女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
40号   pp. 61 -- 64

ああ—レスリー様や・・・レスリー様や・・!!
(張國榮日本演唱會)



片岡

 去る一月二十五・二十六日、昨秋旧都庁跡地に新しくオープンした東京国際フォーラム 大ホールにてレスリー・チャン(張國榮)のコンサートが大盛況のうちに開催されました。

 『レスリー、歌手活動再開』の報に接した一昨年から待ちに待ったコンサート再開。 しかも今回はワールドツアーの一環として日本でもコンサートを開いてくれるということで、 一年近くもの間この日をどれほど待ち望んだ事でありましょうか。

 コンサートの方はと言いますと「イヤー期待どおりと言うか、期待以上と言うか」 どんな賛美や褒め言葉も陳腐にしか思えないような素晴らしいものでコンサートというよりは上質のショーを観ているようでした。

 それでまずは一月二十五日の模様から。十八時三十分開演予定が、 完璧主義者であるレスリーのなせる技なのか、単に時間がずれ込んだだけなのかは分かりませんが、 ギリギリまで舞台稽古が行われていたようで開演時間が大幅に遅れて始まったのが十九:○○。

 開演アナウンスと共に薄暗くなった舞台にバンドのメンバーが三々五々ポジションに着き全員が揃った所で舞台は暗転。 観客の期待感も一挙に高まるなか、真っ暗な舞台に板付きになるレスリーのシルエットが見えた時には私のドキドキ感も最高潮に達しました。 舞台は一転して華やかなライトと共に、ゴージャスな毛足の長い黒に赤が少し混ざったロングコートを羽織ったレスリーが後ろ向きで立っています。 そしてアップテンポに編曲された《風再起時》の前奏曲が流れ出すとレスリーが正面を向き 《戀愛交叉/How Many いい顔》を舞台狭しと歌い踊り始めると、 同時に観客は一瞬にしてレスリーワールドに引き込まれて行き全員総立ち。 それからはこちらもコンサート終了まで、立ったり座ったり、ペンライトを振ったり、 歓声を挙げたりと大忙しが続いて行きます。

 最初の歌い出し三曲から四曲ぐらいまではかなりアップテンポの曲で観客をグイグイ引き込んでいきホッと一息ついたところで、 広東語で「大家好(皆さんこんにちわ)」そして日本語で「皆さんこんにちわ!!」 私達も「こんにちわ」とお互いエールの交換。 広東語と英語と片言の日本語でのご挨拶のあとは、新旧取り混ぜた映画の主題歌やヒット曲を 《追》まで、途中ゲストのカレン・モク(莫文蔚)とのデュエット曲も交え三時間余り全二十七曲、 観客を飽きさせることなく歌い踊って行きます。

 続いて二日目の一月二十六日。この日も十五時開演予定が、十五分から二十分ぐらい遅れての開演。 この日は「今日は北京語を中心に英語と広東語と時々日本語でおしゃべりをして行きます」 と分かりやすくきれいな北京語でご挨拶をしていました。 (この二日目の北京語は、通訳の方から“今北京語を習っている日本人が多いから北京語で話してみたら” とアドバイスがあったそうです)

 ところで開演前に、“今日はやらないよね”“イヤー彼の事だから強行するかもよ” などと友人と話していたらやってくれました〈握手タイム〉。 舞台は前日の倍以上に膨れ上がった人達で大混乱。私も前日は舞台に突進しましたが 行くときに一瞬躊躇してしまったためにレスリーの手に触れることさえ出来ませんでしたが、 その代わり間近で見る彼はウス〜〜イピンクの口紅を(リップグロスに近い感じ) 付けていて、お肌ツルンコ、お目々キラキラで、とってもキュートな感じがしました。 !!!

 この握手タイムは主催者側がOKを出すはずも無いので多分レスリーが自分で判断したのだと思うのですが、 あの後レスリー側と主催者側とで大変だったのでは・・・!? (ちなみに大阪では握手タイムはなかったそうです。それにしても怖かった)

 お次はファン全員が待ち焦がれていた《紅/レッド》と《愉情/道ならぬ恋》。 ファンならば各方面からの情報収集にて今回のコンサート中、いちばんの期待度一〇〇%だったのではないかと思います。

 曲順としては《愉情/道ならぬ恋》が先だったのでまずはこちらの様子から。 この時は舞台上での早替わりのため、舞台は暗転になり薄暗い照明がつくと、 スローテンポの曲の時には皆座って聴いていたのに、初日はこの曲と《紅/レッド》 の時ばかりは全員総立ちで曲を聴くというよりは期待感(?)をこめてレスリーを 覗き見るような雰囲気でした。 二日目は総立ちこそ有りませんでしたが、皆引き込まれるように観てそして聴いていました。 話題の衣装のほうは、上は薄い黒のジョーゼットのようなロングのバスローブタイプのガウンを素肌に纏い、 下は同じく黒のストレッチのようなピッチリしたショートパンツ。 このガウンが下からの風で翻るがえりレスリーの素肌が露になる度に大歓声が沸き起こります。 初日では脱ぎそうで脱がなかったガウンでしたが、二日目はヒモをほどいて前をはだけさせ、 おまけに両肌になって背中まで見せてくれるという大サービス。 (どうせならガウン脱いでしまえば良かったのに!!) 香港ではこの場面、香港人観客からは失笑がおきていたそうです。

 続いては《紅/レッド》。真っ赤なハイヒールに真っ赤な口紅のみでゲイになりきって 言い寄る男達を適当にあしらいながら歌い踊るレスリーがあまりに決まり過ぎていて 私はなんと書いていいか、(ウ〜〜ンレスリーてやっぱり・・・ナ〜〜ンて想像してしまった) 香港では迫り上がりだったそうですが、日本では真っ暗な舞台中央に仰向けになり 真っ赤なハイヒールを履いた足を上げてそのハイヒールのみにピンスポットがあたるという ナカナカ心憎い演出でしたが、ただひとつ不満だったのは、相手役の若いダンサーが レスリーに対して遠慮しているのが観ていても分かり、終始レスリーが彼をリードしていて、 相手役のダンサーが誘うのではなくレスリーが誘っているような印象を受けたことです。 彼が遠慮などせずにレスリーをどんどんリードしていったら全体がもっともっと官能的で、 妖しい雰囲気が漂った素敵な場面になっていたのではないかと思うと、完璧に近いほどの 完成度の高い場面だったので非常に残念な気がしました。

 ラストソングになる《追》はしっとりと歌い上げてレスリーの歌手としての年輪を 感じさせる素晴らしいものでした。聴いていても、もしかしてこれで二度とレスリーの 生の歌声を聞くことが出来ないのではという思いと、一年近くも待ち続けていた ものがこれですべて終わってしまうのだという寂しさとが重なり合って何か胸にジーンと 迫ってくるものがありましたが、この曲と《無心睡眠》の時にはサビの部分になると 全員で大合唱していました。(私もジーンとしていたわりにはこの二曲は大声で しっかりと歌ってきました)

 ラスト三曲の衣装はそれまでの〈光りモノ〉とは打って変わってシンプルな黒の タキシード姿で、この時ばかりはレスリーが年相応に見えました。 ところで今回、〈光りモノ〉や〈シースルー〉を多用したウィリアム・チャン (張叔平)デザインによる超豪華な衣装のお値段は物の本によると、一説では 一〇〇万香港ドル(約一六〇〇万円)とか。

 このショーを観ていて一番強く感じたことは、まるで宝塚の舞台を観ているような 印象を受けたことです。

 宝塚と同様に『レスリー・チャン』というトップスターをあくまでも華やかに美しく、 カッコよく、時には妖しく《観せる》ということに徹した構成力、演出力の巧みさに感心しました。

 またこの二日間の公演で『レスリー・チャン』という人は非凡な才能の持ち主であるということを再認識しました。 確かに歌の上手さでは、九十五年に香港のスーパースターとしては初めて日本での コンサートを大成功させたジャッキー・チュン(張学友)にかなうべくもありませんが、 ジャッキー・チュン、アンディ・ラウ(劉徳華)と三年続いて香港のスーパースター達の コンサートを観た限りでは《観せる力・魅せる力》はレスリーが一番だったように思いました。 (これってファンのひいき目かしらね・・・)

 二日間まるで真紅の薔薇さながらに美しく華やかに、時には高慢に時には妖しく咲き誇った 《張國榮的日本演唱會》でした。

 それではかの俳聖松尾芭蕉が、松島を訪れた際にその景色のあまりの素晴らしさに感動して、 “ああ松島や 松島や”としか詠むことのできなかった故事に習って。

★ああレスリー様や・・レスリー様や★

お粗末様でした。

東京国際フォーラムにて '97 1/25, 26


最後にもうちょっとだけ・・・

片岡

 編集スタッフの役得でTさんの『花の影/風月』の映評読ませて頂いて、 思わず〈我が意を得たり〉と膝を打ちそうになりました。 私も三十八号でニン・チン(寧静)説を書かせて頂いた者として大賛成です。 (ただしあと最低五キロはダイエットしてねニン・チン) w.dさんの香港レポートは大笑いしながら 楽しく読ませて頂きました。前から二番目の席なんて、私もそうなったら 頭の中真っ白になってしまうでしょうねきっと・・・

 日本でのコンサートを五千人の会場で上演と聞いた時には、正直言って満員に なるなんて思っても居なかったので、大丈夫かしらと心配だったのですが、 当日フタを開けたらホボ満員状態!!イヤー嬉しかったですね。 この公演自体香港では性的表現が露骨過ぎるとかなり物議を醸し出し公演途中で 内容変更を余儀なくされたそうですが、日本公演ではかなり抑えてあったようです。 まあどんなことでも時代の最先端を行く人って必ず叩かれるものです。 そんなことに屈する事なく(もっとも簡単に屈するような軟な精神の持ち主とも 思えませんが)これからもファンに良い映画、良い音楽をたくさん観せてそして 聴かせてほしいものですね。

 レスリーの映画もこの後続々と公開されます。まずは三月二十九日から 『大三元/恋する天使』その他『新上海灘』や『ブェノスアイレス・アフェア』 なども待機中とか。また渋谷では道路を隔てて『花の影/風月』と 『逢いたくて、逢えなくて/新夜半歌聲』が同時上映されるという現象も起きています。

今年はレスリー様(レスリーの宮様)の年かな!!
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