女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
ピート・テオ 大特集第3回
音楽活動について
ピート・テオ

 1990年香港へ渡ったピートは、同年”Mid-Century”というデュオを結成。デビュー曲「オータム・ダンス」は広東語で歌った曲で、香港でヒットを記録している。しかし、1992年にはバンドを解散。その後しばらく音楽活動を停止することになる。一体何があったのか、聞いてみた。

Pete:原因はいくつかあった。第一に、そこでたずさわった音楽ビジネスというものがあまり好きではなかった。ジョージ・ラム(林子祥)が僕に香港から去ることを勧めてくれたんだ。作品が何だったか忘れたけれど、僕は彼に曲を提供していた。ディレクターはテディ・ロビン(泰迪羅賓)だった。テディが僕の音楽を気に入ってくれてね。アラン・タム(譚詠麟)とも知り合った。アランも僕の音楽を聴いて気に入ってくれた。知り合ってしばらくして、彼もまた僕に「香港を出たほうがいい」と言ったんだ。「香港に長くいたら君の情熱は消えてしまうだろう」って。

第二は、セカンド・アルバムを制作していたんだけど、事故が起こって出せなくなってしまった。技術的な問題だったんだけどね。

それに加えて、香港にいてもあまりハッピーじゃなかった。香港の芸能界はみんな互いに知り合いで、しょっちゅう一緒に遊んでいる。刺激の多すぎる場所だよ。そして、そこでの関係は本物じゃない、泡みたいなもの。曲は書けば書くほど、ひどいものになっていった。でも実は、あの時はとても大きなチャンスだったこともわかる。僕が書く曲は、香港の人間が書くものとはちょっと違っていたから、たくさんの業界人たちが、僕との仕事を望んでいた。でも、その頃は自分の作品を自分自身あまり気に入っていなかっし、それでは申し訳ないと思って、辞めることにした。そして、もし音楽ビジネスがこんなものなら、二度とかかわるまいと思った。だからその後3年程、全く音楽はやらなかったし、再開するつもりもなかったんだ。

それで色々とやっていたと?

Pete:これまでいろんな勉強をやってきたからね。でも、選択肢がありすぎるというのもあまりいいものじゃない。

集中できないということ?

Pete:そう。いやだったらすぐ辞めちゃったり。でも3年間、音楽がなかったたら、まるで自分の半分がなくなったように感じたんだ。本当に楽しくなかった。その頃、ある人がクアラルンプールの僕を訪ねてきてくれたことがきっかけで、音楽を再開することができた。彼は香港にいた頃、僕がとてもお世話になった人で、有名なプロデューサーのレオ・フォン(馮[火韋]國)だった。

 このレオ・フォンという人物は、音響設計の専門家で、香港では非常に有名なオーディオ・マニアでもある。趣味が高じて自分でレコード・レーベルを作ってしまい、ピートが香港で出すはずだった2枚目のアルバムはそのレーベルで制作していたという。

Pete:彼は僕にとってとても大切な人なんだ。2度目に音楽の道を歩き始めたのは、彼のおかげだからね。ただ、彼が僕に音楽制作を依頼してきたとき、最初は心配だった。僕の音楽はあまり商業的なものじゃないしね。でも彼に「儲けたいと思っているなら、僕は友人としてあなたに損をさせるようなことはしたくない」と言ったら、彼は「違うよ。君には力量があると思うからさ」と言ってくれた。だから、再び始められたんだ。

 音楽をやり続けるには、才能の他に、サポートしてくれる人との素晴らしい出会いが必要なことは歴史が物語っている。

 現在、ピートはどこのレコード会社にも属さない、インディーズ・ミュージシャンとして活躍している。インターネットの普及により、レコード会社と契約せずに独立で活動するミュージシャンは増えてきている。

インディーズでやることの良さと難しさについてどのように考えていますか? また、世界中で同じような道を模索している人たちが沢山いるけれど、彼らにアドバイスするとしたら、どんなことがありますか?

Pete:良いところは、自由だよ。それが一番大きい。書きたいものを書ける。やりたいことがやれる。外見をああしろ、こうしろと強制されない。格好いいイメージを作って売るのは、あまり好きじゃないんだよ。僕は自分をポップスターではなくて、ミュージシャンだと思っている。進歩や変化や新しいものが好きだ。でも、レコード会社と契約してしまったら自分ではもうどうにもならない。もし10代のファンにアピールするなら、こういう格好でなきゃだめだどか、テレビや雑誌のインタビューではこういう話はするなとか、決まったやり方に従わなくちゃならない。僕はそういうのには従えないし、うそもつけない。

香港で仕事をしていたときは、そんな感じだったのね。

ピート・テオ

Pete:ほんとに辛かったんだ。ホールドアップさせられてるみたいだった。僕自身、草の根的な活動で出てきた人間だと思っているので、インディーズでやっていることが楽しい。音楽をやるって、別に何でも無いことで、みんなが好きになってくれればそれでいいんだ。

インディーズの良くない点は、自分でやること多いこと。レコード会社と契約すればプロモーションやマーケティングは彼らがやってくれる。大きな会社なら、そういうのももっとパワフルでしょ。自分でこんなに苦労することはない。でも、やっぱりそれも良い点かな(笑)。自分に自由があるんだから。

良くない点をもう一つあげるとすると、アジアでの“インディーズ”という言葉のイメージの悪さだと思う。アメリカやヨーロッパではそんなに大きな問題じゃないけれど、アジアでの“インディーズ”という言葉に対して多くの人々が受ける印象は、第1に“小さい”、第2に“(質が)良くない”。知識の問題だね。”R.E.M.”を知ってる? 世界的に有名なアメリカのバンドだけど、彼らはインディーズだった。今や世界中のたくさんのビッグなバンドがインディーズ・レーベルだ。よって“インディーズ=小さい、(質が)良くない”というのは当てはまらない。結局、良くない点は仕事をするのが難しいってことだね。多くの人がそう思いこんでいるから、レコード会社もなかなかサインしない。でも逆に、今や多くのミュージシャンたちは、敢えてサインしない。僕も話はあったけど、サインしなかった。

インディーズが増えてきたのには、インターネットの普及による影響がありますね。

Pete:そう。今や制作コストは低くなって、資金もそんなに必要ない。自分でお金を出したり、友人から出してもらったりするくらいで足りるんだ。インターネットを使えばパブリッシングも、流通・販売もできる。

でもプロモーションが問題ですよね。

Pete:そう。プロモーション面だけは、レコード会社の方が有利だね。彼らには強力なネットワークがあるけど、インディーズにはない。でもミュージシャンにとっては、プロモーションというのは二の次なんだ。一番は音楽そのもの。自分の音楽が良くなければ、何を言っても嘘になる。何はともあれ、まずは自分の音楽と向き合わなければいけない。僕はたとえ売り上げが少なかったとしても、自分のあり方を示したいと思っている。何しろ、以前の香港での経験は忘れられない。全く楽しくなかったんだ。2度は繰り返さないよ。

映画だと、たとえインディーズでも、国際映画祭のような場があって、それは世界に向けたプロモーションの場になりえます。でも、音楽にはそうした場がないんですよね。

Pete:そうなんだよ。だから難しい。音楽は自分で出かけていくしかない。こうやって日本にも来て、ゆっくりやっていくしかないんだ。日本に来てやっていることは、それほど新鮮なことではないけれど、小さなライブから徐々に大きくしていきたい。音楽に力があればできると思っている。ただ、時間が長めにかかるだろうけれどね。別に時間がかかることは恐れない。時間がかかってもできれば、根本的にやり遂げたことになる。たくさんの事を知ることができるし、たくさんの人とも知り合える。

では、同じような道を目指している人たちにアドバイスはありますか?

Pete:まず寝る時間は3時間で十分だってこと。

は?

Pete:やることがほんとにたくさんあるんだ。僕は寝てもせいぜい3,4時間。マネージャーに聞いてみな。メールするのはいつも朝5時以降だよ。第一のアドバイスは真面目に一生懸命やることだね。寝坊や中途半端はだめだ。特に国際的にやろうと思ったらね。第二に、友達はたくさん必要。第三は音楽の力量。これがなければ、どうやっても無駄。でもたとえ力量があっても、真面目に頑張る必要はあるんだ。

 あくまでも自分の表現を妥協せずに追い求めるために、商業主義との距離を測りながら、より多くの人々に聞いてもらえるよう方法を模索するピート。

 マレーシアではNOKIAの最新機種Nシリーズを買うと、プリセットで彼の最新アルバム「TELEVISION」の待ち受け画面とMVとMP3が入っているという。なかなか斬新なプロモーション方法だ。今回のライブでピートは「次は東京ドーム公演」とジョークを飛ばしていた。しかし、彼はただのジョークでは終わらぬよう、日々努力を重ね、仕事に勤しんでいるのだ。

つづく

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(取材・写真:梅木、白石 まとめ:梅木)
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