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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
Dec. 30, 2001

わたしがピンク映画に出た日

 今年の夏、「自分が書いた作品の試写があるから観にこないか」と知り合いから突然の連絡があった。秘かに脚本を書いていたなんて全く知らず、ぜひ行きたいと思ったが、仕事があり残念に思いつつ断った。それから2ヶ月後、今度はその作品がP-1グランプリに出るという連絡をもらった。P-1グランプリを知らない人のために補足すると、これはピンク映画のトーナメントイベントで、毎年10月ごろ中野武蔵野ホールでやっている。成人映画館には足を運べそうにないし、ここで見逃せば観る機会はたぶんないだろうと思って、10月下旬のある日、中野武蔵野ホールに行った。中野に行ったのなら、まずはジャスミンティーに寄って、アーロン・クォックのCDを買い……と相変わらず香港映画ファンのわたし。開場時間ぎりぎりに着くと、劇場前には人だかり。そろそろ立ち見が出るかという勢いである。女性客もけっこういる。

 その日まで、わたしはピンク映画を観たことがなかった。抵抗があるなし以前に、恋愛もの同様、あんまりこのジャンルに関心がないのである。こういう機会でもないと、自分はピンク映画を積極的に観ることないだろうと思ったし、また、ピンク映画初体験ということで、自分がどのような感想を抱くかにも興味があった。緊張のうちに、その作品『痴漢電車 さわってビックリ!』(榎木敏郎監督)は始まった。

 主人公はさえないサラリーマン。朝、慌てて満員電車に飛び乗ると、隣の女性が妙に接近してくる。女の痴漢である。男がその気になると、女は男のポケットから財布を盗み、そそくさと男から離れる。女はしめしめ……というところだが、実は同じ車両にスリの常習犯がおり、その女の財布がすられていたのだ。しかし、スリは彼をマークしていた刑事に捕まりそうになり、女の財布をサラリーマンのポケットに入れる。サラリーマンに財布をすられたと勘違いした女が、サラリーマンのアパートに押し掛け脅迫したことから、サラリーマンは女の言うがまま、強盗やらスリの手伝いをさせられるはめになる。最後はサラリーマンとスリ女の純愛ラブストーリーになっていく。

 映画を観ていくうちに、サラリーマンには婚約者がいることがわかってくる。何と婚約者の名前がわたしと同名。最初は、ありふれた名前だし偶然かなと思っていたが、それを意識しながら登場人物の名前を見てみると、みんな仲間うちの名前である。わたしと同じ名前の女性が脱ぎシーンのほとんどを引き受けているのを見るのは、胸中複雑なものがあった。それに婚約者が化粧っ気がなく、地味なのも気にかかる(ただし、見た目は全然似てないが)。

 P-1は対戦する2本の映画が続けて上映され、最後に観客にどちらがよかったか、あらかじめ配られている赤・青いずれかのボードを上げてもらい、多く支持を集めた映画が2回戦へ進む。というわけで、もう1本『B級ビデオ通信 AV野郎・抜かせ屋ケンちゃん』(望月六郎監督)を観た。こちらの映画のほうが、ピンクっぽいシーンが多く、主人公の女の子がうやむやのうちに犯されてしまうシーンには嫌悪感を感じながらも、全体としては嫌いになれない映画だった。監督自身の身体をはった飄々とした演技で救われている。

 しかし、この2本とも主人公が情けない男性というのはどうしてだろう。果たしてそんな男に婚約者ができるのか、女の子が渡された名刺の電話番号に電話をかけてくるだろうか? この点ではかなり不満。わたしなら絶対こんな男には惚れないよと思ってしまう。下品と言われようとも、『ベーゼ・モア』の女性たちのはじけ方のほうが小気味よくて、わたしは好きだ。ヒロインだけでなく、いい男が主人公だったら(決してハンサムを主役に据えろと言っているのではない)、ピンク映画を観る楽しみももっと増えるのではと思った。男性側の共感は得られないかもしれないけれど。

 対戦の結果は『痴漢電車』の勝ち。その後も順調に勝ち進み、準優勝したそうだ。やっぱり登場人物の名前がよかったのか? 知り合いにもそう思われて、常連の脱ぎ役としてわたしと同名の女が登場し続けてもちょっと困るなあ。

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(文:まつした)
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