女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
25号 (1993年4月)  pp. 39 -- 43
私が好きなTVシリーズ(1)

『こちらブルームーン探偵社』



そうなのです。『こちらブルームーン探偵社』が終ってしまったのです。 NHKにはずいぶん冷たくあしらわれ、ファンの気持ちにお構いなく 放映時間を勝手にずらされることもしばしば、今週は中止、来週をお楽しみになんて 簡単なメモテロップだけで処理されてしまったこともあったっけ!
でも毎週ブルース・ウィリス(役名デービット・アディソン)とシビル・シェパード (役名マデリン・ヘイズ)に会うことを楽しみにしていたんだ…。


最終回

探偵祉の社員トピストとハーバートが職場結婚。 そして主人公のデイブとマディが自分たちの探偵事務所にやってくると セットがどんどん取り外されている。
「待ってェ」「何するの」
「番組が終るんですよ」
と係の人の声。
「そんなァ」と驚き、なんとか番組が続くようにプロデューサーに掛け合いにいくが
「もう人気は落ち目、なんといってもファンはロマンスが好きでね。 君たちはもういろいろやり尽くしてしまったから」
そこで「ロマンス! いいわ」とふたりはひとつだけやっていない"結婚"を決意。 教会へ走る。 が、神父さんに結婚するにあたっての講義を何週間か聞いてからでないとダメとたしなめられる。
「もうあと8分しかないわ、それまでに結婚しないと番組が終ってしまうのよ」
でも、とうとう時聞切れ。歌声にのってこれまでのハイライトシーンがはじまる。
マディとデーブの出会い、犯人取り押さえの立ち回り、議論、殴リ合いの喧嘩、 そして甘いキスシーン、ベッドのふたり…。 ステキなブルース・ウィリスとシビル・シェパードの組合せ。 いつまでも見飽きないエンタテインメント。 ふたりはカメラに向ってブルームーン探偵社の解体とファンたちとのお別れを ユーモアとウィットに富んだ言葉で語る。
「マディもデーブもいなくなるんです。ブルームーン探偵社もなくなってしまうのよ…」。 (だってこれはドラマなんですもの、とはいわないけれど) 番組が終っても私のビデオ棚には収録したビデオがびっしり。 だから、私のブルームーンは不滅です。本当に長い間楽しい夢をありがとう・・。
ということで、今回は『こちらブルームーン探偵社』 『新・こちらブルームーン探偵社』の追悼です。


(秘)ブルームーン探偵社の概略

社長…マデリン・ヘイズ(30代)
独身。高ギャラを稼いだ元モデルで、当然美人で気品あり。 でも高びーではなく、少女のごとく明るく新鮮な心の持ち主。さっぱりした性格で、正義感強し。 自立心旺盛。セクシー。ゆえにボーイフレンドは数知れず。 自費で購入した邸宅にひとリ暮らし。経理士に財産を持ち逃げされ、 投資者として出資していた探偵社を売りに出すが、 当時そこの社長だったデイブの勧めで、共同で探偵社を経営するようになった。

副社長…デービット・アディソン(30代)
独身。9年前に離婚歴あり。ブルームーンの共同経営者。
ハンサムでユーモアあり。ゆえにガールフレンド多数。 型にはまるのが嫌いで人生を楽しむのが主義。 少年っぽいところと大人っぼいところが混在しているが別に難しい性格というわけではない。 女性に優しく、喧嘩には強い、生真面目は大嫌い。歌がうまい。

アグネス・トピスト
ブルームーン探偵祉の受け付け係。
ピントが外れたちょっと変な娘。しかし心優しく、仕事熱心。 これまた変な派遣社員ハーバートに恋をし、シリーズラストで結婚にこぎつける。



制作…アメリカABCサークルフィルムズ
プロデューサー…ジェイ・ダニエル、グレン・ゴードン・キャメロン




【シリーズのこんなところが魅力】

「デービッド・アディソン(ブルース・ウィリス)さんとマデリン・ヘイズ (シビル・シェパード)さんはいつキスするのです」か?  シリーズの中盤にテーブルに腰を掛けたふたりが 突然カメラに向ってファンからの投書を読みはじめる。 そして、ふたり顔を見合わせ、
「いつだろうね。作者に聞いてくれよ、ボクたちは役者なんだから」 といたずらっぽく肩をすぽめるデイブ。
「でも、しちゃいましょうか」
「うん、ボクの方はOKだよ」
画面が真っ暗になりふたリ何をしているのやら・・・。 そして話がはじまる・・・。
そうかと思うと話の途中で突然レイ・チャールズが出てきて、恋の歌を歌いだすとか・・・。 恋に悩むデイブの前に粘土人形のマディが現われて「あなたねェ!」と議論がはじまったり。 そうそうある回のファーストシーンなんかエレベーターの中でデイブがいい女を見つけて 「ヤァ」とかうれしそうに目で合図を送るんだけど、なんとその女がデミ・ムーア本人だったり…。 と、思えば突然時代は16世紀のイギリス。 日本でいえば「私鉄沿線97分署」が突然「長七郎江戸日記」になってしまったような調子で、 レギュラーが16世紀のイギリスの衣装でシェイクスピアの「じゃじゃ馬ならし」 のパロデイを演じたり…。

ブルームーン探偵社は実に愉快で温かく、主役ふたりが粋でステキで、 ずーとハマリっぱなしです。でも土曜の夜11時という放映時間だったため夜遊びの折リには 見逃してしまったこともしばしば。そういう日に限ってビデオ予約のセットを忘れたりして イライラしていたのですが…。 NHKに似合わぬ素晴らしきはからいで昨年暮から平日に毎日5時台に再放送がはじまり 一回も見逃さずみてきた次第です。おかげで我が家のテープの背ラベルは 「こららブルームーン探偵社」「新・こちらブルームーン探偵社」のものが急増。 時代劇にはまっている中学生の娘の「水戸黄門」「大岡越前」「暴れん坊将軍」や小六のくせに 「東京ラブストーリー」からすっかりトレンディドラマにはまってしまった次男の膨大なビデオテープを侵食しつつあるのです。

『こちらブルームーン探偵社』は、デーブとマディが知合って探偵社を共同経営していくまでと 仕事の上ではパートナーとして喧嘩しながら、プライベートな面では最愛の恋人どうしとなるまで、 マディに別の恋人ができ、その男の子供ができ、その男とは別の男性と結婚、 でもやっぱリデイブを愛していたことに気づいて解消するまで、 次にマディの親戚の娘とデーブが恋に落ちる… と一方で探偵ドラマとして一話完結のサスペンスストーリ…を展開しながら、 一方では大河小説のごとくデーブとマディのふたりの愛が展開していくのです。 それも最高のユーモアとウイットと奇想天外さがもりこまれた内容で。

このシリーズの人気の秘密はふたりの関係でしょう。『こちらブルームーン探偵社』 ばかりみていてちっとも勉強しない男の子に、 母親がテレビのスイッチを切るシーンが代弁しています。
この時の母子の対話
「ふたりの探偵が毎回事件を解決していくあの番組だよ」
「ええ、本当はセックスしたいくせに喧嘩ばかりしているやつでしょ。 ダメよ、勉強しなさい」
フェミニストで真面目、現実的でまっすぐなマディさんとちゃらんぽらんだけど ロマンチストで少年っぽさが抜けないデイブ。 デイブの女性への一言がカンにさわり議論を延々とはじめるマディ。 ふたりは妥協しないから、取っ組み合いの喧嘩になったり・・・。 互いに家を持っていてどちらかがどちらかを独占することもない。 互いに異性には興味は大ありで、またモテるから嫉妬争いも激しい。 でもひとたび事件が起ると最高のパートナーとして活躍。

働く女にとってどんな男が最愛のパートナーか…。 型にはまらない自由な男女関係が展開していく中で、楽しく私たちに提示してくれる。 このシリーズの人気の秘密はそんな堅苦しいものではないかもしれないけれど、 今日的な問題のツボをうまくついた形で見せてくれるのはうれしい。
毎日はじまるすさまじい口喧嘩も子供のようにお互いムキになり罵りあってとことん言い合う。 みてる方はストレス解消になってスッキリ。 あんな風に夢中で喧嘩できる相手がほしいよとつい考えてしまう。
最後にこのシリーズでブルース・ウィリスはエミー賞の主演男優賞を獲リました。 現在のブルース・ウィリスの活躍のもとはここにあることも加えておきましょう。


なぜ再放送でカットしたの?NHKさん

とうとうマディとディブが結ばれ、でもマディのお腹には別の恋人の子供が…、 ディブに打ち明けるべきか悩むマディ…ああ、このシリーズのハイライトを丸ごとカットするなんて! あのコインランドリーのラブシーンがもう一度見たくて楽しみにしていたのに ブルームーンをただ番組の穴埋めに使っていただけなのね。 (ブルームーン社弁護士)



もうひとりの隠れファンから一言

地畑寧子

『ブルームーン探偵社』は、85年からABCで放映され、 第ニシーズンも作られたほどの人気番組だったときいています。 以前はかかさずみていたものの、現在の家に移ってからは電波の都合でNHKが映らないという惨めな私は、 新シリーズをみられず悔しい思いをしています。 こんなファンのためにもビデオは最後まで諦めずに出してほしいと願っています。

ところで、このシリーズって出海さんが熱狂するのもなるほどと思えるほど、 いつも賞獲リ候補に挙がっていたんですねェ。 先にあるように、ブルース・ウィリスはエミー賞で主演男優賞を獲っていますが、 ゴールデングローブ賞のテレビ部門ではふたりで主演男女優賞を獲ったこともあるとのこと、 さらにシェパードはピープルズ・チョイスのTV部門で女優賞を獲っています。 それにしてもシビルは若い! 43歳には見えません。 あの『タクシー・ドライバー』 でロバート・デニーロに一目惚れされた選挙事務所に勤める女性に扮していたころと あんまり変ってないもの。そういえば『ラスト・ショー』でも浮ついた少女役だったけど、 本当に可憐だったし。 70年代のアメリカン・ニューシネマの波に乗って飛び出した人のようだけど、 あまり映画には出演していないのが残念。当時としては、 あまりに正統派の美人だったことがかえって損だったのかな? 歌もうまいのにね。

でも、数年前に12チャンネルで放映された、TVムービー『長く熱い夜』はとっても印象的でした。 この作品はポール・ニューマンとジョアン・ウッドワードで映画化されて有名ですが、 彼女の役どころは、ジョアンと同じ姉の役。相手役はドン・ジョンソン。 ニューマン&ウッドワード版よりも感動しました。映画では、 『ワン・モア・タイム』以来お目にかかっていないのですが…。期待したいです。

一方、ブルース・ウィリスといえば、いわずもがな『ダイハード』ですよね。 加えて『ラスト・ボーイスカウト』に続くアクションとコミカルさで、一気にスター。 ついでに赤ちゃんの声の吹き替えもレギュラーでしてる。 でもどうしたことかアカデミー賞の賞獲りに縁がない彼。 未公開だけどノーマン・ジェイソン監督の『イン・カントリー』 というベトナム帰還兵のシリアスもの(共演はエミリー・ロイド)もあるのに。 なんでアクションスターはだめなの? 今年はやっとこクリント・イーストウッドがいい線までいってるけど、 故スティーブ・マックインも獲ってない。

でも、当の本人は夫人のデミ・ムーアにべた惚れの気のいいお父さんみたい。 いつだったかのアカデミー賞で夫婦で撮影賞のプレゼンターになった時、 奥さんと子供を映したホームビデオを大画面に映して"これは悪い撮影の見本です" なんていって喜んでいたし、何かというと夫婦で出てきて奥さんを誉めたたたえる。 こんなだんなを持った日には女冥利につきるんじゃない。 と思えば、苦節時代に過ごした粗末なアパートを今でも借りていて、 時々そこにいっては自分がおごらないようにしてるらしい。 まあなんともいい男なんですよね。『沈黙の戦艦』のおかげで、 『ダイハード3』は公開が遅れてるけど、一刻も早く彼の作品みたいです。

追伸:『こちらブルームーン探偵社』ファンのAとBの会話

A 「日本の役者でやるとしたら」
B 「ウーン。 吹き替えのまんま荻島真一と浅茅陽子でいいんじゃない」
A 「もろ、NHKの朝のテレビ小説。 やっぱり、豊川さんと薬師丸ひろ子のきらきら〜コンビじゃない」
B 「何よ、きらきらコンビなんか勝手に作っちゃって。 でも、スケベそうな感じがなくなっちゃう」
A 「じゃあ、モっくんとスーツの似合う浅野ゆう子」
B 「えっヘンヘン。トレンディドラマにはしたくない」
A 「じゃあ、ブルース・ウィリスを林隆三か緒方拳にしたら」
B 「え〜。そこに松方弘樹を入れたら東映の定番って感じで笑っちゃう。 思い切って夢の共演渡哲也と吉永小百合。日活」
A 「ベッドシーンが下手そう」
B 「そうだ、三浦友和と篠ひろ子は?」
A 「だったらいっそのこと無頼派伊集院静さんと篠ひろ子さんの夫婦コンビ」
二人 「ウ〜ン」
B 「やっぱり、シビル・シェパードとブルース・ウィリスに代わる人はいない」
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