女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
(1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『ジプシー・キャラバン』
ジャスミン・デラル監督インタビュー

2008年1月9日(水) 12:30〜13:30   アップリンクにて

1月12日(土)からの一般公開に合わせて、ジャスミン・デラル監督が来日され、3誌合同でインタビューの時間をいただきました。写真で拝見したジャスミンさんはとっても美人。期待してお待ちしていたら、ジャスミンさんは、すらっと背が高くて、まさにジャスミンの香りを漂わせているような素敵な方でした。インタビューを始める前に、終了直後のランチメニューを係の方から見せられ、ベジタブルディッシュをチョイスするジャスミンさん。 「野菜が好きなの!」と、私たちの方を向いて、にこっとされました。
さっそく始めたインタビューは、一人一人の質問に、手振り身振りで語ってくださって、とても楽しい1時間を過ごすことができました。

ジャスミン・デラル監督

— 音楽、踊り、語られる言葉が素敵でした。作品の中で、だんだんまるでファミリーのような雰囲気になっていくのを感じました。ツアー前とツアー後で変わったことは?

監督:それぞれが全く違う音楽でどうなるかと思いつつも、根本的には皆ロマだし、なんとかなると思っていました。でも、バスに乗ったとたん、それぞれが違うことがわかったの。皆がアーティスト。自意識も強い人たち。相性が合う、合わないもある。最初は好きじゃなかった人も、お互い認め合えるようになったの。私がノンジプシーだったのがよかったかも。お互いの連帯感が育っていくことを見られたのもよかった。
思えば、日本語で「外人」っていうのが、ガジョ(非ロマ)と発音が似ていて、よそ者を表す言葉は似ているなと面白く感じています。

— 200時間以上撮影したとのことですが、膨大なデータからどういう基準で作品に採用されたのですか?

監督:フィーリングがまず第一。200時間を過ごしたことを2時間に収めるのは到底無理。私の気持ちが伝わるものを作ろうと思いました。でも、言うは易し! 頭、心、身体…いろいろなところで感じ取ったことをまとめるのは大変でした。 気をつけたのは、音楽をカットしすぎないこと。観てくださる方は音楽も楽しみにしているでしょうから。あと、彼らが座っている様子を私が語るのでなく、彼らからおのずと語る感じにしたいと思いました。思想、カラー、愛、音楽の要素を大事にしました。

— ロマの人たちは千年以上も前に、各地に散らばっていますが、スペインのピパが、「肌の色は違うけど、同じ血を感じている」と語っていたように、どこかに類似したところがあるのだと思います。監督が彼らと一緒に過ごして感じた一番の共通点は?

監督:とても難しい質問ですね。200時間も一緒にいても、一言では言えない。答えになるかどうかですが、マケドニアで、小さなロマの音楽グループを大勢の群集が囲んで聴いていた時に、声をかけたかったけど、言葉が通じないから、ロマの友達に携帯で電話して通訳してもらったの。私にロマの友人がいるとわかったとたん、「あなたの友人が迎えにくるまで、あなたをちゃんと守らなければ」と言ってくれたの。ロマの知り合いがいるというだけで連帯感が生まれて、兄弟扱いをされたの。

— 流浪して千年以上経っていますが、言葉に共通項は?

監督:もちろん! 各地で変化はしているけれど、ロマ語がきちんと話されています。インドのサンスクリット系の言葉。私自身インドを知っているので、聴いた感じでわかります。あと、すべてのロマの人たちに共通するのが、老人を敬うこと。これは、欧米に比べものにならないですね。伝統的に、なによりも家族が最優先。No.1以上。No.1から2、3、4、5まで、とにかく家族が一番。女性はその中で順列があるけど、特定の女性は敬われていて、母親は特に敬われています。女性が映画監督になろうだとか、議員になろうだとかいったことは大変。ロマの女性が社会進出をするのはかなり難しいことですね。

— 原題の「when the road bends …」に込めた思いをお聞かせください。

監督:冒頭に、「曲がりくねった道は、まっすぐには歩けないYou cannot walk straight when the road bends…」というロマのことわざを出していますが、彼らはまっすぐな道を歩むことができない。ロマの社会は一般の人から無視されて、曲がった道を行くことを余儀なくされてきました。でも、家を建て、仕事につき、家族を養っている。まっすぐした道がないのに、ちゃんと到達している人たちに敬意を表しました。

ジャスミン・デラル監督

— 今や映画だけでなく、ネットで情報が行き渡る時代。世界的に情報格差がなくなっていく状況について、どう思いますか?

監督:グーグルね! すでに世界は変わってきていますよね。検索するといろいろな情報が出てきます。良いものも悪いものも。間違ったものもある。選別が難しいですね。パソコンには詳しくないけど、E-mailで、映画に出演してくれた人たちにも、すぐに情報を伝えられるのが嬉しいですね。 世界中のロマの人たちが、いろいろなチャットルームを作っていて、共通のロマ語で会話しています。ロマの人たちは、今でも結婚は親が決める Arranged Marriageなのですが、「相手を探すのに、どうしてネットを使わないの?」と、子供が両親に言ったりしています。子供たちの世代の方が、ネットには強いですから。私自身、ネットを使ってティーンエイジャーたちとチャットしてマーケティングしています。

— 初来日とのことですが、日本の感想を!

監督:東京と京都と、それを結ぶ驚異的な新幹線しかまだ見ていないけれど、古いものと新しいものが共存しているのが凄い! 静かなお寺のそばに、土産屋さんが並ぶ通りがあって賑わっていたりして…。テクノロジーと伝統のコントラストが興味深いですね。私自身、イギリスで生まれて、アメリカに住んでいて、方や、母の住む南インドは人里離れた村でまわりにお寺などもあるのどかなところなのですが、そのコントラストも好きですね。あと、お世辞じゃなく、アップリンクの方たちが、ポスターやチラシをとても大切に作ってくださったり、HPでリンクを細かく付けてくださっていて、5年かけて私がやってきたことをとても大事にしてくださっているのが嬉しいですね。

— 南インドで育ったとのことですが、インドの血も入っているのですか?

監督:いろいろな血が入っているけれど、インドの血は入っていません。母方の祖父母がイギリスから南インドに移り住んだの。母は年を取ってインドに戻りたくなったらしく、今、母はインドにいます。

— ジャイサルメールに二度行ったことがあって、沙漠で音楽と踊りを経験したこともあるので、とても懐かしかったです。ジャイサルメールも素敵な町ですけれど、ポスターに写真が出ている踊り手のハリシュさんも美しいですね。

監督:マハラジャのほとんどのメンバーは、ラージャスターンの町じゃないところにいるけれど、ハリシュだけはジャイサルメールの町に住んでいますよ。また行くことがあれば紹介しますね。彼は結婚して、今、1歳の子供がいるの。

— ハリシュさんは、もともとは大工のカーストだったけれど、踊り手のカーストはそれよりも低いですよね?

監督:彼は、音楽の興業主のようなこともしているので敬意を払われています。彼の人生は、映画で語った以上に厳しい人生。父母が亡くなってから、兄弟の面倒を見てきたのですが、映画に出てきた10歳位の妹には、双子の兄弟がいたのですけど、試験に受からないかもしれないと自殺してしまったの。

— 家族の問題が大きく取り上げられていて、ロマに関わらず、普遍的な問題だと感じました。

監督:人間の物語を語りたかったの。ロマというのでなく、皆が抱えている家族の問題。私たちは皆一緒なのに、どうしてこんなにバリアをつくって複雑にしているのでしょう。人間はもっとシンプルなもの。幸せからもバリアをつくっているのかも。ジプシーの音楽を聴くと、解き放たれた気持ちになれると思います。

— 「生活は貧しいけれど、愛があれば生きていける」という言葉が心に残りました。監督自身生きていく上で、何が大事だと思いますか?

監督:私も愛! 愛にも色々な形がある。監督としての立場からは、熱い思いを伝えたい。大きな真実を伝えたい。映画はバリアをブレイクスルーしてくれるものと思います。

—具体的に、次にどんな思いを映画で伝えたいですか?

監督:ごめんなさい。今の段階ではわからない。5年費やしてこの作品を作って、今は各地で上映しているところ。でも、二つアイディアがあります。多分インドに関したものを撮ることになると思います。エネルギーをまずは蓄えなくては!

— エネルギーも必要ですけど、資金も蓄えないといけないですね。

監督:そうなの! 資金を集めるのに、とってもエネルギーがいるの! 監督になると決めたときに、お金お金と言うようなことは望んでなかったのに、80%はお金を集めるのに時間を取られているの。でも、有名な監督でも、資金集めには苦労すると聞きますから。

— 次回もドキュメンタリーですか?

監督:ええ、ドキュメンタリーを撮りたいですね。

— 次回作も楽しみにしています。今日はありがとうございました。

ジャスミン・デラル監督

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長年ロマの人たちを追い求め、一緒に過ごしてきたジャスミンさんには、まさにロマの血が乗り移っているような気がしました。笑顔が素敵なジャスミンさんに、ロマの人たちも心を解き放して語ってくれたのだと思います。
ユダヤの人たちと同様、ずいぶん前にその地に移住して定住しているのにもかかわらず、いつまでも「よそ者」扱いされてきたのは、かたくなに自分たちの伝統を大事に守り続けてきたからなのでしょうか。
ルーマニアのファンハーラ・チョクルリーアの方が、「ロマはみんな悪者だと思われているのではと不安だった」と語っているように、ロマの人たちが差別を感じていることを痛感しました。情報化時代の今、作られたイメージが流布する危険は、どんなことにも付きまといます。マケドニアのエスマの「世界から偏見や戦争、難民を無くしたい」という言葉が心に残りました。伝統を大事にして、お互いが違いを認め合う世の中の実現することを、私も祈るばかりです。

(取材:景山咲子)
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