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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

第16回大阪ヨーロッパ映画祭 レポート

大阪ヨーロッパ映画祭のゲストたち
(左からヤノシュ・クルカ、ヤン・デクレール、ベントゥーラ監督、コスミン・セレシ、ローナ・ブラウン、
ヴェールレ・バーテンス、 脚本家パナヨティス・エヴァンゲリデス、 オリヴァー・ポーラス監督)

ABCホールにて


11月の連休を利用して、大阪ヨーロッパ映画祭にまいりました。

この映画祭は、毎年東京・フィルメックス映画祭と重なり、どちらをチョイスするか悩みの種になるのですが、今年は前半は大阪、後半はフィルメックスとちょっぴり欲張りました。

では観た順に、内容・感想などを少しずつ紹介いたしますね[(美)が見逃した作品については(香)が紹介]。


来日ゲストたち(左からヤン・デクレール、ベントゥーラ監督、
コスミン・セレシ、ローナ・ブラウン、ヴェールレ・バーテンス)


まず、ベルギーのジャン・ギャバンと敬意を込めて呼ばれている俳優ヤン・デクレール氏が登場する三作品から。

・『神父ダーンス』ステイン・コーニンクス監督/1992年/ベルギー・オランダ
1893年。産業革命時代のベルギーフランドル地方の街、アールスト。 劣悪な労働条件の製糸工場の闘争を描いています。 神父ダーンズは労働者側に立って、告発記事を書き、政治的な活動をします。 それが地域の権力者や教会上層部に睨まれ窮地に追い込まれてしまう・・・。
この映画祭の為、来日されたヤン・デクレール氏は私と同じ60歳代前半。 白髪のせいか、もっとお歳かな?と思いましたが、 中年の苦み走った落ち着きと意思の力が顔面にみなぎっていました。
当時のベルギーが抱える諸問題や庶民の生活がよく理解できました。

・『ザ・ヒットマン』エリク・ヴァン・ローイ監督/2003年/ベルギー・オランダ
先程は労働者に味方する神父さんでしたが、この作品では、ちょっとアルツハイマー気味の殺し屋。自分では引退したいのですが、なかなか許しがでません。 そこに少女を殺す仕事を知らずに引き受けた彼は、精神的に深いダメージを受ける…。
敏腕刑事と老いた殺し屋の気持ちの繋がりが、辛いストーリーに温かみを添えていました。 老いていく恐れやイライラを見事に表現されていました。 ベルギーのジャン・ギャバンと言われる俳優ヤン・デクレールの実力をしっかり見せていただきました。

・『ロフト.』エリク・ヴァン・ローイ/2008年/ベルギー
これは『ザ・ヒットマン』の監督さんの新作で日本初上映作品。
五人の中年男の秘密の部屋(浮気部屋)で起きた売春婦の殺人をめぐり、男たちの身勝手さや内実があぶり出される心理サスペンス。
ヤン・デクレール氏は少しだけ登場。役どころは、大会社の社長。 遊び人の娘婿が気に入らないが、顔には出さないこわもて老紳士。存在感はさすがでした。
この題名の横に「.」がありますが、なんででしょうね。間違えて「.」を書いたんではありません。あしからず。

お次は日本初上映作品です。

・『カメレオン』クリスティナ・ゴダ監督/2008/ハンガリー
女性監督作品です。前作は数年前に、あいち国際女性映画祭で初上映された『君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956』です。 オリンピック水球の金メダル獲得をソ連とハンガリーが競う熾烈なシーンが思い出されます。
新作はイケメン結婚詐欺師とその相棒が主役です。 イケメン詐欺師が本気で女性に惚れたことから、計画が崩れ、お金も貢ぐ羽目に…。 最後はちょっと可愛そうな結末ですが、女性の目線も忘れず描かれていました。

・『』ガブリエーレ・サルヴァトレス監督/2008年/イタリア
北イタリアに住む失業中で酒浸りの父と息子の物語。 父親は拝外主義に凝り固まったネオナチの為、周囲から孤立している。 だが、親子間に通い合う愛情は、暗い生活に灯った希望の光りのように温かいのです。 事の成り行きで息子から殺人犯と勘違いされてしまい、息子が父親を思うあまり、懸命に隠そうと奔走します。
この監督の前作『ぼくは怖くない』同様、少年をじっくり見つめた作品でした。

・『タンドリーラブ ~コックの恋~』オリヴァー・ポーラス監督/2008年/スイス
静かなスイス映画らしからぬ愉快なダンス、軽快な音楽、美味しそうな料理の数々で溢れた元気な作品で、夕方上映というのもあいまって、腹の虫は鳴り通しでした。煮込んで茶色い印象のインド料理に、東南・東アジアの料理もアレンジして、彩り豊かな工夫をしただけのことはあります。スイスとインド、正直なところ接点はなさそうですが、1960年代に起きたインドとパキスタンの紛争を逃れて、スイスに流れてきたインド人も少なくはないというし、かの有名なユングフラウにボリウッドから撮影にくる撮影隊も多いという。監督は「とにかく映画を観て楽しんで!」と言っていましたが、生ハムとメロンのように、ミスマッチな二つの要素が出会って、意外にも美味しくなるという印象の娯楽作品でした。ちなみに上映後に、インド繋がりということで、『スラムドッグ$ミリオネア』の原作者ヴィーカス・スワループ(在大阪神戸インド総領事館に勤務)が監督と共に登壇し、作家と外交官の二足のわらじの秘訣を語ってくれました(香)。


『スラムドッグ$ミリオネア』の原作者ヴィーカス・スワループ(右)と
『タンドリーラブ』のオリヴァー・ポーラス監督(左)


・『リトル・ソルジャー』アネット・K・オルセン監督/2008年/デンマーク
戦場から帰還した元兵士のロッテは精神のバランスを崩していたが、父親の仕事を手伝うようになります。 表向きは貿易商ですが、実は外国から売春婦を斡旋する仕事。 ロッテは運転手、ボディガードと凄腕を発揮し、売春婦たちの信用を勝ち取るまでになります。 ロッテは、父親の情婦でもある黒人のリリーに同情するあまり、意外な行動に・・・。
女性監督でこれほど骨太作品は初めてです。 二人の女優さんは、美しさと暗さが同居する複雑な表情をうまく出していました。 特に、ロッテの凛々しい?立ち居振る舞いに惚れ惚れしました。

・『アテネの恋人たち』パノス・H・コートラス監督/2009年/ギリシャ
一番びっくりした作品です。ギリシャ悲劇の近親相姦が絡めてあります。
15年の刑期を終え出所した父親が、生き別れた息子を探し始めます。 かつて住んでいた近くのホテルに泊まることにした彼は、トランスセクシャルの若い娼婦ステラに誘われ一夜を共にします。この娼婦が・・・。もう先は言うまい!
ステラはマリア・カラスの大ファン。口パク?で、ドラァグ・クィーン姿よろしく、ステージを盛り上げていました。 こんな形態でマリア・カラスを聴くとは思いもよらず、驚きました。
レズビアン&ゲイ映画祭常連の私も驚く内容でしたが、観た中でハッピーエンドはこれだけでした。

・『両替からはじまる物語』ニコラエ・マルジネアヌ監督/2008年/ルーマニア
職を失ったエミルは、家族でオーストラリアに移民するために、全財産を現金に変えたが、両替商に騙され文無しになっとしまいます。 おめおめ家族の元に帰れないエミルは、ブカレストで一旗あげようと家族に嘘をつき働き始めるのだが・・・。
始めは苦労ばかりで可愛そうだなぁと思っていましたが、彼はなんと自分も両替詐欺師になってしまうのです。 ユーモアもあり笑える箇所もありましたが、家族思いで生真面目なエミルが人を騙すのに平気になっていく様子に悲しくなりました。

・『美しく生きて ~アニエラと犬~』ドロタ・ケンジェルザヴスカ監督/2007年/ポーランド
この映画祭で3本の女性監督作品があり、3本とも標準をぐぅ~んと上回る作品ばかりでした。 特に、この『美しく生きて~』は、大阪まで来た甲斐があったと言える作品でした。
ワルシャワに住むアニエラは、愛犬フィラと暮らす老婆。このごろ腹の立つことばかりのアニエラだが、偶然に聞いた息子夫婦の会話で一大決心をするのだった・・・。
ドロタ監督の前作は『僕がいない場所』です。あのときの感動、忘れられません! あのときと同じ感動を、アニエラの凛とした表情や生き方と共に味わいました。

・『HOME ~空から見た地球~』リュック・ベッソン製作/ヤン・アルテュス=ベルトラン監督/2009年/フランス
息を飲むように美しい、世界各地の山、海、川、氷河など自然の映像は、熱気球や軽飛行機から撮影されたという。しかしその映像の合間、合間に、解ける氷河、地下水の汲み上げ過ぎや単一栽培で荒廃する土地など、素晴らしい自然に確実に異変が生じている様子が映し出される。人類にこんなにも痛めつけられているというのに、私たちの生を日々支えてくれている自然が、その堪忍袋の緒を切らすのは何時のことなのだろう? それを食い止めるために、「生活様式を変える」必要性をナレーションは繰り返していたが、グッチなどのブランドを傘下にもつ複合企業グループPPRがこの作品の協賛だという。企業活動と環境保護は上手く両立するのだろうか?(香)

スタッフ日記映画も堪能、そして味覚も!で続きをお楽しみ下さい。

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(取材:(美)、写真:(香))
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