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女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
Sept. 9, 2001

『オーライ』東京上映記念企画 OLナイト in BOX東中野(前篇)

『オーライ』ちらし
BOX東中野にて 9/15よりレイトショー公開

関西在住の会社員であり、映画監督でもある安田真奈(やすだ まな)さんの『オーライ』が東京で上映されることを記念して、イベントが行われました。「OLナイト」と銘打って、舞台挨拶と先行上映、そしてOL経験があり今は映画関係の仕事をしている女性達と安田監督とのトークショーです。シネジャスタッフだって、ほとんどが現役OLで映画関係の仕事(お金にはなっていないけど)をしているぞーということで、9月最初の日曜日の夜、どんな話が聞けるのか東中野へ出かけてきました。

まずは映画の上映前に、安田監督と主演女優の三嶋幸恵(みしま さちえ)さんの舞台挨拶です。安田監督は、現役会社員(メーカーの販売促進部門主任)としてバリバリ働きながら年に1、2本映画を撮り、高い評価を得ていると聞いて、大柄でパーッと目立つタイプの女性というイメージがあったのですが、小柄でしっとりとした感じで、三嶋さんは映画より髪がかなり長くなって顔つきもほっそりして、凛とした雰囲気の方でした。

(司会はFM横浜のDJ仁井聡子さん)

司会: 監督が東京にお目見えするのは初めてなので、まずは自己紹介からお願いします。

安田: 本日はこんなにたくさん(102席ある場内は満席)の方に来ていただいてありがとうございます。恐縮です。私は普段大阪でOLをしながら映画も撮っている安田と申します。今日はよろしくお願いします。

司会: では、三嶋さんも。

三嶋: 三嶋幸恵です。お芝居の勉強をしながらこっちに住んでおります。

司会: 先ほどスタッフルームで、お二人はご兄弟のようにすごいボケとツッコミをかわしていましたが…。『オーライ』についていろいろお話をうかがいたいと思います。まずは安田監督になんですが、2足・3足のわらじをはきながら映画監督を続けていることを聞いて驚いてしまったのですが、一体そのパワーというか映画を作る時間というのはどこにあるのでしょうか?

安田: 学生の時から通算20数本撮っていまして、会社に入ってからは8年になるんですが、まあ、いつやってるかというと土日なんですね。

司会: ほんとに会社の休みの日なんですね。そのペースで年に1、2本撮っているということは、もう土日はすべて映画製作でつぶされているってことですか?

安田: すべてという訳じゃないですけど、大部分は費やしてますかねー。普通のOLの方が海外旅行に行っている間に撮っているという感じですね。

司会: 本当に好きでないとできないと思うのですが、大学時代からずっと映画が撮りたいと思っていらっしゃったのですか?

安田: そうですねー。やめられなくなったのは会社に入ってから、ある映画でグランプリをいただいてからですね(資料によると、初めてグランプリを取った映画は92年作の『わっつ・ごーいん・おん』34分8mmで94年五日市<現あきる野>映画祭グランプリ受賞)。小説とかならその作品は作家1人のものですが、映画は私が考えたシナリオを役者さんやスタッフの力を借りて100よりもっと大きなものにしていける。そのプロセスがたまらなくおもしろいと思いまして。

司会: そんな話を聞いて三嶋さん、どうですか?

三嶋: 安田さんのエネルギーにみんなが引っ張られてしまう、それにつきるんじゃないでしょうか。

司会: 安田監督は現場ではどんな感じなんですか?

三嶋: うふふ。こわい…。的確でストレートで、「サクサクと」という言葉がぴったりに進めていきますね。

司会: 普段もサクサクしてますもんね。「はいお願いしますー、次?」みたいな。関西パワーが凝縮されたような方なんですね。そういえば、読売テレビで「黄金の法則」という番組の台本を書いていらしたとお聞きしたのですが。

安田: ええ、ちょっと隠密活動でやっていました。(笑)10分番組で、決められた商品の広告を無理やり入れながらドラマを作るというものだったのですが、これは時間がない中でサクサク作るというのに非常に通じていると思うんですね。例えば飲み物とお花とイヤリングという3つの商品を入れることになったら、デートの話にして3つを結びつけるんです。そういうシナリオを20本ぐらい書いたんですけど、全部がそんなわかりやすいもんと違うんです。時には恋愛映画とプレステと柿の葉すしお歳暮キャンペーン、これをちょっと安田さん1本してくれへんかと言われるんですよ。

司会: それがもう関西ですよねー。おそろしい…。

安田: それが原稿用紙5枚なんです。その中で3つの商品を均等にいれて、役者さんが少ないですから、1日のロケで済むようにというような条件をクリアしながらやるんですけど…。その時はカップルがデートで恋愛映画に行こうと思っていたのに彼がプレステを買ってしまってデートのことを忘れてると。怒った彼女がデートをすっぽかして買い物に行ったら、お歳暮を用意しないといけないんだったわとお歳暮を買うというふうに無難にまとめたら、プロデューサーから「安田さん、これにマリッジブルーと、父親との絡みいれてくれへんかな」と言われまして…。冒頭に父親に「あいつでええんか」というような事を言われたらプレステしてて…となって、でも最後には仲直りして「お父さん、やっぱりええ人やったわ」で終わる…みたいにしましたけどね。

司会: 今のお話を聞くと、安田さんがどのようにして映画を撮られているのかが何となくわかるような気がしますね。

安田: あるもので何とか作戦って言ってるんですが。

三嶋: やっぱり主婦をやってるから…。

安田: そう、あるものでおかずを作る感覚です。

司会: 映像でも集めてしまうという訳ですね。

安田: そういう訳で、会社員をしながら土日祝日しかなくても、「これがいい、これがおもしろい」と思ったらそれを即座にストーリーにして、サクサク作っています。

司会: 精力的ですね。先ほど予告編を見ましたが、新しい作品もできあがったんですよね。

安田: 出来あがるはずです。(笑)

司会: どういう作品ですか。

安田: これも『オーライ』と同じく関西テレビさんがプロデュースで、和歌山のポルトヨーロッパという遊園地で繰り広げられる話なんですが、吉本興業の新人アイドル石坂千尋ちゃんが主演、いとうまい子さんが特別出演されて、遊園地には来た人を幸せにする為の魔法使いが住んでいるんだよというファンタジーになると思います。

司会: 皆さん、心待ちにしていましょう。さて、『オーライ』ですが、(三嶋さんに)スクリーンに写る自分をどのように感じられますか。

三嶋: 自分が演っているんですけど自分じゃないみたいなところがすごくあって、安田さんとキャラクターを作り込んでいったんで、安田さんの分身でもあり、私の分身でもあり…ですね。それを見ているので客観的に見られます。

安田: ほんとにある意味分身なんですよね。会社に入って段々年をとるごとに人づきあいが表面的にはうまくなる一方で、どうも深い人間関係が築きにくくなっているなっていう気がして、それをネタに1本書こうと思いました。

三嶋: 私もOLをしていたので、「こういうことあるよね」っていうのは良くわかりました。

司会: 観た後に、「あの子に連絡とってみようかな」とノスタルジックな気分になる作品ですので、皆さんにもじっくりと観ていただきたいです。

安田: それと今日は無理を言ってきていただいた方がいまして…・・。映画の冒頭で、ある彫刻が出て来るのですが、とてもステキな作品でこの作品にインスピレーションを受けたこともあり作品出演を願ったんです。「イリュージョン」という作品で、作者の田口さんに来ていただきました。

司会: ということで、田口さんにご登場いただきましょう。ご自分の作品が映画の中で重要なポジションを占めているというのは、ご覧になっていかがですか。

田口:最初は安田さんのパワーに押されて…・という感じで、一緒に受賞した仲間でもあったのでこういうものだったらやってみたいと思いました。「イリュージョン」という私の作品ではあるのですが、映画の中でまた違った「イリュージョン」として物語を生きているという気がしました。

安田: ほんとにステキな作品で、94年のキリンコンテンポラリーアワード、今はキリンアートアワードっていうミックスジャンルのコンテストがありまして、その中で同じ奨励賞をいただいたんです。私の中で忘れられなくて、2年後ぐらいに田口さんに連絡して作品出演をお願いしました。

田口:連絡があった時はうれしくて、是非にとお返事しました。

司会: そうだったんですか。すごくイキイキとしていて、そのもの自体が語りかけてくれるような感じで映像の中に収められていますので、ご覧になっていただきたいと思います。

安田監督は、さすが関西人!という感じでしゃべりがポンポンと早いけれど、とてもわかりやすく話して下さり、引きこまれました。

『オーライ』上映

結(ゆい)は印刷会社で校正を担当しているOL。同僚とは適当に話を合わせ、飲み会もさりげなく断って、ひとりでいるのが気楽だと思っている。ある日、ひょんなことから高校の同級生だった野木君が結宛てのハガキを拾って届けにくるが、差出人の名前がなく誰からなのか見当がつかない。結は放っておこうとするが、野木君は探偵気分で、探そうと張り切る。ハガキの文面から手がかりを探す二人。そして思いついたのは、夏乃という高校の同級生だった。早速二人は夏乃の家を訪ねるのだが…。他人と深くかかわる事を面倒だと思っている結、自分の夢がうまく追えない不安を持っている野木君、繊細でもろい夏乃、内気で夏乃のことを陰からしか見守れない酒屋の男。そんな4人にとって忘れられない1日となった日を描く物語である。観ていた人のほとんどは、自分の痛いとこを突かれて少しつらくなったのではないだろうか。旧友から便りがきても、まあそのうちに…なんて思っていていつのまにか時間が過ぎていってしまう。送った方は返事をずっと待っているかもしれないのに…。他人と深く関わる事を極力避けてきた結が、感情に突き動かされ夏乃を抱きしめるシーンは、胸がいっぱいになってしまった。そして安田監督の優しい感性を感じる事の出来るラストヘ続く。いつも作り笑顔をしていた結が、自然な柔らかい笑顔を見せているのを見て、とてもとても幸せな気分になった。有名な俳優がでていなくても、派手な仕掛けなんてなくてもこんなに心に訴えかけてくる映画が撮れるんだなーとしみじみ思った。

『オーライ』場面写真 『オーライ』場面写真

(トークショーへ続く)

シネマジャーナル51号に 安田真奈監督のインタビュー記事が掲載されています。

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(文:みずま)
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