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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『ほえる犬は噛まない』主演 イ・ソンジェ インタビュー

イ・ソンジェ

2003年7月1日 飯田橋アグネスホテルにて

観る映画のたびに、受ける印象の違う、イ・ソンジェさん。 今日は髪がウェービーで、ちょっぴり無精髭。爽やかな笑顔で迎えてくださいました。

イ・ソンジェ  イ・ソンジェ

—— 『ほえる犬は噛まない』は、2001年のアジアフォーカス福岡映画祭で初めて拝見しました。2000年の東京国際映画祭で観た友達から、とても面白かったと聞かされていたのですが、評判通りとてもユニークな作品で、特に、イ・ソンジェさんのさりげない演技に笑わされました。ほかに『美術館の隣の動物園』『アタック・ザ・ガス・ステーション』『エンジェルスノー』を拝見したことがありますが、どれもタイプは違うのに面白い作品でした。出演作を選ぶ目がとても肥えていらっしゃるとお見受けしますが、役を引き受ける際の基準はどんなところにあるのか教えていただけますか?

客観的な視点で選ぶとしたら、映画会社や配給会社で選ぶということがあるのでしょうが、私の場合は台本を読んだときの最初の印象で決めます。決定的な1つというのはなくて、自分なりに決めている基準は次の3つです。

  1. 面白いかどうか 
  2. 感動を与えるかどうか 
  3. 観たあとに余韻が残るかどうか

この3つのバランスは作品によってさまざまです。『ほえる犬は噛まない』の場合は、この3つの要素がうまくかみ合っている、そういう作品の1つだと思いました。

—— それぞれ違ったキャラクターなのに、どれもがソンジェさんそのもののように溶け込んでいらっしゃいましたが、これまでの出演作で自分と近いなぁと思うキャラクターはいますか? また、逆に役のキャラクターを実生活にひきずった経験はありますか?

出演したキャラクターごとに、自分の一部分が少しずつ入っていると言えます。実際の姿にどれが一番近いかといえば『エンジェルスノー』かなぁ。今までやった中では『美術館の隣の動物園』では、私自身のシニカルな面が、『アタック・ザ・ガス・ステーション!』では過激な面が浮き彫りにされ、『ほえる犬は噛まない』では小心者なところが拡大されて、『エンジェルスノー』では、感性の部分が出たと思います。1つの作品が終わったら、すぐにそのキャラクターを忘れるようにしています。つまりすぐ次の作品に切り替えられるように。常に自分がまっさらな水のようになっていなければ色や形が出せません。なるべく早く自分を白紙に戻して、次の作品に臨めるようにしています。

—— 映画の中では、くるみを割ってあげたり、ゴミを捨てに行かされたり、犬の散歩に行かされたりと年上の奥さんに頭のあがらない亭主役でしたが、実生活ではいかがですか?

韓国の夫は、妻に言われたらなんでもやらなくてはいけないんですよ(笑)。実際の私は、そんなに家事を手伝う方ではないんです。苦手なのは掃除と洗濯と洗い物と片づけです。

—— えっ〜? 頼まれることがあるんですか?

頼みたいようですけど、頼まれたことはないです。(と、まじめな顔で答えるソンジェさん。きっと、奥様から頼まれたら、いやな顔せずなんでもやってしまうのだろうなぁ。)

—— イチゴ牛乳を買いに戻れという場面でトイレットペーパーで距離を測っていましたが、実際に100mあったのでしょうか?

100mまではいかなかったけれど、50〜60m位はいったように覚えています。なにしろ、NGが何度も出ましたので・・・

—— どの場面が気に入っていますか? また、日本の観客にこの映画のどんなところを観て欲しいですか?

気に入っているのは、犬を抱っこして走るシーンです。いまだに自分で見ても笑えます。それと、愛着を感じているのは、講義室で外を眺めている最後のシーンです。皆さんには、肩の力を抜いて観てほしいですね。楽しくコミカルなものとして観てもいいし、別の意味を見出してもいい。できることなら2回くらい観ていただきたいです。この作品は観れば観るほどいろいろなことが見えてきたり、考えさせられたりすると思います。

—— 撮影中に苦労したこととか、面白いエピソードがありましたら教えてください。

酔っ払って帰ってきて、妻のお腹に顔を当てるシーンがありますが、酔っ払ったシーンは初めてでしたので、最初シラフでやろうとしたらできなくて、テキーラをボトル半分位飲んでみたのです。最初酔わなかったのに、撮影が始まったら酔いが回ってきてほんとに具合が悪くなって、トイレに行って吐いたりしました。苦労したのは寒かったことです。特にトイレットペーパーを流す場面ですが、冬の初めの撮影だったのに薄着でいなければならず、かなり寒くて辛かったです。

—— テレビを経て、映画に出演されていますが、テレビと映画とどちらが好きですか?

私の演技のスタイルを考えると、映画の方が合っていますね。時間をかけて撮りますので、ゆっくり呼吸ができるような気がします。演技について考える時間の余裕があります。テレビは急いで作らなくてはいけないケースが多く、全て撮り終えてから放映ということはまずありません。何本かだけ撮りためた後、途中から同時進行でやらなくてはいけなかったり、常に追い立てられて撮影している状況でした。これからも、映画だけに専念することになると思います。

—— 好きな映画、監督は? 

韓国ではアン・ソンギさんと、日本では俳優としての北野武さんです。

—— 俳優になろうと思ったのはいつごろですか?

大学の進路選択のときに、自分に合うのは何?と考えたときに、はっとひらめいたのですよ。「自分がやるのは俳優じゃないか」って。普通は小さいときから役者になりたかったとか、こういう作品に感動したからとかなのでしょうけど。あまりに突然の選択と思ったけれど、実際に俳優になってみて、やればやるほどこれが自分の生きる道だとますます思えてきました。後から考えても、ほかにやれそうなこともないし、やりたいこともないし、今の状況に非常に満足していて、後悔のない選択だったと思っています。

—— 韓国映画界にとっても、とても良かったと思います。

あ、アリガトウゴザイマス(日本語で)。

—— 日本公式ファンサイト“みどりさいだあ”に時々イ・ソンジェさんご自身がメッセージを書いていらして、とてもまじめで気さくな方なのだなぁという印象を受けました。昨日は成田にも日本のファンの方たちがお迎えにいらしたそうですが、日本のファンに対して一言お願いします。

(“みどりさいだあ”の名前が出たとたん、思わずにっこり反応されたソンジェさんでした。)

とにかくありがたいという気持ちでいっぱいです。韓国で仕事をしていても、日本にも応援してくれる人たちがいると思うと精神的な支えになっています。元気をいただいています。他の国の人が私に関心を持ってくださることは有り難いことです。これからも韓国だけではなく、日本の方にも喜んでいただけるような作品に出演していくつもりですので、見守って応援していただければそれ以上望むことはありません。

—— 次回作は決まっていますか?

10月から入るのが一つあります。社交ダンスの映画です。韓国では社交ダンスとは言わず、ダンススポーツと言います。踊るのは初めてなので、これから練習しないといけません。

—— おうちで奥様と踊られるとか?

いえいえ(笑)、これから学校で習います。始まったら家で復習もしてみようと思います。

—— これからもたくさんの作品が日本で公開されるのを楽しみにしています。

アリガトウゴザイマス。

***************

配給協力会社グアパ・グアポ様のご好意で、思いもかけずソンジェさんに単独インタビューできることになって、あわてて彼のことを調べたら、なんと彼の出演作を4本観ていることに気づいて唖然。というのも『ほえる犬は噛まない』を2年ぶりに試写で観たばかりだったのに、彼の顔からほかの作品が思い浮かばなかったのだ。良く解釈すれば、役になりきっていたのだろうけど、好みじゃなかったってことね…などと失礼なことを思いながら臨んだインタビューだったのですが、どうしてどうして、物腰が柔らかで紳士的でとっても素敵な方で、どきまぎしながらの1時間でした。次回作でどんなお顔を見せてくださるのか、ほんとに楽しみです。

リンク

>> 特別記事『ほえる犬は噛まない』合同記者会見
>> 作品紹介
>> 『ほえる犬は噛まない』公式サイト http://www.hoeruinu.com/
>> イ・ソンジェ日本公式ファンサイト「みどりさいだあ」 http://www2.mnx.jp/‾jun0169/

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(記録:白石映子  まとめ:景山咲子)
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