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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
Nov. 2, 2001

『少年義勇兵』

一級の監督による一級の作品である。安定したストーリーテリングに、描写の確かさ。質の高い映画だからという理由だけではなく、日本とタイの間の ── 特に大多数の日本人にとっては ── 知られざる歴史を知る上でもぜひ観てもらいたい。1941年、タイでは起こりうる戦闘に備えて志願した高校生を訓練し、実際、この映画の舞台チュンポーンで彼らは日本軍と戦ったのだという。

主人公はチュンポーンに住む高校生のマールット。彼は、姉とその夫で写真館を営む日本人、川上と一緒に暮らしている。1941年5月、マールットの通う高校で義勇兵の募集が行われ、彼と友人たちはこぞって志願する。タヴィン大尉による厳しい訓練の中でも、将来の夢を語り合ったり恋をしたりと青春を謳歌する彼ら。しかし同年12月8日、チュンポーン沖から日本軍が上陸したのだった……。

冒頭、勇ましい音楽にのって、流れゆく雲をバックに少年義勇兵の像が様々な角度から映し出される。下手にやるとプロパガンダ風に見えて嫌味だが、少年たちに対する敬意の念と、それを映画化しようとした監督の志がストレートに伝わってくる。このタイトルロールを観て、私はこの作品は信頼できると確信した。本作は青春映画だとユッタナー・ムグダーサニット監督は言う。とは言うものの、前半ののどかな雰囲気は一変、後半の戦闘シーンの描写はすさまじい。訓練中に「人を撃つのは大変?」と無邪気に聞いていた少年たちも、銃弾の雨が降る中を駆け回って応戦し、弾が尽きれば接近戦を余儀無くされる。顔に被弾した大尉の死に顔を見ても、監督が現実の戦闘を忠実に再現しようとしていることがわかる。敵が日本であることもあいまって、緊迫感ある戦闘シーンでは身じろぎひとつできなかった。後半の描き方を見る限り、少年たちの成長よりも、あの時代に高校生が実際に戦ったという忘れてはならない史実を描くことに監督の本意があるように思えたのだが、どうなのだろうか。

また私が驚いたのは、日本人スパイ川上の存在だった。タイ語を自由に操り地元にとけこみつつ、情報を日本領事館に流し、日本軍が侵攻するやいなや軍服に着替え、日本軍に合流する。私は彼のような存在を全く知らなかったが、その後アジアフォーカス福岡映画祭で観たマレーシア映画『アドナン中尉』でも同様のスパイが登場することから、東南アジアの国々にとってはこうした日本人の存在は広く知られているのかもしれない。1995年のタイ映画『メナムの残照』(ユッタナー・ムグダーサニット監督作品)にも同様の日本人が出てくるそうだ。そのほか、少年たちの会話の中に、日本軍と英国軍のどちらが攻めてくるかが当然の関心事として出てくるのも、当時のタイの置かれていた状況をよく表わしていてハッとさせられる。

今年公開されたタイ映画は新進監督の作品ばかり。本作を観て、ベテラン監督の力量に目をみはるのもいいのでは。また12月15日より東京神田神保町の岩波ホールで公開予定の、フィリピンの独立運動に強い影響を与えた英雄を描いた『ホセ・リサール』と比べてみるのもいいだろう。あの時代に独立を勝ち取るのがいかに難しいか、独立を保つのがいかに困難か。それぞれ3時間、2時間の長い作品になっているのも、短い時間では語り尽くせない思いがあるからではないだろうか。

★11月3日より新宿シネマカリテにて公開予定

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(文:まつした)
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