女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『ディス・イズ・ボサノヴァ』 

ボサノヴァの巨匠カルロス・リラ&ホベルト・メネスカル記者会見

カルロス・リラ&ホベルト・メネスカル
左からホベルト・メネスカル、カルロス・リラ

ボサノヴァは日本人にとってとてもなじみ深い音楽です。街を歩けば、日に一度は耳に入ってきます。あまり詳しくない人でも、「イパネマの娘」や「波」「ワン・ノート・サンバ」などの名曲や、アントニオ・カルロス・ジョビンの名前くらいは聞き覚えがあるのではないでしょうか。

ボサノヴァが生まれて50年が経ちます。ボサノヴァの洗練されたメロディーとハーモニーは、フランス印象派音楽やアメリカのウェストコースト・ジャズなどの影響を受け、サンバなどの地元の音楽と融合させて生まれたものです。また、新しいギターの奏法とささやくような歌唱法を編み出して、独特なスタイルを確立しました。ブラジルのリオデジャネイロで始まったボサノヴァ(新しい傾向)は、その後海を越えてアメリカやヨーロッパでも受け入れられ、日本にもやってきました。その叙情性や繊細さが日本人にも受け入れられ、今や、世界のどこよりもボサノヴァを日常的に聞いているのは、日本かもしれません。

ボサノヴァの誕生から現在までを知る生き証人であり、70才を越えた今もなお旺盛な演奏活動を行っている巨匠カルロス・リラとホベルト・メネスカルが案内役となり、ボサノヴァの歴史をたどるドキュメンタリー『ディス・イズ・ボサノヴァ』が8月4日(土)より東京・渋谷Q-AX CINEMAにて公開されています。ボサノヴァ好きが必見なのは言うまでもありませんが、あまり知らない人でも、彼らの青春のきらめきを感じたり、数多くのミュージシャンたちがインタビューに答えると同時に、演奏も披露しているので楽しめるはずです。

個人的にはこれまで音楽としては楽しんでいても、詩の世界にまで注目していなかったのですが、この映画を通して、初めてその歌詞の奥深さに感じ入りました。パンフレットには、映画で紹介された曲の歌詞の日本語訳が全部掲載されていて必見です。

さて、映画が公開される直前の8月3日(金)、カルロス・リラとホベルト・メネスカルが初来日し、ブラジル大使館にて記者会見を開きました。その模様をお伝えしましょう。


ホベルト・メネスカル&カルロス・リラ

Q この映画を作るきっかけは?

ホベルト:二人の共通の友人である監督のパウロ・チアゴから声がかかりました。映画のカメラで撮影されるのは全く慣れないことでしたが、監督から声がかかって、実際にしゃべり始めたらこんな結果になってしまいました。音楽としてのボサノヴァの形は皆さん知っていると思いますが、この作品を通じて、ボサノヴァの歴史と中身を知っていただきたいと思っています。

Q この作品をどんな観客に観て欲しいですか?

カルロス:世界中の人々に観てほしいのですが、この映画はボサノヴァというテーマを取り上げていて、ボサノヴァというのは中流階級の音楽だと思っているんです。ブラジルの中流階級から生まれた音楽なので、世界中の中流階級のリスナーの皆さんにこの映画を紹介したいと思います。

ホベルト:世界中の中で特に日本の観客に観て理解してもらいたいと思っています。

Q 日本以外では上映されましたか?

ホベルト:ブラジル全国の映画館で上映されましたが、ほかにはアメリカのカリフォルニア、ニューヨーク、ヨーロッパではオランダ、フランス、イギリスなどの映画祭で上映されました。ロードーショー公開はありません。

Q 日本ではボサノヴァがあまりにも一般的で、マクドナルドで食事をしていてもBGMとしてボサノヴァがかかることがあるくらいです。日本人は最もボサノヴァが好きですが、その日本の観客にどんなことを期待していますか?

ホベルト:日本人はものに対して凄く好奇心があるので、この作品は日本でヒットするのではないかと感じています。他の国の人々よりも日本人は、その作品自体以上に、構造についてどうやってできているのか、例えば映画であればメイキングを観てどうやって作っているのかを知るということに興味があるので、この作品でボサノヴァについてより理解してもらった上で、もっと好きになって欲しいと思います。

Q お二人から見て、日本人がこれほどボサノヴァを愛する理由というのはどういうところにあると思いますか?

カルロス:日本で最もボサノヴァが愛されている理由というのは、人々の学歴にあるのではないかと思います。ブラジルでは貧富の差が激しいですが、日本はそういうことがなく、中流階級が多くて、一般的に学歴も高く、文化的な人が多いです。ボサノヴァというのは元々がそういった中流階級のリスナーのために作られた音楽なので、日本人の好みにピッタリなのではないでしょうか。

Q お二人が開いていたギター教室がボサノヴァが広まる拠点になったわけですが、教室といっても堅苦しいものではなく、サロンのような感じだったと聞いています。実際のところ、どんなところだったんですか?

ホベルト:最初に二人でギター教室を開いた場所は、凄く狭くて、暑苦しい場所だったんですが、徐々に余裕ができて、少しずつ広い場所に借りかえて教えることになったんです。

カルロス:あの頃は市内に住んでた若い女性が是非ぼくらとギターの勉強をしたがったんですよ。ギター教室のすぐそばに部屋を借りて通っていました。

ホベルト:彼は色男なんですよ。

ホベルト・メネスカル&カルロス・リラ

Q ブラジルに住んでいた頃、あるブラジル人のギタリストと会話をしていたときに、彼は「ボサノヴァは外国人向けの音楽だ」と言ったのですが、その意見についてどう思いますか?

ホベルト:ボサノヴァはジャズ、特にウェスト・コースト・ジャズからの影響が大きいです。ですから、ボサノヴァはブラジルに限らず、世界中に向けた音楽だと思っています。ブラジルを訪れる観光客は、ボサノヴァはどこで聴けるのか? とよく質問するらしいのです。しかし、ブラジル国内でボサノヴァの生演奏を聴ける場所は、残念ながら今は非常に少ないです。ブラジルでボサノヴァを聴く人口が段々と減少しているからです。

カルロス:ボサノヴァは実際に外国人向け、エリート向けの音楽だと言われた事もありますが、そうであったとしても何が悪いんでしょう? 実際、ボサノヴァには様々な影響が含まれているので、ある程度の文化的素養がないと十分に楽しむことはできない音楽だと思っています。

Q この映画のプロモーションが終わった後、何か新たな計画はありますか? 例えば一緒に作曲するとか。

ホベルト:二人で一緒に計画なんて立てたことがないですね。本当に昔からの友人ですが、実は一度も一緒に曲を作ったことがなかったんです。でも、日本に来る前に一度彼に電話をしたら、何かアイデアがあると言うんで、電話を通じて二人で曲を作り始めています。その曲にジョイスが歌詞をつけてくれる予定なんですが、まだ進行中ですので、今後ともご期待下さい。また、10月にカルロス・リラ、ホベルト・メネスカル&マルコス・ヴァーリのバンドで来日する予定です。東京は10月25,26,27日、大阪は10月29日、福岡は11月1日を予定しています。

カルロス:ボサノヴァは決して運動ではありません。自然発生したものです。これからもどんどん進化していくのではないかと思っています。

(取材・写真・まとめ:梅木)


チラシ画像 『ディス・イズ・ボサノヴァ』
監督・脚本:パウロ・チアゴ
出演:カルロス・リラ、ホベルト・メネスカル、ジョアン・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビン、フランク・シナトラ、ジョイス、ワンダ・サー、ジョアン・ドナード 他
2005年/ブラジル/129分/35mm/カラー/1:1.85ヴィスタ/ドルビーSR,SRD
配給:ワイズポリシー
協力:ビクターエンタテインメント
公式サイト:http://www.wisepolicy.com/
★8月4日(土)よりQ-AX CINEMAにて上映中!
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