女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『ラスト、コーション』ジャパン・プレミア

ラスト、コーション

1月24日、『ブロークバック・マウンテン』のアン・リー監督最新作『ラスト、コーション(色戒)』のジャパン・プレミアがマンダリンオリエンタル東京で開催され、アン・リー監督と主演女優のタン・ウェイ、助演男優のワン・リーホンが来場した。

1940年代の日本軍占領下の中国・上海を舞台に、抗日運動に身を投じる美しき女スパイ、ワン・(タン・ウェイ)と、彼女が命を狙う日本軍傀儡政府の顔役イー(トニー・レオン)による禁断の愛を描く本作品はヴェネツィア国際映画祭でグランプリと撮影賞を、台湾金馬奨では作品賞をはじめとする7部門での受賞を果たした。ところが、金馬奨で最優秀男優賞の栄冠に輝いたトニー・レオンは来日が急遽延期となってしまい、本当に残念。

 
©2007 HAISHANG FILMS/WISEPOLICY

ホテル内のチャペル「サンクチュアリ」前にレッドカーペットが敷かれ、華やかな雰囲気が漂う中、まずは一般の招待客が、次にゲストがその上を歩いた。一般の招待客には「準正装」のドレスコードがあったため、髪を夜会巻きにし、艶やかなチャイナドレス姿の方も見受けられた。ところが、招待客の皆さんは恥ずかしいのか、受付を済ませてもなかなか歩き出そうとせず、さらに到着が遅れるゲストもいたりで、レッドカーペット・セレモニーはやや混乱気味。そんな中、最後に今夜の主役であるアン・リー監督とタン・ウェイ、ワン・リーホンが登場した。

冴木杏奈、王力宏、湯唯、李安監督
左から 冴木杏奈、王力宏、湯唯、李安監督

純潔さと大胆さをあわせ持つワン・チアチーを演じたタン・ウェイは、一人映画を観ながら泣くシーンではまだあどけなさが残る女子学生そのものだったが、この日はグレーのドレスに身を包み、洗練された大人の女性といった印象。ワンが思慕を寄せ、彼女を抗日運動へと導く若き革命家クァンを演じたワン・リーホンはうっすらと髭をたたえ、黒のシャツとスーツでワイルドな雰囲気。そして、アン・リー監督はとても穏やかで静かな学者然とした佇まい。そこへ劇中のタンゴを歌う冴木杏奈さんが加わり、フォトセッションに華を添えた。

160名程の招待客の熱気に包まれる中、司会のLiLiCoさんによってアン・リー監督、タン・ウェイ、ワン・リーホンの名前が呼ばれ、ついにジャパン・プレミアが始まった。
 ゲスト席には奥山和由さんや有田芳生さん、吉田修一さん、高橋ひとみさん、泰葉さん、ドン小西さんなどの姿が見られた。
 舞台挨拶では3人は口々に「今回が最後のPR活動で寂しい、感慨深い」と語り、各地でPR活動を共にしてきた中で深い絆が生まれているよう。特にタン・ウェイは本当に寂しそうな表情を浮かべていた。
 監督とワン・リーホンは中国語と英語の両方を使っていたが、監督が何かのインタビューでワン・リーホンについて「彼は若い頃の自分に似ている」と語っていたことをふと思い出し、思わず納得。


©2007 HAISHANG FILMS/WISEPOLICY

次に、冴木杏奈さんと日本版オフィシャル・イメージソングを歌う中孝介さんが歌を披露したが、2人の歌に対して監督は「エモーショナル」という言葉を繰り返していたことがとても印象的だった。また、舞台後方で着席して聞いていたワン・リーホンが「このアングルから歌っているのを観るのは面白い」と笑って話すと、監督もふざけて同じコメントを繰り返す一幕があり、とても和やかな雰囲気に包まれた。
 監督は冴木さんについて「彼女の歌声は素晴らしいのですが、紅白(おそらく日本の紅白歌合戦と思われる)で歌うようなモダンな印象があったので、もっとクラシックに歌って欲しかった」と話したが、「紅白」と口にした時に恥ずかしかったのか頬が赤くなり、撮影中は厳しかったであろう監督の可愛らしい一面も垣間見えた。
 ワン・リーホンと中さんは初対面ということで、しっかりと握手をしていた。

最後に、監督は「この映画は深い意味合いを持ち、日中戦争をしている時代の映画だけれど、基本的にはラブ・ストーリーです」、タン・ウェイは「私にとって大事な映画です。皆と一緒に笑い、泣き、感情を共有して成長しました」、ワン・リーホンは「今回は初めての北京語の映画です。9ヶ月間、映画の中で初めて純粋な中国人としての人生を過ごしました」と語り、ジャパン・プレミアは締めくくられた。

ワン・リーホン、タン・ウェイ、アン・リー監督
左から ワン・リーホン、タン・ウェイ、アン・リー監督

その後のインタビューで監督は、話題になっている過激なベッド・シーンについて「単なるラブ・シーンではなく、映画の中核をなす大事なもの。痛くて重みがあります」、作品については「“不可能な愛”を描いた映画です」と語った。
また、トニー・レオンに対しては「彼は“ベスト・アクター”、最高級だよ」と語った。監督の口からそんな言葉を聞いてしまうと、なおさらトニー・レオンの不在が残念でならない…。でも、もしこの場に彼がいたら、きっとベッド・シーンについての質問が集中するに違いない。答えに困る彼の顔も見たくないし、大変複雑なところ。監督とタン・ウェイ、ワン・リーホンは前回も3人で来日したのだし、きっと3人の間には絆のようなものも生まれているだろうから、3人で最後のPR活動を終えられてかえって良かったのかもしれない。

監督はさらに「タン・ウェイは1万人のオーディションで選びましたが、勘で“彼女なら何でもやってくれる”と分かりました。ワン・リーホンはアイドルという立場だったけど、彼は昔の上海の雰囲気を持っていると思いました」と、二人の俳優達も賞賛した。

『ブロークバック・マウンテン』の主演俳優であるヒース・レジャーの訃報を来日後に知ったというアン・リー監督は、ヒースの死について聞かれると悲しげな表情を見せたりもしたが、会場外で待つファンからのサインや写真撮影の要望にタン・ウェイ、ワン・リーホンと共ににこやかに応じ、終始穏やかで紳士的な物腰が印象的だった。


中孝介
(編集部注)

日本版イメージソング「夜想曲—nocturne」を歌う中孝介(あたり こうすけ)は、奄美大島在住の歌手。2006年「それぞれに」でデビュー。その曲をアンディ・ラウがカバー(「紅顔自閉」という曲)したことから中華圏で話題になった。日本に先駆けて中華圏限定で発売したアルバムが台湾の音楽チャートで1位になり、台湾でブレイクし中華圏で人気に。その後、日本でもブレイクして現在に至る。

『ラスト、コーション』は2月2日よりシャンテ シネ、Bunkamura ル・ネマ、新宿バルト9、シネ・リーブル池袋、TOHシネマズチェーン他にて全国一斉公開

(取材 記事 K・S 写真 米原)
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