女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『天上草原』麦麗絲(マイリース)監督インタビュー

2005年1月21日(金)

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★3月12日より東京都写真美術館ホールにて公開→http://www.syabi.com/

マイリース

 内モンゴルの四季折々の大自然を背景に、モンゴル族の人たちの心を描いた『天上 草原』。監督の塞夫(サイフ)さんと麦麗絲さんは、共にモンゴル族で、映画界きってのおしどり夫婦。本作は、『天国の草原』のタイトルで、日中国交正常化30周年記 念事業“2002年「日本年」「中国年」”の一環として、2002年9月に開催された中国映画祭において上映されたが、この度、3月12日より東京都写真美術館ホールで公開される運びとなった。
公開を前に、監督の一人、麦麗絲さんが3度目の来日を果たされた。ニ年前の、中国映画祭で取材させて頂いた折には、ショートカットだったのが、今回は長い三つ編みで雰囲気もぐっと違う。若々しくなった感じ。2年前のインタビュー記事を掲載したシネマジャーナルと写真をお渡しすると、「あまり写真は撮らないので少ないのですよ」と喜んでくださった。

Q: 数々の受賞おめでとうございます。伝統文化を伝える貴重な作品で、かつまたストーリーも心に残るものでした。2年前に、映画の内容自体についてはかなり質問していますので、今日はそれ以外のことについてお伺いしたいと思います。まずは、内モンゴル、中国の漢民族地区、モンゴル共和国、各地での上映の反響についてお聞かせください。

監督:台詞がモンゴル語ですので、内モンゴルで公開された折には大勢の方が映画館に来てくださいました。映画館で観られなかった人はDVDなどで観てくださって、恐らく内モンゴルのほとんどの人が観たのではないかと思います。「真実味がある」、「今の内モンゴルを描いている」という声を聴いています。バルマについては、演じた娜仁花(ナーレンホア)がモンゴル族ですし、美しい女性だということでファンがたくさんいます。
漢民族の人たちの反応は、まずは「なんて美しいところ!」と、大自然に感嘆し、是非行ってみたいという気持ちを持ったようです。バルマを見て、モンゴルの人の心が温かくて寛容だということに感動してくれました。シェリガンに対しては、厳しくて憎たらしいけど、演技については、寧才(ニンツァイ)は男優賞も取りましたし、皆肯定的に評価してくれています。
モンゴル共和国では、『蒼き狼 チンギス・ハーン』など公開された作品もあるのですが、この作品は公開されていません。

Q: 製作費調達には皆さん苦労されていると思うのですが、多額の支援をどこかから受けているのでしょうか?

監督:この映画は国が資金を負担しています。毎年、映画基金として、国が資金を出すのは、(1)民族 (2)農村 (3)子供 をテーマにしたもので、商業映画には出ません。私たちの地域で年間1〜2本。中国全土では、10作前後のこうした映画に国の資金が出ます。また、興行収入が出た場合は、国に返します。『天上草原』はその一本に選んでもらって撮ることができました。

Q: 国からお金を出してもらうということで、検閲などで制限を受けることはあるのでしょうか?

監督:やはり、テーマなどについて国が納得しないと資金は出してもらえません。でも、今は映画を取り巻く状況は変わっていて、私がこの映画を撮った2年前より国の管理はゆるくなって検閲はほとんどありません。それでも、道徳に反するもの、子供に悪影響を与えるものは、引っかかります。国の映画に対する投資額もこの映画を撮った時より増えています。以前なかった個人の映画会社も増えていますので、映画の環境も変わってきています。

Q: 内モンゴルの映画製作の現状は?  監督の数や年間製作本数は?

監督:監督は、十数人です。ほとんどが若い人です。年間の製作本数は27、8本。国営映画製作会社の中で、製作数は3番目に多いです。塞夫が所長になったのは2002年ですが、その後製作本数が伸びたのです。彼は宣伝や管理能力が優れています。

Q: 昨年は陶紅さんを主人公にしたテコンドー選手の映画を撮っていらっしゃいますが、内モンゴルで製作している映画も、伝統的なもの以外の方が多いのでしょうか?

監督:民族的なものは、3本位で全体の10%位にあたります。あとは漢族の世界を描いたものです。

Q: 若い監督はどのように育てているのですか?

監督:北京電影学院を卒業するなどした後、内モンゴルに戻ってきて、実践で勉強していきます。今、若い監督がとても増えています。

Q: 発表する機会は多いのでしょうか?

監督:映画館で上映するより、テレビの映画専門チャンネルで発表することが多いですね。低予算で撮っているのですが、視聴率は高いです。映画館に行って観る人は少ないですね。

Q: 映画館の入場料は? また、それは収入に比してどれくらいのものなのでしょう?

監督:北京では60〜120元ですが、内モンゴルでは20元程度です。内モンゴル都市部の最低月収が800元ですので、そこから逆算してみてください。草原での収入は違いますので、映画代金に対する考え方も違うと思います。草原に映画館はないので、家でテレビやDVDで観ています。時々野外で幕を張って映画上映をすることがありますが、これは政府がバックアップしていて無料です。

Q: モンゴルの人たちの映画館で映画を観るときの雰囲気は?日本人はおとなしくじっと観るのですが、インド人は一緒に踊ったりします・・・

監督:じぃっと静かに観ます。草原での上映会の時には、皆、民族衣装で正装してやってきますが、それでも映画を観るときには静かに観ます。

Q: 漢族の方が観るときに賑やかそうですね。

監督:野次を飛ばしたりね。

Q: 以前のインタビューで、モンゴル族の女性はご主人を立てるとおっしゃっていましたが、この映画において、お二人の意見が対立して、どうしても譲れなかったようなことはありましたか?

監督:私たち二人の役割がはっきりわかれていて、現場で撮影の指揮を取るのは私、主人はプロデューサー的な仕事と全体の把握。費用・企画・配給をやっています。いつも二人の名前が監督として並んでいるので、二人でメガホンを取っているように思われますが、主人は裏方でやっていることが多いのです。テーマが女性なので意見を言われることは少なかったように思います。一つのシーンを撮り終えて、見せてみて、ここをこうしたほうがいいのでは?と言われることがあって、もっともだなと思うところは撮り直したりします。モンゴルの男性も日本の男性と似ているのではと思うのですが、具体的な細かい仕事はあまりしないで全体的な仕事をするのが男性。主人は内モンゴル映画製作会社の社長をしていて忙しいということもあり、全体的な把握をすることで能力を発揮できているのではと思います。

Q: ご主人とのなれそめを差し支えなければお聞かせください。

監督:知り合ったのは、塞夫が大学を卒業した頃で、私は解放軍の文芸隊で女優をしていて、モンゴル族どうしということで知り合いました。7日目で結婚を決めまして、一年後に式を挙げました。日本の男性と同じだと思うのですが、モンゴル族の男性も必要なことしか言いません。結婚しようという時も、「自分を信じてくれるなら結婚しよう」と言うだけでした。

Q: 結婚式は映画の中のように伝統的な式だったのでしょうか?

監督:いいえ、簡単にレストランでお互いの友達を呼んで会食をしました。当時の中国の経済状況では、派手なことはできませんでした。

Q: 主演のお二人はその後どうされているのでしょう?

監督:実はこの映画がきっかけで二人は結婚しました。何しろ撮影が1年にわたりましたので、冬の撮影の頃には、お腹に子供が出来ていたそうです。私は知らなかったのですが・・・。

Q: 最後に、日本で一般公開されるに当って、日本の観客に見どころをお聞かせください。

監督:私は今までモンゴル族の監督として歴史をテーマにしたものを撮ってきました。今回の作品は今の草原の現実を描いたものです。まさか日本の皆さんに観てもらえるとは思っていなかったので、とても光栄に思っています。日本人とモンゴル族は似ているところがあるので、わかってもらえるところ、通じるところがあると思います。今の女性の置かれている難しい状況を描いていますが、大自然を観ることができるので、忙しい生活で疲れている心をリラックスしてもらえればと思います。この映画は、バルマを通して、真心の大切さ、人に与える大きなものを描いています。人間が生きていく上で大切なことだと思いますので、映画を観て色々感じて貰えれば嬉しいです。



40分のインタビュー時間は、またたく間に過ぎてしまい、映画撮影時のエピソードや、映画自体についてお伺いする時間がなくなってしまったが、ご主人の塞夫さんにしっかりバックアップしていただいて映画作りをされている様子を伺い、微笑ましい思いがした。これからもお二人で数々の名作を生み出してくださることと楽しみだ。

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(取材: 白石映子(撮影)・景山咲子(まとめ))
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