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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
張學友2002音楽之旅

『 』曲目名、「 」MC、[ ]映画題名

華人社会ではその圧倒的な歌唱力で絶大な人気を誇り、今や“歌神”とまで呼ばれる 張學友(ジャッキー・チュン)の日本公演のレポートをお送りしたいと思う。

'95、'99に続き今回で3回目の来日。日本もワールドツァーの常時開催国? となったなぁ、と感慨無量…

2002年8月17日、会場となる東京国際フォーラムは日本語、広東語、北京語が飛び交い、開演を今か今かと待つ期待と興奮でいっぱいだ。浴衣姿の女性もかなり目に付く。(ちなみに學友は、なぜ“着物”姿が多いのか?と思ったそうだ)

なんと客席には、香港芸能界一の人気者で學友が母と慕う、肥肥(フェイフェイ)ことリディア・サンが、TV画面そのままに独特な髪型と超ふくよか体型で現れ、その場は一気にサイン&握手、撮影(?)大会に!

いやがおうにも香港ムードが高まるなか照明が消え、オープニング曲に続き『Touch Of Love』の曲にのって學友がステージに登場! 会場全体が大歓声に揺れる! 身体にフィットした黒の燕尾服がバランスのよいスタイルを際だたせ、金色に染めた髪に栄えてなんともゴージャス!!

『Corazon De Melao』のイントロが流れると会場は一斉にスタンディングだ! カラフルな衣裳を身にまとったダンサーたちを従えパワフルに歌い踊る學友。いゃ〜、これぞ香港テイスト! ロック色が強くアーティスティックだった前回とはうって変わって今宵は香港エンターテイメントへの誘いだわ!

3曲目も英語盤CDより『I've Got It Made』を歌ってここで最初のMCタイム。

「ミナサン、コンバンワ〜」歌声とは一転、おなじみのやや甲高い声に会場が沸く!
「一番新しい歌から、古い歌まで、サカノボッテ、紹介します」たどたどしくも難しい言い回しを一語一語思い出すように“張學友2002年音楽之旅”のコンセプトを説明。2週間特訓したという日本語で今回も全編通した學友。日本の観客とコミュニケートしようという姿勢にはホンドニ頭が下がります。

英語曲の最後は一番好きな曲という『Speaks Without Words』歌いながらタイを外すしぐさはたまらなくセクシィ〜。なにげない立ち姿にも背筋がゾクゾクするほどの大人の男の色気を感じさせる。

ジャッキー・チョン  ジャッキー・チョン  ジャッキー・チョン  ジャッキー・チョン  ジャッキー・チョン 

黒の燕尾服を今度は白に替え、首には二重に巻いた白のスカーフ(マフラーか?)を垂らしている。暑そうだ… 本人は気にかける風もなくステージを縦横無尽に走り廻り『天氣這麼熱』を熱唱。スタンドマイクを背負ってはくるくる廻る。はずれて飛んできたら…なーんて心配をよそに全力疾走の學友は止まらない!

アルバム『學友熱』から『如果這都不算愛』『Let Me Go』と続き、4曲目は「前にギターを持って歌って、カッコいいと言われました」『我真的傷心了』をギターの弾き語りで始めるが、歌詞を忘れる。結構はずす歌神さまである。あわてて早口で歌詞を復唱し初めからやり直し。この時ジャケットの中に着ていたシャツの丈が短くて、カマーバンドとの間からお腹(素の!)が10センチくらい見え目のやり場に困った。というか、ついつい見てしまった。というか‥‥(翌18日は完璧に隠れてた。伸びた? デザインが違う!?)

早々にギター演奏は先生にバトンタッチし、広東語曲『樓上来的聲音』『有病呻吟』2曲歌ったところで舞台下へ。


インド風の曲が流れる中、全身ゴールドのエスニックな衣裳に壺を頭上に乗せたダンサーが登場すると、続いて銀糸で刺繍された黒のシースルーシャツを、黒のパンツの上にスカート風に垂らした學友。成龍の[特務迷城]の主題歌にもなった『捉迷藏』を、インド舞踊よろしく腕を斜めに掲げクネクネ、おまけに首も斜めにクネクネ。見ている方も首がムズムズ。すごく難しそうだが様になってる。87年の初コンサートは最後まで横ステップ1本で通した人が、と考えると隔世の感あり。感心する。

続く『這個冬天下不太冷』は、95年のコンサートでのダンスシーンを印象深く覚えている人が多いのでは。闘牛士のごとくスカートさばいてゆく様は惚れ惚れするほどカッコいいのであります。

京都でMTV(茅葺き屋根の里に住んでいる學友!)を撮影した『心如刀割』『(女也)来聴我的演唱會』『二分之一的幸福』をじっくり聴かせて3回目のお色直しへ。


ステージにはダンサーとともに椅子!が登場。『頭髪乱了』よ! 蛍光棒を握る指に力が入る! 椅子を使い軽快に踊る學友だが髪の毛は振り乱さない。なだれ込むようにウォウォォォ〜〜ン!と『飢狼傳説』ダンスで着る衣裳か? と首をかしげたくなるスパンコールびっちりの分厚い衣裳でガンバって踊る!歌う! アップテンポの曲を続けて歌うが、まったく声が乱れないのはいつもながら見事だ。心肺機能はどうなってるのだろ(なんて時々考える)

「私のダンスは、カッコいいですか〜?」と學友。學友の踊りは決して巧いというのではないが独特の味があって魅力的だ。でも正直ここまで踊らなくても、と思ってしまう。何曲か続くとキレが甘くなる。ダンスナンバーはバシッと決めて、アップテンポの曲は一部だけ振りにするとか、自然な動きにした方が全体が締まるのではないかしら。昨年11月のNHKスペシャルコンサートでの『Livin' La Vi Da Loca』の洗練された振り付けは素敵だった。本人の踊ることへの挑戦なのかな、とも思うけど。


MCでひと休みの後、「大好きなラブソングです」『我等到花兒也謝了』を北京語で歌い始めると会場全体にどよめきがおきる。北京語の曲は中国人の観客たちの反応がすごい! 続けて『深海』『想和(イ尓)去吹吹風』と學友は陶酔した表情で情感たっぷりに歌う。學友を希有な歌い手だなと思うのは、彼は陶酔しながらも聴いている者を決して置き去りにしない。自己満足の世界に陥ることなく、常に聴き手、相手の存在を忘れない。だから彼の歌は深く心に響くのだと思う。

ここで肥肥(フェイフェイ)が大きな花束を持って學友の元へ。學友笑顔満開で「ぼくのマミーですぅ」ハグしながら紹介。日本でこんなシーン見られるなんて、と大ウケの会場。

そして「私がパパになったのは知っていますね!」と、2歳になった娘の話しを始める學友。娘が、自分が大切な存在だということに気付かせてくれたこと。人に必要とされる感覚を「今日この舞台でも感じさせてくれて、みなさんありがとう」と、いかにも學友らしい観客への感謝の気持ちのこもったメッセージだ。ワールドツアーの各ステージでこの言葉を語っている學友だが、日本語で直接伝えてくれた學友に心から“ありがとう”と言いたい。

前半の締めくくりは、93年の學友最大のヒット曲『吻別』のロックバージョン『Good Bye Kiss!』はじける學友、飛んで舞台裏へと消えていく‥‥。

ジャッキー・チョン  ジャッキー・チョン  ジャッキー・チョン  ジャッキー・チョン  ジャッキー・チョン 

いよいよここからがアンコール(というより、後半ね)

バイオリンの音色が『李香蘭』の旋律を奏でると、ステージ中央、スポットライトを浴びた學友の艶のある歌声が会場全体を包み込むように響き渡る。が、それが『行かないで』とわかるのにしばしの間(ま)。日本語でなにか歌うと言っていたのはこれだったのか!

學友自身も、そしてファンの中にもこの曲に思い入れのある人は多く、実は広東語で聞きたかった、という反応も少なくなかったが、日本で、この場で、この時だからこそ聴ける価値ある1曲。日本語の歌詞で聴くと歌唱力の確かさが一層よくわかる。玉置浩二の原曲は聴かずに歌詞はアルファベットのルビをふってもらい覚えたのだそうだ。

音楽人生の中で大切な一曲と紹介した『毎天愛(イ尓)多一些』もサザンの『真夏の果実』のカバー曲。この曲も日本語で聴きたい1曲だ。ジャズ風アレンジに合わせフレッド・アステアばり?のステップを踏んでいた。光沢のある銀色の燕尾服(本日3着目)の雰囲気にぴったりだ。いつもはアカペラの『偸聞加油站』も今日はジャズバージョンで。

今や北京語のスタンダード曲となった『情書』『情網』を気分よくきめ細やかに歌い上げる。耳に馴染んだ曲に場内は半ばライブ版カラオケホール状態に!

ここで前半に続き再びメンバー紹介。2回目とあって「これは〜ギターのォ〜省略っ!」1人1人にスポットライトを当てる學友。(翌日は“これ”は“こちら”に修正されていた)

静かな場内にピアノの前奏が流れ始めるとうねるような歓声が上がる。泣く子もまた泣いてしまいそうな『一千個傷心的理由』歌神さま入ってる! 『祇想一生踉(イ尓)走』と続き、ただただ聴き惚れる。そして華人の間で最も歌われている曲であろう『祝福』で国際フォーラムは大合唱状態、会場がひとつになり怒濤のフィナーレへ!

「みなさん、来てくれてありがとう。またしばらくして皆さんに会えることを楽しみにしています。ドーモ、アリガト、ホンド、Thank you very much!」の言葉で結び、ラストソング『一生一火花』をスケールの大きい歌唱で聴かせた張學友の3時間に及ぶコンサートは幕を閉じた。

ジャッキー・チョン  ジャッキー・チョン  ジャッキー・チョン 

私が學友の演唱会を初めて観たのは93年の香港コロシアムだった。
コンサート初日、4面ステージを所狭しと、歌い、踊り、しゃべり、笑い、まるで嬉しくて一時もじっとしていられない子犬のようで、勢い余ってコケるハイテンションぶりに「僕は歌うことが好きなんだ!」という想いを強烈に感じた。あれから何度も足を運んでいるコンサートだが、どんなときでもいつも全力を出し切ったステージを見せてくれる。落ち着きと王者の風格さえ漂わす最近のステージだが、想いはあのときのまま。
學友の音楽之旅は、これからもつきることのない夢を追いつづけていくのだろう。


1ヶ月後‥‥、學友の7年振りの主演作がアジアフォーカス福岡映画祭で上映された。
超おバカ演技で香港芸能人の神髄?を見せてくれた[ハイリスク]を最後に、長い冬眠状態にあった俳優張學友が復帰第1作に選んだのは、アン・ホイ監督の [男人四十]
とても公開までは待てない、と福岡に飛んだ。

この作品が香港映画であることを途中から忘れた。妻と2人の息子とごく平凡な生活をおくる高校教師。小悪魔的に學友に迫る女生徒(カレーナ・ラウ)の出現をきっかけに彼の世界は大きく変わってゆく。普通に生活している人々の内面を淡々と描き、娯楽的な味付けや派手な展開はない。封印してきた心の重しを抑制をきかせた演技でみせ、學友が挑戦だったという意味がよくわかる。彼自身も感動したという韓国映画[八月のクリスマス]に通じるものがあるように思えた。“普通の男”がなんて魅力的なのだろう。

カレーナの存在感、妻アニタ・ムイの生活感を滲ませた静かな演技が心に残る。ぜひ多くの人に見て欲しい作品である。

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(文:夏 撮影:宮崎暁美)
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