発しあっているようにも思えました。妊娠のことを母は見抜きますが、いろいろなことを話すうちに親子の壁が徐々に取り払われていくのを感じました。

監督: 母娘二人の関係は自由に感じとっていただければ結構です。

― 娘が選んだドレスを着るという形で、これまでぎくしゃくしていた母と娘の関係が少し変わりそうな予感を与えてくれるのも素敵な展開でした。エッフェル塔の柄のドレスがあれほど似合うのもカトリーヌ・ドヌーヴだからこそと思いました。あの柄は、監督のアイディアですか?

監督: カトリーヌ・ドヌーヴに決まる前から、あの柄のドレスは脚本に書かれていたことなんです。 オドレイがエッフェル塔の柄を見ながら、「母は都会が好きじゃないのよね」と語っていることにも意味があります。私が衣装担当者と一緒に相談しながらデザインを考えてオーダーメードしたのですが、後から考えたら、ドヌーヴのような女優が着るのなら納得だなと。観客が笑ってくださるシーンで、このドレスのシーンを入れてよかったなと思います。

― ご自身でも着てみたいと思いますか?

監督: 私はドレスを着るタイプじゃないので・・・
(この日もさっぱりとしたパンツスタイルの監督、遠慮がちにおっしゃいましたが、ドレス姿もきっと素敵です。)

◆海辺の白い家も役者の一人

― 同じ場所で撮影をしながら、時代の違いがうまく描かれていましたが、1950年代と現代を描くのにあたって、どんな工夫をしましたか?

監督: 海は変わらないので、そういう意味でシンプルでした。大変だったのは、台所のセット。大道具の人と一緒にリサーチしました。時代を感じさせるために、現代の場面を撮る時には汚してみたりしました。1950年代と現代の家のインテリアは、あえてあまり変えませんでした。おじいさんが幽閉されたかのように変えずにおいたのです。

― あの海辺の白い家を見つけることができたのはラッキーだったとプレス資料にありましたが・・・

監督: あの白い家は特別な存在感があって、私にとって役者のようなものです。おじいちゃんが家とインテリアを妻に贈ったというアイディアもよかったなと思っています。

― 立派な墓地も素敵でしたが・・・

監督: あの墓地も、あの海辺の町にある墓地です。

◆次の作品はラブストーリー

― 『正しい恋愛小説の作り方』で、アラブ系の実業家の素敵な恋人が出てきましたが、そのことをお尋ねしたときに、アラブ系の人たちが差別されていて闇の世界で働いているイメージがあるので、それを覆すために意図的に成功したアラブ人を登場させたとおっしゃっていました。フランスに住む多様な人たちのことに興味がありますので、ぜひ、そのようなテーマで作っていただければ嬉しいです。


監督: ポジティブなイメージでアラブの人にあの作品を提供できたのは嬉しいことでした。ストーリー的に可能であれば、これからも役柄を入れたいと思います。フランスの映画界で、虐げられている人に素晴らしい役を与える傾向はあると思います。ですが、黒人、アラブなどと意識しないで、フランス人として描かれる時代も来ていると思います。

― 次の作品は、どんなジャンルになりそうですか?

監督: 次はラブストーリーです! 前回、記事に書いてくださったことを守ったので、今度も約束を守りますね。

― 次の作品でまた日本でお会いできることを心待ちにしています。本日はどうもありがとうございました。




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4年前のフランス映画祭の時にインタビューした折に、「今、恋人はいません」とおっしゃっていた監督、今回、「今もいないけれど、また恋がしたいですね」と、さりげなく語っていました。自らの恋愛経験も生かした素敵なラブストーリーを期待したいと思います。

>> 上映情報

★10/23(土)、銀座テアトルシネマ他全国順次公開!

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(取材:景山咲子)
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