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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

2003/02/01 掲載、02/10 一部修正、02/17一部修正

第7回 釜山国際映画祭レポート
アンニョンハセヨ〜韓国・釜山

いざ、釜山へ!(11月14日)

 韓国映画にはまること約1年。思えば、一昨年に観た、 『春の日は過ぎゆく(ホ・ジノ監督、2001年、韓国)』 で湧いた韓国映画への興味は深まるばかり。 そして、行ってみたいと思うようになった釜山国際映画祭。 下関からフェリーに乗り、いざ釜山港へ。

釜山 チャガルチ市場
釜山タワーから釜山・影島方面を望む   チャガルチ市場内の様子

 韓国第二の都市・釜山広域市は古くからの港町。国際市場であるチャガルチ市場には 今まで見たことのない魚介類が盛りだくさんと並べられていた。 三枚おろしにはどうするんだろう・・・などと余計なことを思いながら 市場の中のスタンドでコーヒーを飲む。

 釜山初日の11月14日は、第7回釜山国際映画祭の開幕式&オープニング作品である 『海岸線』の上映が行われる。朝に釜山港へ入港。 宿に荷物を置き、開幕式までまだ時間があるので、ぶらぶらと南浦洞あたりを散策した。 釜山タワーからは釜山全域が見渡され、改めてこの街が海に囲まれた美しい街だと感じた。 そして、ふと大きな赤い橋に気づく。 あれが『リベラ・メ』で、ユ・ジテ演じるヒョッテの棺が運ばれたところね、 と勝手に感慨深くなる。 その赤い橋は釜山大橋。 ちなみに『リベラ・メ』 では釜山市がその撮影を全面的に協力、バックアップをしたという。

釜山市民会館 『海岸線』の看板
開幕式の行われた釜山市民会館   市民会館前の『海岸線』の看板

 今回、開幕式ならびにオープニング作品の 『The Coast Guard(海岸線)』 のチケット入手は難航を極めた。 10月29日に開始されたインターネット受付分は、ものの3分で完売・・・ す、すごいじゃないか。というわけで、知人の知人であるシン・インヒューさんを頼り、 そしてそのシンさんが八方手を尽くして下さって何とかチケットをゲット。 あぁ、ありがとうシンさん。そのシンさんと待ち合わせて開幕式の行われる市民会館へ。 夕刻となりライトアップされた市民会館は光り輝いており、 その周りにはたくさんの人だかりが。中央にはお決まりの赤いじゅうたんが敷かれていた。 また、会場の中からはモニターを通して今、 ゲストの誰がやって来たかがわかるようになっている。ぞくぞくスター達がご入場。 あっカン・スヨンだ、おっソン・スンホンだ、おぉイム・グォンテク監督だと、 気持ちが盛り上がっていく。と、あるふくよかな老婦人がご登場。 と共に場内から拍手が興った。「誰ですか?」とシンさんに聞くと、 昔の大女優のファン・ジョンスンさんです、とのこと。 ひえ〜『浜辺の村』などに出ていたあのお方ですかあぁ。 尊敬・敬愛の意味を込めた拍手だったのですねえ。

 イ・ビョンホンも登場。そして、何か違うオーラが立ちこめたぞと思いきや、 韓国を代表するファッションデザイナー、アンドレ・キム氏であった。 そんでもって、やっぱり来ましたね、アン・ジョンファン(もちろん夫婦)。 そして、トリはやはりチャン・ドンゴンとキム・ギドク監督。 それにしてもチャン・ドンゴンは「キャ〜!!」の声援がよく似合うスターである。 反対にキム・ギドク監督は小柄で素朴な、ともするとうちの近所にもいそうなおじさん、 という感じで意外だった。 だって作風からして個性的な、少しクセのあるような人物像を想像していたので・・・。

 司会のアン・ソンギ氏が舞台の上に登場。実物を初めて目の前にして、 思ったより小柄な方であることにびっくり。でも存在感はさすがで、 神々しい雰囲気さえ感じた。が、いたって控えめな態度かつ気さくな感じ。 う〜む、さすが韓国映画界の重鎮、“ソンセンニム(先生様)” とも呼ばれる意味がよくわかる。

 そして、釜山国際映画祭実行委員長のキム・ドンホ氏の開幕宣言で、 第7回釜山国際映画祭は始まった。

 舞台は、太鼓の音やら何やらでお祭りらしく、にぎやかかつ華やかに始まった。 シンさんに聞くと、釜山のあたりの伝統舞踊とのこと。 小さい子供からおじいさん、おばあさん、夫婦(奥さんの方は妊娠している設定らしい)、 漁師など、いろんな人たちがひとつ舞台の上で唄い、踊っている。 韓国独特の鮮やかな色彩も印象的だ。サッカーW杯の開幕式を思い出す。

 そして、オープニング作品である 『The Coast Guard(海岸線)』の紹介。 舞台上には、キム・ギドク監督や主演のチャン・ドンゴン氏、 出演のパク・チア氏などが並ぶ。

 まずは、監督のキム・ギドク氏の挨拶から。
「『海岸線』は、面白い映画ではなくて悲しい映画です。 南北分断からくる痛みを取り上げ、韓半島全体の平和を願う気持ちを込めた作品です」。 

 監督はこの作品をわずか2カ月足らずで撮り終えたという。 また、監督の次回作について少し触れ、 「お嬢さん達が主人公の春・夏・秋・冬といった巡りゆく季節を題材にしたものです」 と話していた。 

 次に、チャン・ドンゴン氏。この映画の主人公であるカン兵士を演じるにあたって、 「一番難しかったのはこの役の心理的な描写だった」と述べた。 低予算映画への出演が注目されたが、随分この作品への思い入れがあったらしく、 自ら実際に海兵隊の訓練を数日間受けたそうだ。こ、根性だ・・・

 また、幼いとき釜山に住んでいたというチャン・ドンゴン (『チング』への伏線があったのですね・・・)。 あのぐりぐりした目がやはり印象的だ。アン・ソンギ氏が、 「彼と同じホテルに泊まったのですが、一緒に出てくるとき、 女性の人たちの視線は僕ではなくて彼ばかりに集まっていました」と笑って言っていた。

 そして、いよいよ映画の上映。場内は静まり、 その出だしを撮ろうとするカメラマンたちのシャッター音が鳴り響いた。

『The Coast Guard(海岸線)』

キム・ギドク監督、韓国、2002年、95分、35mm、カラー、-World Premiere-

 沿岸警備にあたるカン兵士(チャン・ドンゴン)は、人一倍責任が強く、 またその任務に誇りを持つ軍人。 ある晩、警備する海岸の軍事境界エリアに不審な人影を発見する。 スパイだと判断した彼に緊張が走る。 ついに銃を発射、なおも海に逃げ込むように見受けてしまった彼は、 とどめの手榴弾も投げてしまう。しかし、実際は民間人。殺人者と呼ばれ、 非難怒号のうずまくなか、彼の任務に対する表彰が行われる。 一方、この事件で恋人を目の前で殺されたミヨン(パク・チア)は、 そのショックで精神に異常をきたしてしまう。 ふらつきながらそのエリアをさまようミヨン。 またカン兵士も自分の行ったことに苛まれ、次第に奇妙な行動をとるようになる。 ついに解任されてしまうのだが、彼にはそのことが理解できない。 そして、エリア内で以前の仲間達に、まるでゴーストのように、 さまよう姿を目撃されるのだった・・・

PIFFモニュメント
PIFFモニュメント

2日目(11月15日)

 韓国二日目の朝は二日酔いで始まった。何せ昨日、 シンさんが大変なもてなしをして下さったから・・・。真露にマッコリetc、頭が痛い〜。 酔い覚めのためにも宿のある中央洞から今日観る予定の映画が上映される釜山劇場ならびに大映シネマのある南浦洞まで歩いて行く。 まったり歩いても15分ぐらい。その途中、大規模な建設工事現場を見かけた。 後で聞くと、その辺りに新しくロッテグループの複合施設ができるそう。

PIFFメイン会場前 特設ブース
南浦洞にあるPIFFメイン会場前   メイン会場そばのずらりと並んだ特設ブース

 まずはチケットを受け取るため、プレスセンターのあるフェニックスホテルへ。 すると、プレスセンターのある3階からぐるぐるぐるぐる階段なりに1階まで かなりの人が並んでいる。聞くと全てプレス関係者で、 皆チケット発行を待っているのだという。ひえ〜、これじゃ11時から始まる 『クライウーマン』に間に合わないじゃん。じゃあ当日券を買おう、と釜山劇場へ。 するとなぜか釜山劇場の窓口にはその当日券がないという。開始5分前。 当日券てどこだよ〜っ!と探していると、「もしよければ・・・」と、 声をかけてくれた人がいた。とりあえず2枚買って余ってるからと、 1枚下さったのだった。ラ、ラッキ〜。そして、その人と一緒に場内へ。 「余っていた席を購入したから、いい席ではないかも、そしたらごめんね」と言われたが、 とんでもございません。ありがとうの気持ちでいっぱいでございます。

釜山劇場
大映シネマ側から撮った釜山劇場

 その人はアン・キョンソクさんという学生さんで、 ソウルからこの映画祭を観に来たという。アンさんによれば、 人気のある作品は争奪戦になり、明日の『YMCA野球団』 などはインターネット上で購入できず、明日、当日券売場に並ぶという。 昨日、市民会館で『海岸線』を観たと言うと、いいなあ〜と言われてしまった。 実は、その『YMCA野球団』、 昨日シンさんがチケットを2枚下さって1枚どうしようかと思っていたところ。「じゃあお礼に明日1枚あげますよ」と言うと、喜んでくれた。

 アンさんは何と、日本映画好きで特に常盤貴子のファンだという。 次は大映シネマ(1)で上映する『6月の蛇』 を観るのだという。 やはり自分の国の映画に興味をもってくれるのは嬉しいもの。 でもって私は、韓国映画好きで特にユ・ジテのファンですと言うと、 「あ〜あぁ」と納得?された。 そしてハングル&英語&少しの日本語混じりの不思議な映画談話は弾んだのだった。

『クライウーマン』

中国、2002年、91分、35mm、カラー、-A Window on Asian Cinema-

 北京のある通り。幼子を抱えながらある一人の女が海賊版のCDを売るため、 道行く人に声をかけている。しかし、それらは全て警察に没収。 仕方なく、家に帰ってみると、ギャンブル好きの夫は警察に追われ、 刑務所に入ってしまう。困った彼女に昔の恋人が現れ、彼女に新しい仕事を勧める。 その仕事とは、葬式で歌い、泣き叫ぶこと。われんばかりに声を上げ、 まるでそれまでのふんだりけったりの毎日をけちらすかのように歌い始める彼女。 それは次第に周りに受け入れられていき、彼女の仕事も軌道に乗りだしていくのだが・・・

 この主人公の女性、気がかなり強く、たくましいのだが、その反面、 もろさとも紙一重(細身にケバイ服と化粧がその性格を強調している・・・)。 ラストの場面、仕事先の葬式場でいつものように歌い、泣くはずが、自分の境遇を嘆いて、ついにマジに泣いちゃった彼女にみんなが心付けを渡していく・・・

 最後の最後でドッと笑い声が会場内に起こり、私にはそれがなぜなのかがわからなかったので、アンさんに聞いてみると、最後に主人公の女性がしみじみ泣いていて、そこでブチッと終わったから、拍子抜けで笑ったのだろうと説明してくれた。

 アンさんと別れ、次の映画が始まるまでの時間、PIFFのメイン会場の一つ、 南浦洞の映画館街をうろうろ。 というか、大勢の人の流れに沿って流れ歩いたといいますか。 釜山劇場と向いの大映シネマの辺りは、映画際にちなんだイベントやパフォーマンス、 韓国の映画雑誌などの特設テントのブース (無料でガイドブックやパンフレットなどが配られる)や、 チケット売場に並ぶなどといった人・人・ひと。天気にも恵まれ、お祭り気分一色。 こういう雰囲気って日本の映画祭にはあまりないかも・・・

PIFFメイン会場前 特設ブース
南浦洞PIFFゾーンではいろいろなイベントが行われた   いろんなパフォーマンスも行われる

 ところで、韓国の映画誌「シネ21」(ハンギョレ新聞社)は、なんと「PIFF Daily」と、 毎日、映画祭関連の記事を載せ、発行している。そういえば「シネ21」自体も週刊誌だ。

 再びフェニックスホテルへ行ってみると、朝の混雑はどこへやら、 という感じで今夜観る予定の 『Jealousy is my Middle Name(嫉妬はわが力)』、明日の 『The King and His Sculptor(八頭身に直して下さい、と言うのですか!?)』 のチケットを発行してもらえた。ひとまず安心。これから観るのは、 フランス映画の『フライデーナイト』。 実はこれまた昨日シンさんに頂いたもの。 また、シンさんの友達でユン・ジウォンさんという女性と一緒に観ることになっている。 というわけで、頭の中で予定していた『Mist(霧)』はキャンセル。 なにはともあれ友達づくりが先決だ。

 ユンさんとの待ち合わせの釜山劇場1Fのマクドナルド、もといメクトナルドゥへ。 ユンさんは現在日本語を勉強しているそう。 私もハングルを勉強しているがハングルは難しいね〜 リエゾンがさ〜チンプンカンプンよと言うと、 日本語も難しいよ〜と片方は日本語の参考書、 片方はハングルの参考書を片手に何ともたどたどしい会話であった。 そして、大映シネマ(1)へ。

『フライデーナイト』

クレア・デニス監督、フランス、2002年、90分、35mm、カラー、-World Cinema-

クレア・デニス監督
サインに応えるクレア・デニス監督

 ある冬の金曜日の夜〜〜ローラは自分の家の荷物をまとめ、 ひととおりの荷物を自分の愛車に詰めて出発する。 出発、とはいえ特に目的地が決まっているわけではない。 まずは友達の家へ夕食に招かれており向かう。しかし道路は大渋滞。 ぐるぐると道を回りながら、ふと彼女の目にある男性がとまる・・・

 ある夜に始まった一人の女性と一人の男性とのつながり。 観ながら、少しクロード・ルルーシュの『男と女』 を思い浮かべた。 けれど、あの映画のような、男女二人の背景は重くない。 ある女性のちょっとした漂流(この気持ちは何となく共感めいたものを感じる・・・)。 そして、目に入ってきたある男。そして彼女は 「誰かが彼のために待っていてあげなければならない」ように想う。 女性の静かな脱皮、といったところだろうか。 女性監督による、女性の視点がテーマとなっていた。

 観終わり、クレア監督のティーチイン終了後、会場を出ると、 監督のサイン会になっていた。大映シネマを出るとユンさんが、 「おなかすいてない?」「そういえばすいたねー」「何が食べたい?」「キムパブ!」 というわけで近くのキムパブ屋さんへ入った。 そこはキムパブ(日本でいうのり巻き、日本のそれと違うのはゴマ油がかかっていること) とキムチとスープがセットになっているメニューのみのお店。小さい店内は満席だった。 少し待って席に着くとさっそく二人前のキムパブが登場。これがウマイのだ。 つけ合わせのキムチ(ユンさんいわく「おでんキムチ」、 うすいさつま揚げのようなものに唐辛子の粉や薬味を混ぜたもの)がこれまたウマくて、 帰国後、このおでんキムチとやらを探し回っているのだが、 いまだ見つかっていない・・・また食べたいよ〜

 けっこうな量だったが二人でパクパクたいらげた。 ユンさんとメールアドレスを交換しお礼を言って別れる。 再び大映シネマ(今度は大映3)へ。

 上映会場は満席のようで、混雑していた。 座席番号の「カ・ナ・タ・ラ・・・」の何番というのにも慣れてきて、 後方ではあったが自分の席を見つける。この映画祭も東京国際映画祭などと一緒で 全て座席指定である。

『Jealousy is My Middle Name(嫉妬はわが力)』

パク・チャノク監督、2002年、韓国、123分、35mm、カラー-New Currents-

 ウォンサン(パク・ヘイル)は、文学を志す大学院生。 ある日出会ったフリーカメラマンで獣医師でもあるスンヨン(ペ・ジョンオク) に心を奪われる。自由奔放なスヨンを愛し、またスンヨンも誠実な彼に好意を持つ。 しかし、ウォンサンは以前つき合っていた彼女から「既婚者を愛してしまった」 と打ち明けられ冷たく別れた経験を持つ。 そしてその相手であるユンシク(ムン・ソングン) の勤める雑誌出版社に勤めるようになったのだった。 その上スンヨンまでもがユンシクに気持ちが動いていく。 ユンシクの下で働くなか、 彼の中にユンシクに対する嫉妬と羨望の入り交じった感情が交差していく・・・

 ありがちなメロドラマなのに、なんだか面白いぞ。会場内の反応も上々。 とてもウケていた。この面白さは何だろう?と思ったら、 まずウォンサン役のパク・ヘイルの演技がイイのだ。 まだまだ大人になりきれない、なんとも頼りないといった感じでやきもきする。 パク・チャノク監督も女性の監督。 後になって、『オー!スジョン』を観た時、 その映画の助監督であることを知った。 なんとなく、ホン・サンス監督の影響をこの映画に感じる・・・。ちなみに、 『オー!スジョン』 にもユンシク役のムン・ソングン氏が出演していて、 どちらもあやしい大人の男、といいますか、おじさんを演じている。 『グリーンフィッシュ』 では渋くて非情なボス役でしたよねえぇ

(第7回釜山国際映画祭New Currents最優秀作品賞受賞作品)

3日目(11月16日)

 昨日、『Jealousy is My Middle Name(嫉妬はわが力)』 を観終わったのは夜10時半すぎ。徒歩で宿へ戻ったのが11時ごろ。 途中、世話になった宿のおばあさんに何かプレゼントをと思い、 花と白いマフラーを露店で買った。 宿には主人のおばあさんやおじさんがいるが、皆親切でいい方だった。 特におばあさんはしゃんしゃんとしている働き者。 自分がおばあちゃんっ子なのでなおさら勝手に慕ってしまった。

 ともあれ、釜山滞在最終日。アッという間だなぁ、と部屋を見渡すとなごり惜しさが湧いてくる。夜は遅くまでOCNテレビで映画祭の特番を見ていてこの上なく寝不足状態。荷物をまとめ、フロントへ。おばあさんは不在だったので、おじさんにプレゼントを渡して下さいと頼み、お礼を言って宿を後にする。「荷物は置いといていいよ」と言うおじさんの厚意に甘えて、いつものショルダーバックななめがけでまた南浦洞へ。 11時から始まる 『The King and His Sculptor(八頭身に直して下さい、と言うのですか!?)』 を観るのだ。これはドキュメンタリー映画。会場は満席状態。

 『バリー・リンドン』の曲にのせて映画は始まった。 正直、私にはその作品の背景がよくわからないのだが、周りのウケは非常に良かった。 真面目なおかしさがあって・・・

『The King and His Sculptor(八頭身に直して下さい、と言うのですか!?)』

ワン・チェルミン監督、韓国、2002年、80分、DV、カラー、-Wide Angle-

キム教授、ワン・チェルミン監督
上映後登場したキム教授(左)と
ワン・チェルミン監督

 韓国の世宗大学で実際に起こったある教授の解任騒動。 ことの発端は彫刻の先生であるキム教授が造り、 学校へ寄贈した彫刻の像を均衡がとれていない、と学校側からクレームがきたこと。 しまいには解任されてしまったキム教授と学校側との戦いの記録。 キム教授を慕う生徒たちも立ち上がり、学校の前で、 テントを貼った即席の教室でキム教授の授業が始まる。

 韓国の学校制度のあり方を問う、まじめなドキュメンタリーかと思いきや、いやそうなんだけどそれだけじゃない。その真面目さ、一直線さの人間くささ。 それが面白いのだ。キム教授は体を張ってでも自分の信念を突き通そうとする。 頑固だが、どこか愛らしい(と言ったら失礼だけど・・・)。

 上映後には、監督と、そしてなんとこの作品の中心人物・キム教授ご本人が登場。 会場は大いに沸いた。

 時間を見るとすでに13時過ぎ。 既に市民会館では『YMCA野球団』が始まっている。 これは観られないなとあきらめた。昨日会ったアンさんからも 「急遽ソウルへ戻らなくちゃならなくなって行けなくなっちゃった」 という連絡がありチケットはもったいないこととなった。宿で荷物を受けとり釜山駅へ。 これからセマウルでソウルへ北上するのだ。そして翌日仁川から帰国する予定。

 というわけで、11月14日から23日の10日間、 計226本上映する第7回釜山国際映画祭のなかで、わずかであるが3日間、 計5本の映画を観ることができた。初めての釜山国際映画祭、 また初めての韓国は短いながらも、いろいろな人に知り合えて、 また映画祭のお祭りに参加でき、その雰囲気に触れることができて良かった。 そのなかで感じたことは、 この映画祭が大衆による大衆のための“お祭り”であるということ。

 来年は、最終日までいたいものだ(もっとハングルを勉強して、お金も貯めて・・・)、 と遠ざかる釜山の景色をながめつつ「ト マンナプシダ〜」

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(文・写真:国光今日子)
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