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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』
サム・ボッゾ監督インタビュー&トークショー

サム・ボッゾ

→ 上映情報

サム・ボッゾ監督インタビュー

デヴィッド・ボウイが演じた『地球に落ちてきた男』の続編として、水がなくなった地球を舞台にしたSF映画を作るために企画をねっていたサム・ボッゾ監督。ある日、プロデューサーのサイ・リトビノフ(『地球におちてきた男』『時計仕掛けのオレンジ』のエクゼクティブ・プロデューサー)が資料として持ってきた【「水」戦争の世紀】(モード・バーロウ、トニー・クラーク著)に触発されて、SF映画よりも、水問題に焦点を当てたドキュメンタリーを先に撮るべきだと決意。そうして出来上がった『ブルーゴールド・狙われた水の真実』が、1月16日から日本で公開されるのを機に来日されたサム・ボッゾ監督にお話を伺う機会をいただきました。
コップに注がれた水を前に、気さくに水問題について語ってくださいました。

サム・ボッゾ

サム・ボッゾ
1969 年生まれ。Art center College of Design を卒業後、監督・脚本・編集した三本のショートフィルムが、サンダンス・チャンネルやショータイム、トロント国際映画祭とサンダンス映画祭などで上映された。最新作はコンピュータのハッカーを題材に取材したドキュメンタリーで、ナレーターをケビン・スペイシーが務めた。マット・デイモンとベン・アフレック発案によるオンライン脚本コンテスト「プロジェクト・グリーンライト」のトップ10 ディレクターとして選ばれている。






●水対策は国家レベルで行う必要がある

― 映画を拝見して、ほんとに大事な作品だと思いました。「自然のサイクルへの回帰が一番の解決策」という言葉が身に染みました。世界の各地で、人間がいかに水を汚染してきたか、また水を利用して権力や金を手にしている人たちがいかに多いかをあらためて知ることができました。そんな中で、「ライアンの井戸基金」のエピソードは、これからどうすればいいのかのヒントとして希望の持てるものでした。

監督:「ライアンの井戸基金」は、一般の人が行動を起したという意味で意義があります。しかも、ライアンは6歳という年齢でこの基金を起こしました。けれども、これは、今、水を欲している人に供給するという緊急援助的なものです。本来はその国の政府が第三者に頼らず井戸を掘る必要があります。

― まさに国家レベルで対策が必要だと感じます。私はイランやトルコなどに興味を持っているのですが、イランでは、3000年以上前から、山で沸いた水を沙漠や町まで運ぶカナートという仕組みを使ってきました。今なおカナートは生きていて、水を共有財産として人々が使っています。 同様の仕組みは、アフガニスタンや中国のウィグルや、アラビア半島のオマーンなどでも見られます。このような長年の人類の英知を忘れないようにしないといけないと思います。

監督:映画の中に入れたかどうか忘れましたが、インドのヴァンダナ・シヴァさんがラージャースターンで山の水を引いてくる同じようなシステムがあることを語っていました。それだけ昔から水を大切にしてきたのに、今や水があるのは当たり前と思ってしまっていることが問題です。水は生命の源であると見直して、水に敬意を払って慎重に扱うことを再認する必要があると思います。自然と共に働くという点では、スロヴァキアでブルー・オルタナティブという地上に穴を掘って雨水を貯めるプロジェクトを推進しているミハイルさんの話を取り上げました。この映画が上映された後に、ミハイルさんは、サウディアラビアに国家レベルで取り上げるよう提案しています。

― 権力者が水を支配することが横行しているという話が出てきたので思い出したのですが、オスマントルコはイスタンブルを支配するようになった時に、水道施設をまず整備して、住んでいる人たちや旅人が街角の水汲み場で自由に水を汲んだり飲んだりできるようにしています。権力者が自分の采配で人民の為に生活に必要な水などを供給することの大切さを感じます。

監督:映画は、反大企業、反政府と捉えられがちですが、そうではなくて、コントロールしている人に責任があります。公的であれ民間であれ、支配している者に腐敗や乱用がある場合、それを民衆は監視する必要があると思います。

●水関連企業から資金は貰ってない

サム・ボッゾ

― 取材中には水企業などからの妨害もあったとプレス資料に書いてあって、撮影は大変だったと思いますが、一方で、資金集めも難しかったのではないかと思います。水関連企業から資金を出してもらったケースはありますか?

監督:水企業からは全く貰っていません! もともと俳優をしている友人が資金を出すと言ってくれて、映画を作ると決めました。【「水」戦争の世紀】の著者モード・バーロウとトニー・クラークの二人が水の世界フォーラムに参加すると聞いて、それを撮影したいので、早急に動かなくてはならなくなり、友人の資金を当てにして、自分のクレジットカードで航空券などを手配しました。撮影前日になって、友人が資金を提供できないと言ってきました。その日の夜中、息子が起きてきて「喉が渇いた」と言うのを聞いて、彼にコップの水を渡しながら、「やっぱり映画を作らなければ!」と決意しました。すでにクレジットカードの限度枠は超えていたのですが・・・。著者の二人が自費で私が撮っていることを聞きつけて、助成金を出してくれるところを紹介してくれたりしました。

― 商業的な映画ではありませんが、資金は回収できそうですか?

監督:そう願っています! アメリカやカナダでDVDも発売されたし、テレビでも放映されたし、日本を初めアジアでも上映が決まりましたので、たぶん投資した分くらいは回収できると思います。儲けようとは思っていませんが・・・

― 何より大事なのは権力者の方に観ていただくことだと思うのですが、何か方策はたてていますか?

監督:食糧と水を監視する団体がワシントンで国会議員に向けての上映会を企画してくれているのですが、そのためには議員さんがスポンサーになってくれないといけません。実現はなかなか難しいようです。アル・ゴア氏にも渡そうとしているのですが、なかなか本人の手に渡りません。

●ペットボトルの水を飲むしかない国がある!

― 今日はお水がコップに入って出てきていますが、日本でも最近はペットボトルの水を飲むことが多くなってきています。私が子どもの頃には、水は蛇口をひねれば出てくるタダ同然のものという意識がありました。もちろん親が水道代を払っていたわけですが、すごく安いもので、水道水がそのまま飲めました。それが多分10年前頃から日本でも飲み水はペットボトルのものを買うものという風に変わってきています。映画を拝見して、まさに企業にやられたと思いました。アメリカではいつ頃から水は商品化されたのでしょうか?

監督:ワーォ!(しばし言葉を探す監督)実は、この本に出会うまで、水問題についてあまり関心がなかったので、いつ頃から商品化されたか意識がないですね。水産業が非常に大きく発展したのは、マーケティングが成功して、水道水は信用できないという意識を植え付けたからだと思います。もっとも最近では、水道水もそれほど変わらず大丈夫いうレポートも出ていますので、それが根づいてくれるといいと思っています。

― 監督ご自身はペットボトルの水を買いますか?

監督:妻はいまだにペットボトルの水を買っています。(笑) 私は水道水でOKなのですが・・・。 先進国では、ペットボトルを買うかどうかは消費者の問題です。グローバルな問題になる例をいくつかあげたいと思います。一つは、テクノロジーがあまりにも進み、ペットボトル工場が水を全部使ってしまって、ペットボトルを買うしかないような国です。水を輸出していいのかどうかという問題もあります。生態系から出てしまうことを法的に許すことになりますから。また、例えばケニアでは、インフラが整っていなくて、綺麗な水がないので、コーラより高いペットボトルの水を買うしかありません。そうした先進国との事情の違いは映画の中でクリアに描いたつもりです。

●宗教問題などにすり替えられてしまう水問題

― インドのタミールナド州のラージクマール誘拐事件を取り扱った場面で、水問題を宗教に起因する問題とすり替えられたと語られていました。これは、例えば、イスラエルとパレスチナの問題も同じことがいえますよね。一見、ユダヤとイスラームの対立のように見られがちですが、イスラエルが土地に固執するのは、水源を確保したいからだということは、知っている人は知っています。けれども、普通にニュースを聞いている人には、あまり伝わっていないと思います。 イスラエルが作っている分離壁も、井戸などの水源をイスラエル側に囲い込むようにして、パレスチナの人たちが畑に水を引くこともできなくなったりしていることを、どれほどの人が知っているのかと憂慮しています。水がなければ人は生きていけないという重大問題だと思うのですが、ニュースではなかなか出てきません。

監督:おっしゃる通りです。予算の関係で中東には取材に行けませんでしたが、水の問題は中東でも大きな問題です。インドのヴァンダナさんも、1980年代に水の紛争の問題をリサーチしてきたのですが、ある日、一晩明けたらその資料が全部捨てられて、宗教の問題にされてしまったと語っていました。ケニアでは薔薇の産業が大きく発展してきているのですが、薔薇園に水を引いている為に湖が枯渇しそうだと訴えた人が、都合の悪いことを暴露したとして殺害されてしまいました。また、アメリカはメキシコからトマトをたくさん輸入しているのですが、その栽培に使われている農業用水は生活排水です。綺麗な水をメキシコ政府がコーラ会社に売ってしまっているので使えないのです。ほんとは水の問題なのに、ほかの問題にすり替えていることはたくさんあると思います。

サム・ボッゾ

●今後も「水」を考える!

― これからも水問題を追いかけますか?

監督:いろいろな問題を見る時に、これも水が関わっているのかなという見方をするようになりました。これからも何らかの形で追い続けます。今書いている脚本にも、水問題を織り交ぜています。

― 水がなくなった地球を舞台にしたSF映画はいずれ製作する予定ですか?

監督:いつか作るつもりです。この映画を作ったので、水に対する新しいアイディアも浮かんできましたので、是非作りたいと思っています。水の問題は大変大事なので、政治的フィクションにも取り入れていきたいと思っています。

― また意味ある素敵な作品を楽しみにしています。16日から日本で公開が始まりますが、ぜひ大勢の方が見てくださることを私も願っています。本日はどうもありがとうございました。

取材:景山 咲子




『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』サム・ボッゾ監督トークショー

2010年1月16日(土)より、渋谷アップリンク、ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町で公開中
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/bluegold/

公開初日の1月16日(土)、来日中のサム・ボッゾ監督がトークショーを行いました。その模様を少しお伝えします。(資料提供:アップリンク)

サム・ボッゾ

監督:ご来場ありがとうございました。SF映画を撮ろうと思ってリサーチをしていたときに『「水」戦争の世紀』という本に出会いました。SF映画のストーリーとして予測したよりもはるかにひどい現実を知り、このことを伝えなくてはと思いこの作品を制作しました。映画を観て、この問題が重要だと思ったらぜひ周囲の人々にも広めてください。

ー 撮影していて一番印象に残っているシーンは?

監督:メキシコで警備員に賄賂を渡して、20分間だけ撮影を許可されました。メキシコでは、政府が汚水を農業用水として使っていることを人々に知られないよう警備員が立っています。「撮影が20分を過ぎたらどうなるのか?」と聞くと「20分後に戻ってくる別の番人に殺されて、川に死体がに浮くことになるだろう」と言われました。事前にそのような危険がわかっていたら撮影をしなかったかもしれませんが、そのときはもう戻れないという思いがありました。

ー 撮影は全てひとりで? 交渉なども?

監督:はい、1人でやりました。10年前にはできませんでしたが、今は三脚以外全ての撮影機器をカバン1つに入れて持ち運ぶことができます。メキシコでの交渉も1人で行いました。予算がなく、その予算のほとんども旅費にかかりました。2人で行くと旅費が2倍かかるため、1人で行かざるを得ませんでした。編集の段階になり、『ザ・コーポレーション』のプロデューサーでもあるマーク・アクバーに見てもらい、アドバイスをもらいました。4ページにわたるメモをくれ、私にしては珍しくそのアドバイス全てに従い、編集をしました。

ー 監督にとって、水の番人とは?

監督:私たち自身です。映画の中で人々が立ち上がったのは、地元のため。自分たちのコミュニティを守るために、戦っています。自分たちが水の番人にならなくては。ウルグアイでは憲法で、水は商品ではなく人々のものだとうたっています。政府は取り締まるべきなのです。

ー いろいろな国の中で一番良かった、または悪かった「水自体のこと」を話してください。

監督:メキシコやケニアなどでは水は汚染されていて、ペットボトルの水しか安心して飲むことができませんでした。そこが大きな問題で、企業はそのようにして利益を上げています。美味しい水といえば、日本。住んでいるカリフォルニアの水より美味しいです(笑)。

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