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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『能楽師』田中千世子監督インタビュー

能楽師チラシ 田中千世子

狂言師・野村万之丞『萬歳樂』をプロデュース。 『藤田六郎兵衛 笛の世界』で監督デビュー。第二作『能楽師』。 「映画で能をつかまえたい」これが率直な動機であると田中監督は言う。
監督が謡や仕舞の稽古もなさるという話題からインタビュー開始。

Q 能を映画で撮ろうといつ頃から考えていらっしゃったんですか。

私が映画にするというより誰かが作ればいいのに、とずっと思っていましたね。文化映画としてはもちろんありますが、劇映画の人が作れば面白いものになるに違いないと思っていました。野村万之丞さんの『萬歳樂』のお手伝いをしたとき、自分でも作れそうだなと思って『藤田六郎兵衛 笛の世界』を撮りました。これは短篇だったので、今度は長篇もできるかなと『能楽師』を撮ったんです。

Q 能の映画をシリーズとして続けるのですか。

それはあまり考えませんね。でももし撮るとしたら、もう少し時間をおいて違った角度から。例えばこの映画の最後で「融」という曲が舞われているのですが、これをテーマに何かエッセイ風のものができたらいいなとふと思ったりはします。

Q この映画で観世を選び、特に関根祥人さんを選んで撮ったのはなぜですか。

祥人さんをずっと観てきて、素晴らしいなと思ったことが一番の理由です。他のお家にももちろん能の名人と言われ、スター性のある方はいらっしゃるでしょう。しかし私が一所懸命観るようになったのは、観世の定期能からでした。観世のお能を観続けているうち、ある時急に祥人さんが眼中に入ってきて、この人はすごいと思うようになりました。「祥人師の能について」というインタビュー記事を同人誌に書いたりもしました。祥人さんをよく理解しているかというとちょっと違うのですが、祥人さんをよく観てよく考えてきたんですね。このことが祥人さんにも伝わって、今回撮らせていただけたと思います。

Q 主に道成寺を撮られたのはなぜですか。

華やかで、緩やかな動き激しい動きの両方があって、誰が観てもわかる能だからというのは確かに理由の一つです。が、とにかく謡い初めは入れたかったのでお正月を日程に組んで、その翌年の早春に道成寺を舞うのでじゃあそれをメインにしましょうということになりました。祥人さんの道成寺は素晴らしいし(1998年芸術祭新人賞を受賞)ちょうど祥人さん独立15周年でもありました。

Q 対象はどんな人達とお考えでしょうか。

それはもう若い人から年配の方まで。舞台のものが好きな人は、これを観て他の芸能をまた違った味わいで観ることができると思います。映画の好きな人、映画にうるさい人も能の中に映画の技法を発見して面白いはずです。例えば道成寺のパッと鐘の中に入ってしまう場面では、客はそこをクローズアップのように見ます。また乱拍子で足がパカッパカッと動くところも、そこだけに視覚を集中させます。映画でいうカットバックです。能はシンプルです。だからこそ演出でも何でも技巧が発達した芸能だと思います。

Q 監督は「三島が生きていたら祥人の能に狂喜したに違いない…」と書いていらっしゃいます。この映画も三島由紀夫に観てもらいたかったですか。

三島は能が好きでね。この映画をというか、祥人さんの能は観せたかったですね。惚れ込むと思います。祥人さんのキャラクターといい姿かたちといい、能の芸といい。

* * * * * * *


© T. ENZAKI

『能楽師』公開情報
3月22日(土)より 連日10時30分より1回上映
※毎日曜日は英語字幕付上映
ユーロスペース 渋谷駅南口下車2分  http://www.eurospace.co.jp/

本誌 58号に関連記事が載ります。4月上旬発売予定

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(取材・写真:風子)
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