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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
July 11, 2001

『ガールファイト』で考えた。

となり町の映画館で「ガールファイト」を観た。「何かが違う」見終わったあとそう思った。「なんだろう、なんだろう、何が違うのか・・」ずーっと考えて、ハタと気が付いた。「そっか。この映画には、父との和解がないんだ!」

「リトル・ダンサー」「ガールファイト」と立て続けに観た。男の子がバレリーナになる。女の子がボクサーになるという話なので、どうしても比較してしまう。

「リトル・ダンサー」の方はもうこれ以上ないというぐらい泣きに泣いた映画だった。ラストにはちょっとびっくりさせられたけれど・・。でも父と子、兄弟・・。家族の絆がクローズアップされた映画だった。それに比べて「ガールファイト」はちょっと違っていた。

母親を自殺に追いやった(だろうたぶん)父親を母の仇とばかりに殴る主人公ダイアナは、弟に止められると、頭を抱えてこう言うのだ。「もっと見てほしかった」

一つ考えられる事は、あの瞬間、ダイアナは、父親との決別をしたのではなかろうかと言う事だ。「もっと“私”を見てほしい」とは、全ての子供に(ということは、全ての人間に?)共通する気持ちではなかろうか? それを「もっと私をみて欲しかったんだよ、お父さん」と過去形で語ることによって、母への復讐を果たし、そして娘である自分に対する父の無関心に対して、一つの決別をしたのだろう。愛を与える事のできない親からダイアナは飛び出して新たな世界を掴もうとしたのだ。

だからこそこのあとに、ただの1度も父親が画面に登場しないのだろう。そうこのあと父親は1度も出てこないのだ。普通ならこの後に、父親が娘の試合を陰ながらこっそり見てたなんてシーンがあるはずなのだ。(「ビヨンド・サイレンス」しかり、「リトル・ダンサー」しかり)でも、この映画ではそれがなかった。父との、親との和解は最後までなかったのだ。そこに私は監督カリン・クサマの新しく骨太なメッセージを感じるのだ。「愛を与えられない親は、自分から捨ててもいいんだ!」というメッセージを。

それともう一つこの映画の新しいメッセージは、やはり最後に行われた、先輩でもあり、恋人でもあるエイドリアンとの試合であろう。この試合をみている最中に、私は昔「なかよし」という少女雑誌で連載されていた「末は博士か花よめか」というマンガを思い出してしまった。

これは明治時代を舞台に女医を目指している主人公が同級生(ほとんど男)のいやがらせにもめげず、勉学に励むという話だったのだが、結局最後はすんなりと嫁にいくことに決めてしまい、子供心に随分しらけた気持ちになったものだ。今なら、“博士か花嫁か”という議論すらないだろう。やっぱりどっちもというのが主流だから。時代は変わった! −なので、このマンガのトラウマのせいで、「エーイ!ダイアナ、最後まで諦めないで闘ってくれよ!」と祈るようにスクリーンを見つめていたのだった。しかし・・!現代の女闘士は−「好きな男にだって手加減はしない!!」のだ。う〜んやっぱり時代は変わった・・。

ここで注目すべきはやっぱりエイドリアンではなかろうか? 自分より下と思っていた(女である、後輩である、等など)ダイアナに負けて普通なら「もういいやこんな女!」と捨てゼリフを残して去って行ってもいいんだけれど、自分の方から2人の関係を続けたいと言いに来る。(でも「捨てないで」というんだけれど・・)負けてカッコ悪いんだけれど、負けてカッコ悪いけれどいい? という勇気に、ダイアナは惹かれたんだと思う。(こういう男がモテるんだよなー。)

男が女を殴るという、古い親の世代の男女関係を断ち切って、新しい自分たちの関係を築こうとしているダイアナとエイドリアン。若い2人のカップルの姿はとても新鮮で、これからの男女間の可能性を、充分感じさせてくれる新しい映画だったので、私は一押しです。

彼等の将来がみてみたい。きっとまた新しい視点での家庭像が生まれるのではないかと期待しています。

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(文:水直 岩(みずちょく がん))
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