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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『四川のうた』ジャ・ジャンクー監督来日記者会見

ジャ・ジャンクー

2009年2月5日  東京・渋谷 FORUM8にて

『四川のうた』が、4月に渋谷のユーロスペース他にて全国順次公開されるのを前に、ジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督が来日され、合同プレスミーティングが開かれました。

会見を待つ記者席の後ろ側から登場したジャ・ジャンクー監督、記者席の後ろの方に坐っている野上弥生子さんを見つけて、近寄って挨拶されてから着席。通訳は、小坂史子さん。

◆歴史の過渡期に生きてきた庶民の姿を観てほしい

監督:皆さん、こんにちは。新作についてお話できるのが嬉しいです。

司会:『四川のうた』に、イェイツの詩、山口百恵の歌、古都・成都を詠う古典詩などを多様された理由は?

ジャ・ジャンクー

監督:この作品は、これまでで一番リラックスして、自由に撮影できました。50年間、中国社会が経てきたもの・・・ 計画経済から自由経済へという過渡期に、中国庶民がどんな影響を受けてきたかを描きたいと思いました。中国で、1980年代を生きてきた人間にとって、山口百恵は共通言語です。個人が重視されず禁欲的な時代で、あからさまに恋愛を語れませんでした。『赤い疑惑』を観て、個人的な恋愛を語っていいのだと気づかされたのです。取材をしている中で、「ありがとう あなた」という歌の思い出が色々な人から出て来ました。山口百恵以外にも流行歌の思い出が語られましたので、中国の社会の変遷の中で大事な記憶だとして取り入れました。また、ポートレート的に取材した人の姿を収めたのですが、取材した人に対する尊厳、尊重の気持ちを表わしたものです。今回の作品は、一つには取材を受けた人の言葉に頼っています。詩や音楽など、色々なものを手法として取り入れました。僕が切り取った中国の歴史の複雑さに呼応するものだと思います。昨日、DVDで山下敦弘監督の『松ヶ根乱射事件』を観たのですが、アイドルだった三浦友和さんも、ちょっと太ったけれど、とても役者らしくなったなぁと思いました。

司会:日本でも海外でも解雇の問題が大きな現在、労働者の尊厳が問われています。日本の観客に本作をどんな風に観てもらいたいですか?

監督:宿命的、運命的に感じたのですが、私が本作を持ってカンヌに到着した頃に、四川で大地震が起こりました。撮影した工場には被害がなかったのですが、暗い思いに包まれました。去年起こった金融危機で、日本でも1万人規模の解雇があると聞き、複雑な思いがあります。それぞれの国で文化も歴史も違いますし、過去でも未来でも、いつの時代にも社会に問題が起こって色々な危機に人類は見舞われます。僕の映画の中の人たちは、体制から放り出されて自我を頼りに人生を立て直していきます。そこに希望を見出して欲しいと思います。取材を受けた中に、「手元に200人民元しかなくてどうやって生きていくか」と語っている人がいますが、自分で切り抜けて再スタートします。これまで、体制の中で国を信用して生きてきた人が多かったのですが、それが自分の足で歩き出したというところが素晴らしいと思います。

◆歴史は後世の人の想像力で残されるもの

Q. 4人の俳優を使った物語の部分は、現実の取材からヒントを得て作られたのでしょうか? それとも創作なのでしょうか?

監督:最初、単にドキュメンタリーを撮るつもりで取り組みました。420工場には3万人の従業員がいて、その家族を含めると10万人が関わっています。機密企業ともいえる工場だったのですが、2007年に不動産会社に買い取られて、新しいビルが建てられることが決まったと知り、この工場で働いてきた人たちにインタビューして、50年代からの生活の変遷を語って貰いました。話を聞くうちにイマジネーションが沸いてきました。歴史そのものが史実と後世の人たちの想像力で残されていくものではないかと思いました。 思い浮かべたのは、「三国志」は記録として書かれた歴史、「三国志演義」は想像力で補って小説の形で書かれたものだということでした。フィクション部分を撮ると決めたときに、名の知れた役者さんを使うことにしました。ドキュメンタリーとフィクションの部分があることを観る側に最初から意識して貰う意図がありました。リュイ・リーピン(呂麗萍)さんの演じた子供とはぐれた母親の話は、実際工場が四川に移転した時に起こった出来事で、インタビューをした時に、大勢の人から聞かされました。ジョアン・チェン(陳冲)さんには、上海から来た女性を演じてもらいましたが、インタビューした時に、20人位上海から来た女性がいて、その人たちの話を取り込みました。チャオ・タオ(趙涛)さんに演じてもらった人の話はほとんどフィクションです。僕が最初にオファーした時に、女優3人とも「ノー」と言いました。何を心配したかというと、自分は役者、労働者と同じようにリアルに語ることは出来ないからと。「ドキュメンタリーに出てくるような自然なものを目指さなくていい、これはフィクションとして撮るのだから」と伝えました。彼女たち自身心配しながらも、話を語るだけということはチャレンジングだと結果的に僕の仕事を引き受けてくれて、クリエィティブでいい仕事をしてくれました。印象深いのは、ジョアン・チェンさんでした。彼女自身に似ている女性を演じてもらいました。デビューした頃の18歳の彼女と、50歳の自分を出すことは勇気のいることと、彼女に感謝しています。

◆近代化の中で大きな代償を払った庶民

Q. カンヌの記者会見で、労働者の歴史、労働者の始点から中国を語りたいとおっしゃっていましたが、撮り終えて、中国という国をどう捉えましたか? 社会的な危機に対して、どのように感じましたか?

監督:作品を撮り終えて学んだのは、むしろ歴史に関わることで、経済や社会のことではありませんでした。オリンピック開催間近で、ここまで近代化したという象徴と感じました。けれども、清朝の末期から100年間、一生懸命努力してきたのは、近代化のためだったのか? 普通の人々が大きな代償を払ってきたのではないか? 寛容な目で近年の歴史を見ることができるようになりました。 皆を幸せにしよう、皆が豊かになるようにしようと努力してきた計画経済も、庶民が結果的に大きな代償を払ったのではないかと、撮影している間に気付きました。1978年から開放改革政策が始まり、集団行動をしていた人たちが自我に目覚め、個が大事にされるようになっていきました。かつては、工場で「自分は誰と結婚します」と公表しなくてはならなかった。それが、若い女の子たちが登場して、方向が定まらないながら自由に恋愛するようになっていきました。こういったことも、中国の変化として大事だったと感じました。また最近、実生活から離れた人物が登場するようなことも多くなってきたので、登場人物として労働者が出てきてもいいのではないかと、監督という仕事をする上で感じました。

◆次は、中国の近代史を描きたい

Q. 国の現実を描いてこられていますが、中国から離れて日本で撮ることも考えていますか?

監督:今のところ海外で具体的な計画はないのですが、『四川のうた』を撮り終えて、今、自分が撮っている中国の現実は歴史に根ざしているのだなと感じました。次は清朝末期や、1949年頃の国民党が台湾に渡った頃のことを描きたいと思います。今を語るためには、歴史を見ないといけない。歴史を語る人があまりいないのが現状です。海外では、東京の話を温めていますが、今は言えません。市山さんに3年位話しているのですが、中国の変化があまりにめまぐるしいので、他に目を向ける暇がありません。



ジャ・ジャンクー

【取材後記】ファインダー越しの人

ジャ・ジャンクー監督は大変色白で小柄。そして多弁な方。しかし、アグレッシブなしゃべり方ではなく、穏やかでとてもスマートな感じを受けます。今回は昔よりもずっと垢抜けたなぁと感じました。ちょっとオシャレな時計をしてました。(梅)

★4月18日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開!
  中国では、3月5日より公開

作品紹介はこちら

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(取材・文:景山 写真:梅木)
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