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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

Sintok シンガポール映画祭レポート

ブー・ジュンフェン、タン北アジア局長、ソン一等書記官

9月5日(土)から13日(日)までの9日間、日本で初めてのシンガポール映画だけを集めた映画祭「Sintok シンガポール映画祭」がシネマート六本木にて開催されました。
シンガポール映画というと、かつては『フォーエバー・フィーバー』(98年 グレン・ゴーイ監督)が日本でも公開され話題をさらいましたが、久しく劇場公開作品はなく、去年は久しぶりに『881 歌え!パパイヤ』(ロイストン・タン監督)が公開されました。また、シンガポール映画として初めてカンヌ映画祭のコンペ部門に選ばれ、東京国際映画祭でも上映された『私のマジック』(エリック・クー監督)があります。最近は若手の監督の活躍がめざましいというシンガポール映画。その勢いを感じられるこの映画祭はとても意義深く、貴重な機会でした。

オープニングイベント

9月5日にはオープニングイベントが行われ、シンガポール共和国大使館からソン一等書記官、シンガポール政府観光局 タン北アジア局長、そして今回の映画祭で短編作品集が上映される若手のブー・ジュンフェン監督が舞台挨拶を行いました。

シンガポール共和国大使 ソン一等書記官
シンガポール共和国大使 ソン一等書記官

ソン:松下(由美)さんからシンガポール映画祭をやりたいと大使館にラブコールがあったとき、「シンガポールの映画?」と思い、正直言ってどう対応していいかわからなかった(そんなに映画祭をやれるほど作品があるかという懸念から)。それで、他に紹介(観光局など)しましたが、松下さんはあきらめず、さらにプッシュがあり、彼女の情熱に押されて映画祭が開催されることになりました。自分たちがシンガポールの映画を知らなかったことを恥じています。めげずに私たちを動かしてくれた松下さんたちに感謝したい。シンガポールをよく知ってもらう機会です。映画を楽しんでください。

シンガポール政府観光局 タン北アジア局長
シンガポール政府観光局 タン北アジア局長

タン:私は、ソンさんのようにうまくまとめられないですが、日本語で挨拶したいと思います。「日本で初めてのシンガポール映画祭が開催されることを嬉しく思います。どうぞ、シンガポールの映画とシンガポールが好きになっていただければと思います。そして、シンガポールへもぜひ来てください」(紙を見ながらの挨拶でしたが聞き取れる日本語で、さすが観光局の方と思いました)

ブー・ジュンフェン監督
ブー・ジュンフェン監督

ブー監督:映画を持って映画祭に参加するのは初めてなので緊張しています。シンガポールの映画は小品ですが誠実な作品が多い。今回参加してくれた人たちは、みんな知り合いです。小さな作品ですが、脚本や、お互いの作品に出たりして協力し合って作っています。自分で(作品の)権利を持っている人たちは無料で提供しています。みんなの協力で、シンガポール映画を紹介できます。映画を楽しんでください。

最後に司会の松下由美さんから、「実は、このゲストの中に『シンガポール・ドリーム』でお母さんを演じていたアリス・リム・チェン・ペンさんのお子さんがいます。どなたかわかりますか?」という話があり、「ソン一等書記官がアリスさんの娘さんです」と紹介がありました。それを聞いた観客は一瞬どよめきました。私は、そんな偶然があるのかなとうれしくなりました。そして、去年のあいち国際女性映画祭のゲストで来日したアリスさんにインタビューした記事が載っているシネマジャーナル75号を持っていることを思い出し、それをソンさんにあげたところ、大喜びされました。ソンさんは、そのインタビューに同席していたそうです。(宮崎)


Q&Aセッションの様子

5日には日本初公開の『愛を探すこどもたち』(ブライアン・ゴソン・タン監督)の上映があり、作品中の兵士の1人としてちょっとだけ友情出演しているプー・ジュンフェンさんが上映後のQ&Aセッションに登場しました。タン監督はどんな人?との問いに「人を茶化したりするのがうまく、お茶目なセンスを持った人です。シンガポールに対する批判眼も持った人で、彼のその思いが、この作品にも生かされています」と答えていました。

プー・ジュンフェン 『愛を探すこどもたち』場面写真

今回の映画祭ではSkype(インターネット回線を使ったテレビ電話)を使って、シンガポールにいる監督や出演者とQ&Aを行うという新しい試みが行われていました。これにより5日の『シンガポール・ドリーム』には長女の夫役のユーベン・リムさんが、13日には長女役のヤオ・ヤンヤンさんが登場し、観客との交流を持つことができました。

ユーベン・リム  ヤオ・ヤンヤン

ユーベン・リムさんは俳優、演出家、演技指導、アクション・シーンの演出、照明デザイナーなど多彩な活躍をしている方だそう。映画の中に家族が住むマンションのエレベーターに「小便するべからず」と出てきて、彼の役がこれに関わってくるのですが、こういうことはしょっちゅうあるのですか? との質問に、「シンガポール人の60〜70%が住んでいる公共住宅ですが、理由はよくわからないのですが、その中でそういうことがしょっちゅうあるんです。それなので、政府の方で業を煮やして看板を立てて、尿探査機も作動しているようです」

13日に登場したヤオ・ヤンヤンさんは『881 歌え!パパイヤ』にも主演していました。台湾の大女優シルビア・チャン(張艾嘉)に面差しが似ています。彼女自身はマギー・チャン(張曼玉)の演技スタイルが好きなのだそうです。映画の中では両親とは福建語、夫とはシングリッシュ、弟とは北京語(普通話)など、相手によって自在に言葉を使い分けていました。ご自身はマレーシア出身でご両親は福建人。学校ではマレーシアの国語であるマレー語と、中華系の学校だったので北京語(普通話)ともちろん英語も勉強し、友人関係の中で広東語、潮州語、タミル語などもちょっとずつ覚えたと言います。あらゆる言語をちゃんぽんで使うのが日常で、今のこのQ&Aセッションのように北京語オンリーで喋ることの方が珍しいくらいだと話していました。映画の脚本は英語で書かれており、撮影のリハーサルでここでは何を使うべきかを話し合ったといいます。映画もヤオ・ヤンヤンさんの話も、多民族国家シンガポールの日常を垣間見られる面白いものでした。

その他 上映作品紹介

『ゴーン・ショッピング』(監督:ウィー・リーリン)

シンガポールの巨大なショッピング・センター。そこに集まる買い物依存症の女性、ネットゲームやコスプレ(というか、日本の若者文化?)にはまる若者、親のいない子どもなど、心の隙間をもので埋めようとする人々を、おとぎ話のようなタッチで描いています。『フォーエバー・フィーバー』に主演していたエイドリアン・パンが出てくるのですが、すっかりおじさんになった『フォーエバー・フィーバー』の彼のその後を描いたような役で、切なくて胸がキュッと痛くなってしまいました。

『ゴーン・ショッピング』場面写真 ブー・ジュンフェン短編集場面写真

ブー・ジュンフェン短編集

まだ25歳で短編しか撮っていないのですが、映像の美的センス、ナイーブな若者の心を描くストーリー・テリング、編集のリズムなど、これからを非常に期待してしまう作品群でした。まだ自分の経験的要素がストレートに現れているので、現在準備中という長編作品ではそこを越えた作品になっていればと期待します。13日にはエリック・クー氏のプロダクションのオフィスからSkypeで登場してくれました。スクリーンに映った瞬間、思わず「あら、可愛い」。益々、今後に期待(笑)。

プー・ジュンフェン

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(取材・写真:宮崎 まとめ:梅木)

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