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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『ひとりね』

出演:榊原るみ 米倉斉加年 高橋和也 余貴美子
監督:すすぎじゅんいち
2001年/日本映画/上映時間1時間29分

「人は皆、ひとりなのだ」こんなあたりまえの事を(しかし、当たり前ゆえに、 普段は忘れている事)を改めて感じさせてくれるのが、この「ひとりね」だ。

44歳の主婦、織江(榊原るみ)。夫の大学教授の白木(米倉斉加年)は、 死んだ姉の元夫。姉の病気の看病に行った時に関係を持ってしまう。
 そんな後ろめたさもあってか、夫婦間は冷め切っている。 しかも白木には何人もの愛情を交わした女性がいる。 満たされない思いを抱えた織江にある日、ちょっとした出来事が起こる。
 若い男(高橋和也)が、「ただいま」と言ってやって来るのだ。 間違えたと分かると、「間違えました」とさわやかに言って去っていく。 しかし翌日もまたその男はやって来た。「ただいま」と言いながら−。

物語の軸は、この若い男が何者かという所から始まる。 寂しさを抱え、自分を満たしてくれるものを必死で探す織江。 夫との関係に絶望して、行きずりの“ギターの男”(梅田凡和) に愛情を求めるその姿は、まるで「愛を乞う人」だ。
 現に白黒フィルムで描かれたこの映画で、唯一鮮やかなカラーシーンは、織江が、 白木、若い男、ギターの男に取り囲まれている所なのだ。
 男の愛情によって(それも、人数からしてたっぷりの愛情によって)、 はじめて織江は満たされるのだろう。

しかし破局はやってくる。白木が突然病気に倒れ、織江は一人で 自分に立ち向かわなければならなくなる。その時、再び若い男が現れて言う。 「白木さんは、一人で孤独に耐えていた。あなたもそうすべきです。」

愛人を次々と作り、妻を不幸にしていたかに見えた白木だったが、 心の奥底では孤独であった。愛情の果てに掴んだ孤独はもっと寂しい。 白木はそのことを知っていた。知っていて、その孤独を自分一人で引き受けていた。 あなたもそうすべきだと。
 そして若い男との対話の中で織江は、自分たちが、 本当は愛情で結ばれた夫婦だった事を思い出す。白木が姉と結婚する前から、 織江は白木の事が好きだったのだ。それにようやく気づいた織江は、若い男に尋ねる。 「あなたは誰?」男は答える。「僕はあなたです」

若い男とは、彼女に宿るもう一つの部分。人生に迷った時、もう一人の自分が、 彼女に示唆を与えていたのだ。
「幸せとは、他人にして貰うことではなく、自分でなるもの・・・。そして孤独とは、 自分で引き受けなければならないもの」
 美しさも醜さもあわせ持つ、本当の自分に向き合わなければならなくなった織江の姿は、 もしかすると人が一度は通らなければならない通過点なのかも知れない。
 その時に、自分を支えてくれるのは、他ならぬ自分自身であったという訳だ。
 もしそうだとすると、愛憎の果てに辿り着いた、孤独の先に待っているものは、自 分で自分を癒すという作業なのかも知れない。

「ワタシモ モウヒトリノ ジブンニ アイタイ!」真にそう願いつつ・・・ 観た映画でした。

【作品紹介】

2002年3月16日より、東京都写真美術館/横浜関内アカデミーにて公開
詳しい公開情報は、下記のHPにて。

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(文:中得一美)
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